※ この話は、ジェネリック作品集75、『小傘と子猫』からのシリーズものとなっておりますのでご注意ください。
ちゅん、ちゅん。
朝です。
「んん~……はぁー。良く寝ました。」
鳥さんのさえずる声と柔らかな朝の日差しで、私──多々良小傘は心地良く目覚める事が出来ました。
にゃあー。
「うん。おはよう。子猫ちゃん。」
同じお布団の中で丸くなっていた子猫と朝の挨拶を済ませると、さてこれからどうしたものかと考えます。
昨日、朝は早いと村紗さんが言ってましたが、具体的に何をするのかまで聞いてませんでした……。
にゃあ……。
「あ……ひょっとしてお腹が空いたの? そうだよね……それじゃあとりあえず、ミルク貰いに行こっか?」
にゃあ。
という事で一先ず私達は食卓へ向かうことに。ひょっとしたら皆さん、朝食を食べているかもしれませんし。
ついでに私も何か貰おっかな。別に私の場合食べなくても平気なんだけど……昨日のご飯がおいしかったから、また食べたいと思ってしまいました。
食卓には人っ子一人居ませんでした。どうやら出遅れてしまった様です。
「仕方がないね……台所に行って君のミルクだけでも貰わないとね。」
にゃあ?
子猫を胸に抱いて、今度は台所に移動します。
「あら? こんな時間にどうしたの?」
そこにいらっしゃったのは雲居一輪さんでした。
尼さん服の上から更には割烹着で身を包み、両袖を肘の辺りまで捲くっている一輪さん。
見た所、食器の後片付けをしているようです。ということはやっぱり皆さん食事は済んでしまったのでしょう。
仕方ない……それならそれで当初の目的を果たそうと、私はおずおずとしながら尋ねてみた。
「あの……この仔のご飯を……。」
タオルで手を拭きながら、視線を私から子猫へ。そしてまた私へと戻すと、一輪さんは納得したように頷かれました。
「そう言えば朝食の時に見なかったわね……あっごめんなさい。朝は何かと慌ただしいからつい、ね。」
礼儀正しい一輪さんはそう言って私に頭を下げてくれました。
だからと言ってそのまま放置して良い筈が有りません。
私は慌てて一輪さんに顔を上げて貰うようお願いします。
「一輪さんが謝る事なんてないです! ちゃんと時間を聞かなかった私が悪いんです!」
「……まさか村紗、時間教えておかなかったの?」
「え、えっと……早いとは聞いてたんですが……。」
顔をしかめる一輪さん。どうやら村紗さんの失敗を憂いでいるようです。
「全く……いつも肝心な所が抜けてるんだから……。」
「あっ……でも、聞かなかった私も悪いと思いますし──」
「良いのよ、弁護しなくたって。ごめんなさいね、気まで使わせてしまって。」
またまた頭を下げる一輪さん。
困りました……これでは私のせいで、村紗さんが悪者になってしまいます……こうなったら──
「一輪さんはお優しいんですね。」
「え?」
何を言ってるんだろ──そんな顔している一輪さん。だけどここで引き下がってはいけません!
褒めて褒めて褒めちぎって、村紗さんの悪い印象を払拭してしまう……これが私の作戦なのです!
「だって村紗さんの失敗を我が事のように恥じるなんて……よっぽど村紗さんの事を大事にしてないと出来ないですよ!」
「だ、大事になんて……///」
どうやら効果があったようです。照れた一輪さんの頬が赤く染まるのを見て私、我が意を得ました! このまま一気に押し切ります!
「きっと村紗さんも、そんな優しい一輪さんの事が大好きですよ!」
「だ、大好き!?」
ふぅ……ここまで念を押しておけば大丈夫でしょうか?
ううん……やっぱりここは言質を取って置かないと安心は出来ないよね。
「だからどうか村紗さんの事を……。」
ガシッ!
──怒らないで上げて下さいね?
そう言おうと思ったけど、不意に手を握られて私は驚きから言葉を続けられませでした。
「ごめんなさい……私、貴女のこと、誤解してたわ……。」
「それは……一体どういう事でしょう?」
私の手を包み込むようして握る一輪さんの両手はすごく力が入っていて、ちょっぴり痛いです。
それに子猫ちゃんも驚いて、逃げて行きました。
……一輪さんは一体何を興奮されているのでしょうか?
「てっきり私、貴女の事を村紗を狙う不届き者だとばっかり思ってたものだから……。」
狙う──とは事のつまり、命を狙うっていうことでしょうか。
私が村紗さんの命を狙う? そんな事有るはずが有りません……でもひょっとしたら、家族思いの一輪さんから見たら突然現れた私がそう見えてしまったのかも知れません。
でもそんな誤解も気づかぬ内に解かれていたようです……良かった。
悲しいすれ違いを早期に無くす事が出来て私、本当に安堵しています。
「ありがとう……あいつ鈍ちんだから、私の気持ちとか全然気付いてくれないけど……貴女に励まして貰えて自信を持てた……! 本当にありがとう……!」
何故か涙目になって私の手を更に強く握る一輪さん。
尋常ではない雰囲気にひょっとして私はまだ何か勘違いをしているんじゃないかって思えてきました。
「えっと……一輪さん──?」
「そうだったわね! 子猫にご飯を上げに来たのよね! ミルクで良いかしら? 良かったら貴女も何か食べてく?」
「──え? 良いんですか?」
思い掛けない嬉しいお誘いに私は先程の疑問なんて彼方に飛んで行ってしまいました。
「もちろんよ。もう、遠慮なんてしなくて良いんだから。座って待っててね♪」
お言葉に甘えて、上機嫌に台所の前に立つ一輪さんの背中を子猫と一緒に見守る事に。
「良かったね。もうすぐご飯にありつけそうよ。」
にゃあー。
暫くして出された朝食は昨晩の夕食にも負けずとも劣らずといった力の入り具合でした。
……どうして一輪さんの機嫌が良くなったのか分からないけど……ま、良いよね?
チャララチャチャチャ~ン
[小傘は一輪を手懐けた!]
一輪さんは幻想郷一のいいお母さん。そしていいお嫁さん。ムラ一にまた村々してきました。
ちなみに最後は「手懐ける」ですね。
行く行くは命蓮寺を乗っ取り…!
>仕方ない……それなられで当初の目的を果たそうと、私はおずおずとしながら尋ねてみた。
それならそれで、ですか?