「ねえ、おねえちゃん」
「なあに?」
「毎朝、よく懲りないよね」
「自分でもそう思っている所だから言わないで」
古明地家のいつもどおりの朝の風景。
それは姉のさとりが自分自身のコードに絡まっているのを妹のこいしにからかわれる所から始まる。
何度も繰り返されるさとりの失敗は治る事がないようだ。
コードをちゃんとまとめて寝ればいいものを、毎度毎度忘れるらしい。
過去にそれで恐ろしい程恥ずかしい格好になった事もあるというのに、それでも懲りない。
さとりのクセは承知しているのでこいしは毎朝部屋を訪れ、呆れつつも毎回それを解いてあげる。
「ほら、解けたよ」
「ありがとう」
「朝ごはん食べよ?」
「ええ」
ぺたぺたとスリッパの音を立てながら二人揃って廊下を歩く。
歩くたびにひょこひょこと動くさとりの頭の寝ぐせ。
はねた髪の毛が「さわってさわって」と言っているようだと思って、手を伸ばした。
くるくるになった髪をさらに指でくるくるしていたら、さとりが頭をふるふると振りそれからジト目で睨んできた。
「や・め・て」
「うーん、もうちょっと」
「……寝ぐせが戻らなくなっちゃう」
「残念」
イヤそうなさとりの様子を見て、こいしは髪の一房をパッと手を離す。
そうこうするうちに食堂についた。
二人が向かい合わせに座るとペットが2匹近付いてくる。
「「おはようございます、さとり様」」
「おはよう」
挨拶してから猫と烏に戻り、さとりの膝と肩に陣取って撫でてもらう2匹は嬉しそうに喉を鳴らした。
食堂の窓からは、にとりから仕入れた人工太陽の光がきらきらと差し込んでいた。
明るい窓の方をぼんやりと眺めているさとりの頭には相変わらず寝ぐせが揺れている。
そのひょこひょこした動きをずっと見ているこいしはソレが気になって仕方がない。
さとりの頭に視線を固定したまま、言う。
「おねえちゃん、ご飯食べ終わったら髪の毛セットした方がいいよ」
「……」
「聞いてる?」
「……」
「返事がない。ただのおねえちゃんのようだ」
「聞こえてるから。こいし、今日も髪の毛お願い出来る?」
「うぇー、また?ていうか毎朝だよ?」
「私不器用で。こいし、上手だから」
「そろそろ褒めればなんでもしてくれると思っているんじゃないの?」
「そんな事もあるかもしれない」
「なにそれ」
仕方ないなあ、という風に笑えば、さとりが微笑む。
これも繰り返される朝の風景。
「おねえちゃんって髪柔らかいのにすごくクセがあるよね。ピンピンしてる」
「きっと性格がそうだから」
「ああ物腰柔らかそうなのにイイ性格な所が……って髪に性格が出るわけないし」
「ふふふ」
「そろそろコードも髪の毛も自分でなんとかした方がいいと思うよ」
「こいしが居てくれると思うと甘えちゃって」
「普通妹が姉に甘えるものなのに。逆だし。それでいいのかと小一時間」
「言ってしまえば、こいしが私に甘いのが悪いのよ」
「何その責任転嫁」
そう言いつつ、さとりの髪を扱うこいしの手は優しい。
食事を終え鏡台にさとりを座らせて髪を梳く穏やかな時間。
丁寧に丁寧に寝ぐせを取っていく。
綺麗に髪がまとまったのに満足気に頷いて、こいしは言った。
「もう、おねえちゃんは私がいないとダメなんだから」
「ええ、本当にそう思う」
「こんなに良い妹はそうはいないよ?」
「うん」
「感謝してね」
「いつもお世話になってます」
「よし」
腰に手を当て、うんうんと納得する。
姉を起こしご飯を共に食し髪を整え感謝を受け取る妹。
思う存分さとりにかまってから外にふらふら出かけていくのがこいしの日課。
「じゃあ、行ってきまーす」
「いってらっしゃい」
そんな古明地さんちの朝。
この後も素敵な一日が過ごせそうでいいなぁ。