この話は、ジェネリック作品集58、『鬼と覚りの恋物語-後編- 』の設定を引き継いでおりますので、ご注意ください。
重たい沈黙とピリピリとした空気がその場に居る二人の間で漂っていた。
また、こことは対照的に隣の部屋からは陽気な笑い声が絶えず響いており場の冷たさを一層際立てている。
同じテーブルに向き合うようにして座る二人の姉妹はされど互いに目も合わせようともしなかった。
「……こいし、その膨れっ面いい加減やめなさい。」
さとりが妹であるこいしを諭す……それ自体は地霊殿でもさして珍しくもない光景だが、普段とはどうやら勝手が違うようだ。
何時もなら素直に聞き入れるこいしが有ろう事か更に剥れた表情をして見せた。
「……なんですか? 何か言いたげですね?」
さとりとしても面白く無かったのだろう。露骨に不機嫌な声で言い放つ。
しかしこいしは動じる事も無く、吐き捨てるようにして言葉を返す。
「……お得意の“覚り”で当ててごらんよ。」
こいしのこの挑発にさとりは青筋の数をまた一本増やした。
それでもまだどうにかして怒りを抑えようとしているのは姉としての自覚からか。
しかしその我慢もどうやら風前の灯のようだ。
「全く……寂しい気持ちも分からなくも無いけど、もう少し大人になれないのかしら?」
溜め息混じりに不満を漏らすさとりに反省するどころかこいしは鼻で笑って見せた。
「……お姉ちゃんに言われたくないな。」
「あら……? それは一体どういう意味かしら?」
口元を引き釣らせるさとりに向かって呆れたと手振りを交えてこいしは答えた。
「分からないの? 萃香さんに構って貰えなくて拗ねてるのは本当はお姉ちゃんの方でしょう?」
「い、言わせておけば……!」
ついに限界を迎えたさとりはバンと勢い良くテーブルを叩くと腰掛けていた椅子から立ち上がった。
「言わせておけば何? だって本当の事でしょう?」
しかしそれぐらいで怯むこいしでも無く、それどころか更にさとりを煽るような発言をし、自身も瞳を強くぎらつかせた。
「勇儀さんに萃香さんを独占されちゃって面白くないんでしょう? まあ寂しい気持ちも分からなくも無いけどね。」
さとりの言葉をまるでオウムの口真似の様にことさら強調して返すこいし。
熱くなっているのはどうやらさとりの方だけでは無いようだ。
ギリギリというさとりの歯軋りが聞こえそうな一方で、こいしの目からはバチバチと火花が散っていても不思議では無かった。
それくらい今の二人は険悪なムードを作り出していた。
「不機嫌な顔を全面的に押し出してた癖に、よくそんな事が言えますね!」
「私のは、苛立ちを隠せないお姉ちゃんにムカついてただけだもん。」
「どの口が言いますか。そんな見え透いた嘘……!」
「だったら確かめて見れば良いじゃん?ってそうか、私の心は読めないんだっけ? 忘れてたごめーん。」
「っ……! 何ですかさっきから癪に触るその言い草は……!」
「ええぇ~お姉ちゃんが勝手に苛立ってるだけじゃ~ん。」
「…………。」
「…………。」
口での応酬が突如としてピタリと止んだ。ただ互いに憤怒を込めた瞳で静かに相手を睨んでいた。
「…………やりますか?」
その静寂を破ったのはさとりの方だった。言葉こそ静かだったが、明らかな敵意が濃く含まれていた。
「…………やってやろうじゃん。」
応えるこいしも犬歯を剥き出しにして相手を威嚇する。
そして互いにテーブルという障害物から離れ、すぐにでも相手に飛び掛れる位置まで移動した。
「っあぁー!」
先に踏み出したのはこいし。
「はあー……!」
さとりも応じるように動き出した。
両者がぶつかる、その刹那──
ガラッ
「おーい、さとりにこいし! 二人ともこっちで飲まないかい?」
──何の前触れも無く二人の目の前でドアが開いた。
「「はーい♪」」
先程までの殺気がまるで嘘のように霧散し、萃香の前で二人は仲良く両手を握り合った。
まるで花の様な満面の笑顔ですぐさま萃香を迎え入れる。
「? そう言えばちょっと騒がしかったけどなんかあった?」
流石に感づいたのかニコニコと笑う二人の前で萃香は首を傾げた。
「いいえ。」
「何にもないよ。」
これ以上に無いほど息ぴったりな二人の返答だったが、それでも萃香は誤魔化されなかった。
何かあったのは間違いないと思うのだがそれが何かまでは分からない。
よもや自分を巡って争っていたなんて萃香は夢にも思わないようだ。
「おーい、萃香! 早く戻ってこーい!」
だが勇儀の呼ぶ声に萃香はそれ以上の追求を諦めてしまうのだった。
特段問題が有る訳でもないし、それより今は酒を楽しむべき──そう判断したようだ。
「さっ! 萃香さん、勇儀さんも呼んでいる事ですし。」
「早く行こ! ね?」
それを察知したさとりがすかさず萃香の左腕に自らの腕を絡ませると、それに間髪入れずにこいしが反対の腕を掴みに掛かった。
すり寄ってくる二人に悪い気など起こる筈もなく、そのまま萃香はもと来た部屋へと戻って行った。
「漸く戻って来たと思ったらなんだい、両手に花を添えちゃってさ。」
「うん? ああ何だか二人とも変なんだ。一体どうしちまったのかね?」
「萃香さん~///」
「へへへっ///」
「…………聞いてもこんなんだし。」
「良いじゃないか! だけど、こんなんなら私もパルスィを連れて来るんだったかな?」
「それじゃあ何時もと変わらないじゃないか。」
「ハハハハ! それもそうか!」
──酒を飲み交わす二人の鬼よりもただ萃香の腕に纏わりついているだけの姉妹の方が幸せそうに見える、これはそんな夜のお話。
重たい沈黙とピリピリとした空気がその場に居る二人の間で漂っていた。
また、こことは対照的に隣の部屋からは陽気な笑い声が絶えず響いており場の冷たさを一層際立てている。
同じテーブルに向き合うようにして座る二人の姉妹はされど互いに目も合わせようともしなかった。
「……こいし、その膨れっ面いい加減やめなさい。」
さとりが妹であるこいしを諭す……それ自体は地霊殿でもさして珍しくもない光景だが、普段とはどうやら勝手が違うようだ。
何時もなら素直に聞き入れるこいしが有ろう事か更に剥れた表情をして見せた。
「……なんですか? 何か言いたげですね?」
さとりとしても面白く無かったのだろう。露骨に不機嫌な声で言い放つ。
しかしこいしは動じる事も無く、吐き捨てるようにして言葉を返す。
「……お得意の“覚り”で当ててごらんよ。」
こいしのこの挑発にさとりは青筋の数をまた一本増やした。
それでもまだどうにかして怒りを抑えようとしているのは姉としての自覚からか。
しかしその我慢もどうやら風前の灯のようだ。
「全く……寂しい気持ちも分からなくも無いけど、もう少し大人になれないのかしら?」
溜め息混じりに不満を漏らすさとりに反省するどころかこいしは鼻で笑って見せた。
「……お姉ちゃんに言われたくないな。」
「あら……? それは一体どういう意味かしら?」
口元を引き釣らせるさとりに向かって呆れたと手振りを交えてこいしは答えた。
「分からないの? 萃香さんに構って貰えなくて拗ねてるのは本当はお姉ちゃんの方でしょう?」
「い、言わせておけば……!」
ついに限界を迎えたさとりはバンと勢い良くテーブルを叩くと腰掛けていた椅子から立ち上がった。
「言わせておけば何? だって本当の事でしょう?」
しかしそれぐらいで怯むこいしでも無く、それどころか更にさとりを煽るような発言をし、自身も瞳を強くぎらつかせた。
「勇儀さんに萃香さんを独占されちゃって面白くないんでしょう? まあ寂しい気持ちも分からなくも無いけどね。」
さとりの言葉をまるでオウムの口真似の様にことさら強調して返すこいし。
熱くなっているのはどうやらさとりの方だけでは無いようだ。
ギリギリというさとりの歯軋りが聞こえそうな一方で、こいしの目からはバチバチと火花が散っていても不思議では無かった。
それくらい今の二人は険悪なムードを作り出していた。
「不機嫌な顔を全面的に押し出してた癖に、よくそんな事が言えますね!」
「私のは、苛立ちを隠せないお姉ちゃんにムカついてただけだもん。」
「どの口が言いますか。そんな見え透いた嘘……!」
「だったら確かめて見れば良いじゃん?ってそうか、私の心は読めないんだっけ? 忘れてたごめーん。」
「っ……! 何ですかさっきから癪に触るその言い草は……!」
「ええぇ~お姉ちゃんが勝手に苛立ってるだけじゃ~ん。」
「…………。」
「…………。」
口での応酬が突如としてピタリと止んだ。ただ互いに憤怒を込めた瞳で静かに相手を睨んでいた。
「…………やりますか?」
その静寂を破ったのはさとりの方だった。言葉こそ静かだったが、明らかな敵意が濃く含まれていた。
「…………やってやろうじゃん。」
応えるこいしも犬歯を剥き出しにして相手を威嚇する。
そして互いにテーブルという障害物から離れ、すぐにでも相手に飛び掛れる位置まで移動した。
「っあぁー!」
先に踏み出したのはこいし。
「はあー……!」
さとりも応じるように動き出した。
両者がぶつかる、その刹那──
ガラッ
「おーい、さとりにこいし! 二人ともこっちで飲まないかい?」
──何の前触れも無く二人の目の前でドアが開いた。
「「はーい♪」」
先程までの殺気がまるで嘘のように霧散し、萃香の前で二人は仲良く両手を握り合った。
まるで花の様な満面の笑顔ですぐさま萃香を迎え入れる。
「? そう言えばちょっと騒がしかったけどなんかあった?」
流石に感づいたのかニコニコと笑う二人の前で萃香は首を傾げた。
「いいえ。」
「何にもないよ。」
これ以上に無いほど息ぴったりな二人の返答だったが、それでも萃香は誤魔化されなかった。
何かあったのは間違いないと思うのだがそれが何かまでは分からない。
よもや自分を巡って争っていたなんて萃香は夢にも思わないようだ。
「おーい、萃香! 早く戻ってこーい!」
だが勇儀の呼ぶ声に萃香はそれ以上の追求を諦めてしまうのだった。
特段問題が有る訳でもないし、それより今は酒を楽しむべき──そう判断したようだ。
「さっ! 萃香さん、勇儀さんも呼んでいる事ですし。」
「早く行こ! ね?」
それを察知したさとりがすかさず萃香の左腕に自らの腕を絡ませると、それに間髪入れずにこいしが反対の腕を掴みに掛かった。
すり寄ってくる二人に悪い気など起こる筈もなく、そのまま萃香はもと来た部屋へと戻って行った。
「漸く戻って来たと思ったらなんだい、両手に花を添えちゃってさ。」
「うん? ああ何だか二人とも変なんだ。一体どうしちまったのかね?」
「萃香さん~///」
「へへへっ///」
「…………聞いてもこんなんだし。」
「良いじゃないか! だけど、こんなんなら私もパルスィを連れて来るんだったかな?」
「それじゃあ何時もと変わらないじゃないか。」
「ハハハハ! それもそうか!」
──酒を飲み交わす二人の鬼よりもただ萃香の腕に纏わりついているだけの姉妹の方が幸せそうに見える、これはそんな夜のお話。
やっぱり二人が一番仲いいんじゃないか。
仲良いなぁ…