Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

最速の天狗と六面の魅力

2010/10/09 23:28:05
最終更新
サイズ
6.55KB
ページ数
1

分類タグ


夏の間は緑一色だった妖怪の山が、赤や黄色で染められる。
それは魔法の森も例外ではなく、一部の木々は葉の色を鮮やかに狂わせていた。
換気のために開け放った窓から風と共に舞い込んだ一枚の木の葉を見て、もう冬も近いなぁ、と他人事の様に思った。
今年もストーブには精一杯働いてもらおう。尤も、今すぐにと言う訳ではないが。

そんな事を考えながら、僕は本のページをまた一枚捲った。





***





神無月に入って少し経つが、冒頭の通り山や森は既に色づき、早いものはもう散り始めている。
里ではもう秋祭りは終わったのだろう。騒がしいのは苦手だから、少し嬉しくもある。

「……あぁ、祭りといえば」

誰に言うわけでも無く、呟いた。
毎年行われる秋祭り。里の数少ない行事の一つであり、恵みを与えてくれた神へと感謝する祀りでもある。
神とは豊穣神の事だが、幻想郷では他にも秋祭りに関係する神が存在する。

――カランカラン

……とそんな事を考えていると扉の鈴が来客を知らせた音が耳に入り、本から顔を上げる。

「いらっしゃ……やぁ、君か」

店の中へと歩みを進める人影は、丁度今考えていた事に当てはまる者の物だった。

「私ですよ店主さん。はい、出来たてほやほやの文々。新聞です」

言って目の前の妖怪……文は、新聞を差し出す。

「あぁ、有難う。後でじっくりと読ませてもらうよ」

渡された新聞に目を向けると、そこに書いてあった内容は矢張り秋祭りに関するものだ。
秋祭りに関係する豊穣神以外の神。それが文の種族でもある鴉天狗だ。

幻想郷で鴉天狗というと妖怪としての認識が強い。
だが、鴉天狗は山の神として見られる事もあるのだ。
それだけでは無く、神は転じて紙となり、これも鴉天狗が毎日の様に刷っている新聞に関係している。

そして、新聞を作っていていいネタがあれば記事にするのが記者なのだろう。
文の新聞と同様、先日撒かれた号外も内容は秋祭り一色であった。

「あやや、そう言われると嬉しいですね」

そう言って、文は近くの椅子に腰掛ける。
その手の中には何時の間に取ったのだろうか? 棚に置いてあったある商品が握られていた。

「ん……それが気に入ったのかい?」

「あぁいえ。何となく面白そうだなーと思ったんで」

そう言う文の手の中には、様々な色に染まった正六面体……所謂ルービックキューブがあった。

「まぁパズルだという事は分かるんですが……どうやって遊ぶんですか?コレ」

「フム……」

恐らく、新聞のネタにでもするのだろう。

「縦参列、横参列で構成されているのがこのパズル……ルービックキューブだ」

「はい」

「それは色を合わせる事が用途だが、色の変え方は左右の壱列を回すんだ。そうすれば色が変わる」

「ん……おー変わりました」

「そうやって色を揃えるのがこのパズルの解き方だよ」

「へー……ちょっと挑戦してみます」

言って、文はルービックキューブに挑んでいった。
むむむと唸りながらカシャカシャと色を合わせている。
これなら放っておいても大丈夫か。
思い、読書を再開した。





***





「ここを……こうして……そしたらこっちがこうだから……あやや、するとここがこうなりますか? じゃあ……」

文がパズルに挑み、小一時間ほど経過しただろうか。
独り言を呟きながら、文はカシャカシャとパズルを回し続けている。
どうにかして一面だけでも揃えたいらしいが、角の青色が邪魔なようだ。

「ここが……こうで……あややや?じゃあここをこうすれば……!」

そこまで言うと、文は両手を上に挙げ、「やったー!」と高らかに叫んだ。

「店主さん! 見てください! 揃いましたよ!」

見ると、確かに一面が橙色一色に染まっている。

「そうか、おめでとう」

「はい! この道具は面白いですねー。私気に入っちゃいました!」

「対価を払ってくれるなら売るが?」

「ん~……今は持ち合わせがありませんし、今日は止めておきます」

「そうかい」

今日は、という事は後日確実な実入りがあるという事だ。冬が近づくこの時期には有難い。

「いやーしかし見れば見る程面白いですね」

「ん、そうかい?」

「えぇ。この色の配色とかも綺麗ですし……」

「ほぅ、そこに気付くのかい」

「え……という事は、何か秘密があるんですか!?」

「まぁ……ね」

そう言うと、文はスカートの隠しポケットから文花帖と万年筆を取り出し、

「是非教えてください!」

詰め寄りながらそう言い放った。



「フム……では先ず、このルービックキューブは正六面体で、一面一面が違う配色になっている。そこは良いね?」

「赤・青・緑・黄・橙・白の六色ですね?」

「あぁ。……だが、この内緑は黒が劣化したものと考えていい」

「ほう」

「そうなると、赤・青・黒・白・そして黄……つまり、四方を守護する四神。そして中央に座す黄龍を示している事になる」

「はい」

「そして、残った橙色だが……橙とはどの無彩色と合わせても鮮やかさを保てる事から、肌色を作り出す色を示している。肌色……つまり人間、そして一部の妖怪と見て取れる」

「成程」

「四神と黄龍……即ち神、そして人……これらの事柄から連想されるのは、秋祭りだ」

「秋祭り、ですか?」

「あぁ。豊穣神の秋穣子と里の人が一緒になって祭りを楽しんでいただろう? このパズルを混ぜ合わせる事は、人と神が入り乱れている事を指しているんだよ」

「はぁ……それは分かりますが、何故秋祭りだと?」

「それも当然理由がある。……さっき、橙は人を指していると言ったね?」

「はい」

「だが、橙が示すものは人だけでは無いんだよ」

「というと?」

「神を示す五色の内の赤と黄色、この二つを混ぜ合わせても橙色はできるんだよ」

「あー……言われてみればそうですね」

「そして黄色である黄龍は五行では土行を司り、豊穣に関係してると言えるね」

「では、赤の朱雀は? 火を司る神は豊穣とは無関係に思えますが……」

「そうでもないよ。朱雀は不死鳥と同視される事もある。そして不死鳥が司るのは再生、朱雀は君が言った様に火だ。ここから連想されるのは……焼畑だね。炎を用いて土地を再生させ、翌年の豊穣への糧とする……関係が無い事は無い」

「……成程」

「それでなくとも、赤と黄色は紅葉と銀杏の色だ。十分秋祭りを示していると言えるね」

「はぁ……それは、凄いですね」

「まぁ、遊びと神々についての勉強が同時に出来るからね。素晴らしい物だと思うよ」



「……成程! 有難う御座いました!」

文花帖に万年筆でガリガリとメモを取っていた文が、顔をあげ言う。

「役に立てた様で何よりだね」

「はい! 次の新聞は期待しててくださいね!」

「あぁ、頑張ってくれ」

「はい!」

気持ちのいい返事を返し、文は微笑む。

「……フッ」

自分の好きな事に懸命になって頑張る姿……。
その姿が、小さい頃の魔理沙に重なって見えた。

だからだろうか。




































「……はぇっ?」





































気が付くと、文の頭を撫でていた。














「…………ん?」

「あや、……や、やや……」


少しして気付いた。自分は何をしているのだろうと。
昔の魔理沙は頑張った時にこうやって褒めていた。だからと言って姿が重なったぐらいでそれを文に実行するとは、僕は馬鹿か?

「あ、あぁ、済まない」

言って、文の頭から手を離す。

「あっ……」

「……ん、どうかしたかい?」

「い、いえ! 何でもありません! では!」

そう言うと、文は風を纏い店を飛び出していった。
風の余波で商品の幾つかがカタカタと揺れる。

「……悪い事をしたかな?」

彼女は外見故に忘れがちだが、千年を生きる大妖怪なのだ。
対して僕は百年弱しか生きていない半妖。少々無遠慮すぎたかもしれない。
今度来た時に謝らなければ……
そんな事を考えながら、僕はその大妖怪が置いていった新聞を読み始めた。


 
 
「(あああああああ頭撫でてくれた!? 店主さんが! 私に!?)」

店主さんの所からの帰り道、私の頭の中はその事で一杯だった。

「(頭撫でられるなんて……うあぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!? こんなのって! こんなのってぇ!?)」

さっきから顔が熱い。思い出すだけで顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
そしてそれを冷ますために、更に速度を上げる。

「(……頭、撫でられるなんて……)」

結構な速度で飛んでいる中、そんな事を思った。

「結構……気持ちよかったな」

自分よりも大きな手。
男の物とは思えない、それでいて何処か優しい手。
それに……頭を撫でられるなんて初めてだった。

「……また、撫でてくれますかね?」

……どうだろう、分からない。

「新聞、頑張ったら……褒めてくれますかね?」

彼は努力する事はいい事だと言っていた。褒めるぐらいはしてくれるだろう。
でも……

「流石に……撫でては、くれませんかね」

……でも。

「撫でてくれたら……嬉しいな……」

あやや……我ながら何を言っているのやら。

そんな思いと一段と高くなる熱を払う様に、私は飛行速度を限界まで上げた。



どうも、唯です。

今日、注文していた香霖堂が届いたんです。
そして今日は天狗の日。
アマ○ンと天狗Gが仕組んだとしか思えません。

あぁ、ルービックキューブの薀蓄は飛躍論理です。一応言っておきますね。
色は四神とかそういうものは何の関係も無いので、ハイ。
でもルービックキューブ意外といろいろな薀蓄に使えそうなんです。
だからもしかしたらまた出るかもです。

深夜脳が影響してgdgdなのは毎度の事。もうデフォルトです。
あとがきも突っ走ってます。

今回も誤字脱字その他ありましたらご報告下さい。
最後に、ここまで読んで頂き有難う御座いました!

http://yuixyui.blog130.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
おお、今日天狗の日なのかw
ルービックキューブは出来た試しが一度も無い…
2.名前が無い程度の能力削除
キバヤシしてる香霖は好きだぜ!
3.拡散ポンプ削除
いいなぁ。
霖之助の話には、うっかりしているといつの間にか違和感もなく納得していそうです。
いつも通りの霖之助に、ちょっと幼い感じの文も良かった。
妹に欲しい。
4.けやっきー削除
>あぁ、ルービックキューブの薀蓄は飛躍論理です。一応言っておきますね。
言われなかったら普通に信じてた…
その思いつきに驚きましたww
5.削除
かなり遅れましたが返信です。

>>奇声を発する程度の能力 様
天狗の日だったんです。えぇ。
自分も最後は力技になりますね……

>>2 様
霖「本当かい? 有難う魔理沙」

>>拡散ポンプ 様
本人はいたって真面目ですからね。説得力が凄いですw

>>けやっきー 様
何となく色をwikiで検索してたら出てきたんですwww

読んでくれた全ての方に感謝!