Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

Kiss Storm!!

2010/10/20 20:59:42
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「永琳!」
「師匠!」
「永琳!」

同時に違う声が各々の呼び方で私を呼んだ。
多分、輝夜、ウドンゲ、てゐだろう。
私は薬を調合する手を止めて、三人の方を向いた。

「三人揃って、どうしたの?」

問い掛けると、てゐにブレザーの裾を引っ張られ、促された様子のウドンゲが答える。

「えと、その……私たちに……」

些か彼女の顔が赤い。
発熱ではないだろう、と私は推察し、ゆっくりと私は先を促した。

「私が、貴女達に?」

「私達に、……き、きききき…キッ…ィ!」

噛んだ。思い切り、噛んだ。
そんな様子を見て痺れを切らした輝夜が、フォローに回るように
言葉のバトンを受け取る。

「つまり、永琳が私達の好きな所に、キスをしてほしいって事よ」

「そゆことー」と、てゐ。
無言で涙目のままウドンゲもこくこくと頷く。

――私が、三人の好きな所にキスをする?
私は眉をひそめた。
この国に、いやこの幻想郷に、そのような文化はあったか。時折外界から不思議
な物が流れ着くとはいえ、そのような情報や慣習が蔓延しているとは正直考え難い。
じゃあキスをされなければ治らない病でも出来たか。……それはどこぞの恋愛小
説の読みすぎか何かじゃないのか。まず現実的ではない。
そこまで考えて、おおかた誰かから入れ知恵されたと考えるのが妥当だと、私は
そう見当をつけた。

「誰の入れ知恵?」

「永琳は疑いすぎだよー。まあ、鈴仙が…もがもがが」
「違いますぅぅぅっ!」
てゐが肩を竦めて呆れた様子を見せる。そのついでにぽろりと漏らそうとした事
を、ウドンゲが慌てて口をふさいで阻止する。

そんな二人はさておき、残りの一人を見る。
「輝夜?」

「まさか!……もしかして永琳は私の事を疑うの?」
よよよ、と泣き崩れる……真似をする輝夜。そういえば昔から泣き真似が下手だ
ったな、と思わず懐かしさに苦笑が漏れる。

しかしこうして三人に詰め寄られては、実験などできやしない。仮に出来たとし
て、衆人環視の中で落ち着いてできる確証がない。
下手をすればしばらくは環視の中で過ごすことを強いられかねない。
……仕方ない。諦めた私は、立ち上がってため息をついた。



「てゐ」
「はいな~」
私はてゐを呼び寄せる。素直に呼びかけに応じたてゐの前に屈み込んで、彼女の
肩に手を乗せた。

すると何故か、てゐ以外から注視されている気配がある。

輝夜と、ウドンゲだった。
私もそこまで鈍感ではないので、こういう時くらいは緊張する。
二人を避けるように、てゐの手を引いて、無言で隣の部屋へと移動した。


案外と二人からの追及はなく、私は内心安堵しながら後ろ手に扉を閉めた。

狭い室内で二人向き合うと、てゐは可愛らしい造型をしている、と改めて感じさ
せられる。
外で遊び回るせいか少し焼けた明るい色の肌、対比的に墨を流したように黒い、
元気に跳ねた短めの髪。くりんとした飴色の大きな瞳が私を見つめて、あどけな
いけれどしたたかさを秘めた声が誘うような響きで私の鼓膜を揺らす。

「優しくして、ね?」

「はいはい」

私は苦笑しながら再び屈み込んで、てゐの柔らかな顎のラインに手を添える。
まずは頬の上に。しっとりと柔らかい肌の感触が、唇越しに伝わる。

「手、出して」
ぴくりとてゐが震えたのを感じながら、次は出された右腕に。

最後にもう一つ。忘れかけていた場所に口づけを落として、てゐを部屋から出す。


「ウドンゲ、おいでなさい」
次にウドンゲを呼ぶと、彼女は酷く緊張した様子で部屋へと入ってきた。
私はウドンゲの背中をさすりながら、出来るかぎり優しく声をかける。

「はい、深呼吸ー…吸って」
「すうーー」
「吐いてー」
「はあー」
「吐いてー」
「はぁ、あぁ…って無理ですよう」
「ふふ、冗談よ」

それでも彼女は少しだけ和らいだ表情で笑みを返してくれた。私もそれに、笑み
で返して向き直る。
居住まいを直すように、ウドンゲも少しだけこちらへと立つ位置をずらす。

今度は私はウドンゲの目を閉じさせた。その上に啄むようなキスを落として、次
は頭に生えた耳を取る。
薄くて硬そうな見た目の割には柔らかさのあるそれに手を滑らせると、くすぐったいのか彼女は僅かに身をよじらせた。

逃げられる前にそこへキスをして、ウドンゲの顎に手を掛け、また違うところへ唇をつけた。

すると、ぼん、と音を立てそうな勢いでウドンゲは真っ赤になる。
真っ赤な顔でふらつくウドンゲを支えながら部屋を出ると、私は輝夜に声をかけた。

「遅いから、待ちくたびれたわよ」
「お待たせしました、お姫様」

私はウドンゲを椅子に座らせた後、輝夜の手を取って先程の部屋へと戻る。

そうして向かい合うと先の二人と同様に、三つの場所へ口づけをして、部屋を出
た。

「これでよかった?」
私が問い掛けると三人は無言で頷く。
程度は違えど、皆一様に頬を紅潮させている。
感冒だろうか、と首を捻りながら私は三人を部屋から追い出して、薬の調合を再開した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

その夜。
私は自室にてゐとイナバを呼び寄せた。
むろんキスの場所を問うために。
紅潮した神妙な顔で私達が額を突き合わせる光景は、きっとどこかシュールだ。
そんなことはさておき。

「てゐはどこに?」
「あ、と……ほっぺ、右腕、……唇」

「イナバ」
「まぶた、耳、くちびる…です。姫、様…は?」

おずおずと聞いてくるウドンゲに何とはなく、答える。

「私は手の上、掌、唇よ」

なあんだ、とてゐはころん、畳へ寝転がる。
「お師匠様はわたしに気があるのだとてっきり」

一方ほっとした顔なのはイナバ。
「みんな唇にもされたんだ……」

で、私はと言うと不満だ。
永琳はもしかすると、知っていたのかもしれない。この"ゲームの"意味合いを。

ちなみに私とてゐは知っている。イナバは知らない。

それが当然であるかのように多岐に渡る永琳の博識を舐めてかかることは出来な
いし、なにより百聞は一見に如かずともいうし。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


そういう訳で私は今永琳の部屋で正座待機中。
部屋の主は遅い湯浴み中。
今さっき湯上がりする、ざあって音が聞こえたからすぐ戻って来るはず。



ほら、来た。ひたひたと足音が、近づいて来る。
引き戸が開けられて、入ってきた永琳と、待っていた私の目がばっちりと合う。

「永琳」
先に声を掛けたのは私。
少しだけ痺れた足が、じくりと痛んだけれど気にしない。
入って来た時のまま、微動だにせず姿勢を崩さない永琳に、私は詰め寄る。

「永琳、どうして、あんなこと」

永琳はわからないようで、困惑した顔を一瞬向けたがすぐに、思い至ったようで、
「ああ、キスのこと?」
と問い返すから、私は静かに頷く。
永琳が返す。
「好きな所にって言われたから、その通りにしたまでよ」
私は耳を疑う。だって、永琳は何でも知っていると思っていたから。
知っていて、こういうことをしたんだと、思っていたから。

「本当に?……じゃあ、知らないの?これ」
「これってどれよ」
眉を下げ戸惑いを見せる永琳に、私は説明した。


――手の上なら尊敬のキス。額の上なら友情のキス、頬の上なら厚情のキス。唇
の上なら愛情のキスで、閉じた目の上なら憧憬のキス。掌の上なら懇願のキス。
腕と首なら欲望のキス。そのほかはみな狂気の沙汰のキス。

つまり永琳はてゐに厚情や欲望、イナバには憧憬と狂気を、私には尊敬と懇願を
それぞれに、総じて愛情を抱いているということになる。


「そんな意味があるの?」
「あるの!で、なんで唇に皆……」
そう、それが本題。
唇には一人のみにして然るべき。
そう考えていた私達は肩透かしを喰らった訳で。
特に私は、そういう訳で。

俯いた私に、永琳は声をかける。
私の真意が汲み切れず、些か納得いかないような声色だ。

「愛情って、私は永遠亭の皆を家族のように思っているから……」



家族。

……ああ、そういう事か。
すとんとナニカが腑に落ちて、妙に悲しくなった。
私の抱く永琳への愛情と、私へ向ける永琳の愛情は違う。
そしてそれは同じ名前であるにもかかわらず、どこまでも交わらない感情なのだ。
正直、気落ちした。でも永琳の前では絶対、絶対、泣きたくなんかなくて、紛ら
わすように、半ば八つ当たりするように永琳の服を強引に引き寄せる。
支えるものもなす術なくもこちらへ倒れる彼女を抱き留めて、耳元で囁く。

「それでも私は諦めないわ」

そうして唇へ自身の同じものをあてがって、触れ合わせる。
離れたらすぐに、永琳の部屋から飛び出した。

何でだか分からないけれど、今だけは永琳の顔を見たく、なかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


つぅ、と唇をなぞると、しとどに濡れた彼女の唇の柔らかさが蘇ってきて。
切なげな顔が鮮明に脳裏に映し出される。

――わたしは、あきらめ、ないわ

彼女と同じ言葉を、とぎれとぎれに口に出してみる。
自分には出来ない、と思った。
私は、彼女とのそんな関係を望みながら、自分から拒絶した。強く残留した理性
が、酷く酷く私を縛り付ける。

考えるのも億劫で、白い布団に身を投げ出す。しばらくすると天井と睨めっこす
るのも嫌になり窓の外を見ると、ぽっかりと満月が浮かんでいた。


意味は知らなかった。誓って、本当に。
しかしカモフラージュだった、と。
せめて言い訳でも言えたらよかったのに、どうしても言えなかった。
もしかすると、抱き寄せる好機だった。それをみすみす見逃してしまったと思う
と、満たされて浮かぶ月が私をあざ笑っているような気がして、それに一瞥をく
れた後月に背を向けた。

不意に、やわらかな唇を押し付け合う行為を思い出して、酷く醜い感情に駆られ
る。喉の奥が熱い。鼓動が鳴り止まない。

後悔、劣情、欲情。それらが溢れ出さないように、ときつく唇を噛む。
しかし焼け付くように私を蝕むそれらの感情のせいで、私は一晩中眠れなかった。
しばらくぶりです、すいみんぐです。
久しぶりに永遠亭総出演。楽しかったです。
気づかないと言うのは罪なんでしょうか?

最近はめっきり冷え込んできましたね。そろそろ朝夕はレティさんが元気に散歩
してるんじゃないか、と思うくらい。
鍋が美味いです。

それでは読了ありがとうございました!

感想批評指摘など、なんでもお待ちしております。
すいみんぐ
http://sparkingstardust.blog69.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
おお~これは中々…
とても良かったです。
2.名前が無い程度の能力削除
な、なな、なんかエロい!
3.名前が無い程度の能力削除
これはいい余韻を味わえる作品です
4.けやっきー削除
お久しぶりです。
それはそうと、この謎めいた雰囲気…何と言うか。
とても好みでした。
5.すいみんぐ削除
コメントありがとう御座います。レスが遅くて申し訳ないです。

奇声を発する程度の能力さん>
ありがとう御座います。

2のお方>
エ、エロかったんですか!?色気分はないと確信していたんですが…あれ?

3のお方>
余韻が残る作品になっていたようでよかったです。
ありがとう御座います。

けやっきーさん>
お久しぶりです。
なんともいえないラスト、を念頭におきまして、そういった雰囲気を感じていただけたなら幸いです。

皆さんコメントありがとう御座いました!