ある秋の晴れた気持ちの良い朝、私はキスリングを背負って里へ訪れていた
理由は簡単、昨日慧音に家の食料全てを食べ尽くされたからである
買い物をあらかた済ませ家路につこうとした時不意に後ろから声を掛けられた
振り返り私に声を掛けた人物を視認して顔から血の気が引くのが分かった
「…慧音?」
「よう」
今現在最も会いたくない人物第一位、昨日我が家の食料を食い尽くしてくれた上白沢慧音だった
「…慧音」
「…妹紅」
「この食料は渡さないぞ」
「そんなことするか、私は乞食じゃ無いんだ」
「昨日私の家の食べ物食べ尽くした奴が言う言葉かい?」
「忘れてくれたまえ」
「だが断る」
「…で今日は買い出しか?」
「そうだよ、食料は渡さないぞ」
「引っ張らないでくれよ、お詫びに最近出来たドーナツ屋に連れて行ってあげようと思うんだ」
「どうなつ?何だそりゃ」
「外の世界の揚げ菓子だ、山の上の巫女が作り方を持ち込んで流行ったそうだ」
「勿論おごりだよな?」
「当たり前だろ」
「それならご一緒しましょ」
私は慧音に手を引かれ里の中心部まで行った
歩いて十分ほど、私たちは落ち着いた雰囲気の店に到着した
「ここがそのどうなつ屋なのか」
「そうだ、全部手作りで出来たての味が楽しめて比較的安い、良い時代になった」
そう言って店に入る慧音に続いて私も入店しようとしたのだが…
「…待ってくれ慧音」
「どした?」
「どうすれば良いかな、リュック」
そう、背中のキスリングが邪魔で入れなかったのだ
「あー」
私が途方に暮れていると慧音は案を出した
「横ばいになって入ったらどうだ?」
「成る程」
横ばいになって入店を試みる私を見ていつの間にか慧音は写真を撮り始めていた
「…何で撮るんだ」
「いや、カニ族なんて今じゃどうやっても見かけないから写真に納めようかなと、私のコレクションに」
「カニ族って、一部の岳人にしか通じないネタ出すなよ」
そんなこんなで入店できた私は慧音と共に窓際の席に着いた
「…妹紅は何食べる」
「何食べるって言われてもなぁどんなのがあるんだ?」
「この店では大きく分けて三種類のドーナツを提供してくれるんだ、一つはケーキ生地のケーキドーナツ、もう一つはパン生地みたいなイーストドーナツ、そして最後はクルーラーと呼ばれるドーナツだ」
「ふーん、何がお勧め?」
「私個人から言わせて貰うとここのクルーラーは絶品だ、でもケーキドーナツも捨て難い、いやイーストドーナツもなぁ…」
顔を綻ばせ悩む慧音に空腹が限界まで来ている私は畳みかけた
「…で何が良いんだ?」
「ぶっちゃけ全部だな」
キリッとした顔で慧音は言ってのけた
数分後、私と慧音の目の前に様々な種類のドーナツが運び込まれてきた
「…見たこと無いな、こんなお菓子、説明してくれないか」
「おう、まず右端のこの真ん中に穴が開いたのが基本形のリングドーナツ、これを食べるのが一番落ち着くよね」
慧音は黄金色の輪っかを持ち上げ言った
「成る程」
「それでこのボールの様な物がサーターアンダギー、素朴な味わいが特徴だ」
慧音はこんがりと上がった球体を持ち上げた
「おぉこれはどっしり来るな~」
小柄な姿からは予想も付かないほど生地はしっかり詰まっていた
「小腹が減ったときに放り込むと良いな、そしてこのふんわりとした食感が特徴的なのがクルーラー、水分の多い生地をチューブから捻り出して揚げるから比較的難しい」
私は慧音が指し示した黄金色の塊を持ち上げ一口かじりついた
「ホントだ、こりゃ旨い、ふわふわしてる」
「そうだろ、それでこっちの丸っこいのがベルリーナー・プファンクーヘン、独逸の揚げ菓子、クラップフェンの一種でジャムドーナツの一種だ」
そう言って慧音はそれを二つに割って中身を見せた、言うとおりに中にはジャムが詰まっていた
「これは良いな~、ジャムの酸味が効いていくらでもいけそうだ」
「あぁ妹紅、気を付けろ中には…」
慧音が言い終わる前に私は口の中に違和感をおぼえた
「う…、なひこへ」
吐き出すのも行儀悪く思い口の中の物を飲み込み残った半分を見るとジャムではない黄色い何かが詰まっていた
「マスタード?」
「そうだ、ベルリーナーの中に他と外見は同じにして中にマスタードを入れるのも良くある悪戯だ」
「何で言ってくれなかったんだよ」
私は痺れた舌をお茶で濯いだ
「…なんか次も変な細工してそうで怖いな」
「そんなことは無いぞ、ほら他のも食べろ」
「うん」
その後も私は様々なドーナツを食べた、どれもこれも初めて食べる味であったが、どれも皆美味しかったのは言うまでもないことだった
その後私と慧音はドーナツを堪能した後会計を済ませのんびりと里を歩いていた
「…あー美味しかった、ありがとう慧音」
「いや礼には及ばないよ」
「でも本当に美味しかったよ、一体誰があんなものを考えついたんだろうな」
「…ドーナツの起源は阿蘭陀のオリーボルというお菓子だとされている」
「ふむ」
「さらに当時は生地の上に木の実が乗った祭典用のお菓子でな、生地のことをドゥ、木の実をナッツと呼んだことからドーナツの語源ともなっているらしい」
私は慧音が教えるドーナツの歴史に黙って耳を傾けた
「そしてさっき食べたリングドーナツの原型は船乗りのハンソン・グレゴリーと言う人が子供時代に食べたドーナツが生焼けだったことに腹を立て母親に真ん中に穴を開けてくれと頼んだことから広まったと言う説があるんだ」
それから一時間慧音は私にドーナツについて熱く語った
「…というわけで今日もドーナツが人気だというわけだ、分かったか?妹紅」
「…あぁ十分分かったよ」
疲れ切った私に慧音は箱を押しつけてきた
「…?なんだこれは」
「お土産?」
「あぁ、今夜、輝夜と会うんだろ?持っていってやれよ」
「…良いのか?ご馳走して貰って更にはお土産まで」
「構わないよ」
「そうか、お土産ありがとな」
そう言って私は慧音と別れ家路へと着いた
理由は簡単、昨日慧音に家の食料全てを食べ尽くされたからである
買い物をあらかた済ませ家路につこうとした時不意に後ろから声を掛けられた
振り返り私に声を掛けた人物を視認して顔から血の気が引くのが分かった
「…慧音?」
「よう」
今現在最も会いたくない人物第一位、昨日我が家の食料を食い尽くしてくれた上白沢慧音だった
「…慧音」
「…妹紅」
「この食料は渡さないぞ」
「そんなことするか、私は乞食じゃ無いんだ」
「昨日私の家の食べ物食べ尽くした奴が言う言葉かい?」
「忘れてくれたまえ」
「だが断る」
「…で今日は買い出しか?」
「そうだよ、食料は渡さないぞ」
「引っ張らないでくれよ、お詫びに最近出来たドーナツ屋に連れて行ってあげようと思うんだ」
「どうなつ?何だそりゃ」
「外の世界の揚げ菓子だ、山の上の巫女が作り方を持ち込んで流行ったそうだ」
「勿論おごりだよな?」
「当たり前だろ」
「それならご一緒しましょ」
私は慧音に手を引かれ里の中心部まで行った
歩いて十分ほど、私たちは落ち着いた雰囲気の店に到着した
「ここがそのどうなつ屋なのか」
「そうだ、全部手作りで出来たての味が楽しめて比較的安い、良い時代になった」
そう言って店に入る慧音に続いて私も入店しようとしたのだが…
「…待ってくれ慧音」
「どした?」
「どうすれば良いかな、リュック」
そう、背中のキスリングが邪魔で入れなかったのだ
「あー」
私が途方に暮れていると慧音は案を出した
「横ばいになって入ったらどうだ?」
「成る程」
横ばいになって入店を試みる私を見ていつの間にか慧音は写真を撮り始めていた
「…何で撮るんだ」
「いや、カニ族なんて今じゃどうやっても見かけないから写真に納めようかなと、私のコレクションに」
「カニ族って、一部の岳人にしか通じないネタ出すなよ」
そんなこんなで入店できた私は慧音と共に窓際の席に着いた
「…妹紅は何食べる」
「何食べるって言われてもなぁどんなのがあるんだ?」
「この店では大きく分けて三種類のドーナツを提供してくれるんだ、一つはケーキ生地のケーキドーナツ、もう一つはパン生地みたいなイーストドーナツ、そして最後はクルーラーと呼ばれるドーナツだ」
「ふーん、何がお勧め?」
「私個人から言わせて貰うとここのクルーラーは絶品だ、でもケーキドーナツも捨て難い、いやイーストドーナツもなぁ…」
顔を綻ばせ悩む慧音に空腹が限界まで来ている私は畳みかけた
「…で何が良いんだ?」
「ぶっちゃけ全部だな」
キリッとした顔で慧音は言ってのけた
数分後、私と慧音の目の前に様々な種類のドーナツが運び込まれてきた
「…見たこと無いな、こんなお菓子、説明してくれないか」
「おう、まず右端のこの真ん中に穴が開いたのが基本形のリングドーナツ、これを食べるのが一番落ち着くよね」
慧音は黄金色の輪っかを持ち上げ言った
「成る程」
「それでこのボールの様な物がサーターアンダギー、素朴な味わいが特徴だ」
慧音はこんがりと上がった球体を持ち上げた
「おぉこれはどっしり来るな~」
小柄な姿からは予想も付かないほど生地はしっかり詰まっていた
「小腹が減ったときに放り込むと良いな、そしてこのふんわりとした食感が特徴的なのがクルーラー、水分の多い生地をチューブから捻り出して揚げるから比較的難しい」
私は慧音が指し示した黄金色の塊を持ち上げ一口かじりついた
「ホントだ、こりゃ旨い、ふわふわしてる」
「そうだろ、それでこっちの丸っこいのがベルリーナー・プファンクーヘン、独逸の揚げ菓子、クラップフェンの一種でジャムドーナツの一種だ」
そう言って慧音はそれを二つに割って中身を見せた、言うとおりに中にはジャムが詰まっていた
「これは良いな~、ジャムの酸味が効いていくらでもいけそうだ」
「あぁ妹紅、気を付けろ中には…」
慧音が言い終わる前に私は口の中に違和感をおぼえた
「う…、なひこへ」
吐き出すのも行儀悪く思い口の中の物を飲み込み残った半分を見るとジャムではない黄色い何かが詰まっていた
「マスタード?」
「そうだ、ベルリーナーの中に他と外見は同じにして中にマスタードを入れるのも良くある悪戯だ」
「何で言ってくれなかったんだよ」
私は痺れた舌をお茶で濯いだ
「…なんか次も変な細工してそうで怖いな」
「そんなことは無いぞ、ほら他のも食べろ」
「うん」
その後も私は様々なドーナツを食べた、どれもこれも初めて食べる味であったが、どれも皆美味しかったのは言うまでもないことだった
その後私と慧音はドーナツを堪能した後会計を済ませのんびりと里を歩いていた
「…あー美味しかった、ありがとう慧音」
「いや礼には及ばないよ」
「でも本当に美味しかったよ、一体誰があんなものを考えついたんだろうな」
「…ドーナツの起源は阿蘭陀のオリーボルというお菓子だとされている」
「ふむ」
「さらに当時は生地の上に木の実が乗った祭典用のお菓子でな、生地のことをドゥ、木の実をナッツと呼んだことからドーナツの語源ともなっているらしい」
私は慧音が教えるドーナツの歴史に黙って耳を傾けた
「そしてさっき食べたリングドーナツの原型は船乗りのハンソン・グレゴリーと言う人が子供時代に食べたドーナツが生焼けだったことに腹を立て母親に真ん中に穴を開けてくれと頼んだことから広まったと言う説があるんだ」
それから一時間慧音は私にドーナツについて熱く語った
「…というわけで今日もドーナツが人気だというわけだ、分かったか?妹紅」
「…あぁ十分分かったよ」
疲れ切った私に慧音は箱を押しつけてきた
「…?なんだこれは」
「お土産?」
「あぁ、今夜、輝夜と会うんだろ?持っていってやれよ」
「…良いのか?ご馳走して貰って更にはお土産まで」
「構わないよ」
「そうか、お土産ありがとな」
そう言って私は慧音と別れ家路へと着いた
後書きも素晴らしかったです。
これは続くフラグと受け取っていいですね?
じゃなくて。ドーナツの歴史に驚きました。