くぅくぅとお腹が鳴いて、空腹にふらつきながら命連寺に行くと、友達のぬえが船長さんを包丁持って追いかけていた。
「……うらめしやー」
「お? 小傘じゃん」
けろりとした顔で、ぬえは急停止すると、船長さんに包丁を投げつけてわちきに駆け寄ってきた。船長さんが「危ないなぁ!?」ってきらめく包丁をキャッチして廊下の柱に頭をぶつけて「…ふおぉ」って蹲った。
そんな、いつもと変わらない光景に、でもお腹はちっとも膨らまなくて、ぬえに「ぬえぇ」って両手を伸ばして縋りつく。
「何よ?」
「お腹すいた~」
「……たかりにきたの?」
「違う! 助けて欲しいの!」
うるうると、傘と一緒に見つめると、ぬえが気持ち悪そうな顔をして「で?」と続きを促してくる。
「人間が驚かないの!」
「だろうね」
「それで、もうお腹がぺこぺこなの!」
「じゃあ、台所にご飯とお味噌汁残ってた筈だから、食べてく?」
「……。……う、う、ううう、んん?」
「どっちよ」
唐傘お化けとしての大切なプライドをいきなり試されて、涙目になる。
ぬえは、そんなわちきに呆れてはぁ、と溜息を付くと「分かった分かった」って、肩をすくめて、わちきの肩をぽんぽん叩く。
「しょうがないな、手伝えばいいのね?」
「うん!」
にぱあって、傘と一緒に笑うと、ぬえは心底気持ち悪そうな顔をして「じゃあ」と、わちきの腕を掴んで来た。
「驚かす手伝いしろってんでしょ?」
「うん! 流石ぬえ、まだ何も話していないのに!」
「……聞くまでもないからね」
ぬえの手を取って並んで歩くと、ぬえがふふんと鼻を鳴らして胸を張る。
流石はぬえ! とわちきは嬉しくなって、これでお腹が一杯になれそうだと安堵する。
そうしたら、ぐーっと大きくお腹が鳴って「あ」ってぬえと顔を見合わせちゃって、てへへと笑った。ぬえは、しょうがないなーって、笑ってくれた。
「という訳で、驚かすわよ小傘!」
「はい!」
「準備はいい?」
「はい! 質問があります!」
「ふむ、聞こう!」
腕を組んで、さあ言いたまえ、とばかりにもふってした口ひげをつけたぬえに、わちきは首を傾げてお手上げポーズをする。
「どうして驚かすのが船長さんなんですか!」
「ふむ、良い質問だ小傘くん! なぜなら、あいつは元人間って事であんたの能力も使えるっちゃ使えるし、何よりむかつくからだ!」
「了解! ぬえは船長さんが大好きなんだね!」
「そのとお―――違うッ!」
「だから一緒に遊んで、わちきのお腹も一杯で幸せ! よし頑張るぞー!」
「ち、ちち違う! 誤解をするな! 絶対にないんだからねそれは! ああもう、いいからとっとと行け!」
ぬえにげしっとお尻を蹴られて、慌てて飛び出す。
こけそうになったけど、今のわちきはぬえに正体不明の種って奴を付けて貰っているから、船長さんには何やらへんてこなものに見えるらしい。だから、ここでこけたら驚かすどころじゃないと、慌てて持ち直す。
その音で「ん?」って、庭のお花さんに水を巻いていた船長さんが振り向いた。
頭にガーゼを張っていて、柱にぶつけた傷が痛そうだったけど、今ではけろりとして、穴の開いた柄杓からばしゃばしゃ水を出している船長さん。
ドキドキしてきて、さあ、驚かすぞー! って、バッ! と両腕を上げる。
「うらめしやー!」
「うにゃわぁぁぁぁあああッ?!」
絶叫。
あれ? って思った時には、ごうんと錨が飛んできていた。
ぴしっと頬を掠めて、ぱっと頬が切れて血が飛んだと思えば、背後でどごおおんって凄い音がした。
「…………え?」
ぎしりと固まる。全身が油の切れた機械人形みたいにぎしぎしと動かなくなった。
頬を流れる血と、うらめしやーのポーズのまま固まって青ざめながら、遅れて状況がじわりじわりと飲み込めてくる。
目の前の船長さんは、がたがた震えながら二メートル以上の錨を具現して構えていた。
「こ、ここここ怖くなんてありませんよ?! だって船長ですから! よよ、よって、貴方を退治します! ええちっとも! べ、べべべ別に、人間並みに巨大な台所の悪魔さん如き、わ、私の敵ではないのです!」
―――。
ああ、なるほど。
うん。それならわちきも驚くな。
「覚悟ー!」
「きゃああああぁぁぁあ?!」
逃げた。脱兎の如く逃げた!
真剣勝負なんて、わちきに勝機はちっとも無かった!
「あ、ああ貴方に恨みはありませんが、貴方を見たら聖と一輪と星とナズーリンとぬえが、もう発狂するんです! いつも貴方の退治は私の仕事です! でも私だって怖いし苦手なんだぁ!」
「うえぇええん! 気の毒だぁああ!」
逃げながら叫ぶ。
今の船長さんは普段の優しさが消えて、もうわちきを潰そうとしか考えていなくて本当に怖かった。
ぶぅん! と振りかぶる音が聞こえて、ひいって咄嗟に横に跳ねたら、その数瞬後に巨大な錨が回転して地面を抉り取りながら飛んできてしゅうぅ、と消えていく。
「はわ、わわわ」
殺される。
間違いなくそう思った。
威力に遠慮がなかったとか、ちっとも力加減がされていないとかそういうのじゃなくて、錨の大きさが、いつも背負っているのとサイズが違う。いつものが小さくてコンパクトに見えるぐらい、今のは巨大すぎた。
「安らかに眠れ、害虫ッ!」
「ふ」
飛び掛る姿に、振りかぶられた錨に、もう駄目だと、今までの事がぐらぐらと頭の中を巡って、でもお腹は空腹を訴えて、お腹がすいたまま死ぬなんて嫌だって、頭を抱えてしゃがみこんだ。
ぷつん、って何かが切れた。
「ぅえ、くふう、ふえぇえええぇぇぇえん!」
「―――え?」
「びぇええええぇえええん!」
「―――あれ?」
気づいたら、大声で泣いていた。
唐傘お化けとして情けないけど、怖いし空腹だし悔しいしで、もう他にどうしようも無かったのだ。
だから唯一できる事として、全力で泣いた。
「…え? 嘘、小傘、さん? 巨大な台所の悪魔から、小傘さんの声って。まさか、ぬえの種?!」
認識したからからか、船長さんは「やっぱり!」って、慌ててわちきに駆け寄ってきた。
「小傘さん、すいません、大丈夫ですか?」
「うぇええぇぇ、ふぅぇぇぇええん!」
「あ、あの。小傘、さん?」
「びーぇええええ! うぇえああぁああああん!」
「ちょ、ぁ、いえ。ご、ごごごごめんなさい! すいません! もう馬鹿ですいません鈍感ですいません愚かですいません死んでるのに生きていてすいません!」
がんっがんっ! って地面に額をぶつけながら土下座して、船長さんが謝ってくれる。
泣きながらもそれが分かるけれど、でも一度決壊しちゃったら、ちっとも泣き止めなくてあんあんと泣き喚く。
船長さんがオロオロとわちきより可哀想にうろたえているけど、わちきはどうしても泣き止めなくて、感情が止まらなくてどうしようもなくて。
船長さん、ごめんなさいごめんなさいって心の中で謝りながら泣き続けた。
「ッ」
と。体が急に持ち上がって「ぅあ、ぅぅあ?」って泣いて大きく口を開けたまま、ひんやりした落ち着くモノに包まれた気がした。
それが何だろうって不思議で、気づいたら、ぐしっと呼吸が少し止まってた。
その間に、ぺろって。
あったかいのが目元を舐めた。
「ぅ、あぁぅ。……ぐす。ふぇえ?」
ぺろぺろぺろぺろ。
一生懸命な、猫や犬を思わせる舐め方に、高ぶった心が次第に落ち着いてきたのがわかって。すん、と鼻を鳴らして、知らずにぎゅっと瞑っていた目を開けるとちゅうって吸われた。
「……ひぐ、ぅ?」
「お、落ち着きましたか?」
おそるおそると、ぺろぺろしながらわちきを抱っこしていたのは、船長さんだった。
「……船長、さん?」
「泣きやみましたか? どこも痛くないですか? あの、ごめんなさい。早とちりで、本当にすいませんでした」
ぺろりと。頬の涙を舐めて、冷たいけど心地よいべろの感触に、落ち着いて「うん」って頷いた。
そうしたら、本当に嬉しそうに船長さんがほうっと笑って「良かった」って、わちきをぎゅっとしてくれた。
びっくりして。
驚かすつもりが驚かされてばかりで、でも、お腹はさっきよりも減っていない事に気づいて、不思議になりながらも、船長さんの首に腕を回してぎゅっとする。
ひんやりとしているのが、泣いた後の火照った体に心地よくて、そして、甘えても良い状況っていうのもあって。すりって頬ずりした。
「小傘さん?」
「……ぅん。船長さん」
もうちょっと、このままでいさせて。って、お願いしようとしたら。
あ。
って。
気づいた。
べきべきと、庭の木に指をめり込ませて、もう我慢できないと駆けて来たぬえが、そういえばいたんだって思い出して、つい見入った。
「…………」
わちきは、馬鹿だけど本能っていうのはちゃんとあるから。
これからの衝撃を少しでも軽くしようと、船長さんにぎゅうぅって抱きついた。
結果。
ぬえのドロップキックは、油断した船長さんの腰を見事に直撃した。
その時の痛みと驚きがわちきのお腹を満たしてくれて、嬉しいけど申し訳なくて、腰を抑えて四つん這いになる船長さんの頭を撫でていた。
「ったく! 馬鹿じゃないの! 馬鹿だよ! この大馬鹿のジゴロの天然のド変態船長が!」
「……な、んなのよ。っていうか、元はといえば、ぬえが小傘さんに、種を」
「言い訳すんなあ!」
「へぶっ!?」
四つん這いの上に乗りかかられて馬乗りにされて潰れる船長さんは「ぅおお」って痛そうで、力尽きた顔でとほほって感じになっていた。
わちきは、本当にぬえは船長さんが大好きなんだなーって、驚きではないけれど、甘いぬえの気持ちにほんのりとお腹が膨れながら思った。
と、おもむろにぬえは懐からわさびを取り出した。
「へ?」
首を傾げていると、ぬえは船長さんの上からどいて、またどこから出したのかすり鉢をひょいっと出して、わさびをごしごしと擂り始めた。
「……何してるの?」
「うっさい、黙って見てろ!」
ちょっと顔を赤くして、そのままわさびを半分ぐらいまで擂り下ろすと、それにえいっ! と顔を近づけるぬえ。
船長さんは言われた通りに黙って見ていたけれど、すり鉢から顔を出したぬえが、当たり前だけどつーんってしましたって顔で苦しんでいるのを見て、心から何をしているんだろう? って首を傾げていた。
「……う゛」
「ぬえ、本当に何してるの?」
「……ぐす」
擂り立てのわさびが鼻と目を刺激して、ふらふらしているぬえに、不思議がりながらも立ち上がって、肩を抑えてあげる船長さん。
ぬえは、その手に自分の手を重ねると、赤い目と鼻と顔で「ん!」って船長さんを見上げた。
「?」
「……わさびが沁みた!」
「いや、見れば分かる」
「……だから、涙出た!」
「うん、見れば分かる」
「……」
「……?」
そのまま、船長さんは疑問符をたくさん頭の上に掲げていたけど、ぬえがわちきを見て、船長さんを見て、目配せで、もう一度「ん!」って、目を閉じて背伸びする。
顔は、真っ赤なまんま。
「……っ!」
そして、船長さんはハッとした顔で慌てた様子になると、わちきを見て、目を閉じているぬえを見て、一瞬で赤くなってから帽子を深く被った。
「っ、えと」
「……ん!」
「…………」
わさびで、泣いてるぬえを見て。
船長さんは、あーとかうーとか呻いて、結局、ぬえをそっと抱き寄せた。
ぺろ、ぺろぺろ。
そして、ぬえの目を舐めて、わちきにしたのと同じようにちゅって、目元に吸い付いたりしていた。
「…………」
ぽかーんと。
その一連の動作を見ていたら、ぬえの行動の意味が分かって、そしてぬえがとっても甘えん坊さんだったんだとか。船長さんわんこさんだとか、色々と思いながら、ぽけーっと見惚れてしまう。
「……ムラサ」
「……んぅ?」
「……私も、抱っこ」
鼻の頭を舐めていた船長さんが、ぬえのつんとした声と、縋る様に寄ってくる体に、何だか照れた様な困った様な顔を一瞬だけして、でもすぐにぬえを抱き上げた。
ぎゅって。
船長さんは力持ちだから、軽々とぬえを抱き上げた後は、満足そうなぬえから流れる涙を、またぺろぺろ舐めていた。
ぽつん、とそれを見るだけのわちき。
「…………むぅ」
なんか、なーんか。わちきだけが蚊帳の外で、面白くなかった。
お腹はちょっと膨れていたけど、でも、嫌だった。
「う、うらめしやー!」
だから、どーん! って船長さんの背中に飛び乗った。
「うわ?」
「ふびっ!?」
ぎゅうって、一瞬船長さんの腕と体で押しつぶされたぬえは、目を白黒すると、船長さんの顔越しに見えるわちきを見て、一瞬で赤い顔で眉を吊り上げた。
「な、何してんのよ!」
「だって、ぬえばっかりずるいもん! それに、今はぬえが驚いたから、またお腹が膨れた!」
「だったらいいでしょうがっ、もう、降りなさいよ!」
「いーやー!」
「……あの、私の上で暴れないで」
手にした傘の下駄が、船長さんの頭にガンガンあたった音がしたけど、ぬえが降りろってうるさいから今は置いといて抵抗して、更にごんごんって船長さんの頭に当たる。
船長さんは、何だか泣きそうな顔でとほほぉって感じで、わちき達が暴れるせいで、上手く立っていられないみたいでよろめいて、あっちにふらふらこっちにふらふら、走ったり歩いたりしていた。
「おーりーろー!」
「いーやーだー!」
「……痛い、痛いから」
「ムラサには私だけが乗っていいの! いくら小傘でも駄目ったら駄目!」
「そんな事ないもん! 船長さんはきっといいって言ってくれるもん!」
「何だとこの無能妖怪ー!」
「なっ、酷い事言うなこの正体ばればれ妖怪ー!」
拳が飛んで、傘が飛んで、足も出たりして、ぐえっとか聞こえるけど、今はそれ所じゃなかった。
ぬえとは友達だけど、ここで折れたら唐傘お化けとしてのわちきのプライドが粉々だと、えいえいえいとぽかぽかしあう。
―――と。
ほわわわわん。
と、お腹が膨らんでいく。
「……あれ。れれ?」
「? どしたのよ」
「お腹、一杯だ」
「はあ?」
船長さんの頭にしがみつきながら、お腹を撫でる。ほんのりとして多大な満腹感と満足感に、目がきらきらする。
なに、どうして?
びっくりして、あたりを見ると、何と! わちき達はいつのまにか命連寺の外にいて、わちき達を遠巻きに見て、ひそひそしている里の人達がいた。
「ちょっ、何よあれ……?!」
「船長さん、何を抱き上げているの? え? よく分からないわ」
「……びびった、マジでなんだよあれ」
って感じに、主に船長さんが驚かれていた。
はっとしてぬえと見詰め合う。そういえば、わちきと、そして持ち主のぬえは保険として、正体不明の種を植え付けたままなのだ。
何やら船長さんが、迷惑そうに嫌そうに、わちきとぬえを見ているけど、振り落とそうとはしていない。
えぇと。つまり。
船長さんの上で、正体不明の種をつけていれば、人間は驚く。
船長さんの上にいれば、お腹がすかなくて幸せ。
かしゃかしゃかしゃと。
天命の様に、その素敵な方式はわちきの馬鹿な頭に染み渡る。
「わ、わちきはもう船長さんの上に住むー!」
「よおしふざけんなー!」
感激して抱きつくと、ぬえにほっぺを押されて変な顔にされた。
「へぷっ、何すんだー!」
「やかましいわー!」
「……あの、こら、動くな」
「船長さんの上で暮らすのー!」
「誰が許すかー!」
ぎゅうって抱きつくと、ぬえも負けじと抱きついて、睨みあってお互いの頬をびよーんって伸ばして変な顔にする。
これに負けたら、明日からまたひもじい思いをしなくてはいけないから、わちきは気合を入れて、必死に指に力を入れる。
この勝負、負ける訳にはいかなかった。
「大変よ! せ、船長さんが吸収されているわ?!」
「取り込まれているぞキャプテン! あぁ、しっかりしろキャプテン!」
「馬鹿逃げろ! 船長の次は俺達だっ!」
周りが、まだ何か騒がしいけど、ぬえと真剣勝負の最中なのであんまり気にならなかった。
ぎりぎりとほっぺが痛くて、ひーんって泣きそうになったけど頑張った。
そうやってたら、不意にぷるぷるしてきた。
「? ほふぇ」
「? はふぃよ」
ぬえと同時に目を丸くする。
ぷるぷるしてるから足場が悪くて、上手くぬえのほっぺをのばせなくて、ぱちぱちとまばたきしていると。地の底から響く様な声がした。
「………あなた、たち」
ぞっとする様な、船長さんの緑の瞳。
恐怖を思い出す眼差しに、反射でびっくうってしたら、ぬえは「ぁ」って何でかキュンってした顔をしてた。
そして。
「いい加減にしろぉぉおぉおぉぉおおおおッ!!」
ブチッ! とした船長さんが、わちきとぬえの服の襟首をつかんで、一緒に投げ飛ばした。
うきゃあああ?! って悲鳴が船長さんに聞こえたのか謎なぐらいの力で一気に投げ飛ばされて、ガコンッ! とどっかに頭をぶつけて、わちきは気絶した。
次の日。
どうしてか、ほっぺたとか額とか、むき出しの足とか腕に包帯を巻いた船長さんに、その大怪我はどうしたの? ってびくびくしながらも謝りに行った。
船長さんは、一方的に迷惑をかけちゃったわちきの頭を、ぽんって撫でてくれた。
「……船長さん」
「謝りにきてくれただけで充分です。それに、昨日は私もすいませんでした」
「う、ううん」
「じゃあ、仲直りです」
「う、うん!」
にこりと笑顔の船長さんに嬉しくて、ぱあっと頷くと、ぬえがやってくるのが見えた。
ぬえは、わちきを見ると「あ!」って顔をして、ささっと船長さんをガードした。
「ぬえ、おはよう!」
「うん、おはよう小傘。でも帰れ!」
「いやだよー。今日も船長さんに乗るんだもん」
「ばっ!?」
慌てて、ぬえがわちきの口を塞いで、ひそひそと話す。
きょとんとしている船長さんから距離を取ると、ぬえは沈んだ顔をする。
「じ、実は昨日、ムラサの馬鹿が」
「?」
「久しぶりにキレた理由を、皆に話す時に、悲しいぐらい説明を間違えたのよ」
「ふぇ?」
ぬえは、そこでひっそりと更に声を落として、不思議そうな船長さんに聞こえない様にこしょこしょと言う。
「あ、あいつ『私も悪いんです。二人を、その。……結果的に泣かせてしまって。……それに、小傘さんの顔を舐めていた時に腰を痛めてしまったのもあって、正直、二人を乗せるのが辛くて、二人同時に乗られて求められても、私の体は一つしかないって怒っちゃって。激しく、してしまって……』とか、説明しちゃって……」
「?」
「……聖は真っ赤、一輪とナズーリンは激怒。星は想像しちゃったみたいでさ、私が声をかける前に問答無用でムラサをふっ飛ばしちゃって」
「……え?」
「それを合図に、一輪が雲山でムラサを追撃して、ナズーリンがロッドで突きまくって、聖が『めっ!』って額に一撃。とどめだった」
「…………」
声が無くなって、船長さんを見ると、船長さんは平然としてわちき達の会話が終わるのを大人しく待っていた。
何とも言えない気持ちになってしまった。
「だから、今日は誰が聞いているかも分からないから、不用意な発言は禁止」
「り、了解!」
わちきは急いで頷くと、本当に悲しいぐらい台詞回しを間違えちゃった船長さんに近づく。
船長さんは、痛々しい傷跡に似合わぬ爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「船長さん!」
「はい」
「おんぶして下さい!」
「はい?」
「ってこらー!?」
ぬえに叩かれた。
「痛いー!」
「言い回しを変えたって誰が乗せるかー!」
早速ぬえに怒られて、でも、お腹がぽっと温かくなる。
船長さんが驚いてくれたからだ。
ぬえも驚いたからだ。
だから、わちきのお腹はぽかぽかだった。
「いいもん! ねぇ船長さん。えへへー♪」
「ちょっ! しがみつくな! ああもうっ、ムラサ、私も抱っこ!」
「……えっ、また?」
げんなりする船長さんは、それでも逆らわずにわちきとぬえを抱き上げて、やれやれと溜息をついていた。
それが何だか楽しくて、けたけたと唐傘お化けみたいに傘と一緒に笑ったら、ぬえがとっても気持ち悪そうな顔をして、船長さんの首に抱きついた。
「あげないっての」
「ぬえばっかり、ずるいってば」
そうやって、また、わちき達は頬をびよーんと伸ばしあって。
暫くその変な顔を見詰め合って、くすくすと笑いあった。
そうしたら、船長さんも笑ってくれて、お腹が温かくてとろんとする。
暫く、わちきのお腹がすく事はないって、とっても幸せだった。
次回作までには復活しておきます
>「そのとお―――違うッ!」
何て見事な誘導尋問www
しかし、錨でヤツを潰すのは、どうなの船長!!(笑)
船長ジゴロ過ぎてニヤニヤが止まりません。
>「わ、わちきはもう船長さんの上に住むー!」
>「よおしふざけんなー!」
なごむ
・・・と思ったら説明がwww
やっぱり悪霊なんだなあ
天然ジゴロな部分とか
それにしても船長、水難事故ってレベルじゃねーーぞ!!
nice boat
ぬえ可愛いよぬえ
つまり船長は天然ジゴロってことですね!
初っ端から包丁って激しい。人里の人たちの発言で笑ったw
ずっと船長の上で過ごしていたら太るぞ?小傘よ
いや、いやいや、その泣きやませ方は…ww