私には気に入らないことがある。
それは、私に半額のラベルを貼りに来るおやじさんのことだ。
おやじさんが私を見てしかめつらをしていることが私には我慢できないのである。
そりゃあ、半額のラベルが貼られるまで私が売れ残っていたことは確かだ、それは認めるよ。
けれども、それを私のせいにするのはお門違いというものなのだ。
そもそも私をこんなに、なんというか、妙に黒ずんでいるというか、べっちゃりというか、もしくはパサパサというか
一言で言っておいしくなさそうに調理したのは他ならぬおやじさんなのである。
それに、置き場所にだって問題があるのだ。
私が置かれるのは決まっていつも棚の奥の隅の底だ。
普通ならある程度品物が売れたら配置換えをするものだと思うのだが、おやじさんはそういうことは
一切しない。品物が残っていてもどんどん重ねていく。
別に譲れないような主義があるわけじゃなくて、ただめんどくさいのである。
加えて言うならラベルも悪い。
ラベルの色とかが悪いというのではなくて、いきなり半額になるのである。
10%引きとか30%引きのラベルはない。
いや、私だってね、10%引きなら絶対に売れると思っているわけではないよ。ごらんの通り見てくれも、たぶん味もよくないし。
だんだん値引きされていって最終的に50%引きにされたら、そのほうが精神的にきついとも思うよ。
けどね、それにしたっていきなり半額っていうのはないんじゃないかなぁと思うんだよ。うん。
だから、まぁ、私に悪いところはなくて、おやじさんがしかめつらをしているのが間違っているんだっていう、そういうことなんだ。
大体、半額のおかげで助かる家庭だって多いはずなのだ。隣の大工さんだって魚屋さんだって、いっつも定価のものを
買っているわけじゃなくて、半額のものを買ってハンバーグにすることだってあるのだ。
そのハンバーグが子供達を笑顔にすることだってあるのだ。
それでもおやじさんはしかめつらで私に半額のラベルをぐいぐい張り付けてくる。
だから、手も足も出すことさえ出来ない私にできることはせいぜいこうやって文句の一つでも言ってやることだけなのである。言えてないけど。
はぁ、最初に仕事を教えてくれた村長さんはもっとやさしかったのになぁ。
うん?村長さんから仕事を教わるってどういうことだ?
ええ~と、まてまて、ちょっとまて、ボケているわけじゃないし老化が始まっているわけでもないぞ。賞味期限は近いけどね。
ただ、ちょっと。ほら、私にはなんといっても脳みそもないわけだから、物事を思い出しにくいのも当然というわけで、
いや、思い出した、思い出したぞ、やっぱり私はボケてなんかいなかったんだ。だからまあ、あれだ、いつのまにか里にいて、
仕事がなくてどうしようかと思っていた時だ、
村長さんに連れられて里の外まで行って、え~と、うん、たしか、こんな感じのことがあったはずだ。
それじゃあ、これから仕事を頼むわけなんじゃけど、とりあえず、そこにある挽き肉を持ってくれんかね。
そうそう、その調子その調子。で、その肉をここから木で囲いが作ってあるところまで持って行って置いて来るんじゃよ。
右と左に道が分かれとるけど、どっちにいってもまわってくるだけじゃから安心するんじゃ。
地面に絵を描いてみると、ほら、こんな感じでちょうどひし形みたいになっとるんじゃな。
うむ、簡単じゃろう。そうじゃろうそうじゃろう。
え?今から行ってくる?
それはいかん。まだルーミアが出とらんからのぅ。
うむ、ルーミアちゅうのは、それはもうけったいな妖怪でのう。黒い球体みたいな妖怪なんじゃけど、何でもかんでも食い散らかしよる。
それこそ、人から家畜からなんでもかんでもじゃ。
なんでそんなもんが出るまで待たなくちゃならんのかって?そりゃあ、そういう約束になっとるからじゃよ。
人やら家財やらをルーミアに食われても困る。かといって対抗できる力をわしらはもっとらん、ちゅうことで、
巫女様に頼ることになっての。うん?巫女様、み、こ、さ、ま、じゃって。分かるじゃろ?ほら、神様の声を訊いたりする・・・なんじゃ、分っとるんじゃないか。
なんで巫女様に頼るかって?それじゃあお前さんは妖怪に襲われたら誰を頼るんじゃ?分からない?こっちのほうが分からんわい。
話を戻すぞい、そいで、巫女様が人間にとってもルーミアにとっても良い折衷案を出してくだすったということで、
ルーミアが里に入らない代わりに毎日肉やら野菜やらを届けることになったんじゃて。
そんなわけであんたにその仕事をしてもらう、ちゅうわけなんじゃよ。
ここだけ聞くと別にルーミアが出てくるのを待っている必要はないと思うじゃろ?そこが落とし穴だったんじゃけぇのぅ。
つまり、ルーミアにとっては肉だろうがそれを持ってきた人間だろうがそこに来たものは食べてもいいものだったんじゃ。
そいで、里の者が犠牲になっちまったんで巫女様に相談したら、「それは一本取られたわねぇ」とのんきに笑っている有様で、
そういうふうに決まってしまったんだからそれはもうそのままで行くしかないというわけなんじゃなぁ。
だもんで、道が二つあることもこれで納得がいくじゃろう?
ルーミアが里の近くまで食料をねだりに来たら、それと反対方向に回って食料を置いてこれるようにしてあるんじゃよ。
そう警戒しなくても安心じゃて、けったいな妖怪というても、歩く速度よりも遅くでしか動いて来んから。
前に仕事をやっていた人はどうなったか?
そりゃあ、ルーミアに喰われて死んでもうたのう。ああ、怖がらんでえいと言うとるのに、
前にやっておったのはもう60を超えておったんじゃて、しかも、さんざんお酒を飲んでまともに歩くこともできないのに
「こんぐらい酒を飲んでてもそんぐらい簡単に出来るわい。」と呑気に出て行って喰われちまったんでの。
これで安心できたじゃろう。
まだ安心できない?そんな事言うても、ほら、もうルーミアも来てしまってるし、ほら、右の道の向こうに見えてきておるじゃろう。
あれじゃよ、あれ、それじゃあ、左から回って来てもらえばえいから。
まだ心の準備が出来てない?さっき今すぐに行くと言ったばかりじゃろうに。
それに、すでに門だって閉めてあるんだから、早う行かんと喰われてしまうぞ。
なに?開けたらルーミアが入って来てしまうじゃろうが。ほら、急いだ急いだ。
儂はお茶を飲んでくるから、終わったら門の隣に付いているベルを鳴らしてくれればえいよ。
それじゃあ頑張って。
なんて言われて、怖いから左の道を急いで走りだしたんだけど、後ろを見てみたらルーミアとかいうどうやって浮いてるのか分からない
黒い球体は今やっと里の出口の付近にいるぐらいで、ほっと一息ついて、なんだ、本当に遅いじゃないか、これなら安心だと思って
呑気に歩いてたんだよなぁ、そしたら、道に沿って歩いていたはずなのに、いつのまにか道がなくなって、周りには木がたくさんあって、
なにやら獣の声もするし、鳥の声も不気味だし、どうしようかと思ってもルーミアが後ろからついてきて戻ることもできないし、
走って距離を開かせようとしてもいつのまにか追いついて来て、持ってた肉を差し出したら見逃してくれるかと思ったら地面に置いた
肉には目もくれずにこっちに来るし、もうへとへとになって、とうとう地面に座り込んで、突然目の前が暗くなったと思ったら、
むしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃ
そんなわけで、私は肉屋のおやじさんの店に並べられる挽き肉の一パックになったのである。
なにかおかしい気がするが、なんだろう。
ええ~と、まてまて、別にボケているわけじゃあないぞ、ただ、脳みそもないわけだから、にくいことに
考えることが苦手なだけなのである。
え~と、なんだったかなぁ、
「おやじさ~ん、この肉をちょうだいな。」
私の頭上から鈴のような声が聞こえる。この声は神社の巫女様の声だ。よく半額の肉を買っていくから覚えている。
脳みそのない肉でもそのぐらいのことはできるのである。
「へい毎度。」
おやじさんが私を手に取って袋に詰めて巫女様に渡す。その時の顔もしかめつらだ。
半額で買わずに定価で買えと思ってるのかなぁ。けど、こんなにきれいでかわいい巫女様なんだし、べつにいいんじゃないかなぁ、
半額っていっても、二回買えば定価になるんだし、もしかしたら、おやじさんはこのしかめつらが普通の状態なのかなぁ。
などと考えていると、私を手に下げた巫女様はどんどん里の外へと歩いていく。
しかも、神社への帰り道ではなくて、里の出口で左右に道が分かれている道を左に進んでいく。
こんな道を前にも通った気がするなぁ、なんだったかなぁ、けど、ぜんぜん違うような気もするしなぁ。
巫女様は空を飛んで帰るときもあったから、その時に見たのかなぁ。
「よいしょ。」
巫女様の声が聞こえると、私は袋からだされて周りが木で囲われている台の上に乗せられた。
どうするのかと思ったら、巫女様はそのままどこかへ行ってしまって、
その後に続けて聞こえてきたのは「ごはんなのかー」というかわいらしい声。
見ると、黒い服を着た声に似合うかわいらしい少女が両手を左右に広げて満面の笑みを浮かべているが、その口からはよだれが溢れている。
口からよだれがたれていますよ、お嬢さん。と教えてあげたいが、なにせ手も足も出ないのでどうしようもない。
少しの間私を吟味するように眺めていた少女がおもむろに右腕をおろし
むんず
と無造作に私を掴んでそのまま私を口に運ぶ。
むしゃむしゃむしゃ
生で肉を食べたらおなかを壊しますよ。生はやめといたほうがいいですよ。と教えてあげたいが、
なにせ体が食べられているのでどうしようもない。
むしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃ
そんなわけで、そんなわけというものがどんなわけかは知らないが、そんなわけで私は肉屋の棚に並べられて
おやじさんにしかめつらをされている。それでもまぁ、たまにきれいな巫女様が買ってくれたり
きれいで評判な学校の先生が買ってくれたりもするので、それもいいかなぁ、なんて思っているのだ。
それは、私に半額のラベルを貼りに来るおやじさんのことだ。
おやじさんが私を見てしかめつらをしていることが私には我慢できないのである。
そりゃあ、半額のラベルが貼られるまで私が売れ残っていたことは確かだ、それは認めるよ。
けれども、それを私のせいにするのはお門違いというものなのだ。
そもそも私をこんなに、なんというか、妙に黒ずんでいるというか、べっちゃりというか、もしくはパサパサというか
一言で言っておいしくなさそうに調理したのは他ならぬおやじさんなのである。
それに、置き場所にだって問題があるのだ。
私が置かれるのは決まっていつも棚の奥の隅の底だ。
普通ならある程度品物が売れたら配置換えをするものだと思うのだが、おやじさんはそういうことは
一切しない。品物が残っていてもどんどん重ねていく。
別に譲れないような主義があるわけじゃなくて、ただめんどくさいのである。
加えて言うならラベルも悪い。
ラベルの色とかが悪いというのではなくて、いきなり半額になるのである。
10%引きとか30%引きのラベルはない。
いや、私だってね、10%引きなら絶対に売れると思っているわけではないよ。ごらんの通り見てくれも、たぶん味もよくないし。
だんだん値引きされていって最終的に50%引きにされたら、そのほうが精神的にきついとも思うよ。
けどね、それにしたっていきなり半額っていうのはないんじゃないかなぁと思うんだよ。うん。
だから、まぁ、私に悪いところはなくて、おやじさんがしかめつらをしているのが間違っているんだっていう、そういうことなんだ。
大体、半額のおかげで助かる家庭だって多いはずなのだ。隣の大工さんだって魚屋さんだって、いっつも定価のものを
買っているわけじゃなくて、半額のものを買ってハンバーグにすることだってあるのだ。
そのハンバーグが子供達を笑顔にすることだってあるのだ。
それでもおやじさんはしかめつらで私に半額のラベルをぐいぐい張り付けてくる。
だから、手も足も出すことさえ出来ない私にできることはせいぜいこうやって文句の一つでも言ってやることだけなのである。言えてないけど。
はぁ、最初に仕事を教えてくれた村長さんはもっとやさしかったのになぁ。
うん?村長さんから仕事を教わるってどういうことだ?
ええ~と、まてまて、ちょっとまて、ボケているわけじゃないし老化が始まっているわけでもないぞ。賞味期限は近いけどね。
ただ、ちょっと。ほら、私にはなんといっても脳みそもないわけだから、物事を思い出しにくいのも当然というわけで、
いや、思い出した、思い出したぞ、やっぱり私はボケてなんかいなかったんだ。だからまあ、あれだ、いつのまにか里にいて、
仕事がなくてどうしようかと思っていた時だ、
村長さんに連れられて里の外まで行って、え~と、うん、たしか、こんな感じのことがあったはずだ。
それじゃあ、これから仕事を頼むわけなんじゃけど、とりあえず、そこにある挽き肉を持ってくれんかね。
そうそう、その調子その調子。で、その肉をここから木で囲いが作ってあるところまで持って行って置いて来るんじゃよ。
右と左に道が分かれとるけど、どっちにいってもまわってくるだけじゃから安心するんじゃ。
地面に絵を描いてみると、ほら、こんな感じでちょうどひし形みたいになっとるんじゃな。
うむ、簡単じゃろう。そうじゃろうそうじゃろう。
え?今から行ってくる?
それはいかん。まだルーミアが出とらんからのぅ。
うむ、ルーミアちゅうのは、それはもうけったいな妖怪でのう。黒い球体みたいな妖怪なんじゃけど、何でもかんでも食い散らかしよる。
それこそ、人から家畜からなんでもかんでもじゃ。
なんでそんなもんが出るまで待たなくちゃならんのかって?そりゃあ、そういう約束になっとるからじゃよ。
人やら家財やらをルーミアに食われても困る。かといって対抗できる力をわしらはもっとらん、ちゅうことで、
巫女様に頼ることになっての。うん?巫女様、み、こ、さ、ま、じゃって。分かるじゃろ?ほら、神様の声を訊いたりする・・・なんじゃ、分っとるんじゃないか。
なんで巫女様に頼るかって?それじゃあお前さんは妖怪に襲われたら誰を頼るんじゃ?分からない?こっちのほうが分からんわい。
話を戻すぞい、そいで、巫女様が人間にとってもルーミアにとっても良い折衷案を出してくだすったということで、
ルーミアが里に入らない代わりに毎日肉やら野菜やらを届けることになったんじゃて。
そんなわけであんたにその仕事をしてもらう、ちゅうわけなんじゃよ。
ここだけ聞くと別にルーミアが出てくるのを待っている必要はないと思うじゃろ?そこが落とし穴だったんじゃけぇのぅ。
つまり、ルーミアにとっては肉だろうがそれを持ってきた人間だろうがそこに来たものは食べてもいいものだったんじゃ。
そいで、里の者が犠牲になっちまったんで巫女様に相談したら、「それは一本取られたわねぇ」とのんきに笑っている有様で、
そういうふうに決まってしまったんだからそれはもうそのままで行くしかないというわけなんじゃなぁ。
だもんで、道が二つあることもこれで納得がいくじゃろう?
ルーミアが里の近くまで食料をねだりに来たら、それと反対方向に回って食料を置いてこれるようにしてあるんじゃよ。
そう警戒しなくても安心じゃて、けったいな妖怪というても、歩く速度よりも遅くでしか動いて来んから。
前に仕事をやっていた人はどうなったか?
そりゃあ、ルーミアに喰われて死んでもうたのう。ああ、怖がらんでえいと言うとるのに、
前にやっておったのはもう60を超えておったんじゃて、しかも、さんざんお酒を飲んでまともに歩くこともできないのに
「こんぐらい酒を飲んでてもそんぐらい簡単に出来るわい。」と呑気に出て行って喰われちまったんでの。
これで安心できたじゃろう。
まだ安心できない?そんな事言うても、ほら、もうルーミアも来てしまってるし、ほら、右の道の向こうに見えてきておるじゃろう。
あれじゃよ、あれ、それじゃあ、左から回って来てもらえばえいから。
まだ心の準備が出来てない?さっき今すぐに行くと言ったばかりじゃろうに。
それに、すでに門だって閉めてあるんだから、早う行かんと喰われてしまうぞ。
なに?開けたらルーミアが入って来てしまうじゃろうが。ほら、急いだ急いだ。
儂はお茶を飲んでくるから、終わったら門の隣に付いているベルを鳴らしてくれればえいよ。
それじゃあ頑張って。
なんて言われて、怖いから左の道を急いで走りだしたんだけど、後ろを見てみたらルーミアとかいうどうやって浮いてるのか分からない
黒い球体は今やっと里の出口の付近にいるぐらいで、ほっと一息ついて、なんだ、本当に遅いじゃないか、これなら安心だと思って
呑気に歩いてたんだよなぁ、そしたら、道に沿って歩いていたはずなのに、いつのまにか道がなくなって、周りには木がたくさんあって、
なにやら獣の声もするし、鳥の声も不気味だし、どうしようかと思ってもルーミアが後ろからついてきて戻ることもできないし、
走って距離を開かせようとしてもいつのまにか追いついて来て、持ってた肉を差し出したら見逃してくれるかと思ったら地面に置いた
肉には目もくれずにこっちに来るし、もうへとへとになって、とうとう地面に座り込んで、突然目の前が暗くなったと思ったら、
むしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃ
そんなわけで、私は肉屋のおやじさんの店に並べられる挽き肉の一パックになったのである。
なにかおかしい気がするが、なんだろう。
ええ~と、まてまて、別にボケているわけじゃあないぞ、ただ、脳みそもないわけだから、にくいことに
考えることが苦手なだけなのである。
え~と、なんだったかなぁ、
「おやじさ~ん、この肉をちょうだいな。」
私の頭上から鈴のような声が聞こえる。この声は神社の巫女様の声だ。よく半額の肉を買っていくから覚えている。
脳みそのない肉でもそのぐらいのことはできるのである。
「へい毎度。」
おやじさんが私を手に取って袋に詰めて巫女様に渡す。その時の顔もしかめつらだ。
半額で買わずに定価で買えと思ってるのかなぁ。けど、こんなにきれいでかわいい巫女様なんだし、べつにいいんじゃないかなぁ、
半額っていっても、二回買えば定価になるんだし、もしかしたら、おやじさんはこのしかめつらが普通の状態なのかなぁ。
などと考えていると、私を手に下げた巫女様はどんどん里の外へと歩いていく。
しかも、神社への帰り道ではなくて、里の出口で左右に道が分かれている道を左に進んでいく。
こんな道を前にも通った気がするなぁ、なんだったかなぁ、けど、ぜんぜん違うような気もするしなぁ。
巫女様は空を飛んで帰るときもあったから、その時に見たのかなぁ。
「よいしょ。」
巫女様の声が聞こえると、私は袋からだされて周りが木で囲われている台の上に乗せられた。
どうするのかと思ったら、巫女様はそのままどこかへ行ってしまって、
その後に続けて聞こえてきたのは「ごはんなのかー」というかわいらしい声。
見ると、黒い服を着た声に似合うかわいらしい少女が両手を左右に広げて満面の笑みを浮かべているが、その口からはよだれが溢れている。
口からよだれがたれていますよ、お嬢さん。と教えてあげたいが、なにせ手も足も出ないのでどうしようもない。
少しの間私を吟味するように眺めていた少女がおもむろに右腕をおろし
むんず
と無造作に私を掴んでそのまま私を口に運ぶ。
むしゃむしゃむしゃ
生で肉を食べたらおなかを壊しますよ。生はやめといたほうがいいですよ。と教えてあげたいが、
なにせ体が食べられているのでどうしようもない。
むしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃ
そんなわけで、そんなわけというものがどんなわけかは知らないが、そんなわけで私は肉屋の棚に並べられて
おやじさんにしかめつらをされている。それでもまぁ、たまにきれいな巫女様が買ってくれたり
きれいで評判な学校の先生が買ってくれたりもするので、それもいいかなぁ、なんて思っているのだ。
実はひきにくじゃなくてう○こなんじゃないですか?
地の文の口調がまた好みで。