柏手を打つ音が神社の境内に響く。
妖怪神社と悪名高い博麗神社に、珍しく参拝客が来ているのだ。
きっと明日は、血の雨が降るだろう。
「ほへー」
そんな参拝客を見ている人影が一つ。
氷の妖精チルノである。
彼女は、物珍しげに神社に参拝をしている人間をジッと眺めていた。
それは、
「一体、何をしているんだろう?」
という、好奇の視線である。
しばらくして、我慢できなくなったチルノは参拝客に尋ねてみた。
「ねーねー、何してるの?」
「神様に信仰を捧げて、御利益を頂いているのだよ」
人間は、氷の妖精であるチルノに分かりやすいように教えてくれた。
「信仰って、美味しいの?」
「私は貰った事は無いけれど、きっと神様にとっては美味しいのだろう」
チルノは少し考え込むと、
「妖精にとっては美味しいの?」
と、尋ねた。
これには人間も面を食らったようで「妖精に信仰を……」と、絶句する。
しかし、それも一瞬だった。
人間は、里で学び屋の先生をしているから、今回のチルノがしたような、子どもの唐突な質問には耐性がある。
「ふむ。ならばお前の御利益はなんだ?」
と、返した。
「ごりやく……ゴリラの薬?」
「なんだそれは」
「ゴリ薬の略じゃないの?」
チルノの答えに人間は流石に呆れたような顔をする。
「違う。御利益というのはだな、神が人から信仰を貰った代わりにもたらす利益の事を言うんだ」
「りえき?」
「例えば、天候神なら風雨にまつわる災難を遠ざけ、日照りを止め、長雨を終わらす。豊穣神なら、地の恵みを。水神ならば、水害を防ぎ、渇水の際に雨を降らす。こうした神の特性に応じた利益を御利益というんだ」
「ほへー」
チルノは人間が話をしている間、口を開けたまま、彼女の顔を見上げていた
どう贔屓目に見ていても馬鹿っぽい。
「分かったか? 神ならぬ身で、そうそう御利益など与えられるものではないのだよ。だから、身の程に合わない信仰など欲しがらず、いつものように元気に子どもたちと遊んでいてく……」
人間が、そこまで行った瞬間、
「つまり、ごりやくをあげられれば、代わりに信仰をくれるってわけね!」
チルノは大声を上げた。
頭の悪い氷の妖精は、まったく分かっていなかったのだ。
「……どうする気だ」
「簡単だよ。あたいの御利益は、凍らせる事だ!」
自信満々だと、チルノは胸を張った。
もとい、のけぞり過ぎて、ひっくり返った。
照れくさそうに背中を払いながら起きあがるチルノを見て、人間は、深く、とても深く溜息を吐く。
「凍らせるって、お前……」
「これで信仰がバンバン手に入るね!」
そう言うとチルノは、今までチルノ達には関心を示さず、後ろの方で掃き掃除をしていた博麗神社の巫女に向かって、
「ごりやくあげるから、信仰ちょうだいー」
と言って駆けていく。
巫女は、
「ああ?」
と、少しばかりガラ悪くチルノに聞き返した。
前日に深酒をした所為で、頭が痛いのである。
しかし、怖いもの無しのチルノは、フキゲンな巫女など気にせず、ひっくり返りそうなほど胸を張って、信仰をくれたまえ、と要求をするのだ。
「信仰ねぇ。ウチが欲しいわ」
酒の所為か、腐った魚のような目をした巫女は答えた。
「持ってないの?」
「閑古鳥ね」
それを聞くと、チルノは神妙な顔付きをして
「そっか」
とだけ言うと、人間の里で教師をしている人間の所に戻る。
「なんだどうした」
「んー、信仰はいい」
お菓子を我慢する子どものように、チルノは言う。
「ふむ。なんで要らないんだ?」
その態度に興味が出てきた人間は、チルノにワケを聞いてみると、
「だってさ。霊夢は信仰が欲しいのに、全然もらえてないんでしょ。でさ、あたいが信仰を集めたら、信仰が貰えない霊夢は、もっともっと貰えなくなるわけじゃない。だから、あたいは信仰を我慢するよ」
その言葉を聞いて、人間は思わず吹き出した。
「……まったく、妖精に心配をされたら世話ないな」
そう言って、込み上がる笑いを抑えながら、境内で掃除をしている巫女に目をやる。
その疲れたような後ろ姿を見て、人間は、堪え切れずに再び吹き出してしまった。
「どしたの?」
「い、いや、何でもない。まあ、この神社も、もっと頑張らないといけないという事だ。少なくとも妖精に同情をされないようにな」
「……? そうだね」
首を捻りながらも頷くチルノを見て、人間は生徒にやっているように頭をポンポンと叩いてやると、
「それじゃ、聞き分けの良い妖精にご褒美をやるか。里に来い。冷やし飴でも奢ってやる」
と言って、チルノを誘う。
氷の妖精は「うん!」と、大きく頷いて、人間の手を引っ張ると、早く冷やし飴を買って貰うべく、里への道を急ごうとする。
「やはり、信仰よりも冷やし飴の方が良いか?」
苦笑しながら人間が尋ねると、
「あったり前じゃん!」
と、妖精は、即座に答えるのであった。
了
妖怪神社と悪名高い博麗神社に、珍しく参拝客が来ているのだ。
きっと明日は、血の雨が降るだろう。
「ほへー」
そんな参拝客を見ている人影が一つ。
氷の妖精チルノである。
彼女は、物珍しげに神社に参拝をしている人間をジッと眺めていた。
それは、
「一体、何をしているんだろう?」
という、好奇の視線である。
しばらくして、我慢できなくなったチルノは参拝客に尋ねてみた。
「ねーねー、何してるの?」
「神様に信仰を捧げて、御利益を頂いているのだよ」
人間は、氷の妖精であるチルノに分かりやすいように教えてくれた。
「信仰って、美味しいの?」
「私は貰った事は無いけれど、きっと神様にとっては美味しいのだろう」
チルノは少し考え込むと、
「妖精にとっては美味しいの?」
と、尋ねた。
これには人間も面を食らったようで「妖精に信仰を……」と、絶句する。
しかし、それも一瞬だった。
人間は、里で学び屋の先生をしているから、今回のチルノがしたような、子どもの唐突な質問には耐性がある。
「ふむ。ならばお前の御利益はなんだ?」
と、返した。
「ごりやく……ゴリラの薬?」
「なんだそれは」
「ゴリ薬の略じゃないの?」
チルノの答えに人間は流石に呆れたような顔をする。
「違う。御利益というのはだな、神が人から信仰を貰った代わりにもたらす利益の事を言うんだ」
「りえき?」
「例えば、天候神なら風雨にまつわる災難を遠ざけ、日照りを止め、長雨を終わらす。豊穣神なら、地の恵みを。水神ならば、水害を防ぎ、渇水の際に雨を降らす。こうした神の特性に応じた利益を御利益というんだ」
「ほへー」
チルノは人間が話をしている間、口を開けたまま、彼女の顔を見上げていた
どう贔屓目に見ていても馬鹿っぽい。
「分かったか? 神ならぬ身で、そうそう御利益など与えられるものではないのだよ。だから、身の程に合わない信仰など欲しがらず、いつものように元気に子どもたちと遊んでいてく……」
人間が、そこまで行った瞬間、
「つまり、ごりやくをあげられれば、代わりに信仰をくれるってわけね!」
チルノは大声を上げた。
頭の悪い氷の妖精は、まったく分かっていなかったのだ。
「……どうする気だ」
「簡単だよ。あたいの御利益は、凍らせる事だ!」
自信満々だと、チルノは胸を張った。
もとい、のけぞり過ぎて、ひっくり返った。
照れくさそうに背中を払いながら起きあがるチルノを見て、人間は、深く、とても深く溜息を吐く。
「凍らせるって、お前……」
「これで信仰がバンバン手に入るね!」
そう言うとチルノは、今までチルノ達には関心を示さず、後ろの方で掃き掃除をしていた博麗神社の巫女に向かって、
「ごりやくあげるから、信仰ちょうだいー」
と言って駆けていく。
巫女は、
「ああ?」
と、少しばかりガラ悪くチルノに聞き返した。
前日に深酒をした所為で、頭が痛いのである。
しかし、怖いもの無しのチルノは、フキゲンな巫女など気にせず、ひっくり返りそうなほど胸を張って、信仰をくれたまえ、と要求をするのだ。
「信仰ねぇ。ウチが欲しいわ」
酒の所為か、腐った魚のような目をした巫女は答えた。
「持ってないの?」
「閑古鳥ね」
それを聞くと、チルノは神妙な顔付きをして
「そっか」
とだけ言うと、人間の里で教師をしている人間の所に戻る。
「なんだどうした」
「んー、信仰はいい」
お菓子を我慢する子どものように、チルノは言う。
「ふむ。なんで要らないんだ?」
その態度に興味が出てきた人間は、チルノにワケを聞いてみると、
「だってさ。霊夢は信仰が欲しいのに、全然もらえてないんでしょ。でさ、あたいが信仰を集めたら、信仰が貰えない霊夢は、もっともっと貰えなくなるわけじゃない。だから、あたいは信仰を我慢するよ」
その言葉を聞いて、人間は思わず吹き出した。
「……まったく、妖精に心配をされたら世話ないな」
そう言って、込み上がる笑いを抑えながら、境内で掃除をしている巫女に目をやる。
その疲れたような後ろ姿を見て、人間は、堪え切れずに再び吹き出してしまった。
「どしたの?」
「い、いや、何でもない。まあ、この神社も、もっと頑張らないといけないという事だ。少なくとも妖精に同情をされないようにな」
「……? そうだね」
首を捻りながらも頷くチルノを見て、人間は生徒にやっているように頭をポンポンと叩いてやると、
「それじゃ、聞き分けの良い妖精にご褒美をやるか。里に来い。冷やし飴でも奢ってやる」
と言って、チルノを誘う。
氷の妖精は「うん!」と、大きく頷いて、人間の手を引っ張ると、早く冷やし飴を買って貰うべく、里への道を急ごうとする。
「やはり、信仰よりも冷やし飴の方が良いか?」
苦笑しながら人間が尋ねると、
「あったり前じゃん!」
と、妖精は、即座に答えるのであった。
了
いい作品でした。
お嬢ちゃん、私が(ry
ところでタイトルの読みはは「マンゴッドアターイ」でいいですか
でもこんなに可愛かったら信仰せざるを得ない。
それにしても、妖精に心配される神社…ww