仄暗い部屋に女性が両手を後ろ手に縛られ飾り気のない椅子に座らされ、老人に話しかけられていた
「…一体奴らは何処に行ったのか、詳しく話す気になりましたかね?慧音先生」
慧音と呼ばれた女性は静かに口を開いた
「何度聞かれても答えは同じだ、彼らの行き先は知らないし知っていても教えない」
老人は少しも落胆した様子は見せず淡々とした口調で言葉を発した
「…そうだろうな、私でもそうする、だが話してくれなくては困るのだよ」
そして数瞬黙り込み、言葉を繋げた
「ならば喋る気になって貰おうか」
そう言って懐から取り出したのは樹脂製の箱だった
「…それは?」
「聞く必要があるかね?分かるだろう聡明な貴方には」
「…止めろ、止めてくれ」
慧音は汗を浮かべて懇願した
「私だってこれを使いたくはないのだ、だが喋って貰わなくてはならない」
老人は蓋を開き中から筒状の物体を取りだした
「…死ぬことはないから安心してくれ、里の英雄を殺すつもりはない、ただ少し夢を見て貰おうか、疲れているようだからね」
そう言って老人は慧音の首筋に筒を押し当てた
「止めてくれ、止めろ、止めろ!」
「残念だがそれは無理な願いだ、おやすみ、先生」
老人はそう言って筒の端のボタンを押し、慧音は正常な意識を手放した
「…それでは、再開しようか、慧音先生」
老人は慧音の向かい側に座り直し、話しかけた
朝、里の長の家に一人の男が訪れていた
「…この四名で挑むつもりかね、霧雨君」
霧雨は顔色一つ変えずに言葉を発した
「その通りだ、長、人選は任せると言ったよな」
「大丈夫なのか?この四名は」
「任せろ、愚連隊時代の俺の仲間だ、上手くやる」
「…まぁ良いだろう、思う存分やりたまえ」
「家族の命がかかっている、当たり前だ」
静かに頷く長に霧雨は問いかけた
「一つ聞きたいんだが、何で奴らの居場所が分かったんだ?」
「それはだね、慧音先生がどうも風邪気味らしくて『風邪薬』を与えたら喜んで教えてくれたのだよ」
長の一言は霧雨の表情を無くすのに十分すぎるほどの衝撃をもたらした
「…何て事したんだ、てめぇは、この話がばれたらただじゃ済まされねぇぞ」
霧雨は喉の奥からかすれた声を捻り出した
「ばれないよ、万が一ばれても揉み消す」
「…本当に汚ぇ野郎だ、てめぇは」
霧雨は視線に侮蔑を込め踵を返し退室した
「…所詮奴も破落戸か、今回の戦いで共倒れになってくれればこちらとしては上々だ」
霧雨が完全に姿を消してから発した言葉がそれだった
「…もし倒れなくとも手はあるがな、ふふふ」
そう言って長は煙管から煙を吸い込みゆっくりと吐き出した
谷岡は湖の畔で銃を延々と磨き続ける盛岡に話しかけた
「…盛岡さん、暇ですね」
「暇は良いことだ~」
組み立てては分解して、分解しては組み立てて、そんな単純作業を続ける盛岡に谷岡はさらに続けた
「飽きないんですか?」
「…そろそろ飽きそう」
心地の良い金属音を響かせた小銃に盛岡は頷くと分解するのを止め構えを取った
「うん、こっちに来てこいつを改めて見直したよ…89式5.56mm小銃、使用弾薬は反動が少なく殺傷力は高い、最高の銃だよ谷岡」
谷岡からの返答が無くとも盛岡は続ける
「向こうにいたときは何て事はない鉄の塊に思えたんだがな、今では…」
「…今ではまるで神様のようだ、ですか?」
盛岡の言葉を谷岡が繋げた
「その通りだ、まさかこいつを人に向かって撃つかもしれないんだ、何が起こるか分からないものだ」
そう言って盛岡はただの鉄の塊から神様へと祭り上げられたそれを見つめた
「…本当にあの里の人達と戦うかもしれないんですか?」
「多分な、だが避けられるものなら避けたいね」
そう言って盛岡は銃を抱え立ち上がった
「何処行くんですか?」
「寝る」
「…よく寝ますね」
「寝る子は育つ!」
「子供って年齢じゃないですよね、盛岡さん」
「脳○レやったら脳年齢一四って出たからまだ子供だよ」
盛岡はそう言って迷彩色の天幕へ姿を消した
「…緊張感無いなぁ」
天幕へ入り込んだ盛岡を見送り、湖へ視線を戻した谷岡は水の音に耳を傾けていた
時同じくして深い眠りから慧音は目を覚ました
「…………」
横たわっている状態から何とかして起きあがり壁にもたれかかった
「…腹減ったな」
それが起き抜けの一言だった
そう言えば先程の尋問の記憶がない、思い出そうとすれば頭が割れるような痛みに襲われる
「…………」
里長の私兵に拘束されてどれくらい経ったろう、あの外界からやってきた者は無事だろうか
その時ドアが開き二人の男が入ってきた、片方は料理をのせた盆を持ちもう片方は腰に刀を差し小銃を担いでいる、どちらも覆面を被り顔が分からない
「上白沢先生、お食事です」
そんなことは分かっているがとにかくありがたかった
「…む、すまない」
両手は縛られた上に御札を貼り付けられているため引きちぎろうとすれば両手の平が焼け焦げるため、慧音が食事をする際には介助が必要だった
食事を終えた慧音は無駄だと分かりつつも質問をした
「…所であの自衛隊達はどうなった?」
いつもの如く拒否が返ってくるだろうと慧音は思ったが
「…今日先生の尋問の直後に特別隊が編成され出動しました」
男が提供したのは拒否ではなく情報、それも重要機密に属する部類だった
「特別隊?」
「…愚連隊が再編成されました」
男の発言は衝撃的だった
「愚連隊って、まさか…」
「そのまさかです、霧雨愚連隊が動きました」
男は食器を片づけながら淡々と話を進めた
「里長は本気です、何があるのかは分かりませんがね」
男は空になった食器を担ぐと小銃を携えた男と共に退室し、その部屋には慧音だけが残された
「ふわぁ~、よく寝た、おい村井」
午睡を貪っていた盛岡はそう言いながら天幕から這い出て村井の元へと歩み寄った
「どした盛岡」
「小銃に弾込めとけ」
「え?何もう一度言って」
「…分かって言ってるだろ」
そう言った盛岡の表情からただならぬものを感じた村井はそれ以上追求せず指示に従った
「さっきから腹の調子が悪いんだ、何か起こるかもしれない」
「お前の腹の虫は嫌な事を教えてくれるからな」
村井はそう言って天幕へ入り込んだ
「あぁ、腹が痛い」
そう言った直後、黒い何かが盛岡の後ろに降り立った
「初めまして、貴方達のお話を聞きたいのですが」
「…は?」
声を掛けてきたのは見た目十代の少女であった
盛岡は天幕の中でその少女の質問を受け続けていた
「…成る程、つまり貴方達は吹雪の中その女性と出会ってこちらに飛ばされた、そう言うわけですね?」
「あぁ、それも理由が『気まぐれ』だ、良い迷惑だよ」
少女の名は射命丸文、烏天狗の新聞記者である
「では次の質問です、今後こちらでどのような活動を行っていきたいですか?」
「こっちで活動する意思もないし意味もない、早く元の世界へ戻りたい」
盛岡がそう言った後、射命丸は数瞬黙り込みやがては満面の笑みを浮かべ話した
「任せて下さい、私の知り合いにそう言うのに詳しい方が居るんです」
「…本当か?」
盛岡はその言葉に希望を見いだした
「場所を教えます、お話を聞きに言ってみたらどうですか?」
「君は来てくれないのか?」
「行きたいのは山々ですが記者という者は中立でなくては」
「そうか、ありがとう、早速ヘリで行ってみる」
今度は文が盛岡の言葉に目を輝かせた
「ヘリってあの空飛ぶ籠ですか?」
「あぁ、村井に言って今すぐ飛ばす」
「待って下さい、私も行きます!」
「え?」
「あの機械に乗ってみたかったんです、乗らせて下さい」
文は盛岡の腕にしがみついて離れず目を輝かせていた
数分後、村井が操縦するブラックホークは空を飛んでいた、文を乗せて
「…『今話題の空飛ぶ籠!射命丸文が体を張って乗り込む!』これで一面大見出しに出来ますね」
盛岡の隣で文は機内を眺めはしゃいでいた
「…全く、軍用機に女の子を乗せるなんて前代未聞だよ盛岡」
「そう言うな村井、彼女は俺たちの協力者なんだ」
「そうかそうか、で私は可愛い子ちゃんの隣で鼻の下のばして遊覧飛行しているお前の運転手って訳か?」
「ははは、お前にゃ女房が居るだろ」
「…クソッタレ、帰りはお前が操縦しろ」
「墜ちても良いなら飛ばしてやるよ」
そう言って盛岡は窓から下を眺めている少女に問いかけた
「…珍しいか?」
「え?あ、はい、自分の力で飛ばないのは初めてですからね」
文は満面の笑みで盛岡の問いに答えた
「…そうだ、君が言っていた自警団の何とかって組織の事だが」
「愚連隊のことですか?」
「あぁそうだ、そいつについての詳しい話を聞かせてくれないか?」
文はバッグから古ぼけた手帳を取り出しそれを捲りながら説明を始めた
「霧雨愚連隊または単に愚連隊、正式名称は対外戦闘実行部隊第七班、里に近づき危害を加える妖怪を撃退するのが自警団の役割なら愚連隊は危害を加えようとしている妖怪を事前に殺す役割です」
文は手帳を捲りさらに続けた
「紅霧異変終結後、当時の里長であった平本門左衛門庄助の命令で発足されまして、初代総長は里の大手道具屋、霧雨道具店の店長、霧雨さんです」
「こっちで言う特殊作戦群みたいなものか…」
「そうですね、基本的に少数精鋭、任務内容は対象の本拠地に潜伏して暗殺や破壊活動を行い、四人組の分隊で十倍以上の妖怪を相手にして勝利した隊も存在します」
「…凄ぇな」
「えぇしかし永夜異変終結後の第百二十季、現在の一代前の里長、佐薙傘左右衛門丈成の解散命令で愚連隊は解体されたわけです」
「で、今回その愚連隊とやらが復活した訳か」
文は手帳を閉じバッグに仕舞い込むと静かに言った
「…地の利は完全にあちら側にあります、苦しい戦いになりますよ」
「戦うと決まった訳じゃない、明日には帰れるかもしれないんだ」
「そうでしたね」
文は静かに微笑んで外を眺めた
その頃、時を同じくして博麗神社の巫女、博麗霊夢は縁側で先日から幻想郷上空で鳴り響いている騒音の元浅い眠りにつこうとしたのだが…
「…呑気にお昼寝ですか、良いご身分ですね」
やや棘のある言葉に霊夢は叩き起こされた
「文じゃない、どうしたの?異変?」
霊夢は目を擦りながら文に問うた
「…違いますよ、ただ貴方に会いたいって人がいまして」
「参拝客?」
「…の様な人です、着いてきて下さい」
「はぁ?」
文に手を引かれ霊夢は境内へと出て行った
霊夢が境内で見た物は得体の知れない機械と奇怪な格好をした男だった
「彼らは陸上自衛隊、先日紫さんのせいでこっちに飛ばされたそうです」
「…で私にどうしろと」
「あの二人を帰すことは出来ませんか?」
文の簡潔極まりない一言を聞いて少し考え込む様子を見せる霊夢
「出来ないことはないけど…」
「けど…?」
「難しいわ、あんたの話を聞く限りあの二人だけじゃないんでしょ?それにあの大きな機械、少し難しいわ」
苦い顔をしている霊夢に盛岡は問いかけた
「ってことは俺たちは帰れないのか?」
「難しいってだけよ、でも今すぐは無理、少し時間をくれないかしら」
「…分かった、頼む」
そう言って盛岡は村井が待っているヘリへと歩いていき、境内には文が残された
「…やるだけやるわ、文」
「霊夢さん、お願いします」
文はそう言い残すと山へと帰っていった
博麗神社から飛び立ち三十分頃、幕営地から盛岡の無線機に連絡が入った
『…こちら幕営地の谷岡、盛岡さん、応答して下さい』
「どうした、谷岡」
『敵襲です』
谷岡の言葉は非常事態にもかかわらず落ち着いていた
「敵襲?」
『はい、敵数はおおよそ四、損害は死亡零、負傷二です』
「落ち着け、敵の装備はせいぜい弓か槍だろう、近づけずに足を撃て、殺すなよ」
『みんな落ち着いてますよ、怪我した奴は例外ですけど』
「流石俺の部下だ、すぐ帰る」
『早くして下さいよ』
そう言って谷岡は連絡を切った
「どうした?」
「敵襲だそうだ、村井、速度上げろ」
「今やってる」
盛岡と村井を乗せたブラックホークが幕営地へ到着した頃には既に戦闘は終了していた
敵数は谷岡の報告通り四人であった
「…谷岡、報告」
ヘリから降り立った盛岡は繋がれている捕虜に目を向けつつ言った
「人的損害は先程お伝えしたように負傷二、物的損害はありません」
「良くやった」
言いつつ盛岡は煙草を取り出し火を付ける
「装備は刀や弓です、近づかなければ怖くはありません」
「で、相手に死者は?」
「出ていません、不殺は全隊員に徹底させてます」
「完璧だな」
そう言って煙をゆっくりと吐き出す盛岡は敵の顔に不吉な物を感じた
怪我を負い使命を果たせなかったのに顔には笑みを浮かべていた
「…谷岡、今夜は警備の数を増やす、それを伝えといてくれ」
「え?」
そう言って盛岡は小銃を担ぎ天幕へと引っ込んでいった
「…一体奴らは何処に行ったのか、詳しく話す気になりましたかね?慧音先生」
慧音と呼ばれた女性は静かに口を開いた
「何度聞かれても答えは同じだ、彼らの行き先は知らないし知っていても教えない」
老人は少しも落胆した様子は見せず淡々とした口調で言葉を発した
「…そうだろうな、私でもそうする、だが話してくれなくては困るのだよ」
そして数瞬黙り込み、言葉を繋げた
「ならば喋る気になって貰おうか」
そう言って懐から取り出したのは樹脂製の箱だった
「…それは?」
「聞く必要があるかね?分かるだろう聡明な貴方には」
「…止めろ、止めてくれ」
慧音は汗を浮かべて懇願した
「私だってこれを使いたくはないのだ、だが喋って貰わなくてはならない」
老人は蓋を開き中から筒状の物体を取りだした
「…死ぬことはないから安心してくれ、里の英雄を殺すつもりはない、ただ少し夢を見て貰おうか、疲れているようだからね」
そう言って老人は慧音の首筋に筒を押し当てた
「止めてくれ、止めろ、止めろ!」
「残念だがそれは無理な願いだ、おやすみ、先生」
老人はそう言って筒の端のボタンを押し、慧音は正常な意識を手放した
「…それでは、再開しようか、慧音先生」
老人は慧音の向かい側に座り直し、話しかけた
朝、里の長の家に一人の男が訪れていた
「…この四名で挑むつもりかね、霧雨君」
霧雨は顔色一つ変えずに言葉を発した
「その通りだ、長、人選は任せると言ったよな」
「大丈夫なのか?この四名は」
「任せろ、愚連隊時代の俺の仲間だ、上手くやる」
「…まぁ良いだろう、思う存分やりたまえ」
「家族の命がかかっている、当たり前だ」
静かに頷く長に霧雨は問いかけた
「一つ聞きたいんだが、何で奴らの居場所が分かったんだ?」
「それはだね、慧音先生がどうも風邪気味らしくて『風邪薬』を与えたら喜んで教えてくれたのだよ」
長の一言は霧雨の表情を無くすのに十分すぎるほどの衝撃をもたらした
「…何て事したんだ、てめぇは、この話がばれたらただじゃ済まされねぇぞ」
霧雨は喉の奥からかすれた声を捻り出した
「ばれないよ、万が一ばれても揉み消す」
「…本当に汚ぇ野郎だ、てめぇは」
霧雨は視線に侮蔑を込め踵を返し退室した
「…所詮奴も破落戸か、今回の戦いで共倒れになってくれればこちらとしては上々だ」
霧雨が完全に姿を消してから発した言葉がそれだった
「…もし倒れなくとも手はあるがな、ふふふ」
そう言って長は煙管から煙を吸い込みゆっくりと吐き出した
谷岡は湖の畔で銃を延々と磨き続ける盛岡に話しかけた
「…盛岡さん、暇ですね」
「暇は良いことだ~」
組み立てては分解して、分解しては組み立てて、そんな単純作業を続ける盛岡に谷岡はさらに続けた
「飽きないんですか?」
「…そろそろ飽きそう」
心地の良い金属音を響かせた小銃に盛岡は頷くと分解するのを止め構えを取った
「うん、こっちに来てこいつを改めて見直したよ…89式5.56mm小銃、使用弾薬は反動が少なく殺傷力は高い、最高の銃だよ谷岡」
谷岡からの返答が無くとも盛岡は続ける
「向こうにいたときは何て事はない鉄の塊に思えたんだがな、今では…」
「…今ではまるで神様のようだ、ですか?」
盛岡の言葉を谷岡が繋げた
「その通りだ、まさかこいつを人に向かって撃つかもしれないんだ、何が起こるか分からないものだ」
そう言って盛岡はただの鉄の塊から神様へと祭り上げられたそれを見つめた
「…本当にあの里の人達と戦うかもしれないんですか?」
「多分な、だが避けられるものなら避けたいね」
そう言って盛岡は銃を抱え立ち上がった
「何処行くんですか?」
「寝る」
「…よく寝ますね」
「寝る子は育つ!」
「子供って年齢じゃないですよね、盛岡さん」
「脳○レやったら脳年齢一四って出たからまだ子供だよ」
盛岡はそう言って迷彩色の天幕へ姿を消した
「…緊張感無いなぁ」
天幕へ入り込んだ盛岡を見送り、湖へ視線を戻した谷岡は水の音に耳を傾けていた
時同じくして深い眠りから慧音は目を覚ました
「…………」
横たわっている状態から何とかして起きあがり壁にもたれかかった
「…腹減ったな」
それが起き抜けの一言だった
そう言えば先程の尋問の記憶がない、思い出そうとすれば頭が割れるような痛みに襲われる
「…………」
里長の私兵に拘束されてどれくらい経ったろう、あの外界からやってきた者は無事だろうか
その時ドアが開き二人の男が入ってきた、片方は料理をのせた盆を持ちもう片方は腰に刀を差し小銃を担いでいる、どちらも覆面を被り顔が分からない
「上白沢先生、お食事です」
そんなことは分かっているがとにかくありがたかった
「…む、すまない」
両手は縛られた上に御札を貼り付けられているため引きちぎろうとすれば両手の平が焼け焦げるため、慧音が食事をする際には介助が必要だった
食事を終えた慧音は無駄だと分かりつつも質問をした
「…所であの自衛隊達はどうなった?」
いつもの如く拒否が返ってくるだろうと慧音は思ったが
「…今日先生の尋問の直後に特別隊が編成され出動しました」
男が提供したのは拒否ではなく情報、それも重要機密に属する部類だった
「特別隊?」
「…愚連隊が再編成されました」
男の発言は衝撃的だった
「愚連隊って、まさか…」
「そのまさかです、霧雨愚連隊が動きました」
男は食器を片づけながら淡々と話を進めた
「里長は本気です、何があるのかは分かりませんがね」
男は空になった食器を担ぐと小銃を携えた男と共に退室し、その部屋には慧音だけが残された
「ふわぁ~、よく寝た、おい村井」
午睡を貪っていた盛岡はそう言いながら天幕から這い出て村井の元へと歩み寄った
「どした盛岡」
「小銃に弾込めとけ」
「え?何もう一度言って」
「…分かって言ってるだろ」
そう言った盛岡の表情からただならぬものを感じた村井はそれ以上追求せず指示に従った
「さっきから腹の調子が悪いんだ、何か起こるかもしれない」
「お前の腹の虫は嫌な事を教えてくれるからな」
村井はそう言って天幕へ入り込んだ
「あぁ、腹が痛い」
そう言った直後、黒い何かが盛岡の後ろに降り立った
「初めまして、貴方達のお話を聞きたいのですが」
「…は?」
声を掛けてきたのは見た目十代の少女であった
盛岡は天幕の中でその少女の質問を受け続けていた
「…成る程、つまり貴方達は吹雪の中その女性と出会ってこちらに飛ばされた、そう言うわけですね?」
「あぁ、それも理由が『気まぐれ』だ、良い迷惑だよ」
少女の名は射命丸文、烏天狗の新聞記者である
「では次の質問です、今後こちらでどのような活動を行っていきたいですか?」
「こっちで活動する意思もないし意味もない、早く元の世界へ戻りたい」
盛岡がそう言った後、射命丸は数瞬黙り込みやがては満面の笑みを浮かべ話した
「任せて下さい、私の知り合いにそう言うのに詳しい方が居るんです」
「…本当か?」
盛岡はその言葉に希望を見いだした
「場所を教えます、お話を聞きに言ってみたらどうですか?」
「君は来てくれないのか?」
「行きたいのは山々ですが記者という者は中立でなくては」
「そうか、ありがとう、早速ヘリで行ってみる」
今度は文が盛岡の言葉に目を輝かせた
「ヘリってあの空飛ぶ籠ですか?」
「あぁ、村井に言って今すぐ飛ばす」
「待って下さい、私も行きます!」
「え?」
「あの機械に乗ってみたかったんです、乗らせて下さい」
文は盛岡の腕にしがみついて離れず目を輝かせていた
数分後、村井が操縦するブラックホークは空を飛んでいた、文を乗せて
「…『今話題の空飛ぶ籠!射命丸文が体を張って乗り込む!』これで一面大見出しに出来ますね」
盛岡の隣で文は機内を眺めはしゃいでいた
「…全く、軍用機に女の子を乗せるなんて前代未聞だよ盛岡」
「そう言うな村井、彼女は俺たちの協力者なんだ」
「そうかそうか、で私は可愛い子ちゃんの隣で鼻の下のばして遊覧飛行しているお前の運転手って訳か?」
「ははは、お前にゃ女房が居るだろ」
「…クソッタレ、帰りはお前が操縦しろ」
「墜ちても良いなら飛ばしてやるよ」
そう言って盛岡は窓から下を眺めている少女に問いかけた
「…珍しいか?」
「え?あ、はい、自分の力で飛ばないのは初めてですからね」
文は満面の笑みで盛岡の問いに答えた
「…そうだ、君が言っていた自警団の何とかって組織の事だが」
「愚連隊のことですか?」
「あぁそうだ、そいつについての詳しい話を聞かせてくれないか?」
文はバッグから古ぼけた手帳を取り出しそれを捲りながら説明を始めた
「霧雨愚連隊または単に愚連隊、正式名称は対外戦闘実行部隊第七班、里に近づき危害を加える妖怪を撃退するのが自警団の役割なら愚連隊は危害を加えようとしている妖怪を事前に殺す役割です」
文は手帳を捲りさらに続けた
「紅霧異変終結後、当時の里長であった平本門左衛門庄助の命令で発足されまして、初代総長は里の大手道具屋、霧雨道具店の店長、霧雨さんです」
「こっちで言う特殊作戦群みたいなものか…」
「そうですね、基本的に少数精鋭、任務内容は対象の本拠地に潜伏して暗殺や破壊活動を行い、四人組の分隊で十倍以上の妖怪を相手にして勝利した隊も存在します」
「…凄ぇな」
「えぇしかし永夜異変終結後の第百二十季、現在の一代前の里長、佐薙傘左右衛門丈成の解散命令で愚連隊は解体されたわけです」
「で、今回その愚連隊とやらが復活した訳か」
文は手帳を閉じバッグに仕舞い込むと静かに言った
「…地の利は完全にあちら側にあります、苦しい戦いになりますよ」
「戦うと決まった訳じゃない、明日には帰れるかもしれないんだ」
「そうでしたね」
文は静かに微笑んで外を眺めた
その頃、時を同じくして博麗神社の巫女、博麗霊夢は縁側で先日から幻想郷上空で鳴り響いている騒音の元浅い眠りにつこうとしたのだが…
「…呑気にお昼寝ですか、良いご身分ですね」
やや棘のある言葉に霊夢は叩き起こされた
「文じゃない、どうしたの?異変?」
霊夢は目を擦りながら文に問うた
「…違いますよ、ただ貴方に会いたいって人がいまして」
「参拝客?」
「…の様な人です、着いてきて下さい」
「はぁ?」
文に手を引かれ霊夢は境内へと出て行った
霊夢が境内で見た物は得体の知れない機械と奇怪な格好をした男だった
「彼らは陸上自衛隊、先日紫さんのせいでこっちに飛ばされたそうです」
「…で私にどうしろと」
「あの二人を帰すことは出来ませんか?」
文の簡潔極まりない一言を聞いて少し考え込む様子を見せる霊夢
「出来ないことはないけど…」
「けど…?」
「難しいわ、あんたの話を聞く限りあの二人だけじゃないんでしょ?それにあの大きな機械、少し難しいわ」
苦い顔をしている霊夢に盛岡は問いかけた
「ってことは俺たちは帰れないのか?」
「難しいってだけよ、でも今すぐは無理、少し時間をくれないかしら」
「…分かった、頼む」
そう言って盛岡は村井が待っているヘリへと歩いていき、境内には文が残された
「…やるだけやるわ、文」
「霊夢さん、お願いします」
文はそう言い残すと山へと帰っていった
博麗神社から飛び立ち三十分頃、幕営地から盛岡の無線機に連絡が入った
『…こちら幕営地の谷岡、盛岡さん、応答して下さい』
「どうした、谷岡」
『敵襲です』
谷岡の言葉は非常事態にもかかわらず落ち着いていた
「敵襲?」
『はい、敵数はおおよそ四、損害は死亡零、負傷二です』
「落ち着け、敵の装備はせいぜい弓か槍だろう、近づけずに足を撃て、殺すなよ」
『みんな落ち着いてますよ、怪我した奴は例外ですけど』
「流石俺の部下だ、すぐ帰る」
『早くして下さいよ』
そう言って谷岡は連絡を切った
「どうした?」
「敵襲だそうだ、村井、速度上げろ」
「今やってる」
盛岡と村井を乗せたブラックホークが幕営地へ到着した頃には既に戦闘は終了していた
敵数は谷岡の報告通り四人であった
「…谷岡、報告」
ヘリから降り立った盛岡は繋がれている捕虜に目を向けつつ言った
「人的損害は先程お伝えしたように負傷二、物的損害はありません」
「良くやった」
言いつつ盛岡は煙草を取り出し火を付ける
「装備は刀や弓です、近づかなければ怖くはありません」
「で、相手に死者は?」
「出ていません、不殺は全隊員に徹底させてます」
「完璧だな」
そう言って煙をゆっくりと吐き出す盛岡は敵の顔に不吉な物を感じた
怪我を負い使命を果たせなかったのに顔には笑みを浮かべていた
「…谷岡、今夜は警備の数を増やす、それを伝えといてくれ」
「え?」
そう言って盛岡は小銃を担ぎ天幕へと引っ込んでいった
おもしろければ(ry
東方の設定云々言い出されると、また原作厨が出たのかとうんざりしそうになるので、できれば作者に配慮してないような発言の中でその語群出すのはやめていただきたい次第。
ぶっちゃけ面白ければ細かい設定なんぞ気にならないし、そうじゃないなら読むのやめれば?
ソレが一番穏やかにすむ方法だと思うが。
私としては、この話は面白いのでまったく問題なし。むしろもっとやれ
続き頑張って下さい!
確かに、銃なんて手軽かつ凄い威力ですもんねw