外に出た。
研究で忙しくてあまり他のことにかまけてる時間がなかった。
外の空気に包まれた私はどこに行くでもなくただボーっとしていた。
そこに一人の人間がやってくるのが見えた。
よく見知った人物。
紅白の巫女服が特徴的な彼女は私を見るなり突然ものすごい勢いで走ってきた。
「アリスっ!!」
「ちょ、霊夢、危ないじゃないの」
そう博麗神社の巫女である、博麗霊夢だ。
ちなみに私の恋人である。
霊夢が意外と恥ずかしがり屋なのでまだ大っぴらには言っていないが、そのうちブン屋がネタを嗅ぎつけてくるに違いないと考えている。
そうすればべつにコソコソと会う必要もなくなるわけだ。
霊夢には申し訳ないが、そろそろ我慢の限界もあるのだ。
だって、霊夢は周りから人気があるからもしかしたら誰かに盗られるかもしれない。
その前に霊夢は私のだってことを知らしめないと。
「それにしても久しぶり。3日ぶりかしら?」
「違うわよ! 二週間ぶりよ!」
「そんなに会ってなかった?」
「そうよ! すごくさ、寂しかったんだからねっ」
「ッ!?」
あまりの可愛さに目の前が真っ白になった。
どおりで最近霊夢分が足りないと思った。
なるほど、理解出来たわ。
そうなると問題が一つ起きる。
「ねぇ、霊夢?」
「なに?」
「ちょっと、離れてくれないかしら?」
「な、なんで?」
そんな捨てられた子犬のような目をされても困る。
私の服をキュっと引っ張って離れようとしない霊夢に私は優しく言った。
「ごめんなさい霊夢。実は昨日作業が結構捗ったものだからお風呂に入るの忘れててね」
「……。」
「あんまりくっつかれると、ちょっと、ね?」
「べつにいい」
「でも、」
「私が気にしてないって言ってるんだからいいの!」
「…はい」
霊夢が気にしてなくても私がするんだけど。
やっぱり好きな子には変な印象与えたくないじゃない?
だから離れてもらいたいけど、許してくれなさそう。
「アリス」
「どうしたの?」
「家、入ろ?」
「そうね」
いつまでも外で抱きついているわけにもいかない。
これでブン屋に見つかったら霊夢が泣きそうに思えた。
まあ、私はそんな霊夢も見てみたいと思うが。
「あの、霊夢さん?」
「なぁに?」
「いえ、その…いつまでこの状態なんでしょうか?」
「私の気が済むまで」
家に入ってからというもの、ソファに座ると霊夢はずっと私に抱きついている。
正直結構ヤバい。
我慢している私はかなり偉いと思う。
「あのね霊夢。離れてもらえないかしら?」
「…嫌だ」
「いや、ちょ、ほんと離れてくださいっ」
「…アリスは私のこと嫌いになったの?」
「んなっ!? そんなワケないでしょ!!」
なんてこと言うんだこの巫女は。
霊夢のこと嫌いになるなんてありえない。
私には霊夢が全てなんだから。
「ごめんなさい霊夢。言い方が悪かったわ」
「……アリスぅ」
「よしよし泣かないの」
「べ、べつに泣いてないわよ!」
「はいはい」
霊夢は目に涙を浮かべながら反論してきた。
それが逆効果ということを知っているのだろうか?
まあ、なんにせよ霊夢が元気になってくれたのはよかった。
「で、なんで離れてほしいの? お風呂入りたいの?」
「ん~。まあ、それもあるんだけど…」
「他になにかあるの?」
「言ったら霊夢がまた泣いちゃうから後でね?」
「な、なんの話よ!?」
霊夢が怒りながらも離れてくれた。
助かった。
もし、ここで襲ったりしたら絶対嫌われる。
「あ、そうだ。霊夢」
「なによ?」
「お茶、飲むでしょ?」
「…うん」
「待ってて」
「うん」
霊夢はすこし膨れた顔をしていたが、すぐにいつも通りの表情を取り戻していた。
可愛いな、と思いながらキッチンに向かった。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
「紅茶で悪いけど」
「いいわよ。アリスの淹れてくれる紅茶、好きだから」
「そう。それはよかったわ」
霊夢はカップを両手に持ってちびちびと飲んでいた。
そこでも可愛いな、と思いながら自分の分を飲んだ。
「さて、私はちょっとお風呂に入ってくるけど」
「じゃあ私は寝ようかな」
「なら私の部屋のベッドで寝なさい。こんなとこで寝たら風邪ひくわ」
「そうさせてもらうわ」
そう言って霊夢は私の部屋へと歩を進めた。
私もお風呂へ入ろうと霊夢に背を向けた瞬間、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。
それはもう霊夢しかいなかったわけだから霊夢に呼ばれたんだと思って後ろを振り返ったらそこに…
「ッ!?」
霊夢の顔が目の前にあった。
唇に何か柔らかいものが当たった気がした。
いや、当たった気がしたんじゃなくて当たったんだ。
霊夢と触れるだけのキス。
私はそれだけで自分の中の抑えつけている衝動が爆発した。
「アリスったら、顔真っ赤だけど…大丈夫?」
「ええ、平気よ。それよりも霊夢?」
「なに?」
「一緒にお風呂入らない?」
「えっ!?」
「いいでしょ?」
「………うん」
結局自分に負けた私は、霊夢にこっ酷く叱られることになりました。
でも、霊夢の赤く染まった頬を見てニヤニヤせずにはいられませんでした。
「アリスのばかっ!」
「ちょ、濡れたタオルで叩かないで、結構痛いっ!」
可愛い、可愛いなぁ。
ふたりとも可愛いな。にやにやにやにや。