姉妹の中で、私は末っ子。
私には、五人のお姉ちゃんがいる。
みんながみんな個性的で一緒にいれば、退屈なんてしないし寂しくない。
独りで暮らしていると、ふと会いたくなる時がある。
そんな時は里帰り。みんなの顔を思い浮かべながら。
もちろん、ママの顔も。
サラ姉さんは私達姉妹の三女。
魔界の門番という重大な役目を持っているんだけど、普段はひなたぼっこばっかりして過ごしてる。
元気いっぱいで活発で、小さい頃はよく外に連れ出された。
そんなサラ姉さんに私は会いに来たのだけれど……。
「おっすアリス、久しぶりだね」
「久しぶりだし、言いたい事は色々あるんだけど……何でブリッジしてるの?」
サラ姉さんはブリッジの体勢で、顔をこちらに向け、にこやかに笑っている。
「体って動かさないと鈍るんだよね……。だからこうして定期的に運動しないと」
そしてブリッジの体勢のまま私に近付くと、飛び上がって、空中で一回転してから綺麗に着地した。
「お見事」
「へへ、魔法は勝てないけど、身体能力なら負けないから」
そう言って快活に笑うと、私の頭をぐしぐし撫でる。
「お、また大きくなった?」
「そう、私も日々成長してるの」
「ま、こっちはまだまだみたいだけど」
「ひゃっ!」
サラ姉さんに胸を触られ、咄嗟に声が出る。
「はっはっ、精進したまえ」
「いいの、このぐらいが好きな人だっているんだから」
「しかしアリス君、大は小を兼ねるという言葉もあるのだよ」
「サラ博士、女は中身で勝負ですよ」
「だが、外見だって少なからず影響はするのではないかね?……ほら、あんまり昼間外出してないでしょ?」
サラ姉さんは私の手を優しく掴んで言った。
「もちょっと健康的な方が姉さんはタイプだなぁ……」
「別にサラ姉さんの好みは聞いてないから」
「それにしたってちょっとねぇ……」
そんなに酷いかな?
私は普通だと思ってたけど。
顎に手を当てて、何かを考えていたようだったサラ姉さんだったが、突如笑みを浮かべて手を合わせた。
「そうだ!アリス、ちょっと運動能力調査しよう!」
「へ?」
突然何を言い出すのだろう。
「アリスの運動能力がどの程度なのか、調べてみようと思って」
「いや、私運動はちょっと……」
「そんな事言ってるともやしみたいになっちゃうぞ」
咄嗟にパチュリーの顔が頭に浮かんだ。
ごめんね、パチュリー……。
「……分かったわよ。やれるだけやってみるわ……」
「そうこなくっちゃ!んじゃ、まず寝て」
サラ姉さんは地面を指差す。
「ここに?」
「ここに」
「服が汚れちゃうじゃない」
「そんなの洗えばいいんだから。ほらほら」
何を言っても無駄だろうから、私は渋々地面に寝る。
「これで?」
「足抑えててあげるから腹筋!」
私の足元に座り込んだサラ姉さんは、私の足を掴んで言う。
「腹筋!?」
腹筋だなんてちっちゃい頃にサラ姉さんにやらされて以来だ。
「まあ、やってみなよ。手は頭の後ろね」
私は小さく深呼吸をする。
こうなればまさかの身体能力を見せ付けるしかあるまい。
「ん……ふっ……!くっ……はっ……!」
「はいまず一回」
「サラ姉さん……今ので三十回はやった気分だわ……」
「アリス……」
「次は長座体前屈ね」
「痛い!いたいっ!いだいいだいいだい!折れちゃう!折れちゃうから!」
「固っ……もしかしてアリスの前世って石……?」
「くよくよしない。反復横飛び」
「…………足捻った」
「アリス……ズルしようとしてるの分かってるよ」
「……ちっ」
「よし、ポジティブに行こう!立ち幅跳びね!」
「これって手と足のタイミングがよく分からないわよね」
「分かるけど、跳ばないのは駄目だからね」
「そろそろ終わりも近づいてきたよ!ハンドボール投げ!」
「それぃ!」
「何でこれだけ妙に秀でてるのよ!?」
「人形を投げて練習したからね」
ありがとう……散っていったみんなのおかげで私の肩は強いです。
「ラスト!50m走!VS私!」
やる気満々で準備運動をするサラ姉さん。
私ってあんまり運動出来なかったんだなぁ……。
普段から余り飛ばない方が良いのかな?
「なんとこれで私に勝つと、プラス50ポイント!」
「ポイント制だったの!?」
何を基準として50ポイントなの?
「これだったらアリスにも勝つチャンスがあるよ。はい、位置について」
走る気満々のサラの横に並ぶ。
いつの間にやら50mのコースが書かれていた。
「よーい……」
小さい頃、かけっこだけはサラ姉さんに勝った事があったはずだ。
もしかしたら……。
「ドン!」
集中しないで別の事を考えていたせいで、スタートダッシュが遅れた。
慌ててサラ姉さんの背中を追いかける。
久しぶりに走った為か、開始早々に息が切れてきた。
サラ姉さんはとても速い。
その背中に付いていくので精一杯だ。
と、私の足がもつれ、そのまま転んでしまう。
視界には地面が広がる。
私ってこんなに運動出来ないんだ……。
あぁ、涙が出そうだ。
やっぱり姉さんには勝てないんだ。
「アリス、大丈夫?」
頭の上から聞こえる声に頭を上げる。
するとサラ姉さんが私に向けて手を差し延べてくれていた。
「怪我はない?」
「う、うん……」
その手を取って立ち上がる。
「……アリス、乗って」
サラ姉さんはしゃがむと背中を私に向ける。
「でも……」
「二人でゴールしよ?」
「…………うん」
ゆっくりとサラ姉さんの背中に体重を預ける。
温もりを感じる背中。
懐かしい。
ちっちゃい頃も遊び疲れて、こんな風におぶられて帰ったっけ……。
「行くよ」
サラ姉さんは小走りで進む。
揺れないように気を使ってくれているのか、はたまた背負うのが上手なのか、背中は快適そのものだ。
「ほらアリス、ゴールだよ」
地面にただ線が引かれているだけのゴール。
それでもサラ姉さんは楽しそうに走っている。
そしてゴール間近、もう目の前という所でサラ姉さんは転んだ。
私は転んだサラ姉さんの上に落ちる。
「サラ姉さん!?」
「平気平気、鍛えてるから。それにしても……私も転ぶとは……」
恥ずかしそうに笑うサラ姉さんにつられ、私も声を出して笑ってしまった。
「やっぱり姉妹ね」
「そうみたいだね」
二人で声を出して笑う。
夕焼け色に染まってきた空は、いつもより綺麗に見えた。
やっぱり間違いない
サラ姉さんもあのママの娘なんだ
ハンドボール投げw
一番可愛いアリスを頼む
一番いいユキマイを頼む
この後の展開が読めないのぜ…
愛されてるなぁ…
>腹筋だなんてちっちゃい頃にサラ姉さんにやらされて依頼だ。
やらされて以来、ですか?
依頼じゃなくて以来でしたー
指摘ありがとうございます