桜乱れ咲く季節。私――ルナサ・プリズムリバー――は白玉楼へと向かっていた。西行寺幽々子様から呼ばれていたこともあり、理由は簡単に予想がついた。この季節になると私たちは引っ張りだこになる。酔っぱらいを諌める音を奏でる私。宴会を最大限に盛り上げるメルラン。そして二つの音を調律させBGMにすることのできるリリカ。ちんどん屋と呼ばれているが、私たちはそういった雰囲気を楽しむことができるのは役得だ。普通の話し合いで終わればいいんだけど。
「あ。ルナサさんいらっしゃい」
白玉楼の庭の中で庭師兼幽々子様の教育指南役の妖夢さんと会う。
「いつも早いですね」
まだ日は昇ったばかりだ。冷たい風が頬を厳しく突き刺してくる。妖夢さんは思い出したかのように持っている箒の手を止め、私を幽々子様の元へと案内をしてくれた。意外にも待っていた場所は大きな場所などではなく、小さな離れの小屋だった。
「わぁ……」
少しの間の抜けた声が上がってしまった。小さいからって馬鹿にしちゃいけない。こういうのを小は大を兼ねると言うのだろうか。あ、逆だ。この部屋からは満開の桜を見ることができる。正座をしながら桜を見ていた幽々子様は、こちらに気づいたようで向き直り小さく会釈を交わす。こうして見ているだけでも綺麗な方である。掛け値なしに。
「妖夢、御苦労さま。下がっていいわよ」
すっと下がる妖夢さん。こうして改めてみると徹底している。
「うわぁ!」
……妖夢さんは段差に躓いて転んだようだ。これがなければ一人前なのかなぁ。クスリ、と笑う幽々子様。笑顔が一段と麗しい。
「ルナサ、ルナサ?」
「はっ! はい!」
いけない。ぼーっとしていたようだ。なんだろうこんな小さな部屋に二人っきりっていうのも心臓に悪い。胸のドキドキが止まらない。静まって。静まって。真面目なことを話しに来たんだから!
「ルナサ……貴女また緊張しているのね」
冷や汗が身体中を伝う。接近を許してしまった。色々考えている間に音もなく、忍び寄るだなんて……
「いい加減なれなさい? できるものなら」
水晶のように透き通った手が、私の頬をすーっと撫でる。なにか壊れやすいものを触るように優しく扱ってくれている。頬を一往復するたび気持ちよくなっていく。冥界の管理人と一騒霊。そんな些細なことはこの空間には関係ないことが認識される。私の両手が操り糸に導かれるように、幽々子様の背中に……伸びない。
「あら、残念ね」
意地悪く笑う御方だ。全身の感覚が研ぎ澄まされていたせいか、それとも音感のおかげなのか、妖夢さんの足音が聞こえたからギリギリで踏みとどまることができた。
「お茶でございます」
「あ、ありがとうございます!」
思いきり頭を下げる。これは感謝ではなく、顔を見られたくないだけなんだけど、妖夢さんは気付くことなく戻っていく。ちらりと視線を上げるとにこにこと笑っているのがまたずるい。
「あーあー惜しかったわ。もう少しだったのに」
そんなことを呟きながらお茶に手をつける。倣って、私もお茶で渇いたのどを潤していく。
「ところで」
弛みきっていた空気が少しだけ締まる。
「宴会は明日。きっちりと準備はよろしくね」
「……はい!」
これで解放される。そう思ったのがそもそもの間違いだった。それでは! と言って立ち上がろうとすると、足が痺れて前のめりに崩れた。
「やん♪」
「え?」
訪れるべきはずの痛みは来ない。それどころか、何かいい匂いがして柔らかい。視界がブラックアウトしている。離れようとしても離れることができない。強引に首を上げると、たゆんと何か動いた後に、薄い桃色の唇が眼前に現れた。
落ちつけ、落ちつけ私。この状況を認識しちゃだめだ。頭の中の警報がガンガンと鳴り響いている。その警報を解くかのように甘い吐息が髪とおでこにかかっている感触を覚える。あぁ、融けた。理性という堅い弦がはじけてしまった瞬間だった。顔が一気に紅潮する。血液が瞬く間に全身に駆け巡る。これ以上赤くなる場所はないだろうってくらい、赤くなったと思う。
「それじゃあ明日はよろしくね」
「はい……」
解放されたのは日が落ちる寸前になってだった。
後はされるがままだったことを覚えている。私自身も気持ち良くて、抵抗という言葉なんて当の昔に忘却していた。できることならば、もう少しだけあの空間にいたかったという思いが強くなっていくことに、なんだか不安を覚える。最初から明日の準備なんて出来るわけがなかった。
「うぅ、明日は高気圧だなぁ」
静まることを知らない胸の鼓動は、冷たい風さえも温かく感じさせた。
「あ。ルナサさんいらっしゃい」
白玉楼の庭の中で庭師兼幽々子様の教育指南役の妖夢さんと会う。
「いつも早いですね」
まだ日は昇ったばかりだ。冷たい風が頬を厳しく突き刺してくる。妖夢さんは思い出したかのように持っている箒の手を止め、私を幽々子様の元へと案内をしてくれた。意外にも待っていた場所は大きな場所などではなく、小さな離れの小屋だった。
「わぁ……」
少しの間の抜けた声が上がってしまった。小さいからって馬鹿にしちゃいけない。こういうのを小は大を兼ねると言うのだろうか。あ、逆だ。この部屋からは満開の桜を見ることができる。正座をしながら桜を見ていた幽々子様は、こちらに気づいたようで向き直り小さく会釈を交わす。こうして見ているだけでも綺麗な方である。掛け値なしに。
「妖夢、御苦労さま。下がっていいわよ」
すっと下がる妖夢さん。こうして改めてみると徹底している。
「うわぁ!」
……妖夢さんは段差に躓いて転んだようだ。これがなければ一人前なのかなぁ。クスリ、と笑う幽々子様。笑顔が一段と麗しい。
「ルナサ、ルナサ?」
「はっ! はい!」
いけない。ぼーっとしていたようだ。なんだろうこんな小さな部屋に二人っきりっていうのも心臓に悪い。胸のドキドキが止まらない。静まって。静まって。真面目なことを話しに来たんだから!
「ルナサ……貴女また緊張しているのね」
冷や汗が身体中を伝う。接近を許してしまった。色々考えている間に音もなく、忍び寄るだなんて……
「いい加減なれなさい? できるものなら」
水晶のように透き通った手が、私の頬をすーっと撫でる。なにか壊れやすいものを触るように優しく扱ってくれている。頬を一往復するたび気持ちよくなっていく。冥界の管理人と一騒霊。そんな些細なことはこの空間には関係ないことが認識される。私の両手が操り糸に導かれるように、幽々子様の背中に……伸びない。
「あら、残念ね」
意地悪く笑う御方だ。全身の感覚が研ぎ澄まされていたせいか、それとも音感のおかげなのか、妖夢さんの足音が聞こえたからギリギリで踏みとどまることができた。
「お茶でございます」
「あ、ありがとうございます!」
思いきり頭を下げる。これは感謝ではなく、顔を見られたくないだけなんだけど、妖夢さんは気付くことなく戻っていく。ちらりと視線を上げるとにこにこと笑っているのがまたずるい。
「あーあー惜しかったわ。もう少しだったのに」
そんなことを呟きながらお茶に手をつける。倣って、私もお茶で渇いたのどを潤していく。
「ところで」
弛みきっていた空気が少しだけ締まる。
「宴会は明日。きっちりと準備はよろしくね」
「……はい!」
これで解放される。そう思ったのがそもそもの間違いだった。それでは! と言って立ち上がろうとすると、足が痺れて前のめりに崩れた。
「やん♪」
「え?」
訪れるべきはずの痛みは来ない。それどころか、何かいい匂いがして柔らかい。視界がブラックアウトしている。離れようとしても離れることができない。強引に首を上げると、たゆんと何か動いた後に、薄い桃色の唇が眼前に現れた。
落ちつけ、落ちつけ私。この状況を認識しちゃだめだ。頭の中の警報がガンガンと鳴り響いている。その警報を解くかのように甘い吐息が髪とおでこにかかっている感触を覚える。あぁ、融けた。理性という堅い弦がはじけてしまった瞬間だった。顔が一気に紅潮する。血液が瞬く間に全身に駆け巡る。これ以上赤くなる場所はないだろうってくらい、赤くなったと思う。
「それじゃあ明日はよろしくね」
「はい……」
解放されたのは日が落ちる寸前になってだった。
後はされるがままだったことを覚えている。私自身も気持ち良くて、抵抗という言葉なんて当の昔に忘却していた。できることならば、もう少しだけあの空間にいたかったという思いが強くなっていくことに、なんだか不安を覚える。最初から明日の準備なんて出来るわけがなかった。
「うぅ、明日は高気圧だなぁ」
静まることを知らない胸の鼓動は、冷たい風さえも温かく感じさせた。
珍しいカップリング、ごちそうさまでした!
2さん>>そうなんです! 幽々子様は綺麗でございます! ありがとうございます!
3さん>>お姉さんがよりお姉さんっぽい人には振り回されるのだろうな……と思い書きました! どうぞ召し上がってください!
4さん>>ありがとうございます! ゆゆルナもっとはやーれ!
新鮮な組み合わせですね。良いものを見せて頂きました。
5珍しい皆様ありがとうございます!
ただ、短い! 短すぎる!!
もっと、読ませてくれー。
うぐ、もう少し長く書けるよう努力いたしますー!
良い作品をありがとうございました!
幽々子様は美しいお方!(キリッ!