Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ちくりんの王

2010/09/23 11:20:16
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 竹林には、入ってはいけない。目指してはいけない。
 迷うから?違う違う。そんなのは、迷信みたいなものだ。
 じゃぁ何故かって?
 それはね。
 怪物に襲われてしまうから、だ。
 竹林の奥に潜む魔性の魔物に、食べられたくないのならば、あの竹林には近づかない方がいい。

 


 
「うさー」
「うさうさー
「うさ?」
「……うさ」

 迷いの竹林とも呼ばれる、幻想郷にある広大な竹林。
 そこに宇宙人らしき、人間らしき。そんな曖昧な者がいつのまにか住み着いた。
 どうやら、月から来たらしいそいつらは何と、私との因縁には事困らない奴らだった。
 特にあの絶世の美女とも呼ばれた、あいつ。
 あれの周りには、その魔性の魅力で男女問わずの求婚者の声が絶えなかったと記憶している。
 なんで、あんなの。
 私から見れば、胸もぺったんこで顔つきもどことなく童顔だし、女性としての身体的優位さはそこまで無いと思うんだけど。
 まぁ、確かに、可愛いのは認めるが。これも仕方なくだ。そう。
 というかあれかな、昔の人はそういうアレな人が多かったんだろうか。別に知りたくはないが。

「うさー」
「うっうさ!」
「うさっ」

 竹林の中の獣道をとことこ歩いている私の周りから、さっきから小動物の声がする。
 辺りを見渡せば、そこらかしこで跳ねているウサギ達。
 多分こいつらはあいつの屋敷のウサギだろう。
 下っ端……と言ってもいいのだろうか。
 なにやらあの屋敷の雑用を任されているイメージがあるのだけど、どうなのかな。

「うさうさうさ」
「うさぁ」

 しかし元気がある。元気があるのは良い事だ。
 見ているこっちも、元気が出てくる。
 などと思いつつ歩いていれば、獣道から急に開けた場所に出る。
 明らかに人の手が入った敷地の中心には、私が大昔に住んでいた様な造りの屋敷が見えてくる。
 荘厳でいて優雅。あいつにはもったいないよ。

 そう、私はその屋敷を目指してわざわざ歩いて来た。
 何故なら今日は満月。あいつと私の毎月の決戦の日なんだから。
 殺し合い?
 そんなの名前だけだよ。実際に殺しあうなんて野蛮だし、不毛さ。何も生み出さないし。
 なら、何をしているかだって?
 そりゃ、あれさ。
 勝負事をやって決着をつけるのさ。おもしろいだろう?それに、知的だ。知的だったら。下らなく無いっ。
 最近だと原点回帰で将棋をやっていたかな。悔しいが、あいつにはまだ勝てたことが無い。
 あの医者が奴の将棋の先生だってんだから、強いのも頷ける。
 今日こそは、絶対勝ってやるからな。
 さぁ意気込みは充分。屋敷の戸を叩く。

「おーい来てやったぞー輝夜ーっ」
「今開けますー。うさ」

 戸の向こうから声が聞こえた。
 数瞬後、ガラガラと戸が開けられる。
 中から現れたのは、ウサギ耳の生えた女の子。
 こいつらは屋敷の掃除をしてたり、あいつの世話をしたり、かと思えば調理係だったりと、とにかく屋敷の事はなんでもこなしているらしい。
 それを証明するかの様に、屋敷のどこにいても姿を見かける。全体で何人いるんだろうか。
 もしかしたらば家事全般を全てやってくれるかもしれない。
 今度隙を見て二、三人、ちょろまかしてみようかな。
 便利な家政婦になるかも。     
                
「輝夜様がお部屋でお待ちになっておられます、どうぞお入りください。うさ。」
「ん、ありがと」
「うさー」

 丁寧で良い子だな、うん。
 しかしあの語尾はなんなのだろう。どう見ても後付けだったよね……
 喋った後は必ず付けないといけない決まりなのだろうか。
 それとも、アイデンティテーの問題なのだろうか。確かに個性は大事だけど、その方向性は間違っていると思う。
 と私が真剣に、さっきの子ウサギに更生の道を送らせてやろうかどうか考えている所、不意に声が聞こえた。
 
「あら、姫様に会いに来たの?」
「おや、月兎じゃないか」

 私の目の前には相も変わらず、耳をしなしなさせたウドンゲがいた。
 来ている服は、もう夜だからだろうか、白木綿の寝間着姿である。
 その片手にはさも通常装備だよ、と言わんばかりに、もふもふの枕を。
 こんなお決まりの格好を素で出来る奴がいたとは。流石は月兎、需要と供給の重要性を理解していると見える。

「こんな場所でどうした、ウドンゲ。夜中に怖い夢でも見て、師匠の布団にでも潜り込もうとしたか?」
「そんなわけ無いでしょっ!何考えてるのっ。それに私の名前は優曇華院。ウドンゲじゃないわっ」

 そんなに怒らなくてもいいじゃないか。軽いスキンシップのつもりだったんだけどな。
 まったく生真面目な奴め。
 そんな頑固だから、あの悪戯兎にいじくられるのさ。もっと肩の力を抜けばいいのになぁ。

「悪い悪い、つい、ね。それで?結局どうしたんだ?」
「どうもこうも、お手洗いに行って部屋に戻ったら私の布団が綺麗さっぱり消えてたのよ」

なんだそれ。新手のドッキリか。

「あぁ、あいつの仕業か」
「多分ね。まったくてゐったら。つい先日も悪戯の度が過ぎて、お師匠様にお仕置きされたばっかりなのに」
「まぁ、それがあいつなりのアイデンティティーなんだろう。大目に見てあげなよ」
「アイデンティティーって?」
「何でも無い、こっちの話。そういえば、永琳はまだ起きてるのか?」

 あいつにも面倒を掛けてるからな。起きてるなら顔を一応見せておこう、と思って確認を取って見る。

「お師匠様?まだ起きてると思うけど」
「そっか、助かったよ」                        
「別に礼を言われる様なことでも無いけど、ね。それよりもてゐを見つけたら、とっちめておいてくれた方が助かるわ」
「まぁ、なるべく、な」

 言って、ウドンゲとはそこで別れる。
 というか、用を足しにいくのに枕を持って行ってるのか、ウドンゲよ。
 それもアイデンティティー、なのかな。私には到底真似出来そうにないが。
 背中に、まだウドンゲのぷりぷりした怒気を感じながら、永遠亭の広い廊下を歩く。
 永琳の部屋は、確かこっちの方だったか。

「お、あったあった。あそこだ」

 永遠とも思われる廊下に面した一室。
 その部屋の襖の隙間から、灯りが漏れていた。

「おーい、えーりん。今日も来てやったぞー」

 そんな事を言ってのけながら、私はそっと襖を開ける。
 瞬間、部屋の中に篭っていたのであろう薬品らしき臭いが鼻を衝く。この手の臭いは苦手だ。
 多分私の前世は医者の手違いで死んだとか、そんなんだからに違いない。
 開けた隙間に体を滑り込ませ、そっと部屋の様子を窺う。

「あれ、妹紅ウサ」
「あっ、お前。こんなとこにいたのか。ウドンゲが探し回ってたぞ」

 中を見渡せば、そこに部屋の主の姿は無く、いたのは小柄な体躯の悪戯兎だった。
 ははぁ、ほとぼりが冷めるまでここで待っている魂胆か。
 ウドンゲも永琳の許可を取らずに部屋には入らないだろう。
 まったく、狡賢い奴め。このあたりは抜け目の無い事で。

「あぁ、今日は満月か。また姫様とデート?」
「デ、デートなもんか!神聖な決闘の日だよ。そんなチャラチャラしたもんじゃ無いさっ」
「……知らぬは本人ばかりなり、ウサ」
「え?」
「なんでもないよ。なんでも。」

 なんだろう、凄く気になる事を呟かれた気がするが。
 深く追求すると危ないと私の本能が警鐘をガンガン鳴らしている。

「ま、いいか。それより、あまりウドンゲを怒らせるなよ。若くしてストレスで禿るぞ」
「鈴仙にはあれくらいが丁度いい発散になるの。私なりに気遣ってあげてるんだってば」
「本人が聞いたら泣くぞ」

 ウドンゲも苦労人だな。まぁ、頑張れ。
 密やかにウドンゲを励ましていると廊下から足音が聞こえる。
 お、帰ってきたかな。
 私の予想はどうやら当たったらしく、既に開いていた襖からこの部屋の主が顔を覗かせた。

「あら、あなた達。二人仲良く密談かしら」
「まぁ、そんなとこです永琳様」

 おいおい、さっきとは随分と態度が違うな。これが猫かぶりって奴か。
 ウサギのくせに猫をかぶるとは、器用な。

「そうそう妹紅、姫様があなたの事を待ちわびていたわよ。早く行ってあげなさいな」
「そうだろうそうだろう、なにせ一カ月ぶりの決闘だからな。輝夜の気持ちも判らんでもないさ、うん」
「……」
「……」

 えっ、なんでそこで黙るんだ、二人とも。
 ちょっとその残念な人を見るような目をやめろっ。私は何もしてないぞ。

「姫様も大変ね。こんなののどこがいいのか……」
「本当ですね。私なら不燃ゴミと一緒に捨てます……ウサ。」

 おい、こんなのって何だ。このヤブ医者っ。
 そこのウサギも何、不死人だけに、上手い事言った。みたいな顔してんだよ。上手くねーよ全然。

「お、おまえら後でひどいからなっ、覚えておけよーっ」

 捨て台詞を吐きながら永琳の部屋を後にする。
 駄目だ、あいつ等には一生掛かっても口喧嘩で勝てる気がしない。

 くそぅ、勝てない勝負より、今は輝夜との決闘が先だ。
 目指すは輝夜の部屋だ、それゆけ私っ!

 ドタドタドタッ
 ガラッ!

「輝夜っ、勝負だ!」
「あ、あら妹紅、また負け戦をやりにきたのかしら」

 部屋に入るなり輝夜の奴がお出迎えだ。
 今日こそはお前に勝ってやるっ。
 ん?なんでこいつ顔が赤いんだ?
 ……
 さては、意気込み充分と見える。そこまで張り切られちゃ、こっちとしても負けるわけにはいかないな。

「やい輝夜、早速勝負といこうじゃないか」
「望む所よ。でも、毎回こうも単調だとつまらないわ」
「……どういうことだ?」

 何だ?何が言いたい。毎回私の勝ちでつまらないのよこの田舎っぺが!とでもいいたそうじゃないか。
 だがそんな事を思えるのも今日までだぞ、くっくっくっ。

「制限を設けましょう。そうね、例えば、負けた方が次の満月まで相手の言いなりになる、とか」
「お、おもしろいじゃないか。いいだろう、受けて立つよ」
「そうこなきゃね。さぁ妹紅からよ」

 口ではあぁ言ったけれど、私が輝夜に勝てる確率は大目に見積もっても二割あるかないか。
 やっぱり、無かった事に……いや、ここで引けば一生恥をさらして生きて行く事になる。

 何、心配せずとも私が勝てばいいのだ。勝てばっ。
 頑張れ私、二割の壁を越えて見せるんだ!




「王手」
「くっ……私の負け、よ……妹紅」

 あれっ。すごくあっさりと勝ってしまった。
 え、いいのこれで?さっきの私の緊張感よ、一体どこにいったんだ。
 まるで輝夜が私のいいなりになりたいためにわざと負けたみたいにすら思えてくる。
 絶対そんな事は無いだろうけど。

 ま、まぁ勝ちは勝ちだ。やった、遂にあの輝夜から白星をもぎ取ってやったぞ。
 見ろ、輝夜の顔を。私なんかに負けたせいでふっくらしたほっぺたが羞恥で真っ赤っかじゃないか。
 あぁ、勝利とはなんと爽快なものか。

「あぁ、そういえば、次の満月まで、私は妹紅の、い、言いなりにならないといけないわね」
「そういえばそんな約束をしていたな」

 当の輝夜はといえば、勝負の疲労感で眠たいのか隣に敷いてある布団を横目でチラチラ見ている。
 残念だったな輝夜よ。私に勝って良い気分で寝ようと布団の準備をしていたらしいが、今日勝ったのは輝夜、お前ではなくこの私だ。
 その布団で悪夢に苛まれながら明日の朝を迎えるがいい。
 
 ん?よく見れば枕が二つあるじゃないか。
 なんだかんだ言っても、やはり輝夜も緊張していたらしい。枕の数を間違えるなんてその証拠さ。

「で、ど、どうするの?」

 輝夜がそっと聞いてくる。視線は今だ布団の方を向いているが。
 負けたのが余程ショックだったのだろうか。服も若干着崩れて胸元が少し見えている。
 まるで私を誘っているかのようだ。こういう無意識な所でも色気をを醸し出すとは。
 流石、魔性の女と呼ばれるだけはある。

「そんなの、決まってるじゃないか」
「な、なにかしら?」

 輝夜の声が震えている。
 まだ敗北のショックからは逃れられないか、無理もない。

「次の満月まで輝夜、お前は……」
「……ごくり」
「私と、友達でいてくれ」
「……えっ?」
「私は別に約束なんてどうでもよかったんだ。友達を自分の言いなりにするなんて、よくないだろう?」

 そう、私の約束は決まっていた。
 輝夜を言いなりになんて、可哀そうじゃないか。私がそんな酷い事輝夜にするもんか。
 あいつとは友達なんだ。次の満月の時まで。その次の満月も。ずっとずっと友達でいたいからさっ。

「じゃぁ、そういう事で、今回は私の勝ちだな。残念だったな輝夜よ。次の満月まで精々練習を重ねていることだなっ!」
「ちょっと、妹紅!」
 
 そう言って颯爽と部屋を飛び出す。後ろで何か輝夜が喋った気もしたが空耳だろう。
 負けた相手を励まして去る私。あぁ、なんて格好いいんだろう。これぞ勝者だよね。
 さぁ次の決闘は何で勝負してやろうか。
 楽しみで仕方無い。あぁ、早く満月の日がこないかな。

 去り際に振りかえれば永遠亭の灯りが見えた。
 こういう日々も、悪くは無い。
 そうして私は自分の小屋を目指して駆けてゆくのだった。





「も、も、妹紅のばかぁーーーーーーーーっっ!!」
 
 どこかで誰かの声が響いた、満月の夜。

























 ~里の伝承より~

 竹林に入ってはいけない。
 女子供は気をつけろ。
 油断すると、竹林の怪物に襲われてしまうから。
 竹林の奥に潜む魔性の魔物に。
 火の鳥の魔物に心を奪われてしまうから……ね。

 
竹林の生態系
獣兎>人兎>優曇華>てゐ>永琳>輝夜>妹紅←New
羊飼い
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なんというニブチンの主人公体質もこたんwww
2.名前が無い程度の能力削除
輝夜>妹紅>俺←追加でお願いします
3.名前が無い程度の能力削除
これは良いもこてる
4.名前が無い程度の能力削除
朴念仁めが!
ニヤニヤさせおって!
5.名前が無い程度の能力削除
い、妹紅ェ……
6.奇声を発する程度の能力削除
妹紅www
7.名前が無い程度の能力削除
姫様どんまいw
8.名前が無い程度の能力削除
電車なのに、ニヤニヤが止まらなくなったじゃないかwww
9.けやっきー削除
妹紅、なんていいキャラしてるんだww
いいなぁ、うん、いい!
10.名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤが止まんねえ!
11.名前が無い程度の能力削除
なんという月下の棋士。
もこたんのZUN帽が野球帽に決定しました。
12.名前が無い程度の能力削除
素晴らしいフラグクラッシャー妹紅ww
思わずニヤニヤしちゃいました。こんなの相手だと輝夜も苦労するなあ!