零
今日も今日とて幻想郷。いつものように博麗神社では魑魅魍魎入り乱れての宴会が行われていた。そして、今日の宴会の趣旨は―――。
『愛されるということ』
壱
「本当に失礼しちゃうわ。私はまだ十七歳だっていうのに。」
今日の宴会の主役でもある八雲紫は、怒っていた。そりゃもう怒っていた。後で食べようとして冷蔵庫に残して置いたプリンを食べられてしまった時位に怒っていた。
「まぁ、紫。そんなに怒らなくてもいいじゃない。」
そんな紫をお酌しながら宥めているのは、長年の友人兼恋人でもある西行寺幽々子である。二人がいつどこでそういう関係になったのは後で語るとして、紫とは反対に幽々子は楽しそうである。
「今日は、外の世界では『敬老の日』というお年寄りに感謝する日なんでしょう?素晴らしいじゃない。」
うふふと上品に笑う幽々子。
「はぁ……ねぇ、幽々子。貴女は悲しくないの?悔しくないの?」
「あら、どうして?」
可愛らしく首を傾げる幽々子。だが、その顔は全てお見通し書いてある。紫は何だかそれが悔しく、手に持っていた杯を一気に飲み干す。
「今日ばかりは、幽々子の方が一枚上手ね。」
唇を尖らせ悔しそうに、でも嬉しそうに紫は言う。そんな紫を見て幽々子は何だか可愛らしいと思ってしまう。何だかんだ言って、二人ともまだまだ乙女なのである。
「あら、紫から一枚取れるなんて何か御褒美でもあるのかしら?」
「さぁ、どうかしらね?」
それがなんだか可笑しくて二人して笑ってしまう。紫は宴会場を見た。楽しそうに騒ぐ妖精たちや白黒の魔法使い。幼い吸血鬼は今日の主役……には選ばれなかった。主催者いわく『あれは例外』らしい。また、今日の主役でもある山の軍神は溺愛する巫女にお酌され意気揚々としている。土着神は例外のようだ。更に永遠の命を持つ薬師は、上品に笑いながらも瞳は笑っていなかった。そして、最近幻想郷に入って来た大魔法使いはいつもの面々と和やかににこやかに楽しそうに過ごしている。紫は想った。ここまで来るのに何を棄てたのだろう。どれほどの季節を過ごしてきたのだろう。何を……何を……。
「えいっ。」
間の抜けた掛け声が聞こえたかと思うと、紫の左頬に幽々子の右の人指し指が添えられていた。
「………何するのよ、幽々子。」
「紫、また難しいこと考えてたでしょう?」
「そんなことっ。」
紫が言おうとすると幽々子は人指し指を紫の唇へと当てた。ふざけているのかと紫は思ったが、幽々子の目は真剣である。普段、幽々子はおっとりしているが、いざという時の意志の強さは凄まじいものがある。
「考えるのは結構。物思いに耽るのも結構。でも……だからこそ……そんな悲しい顔はしないでちょうだいな。私は紫のそういう顔を見るのが一番辛いの。」
ねっ、と付け加えて幽々子は空いている左手で紫の頭を優しく撫でた。それはまるで、泣いている我が子をあやす母親のようだった。
「貴女は頑張りすぎなのよ。もう少し、私やここにいる方々に頼ることを覚えなさいな。」
あぁ、と紫は思った。私は……私は……何も棄ててはいなかった。むしろ手に入れてばかりだった。幻想郷、優秀な式、博麗の巫女、幻想郷に流れてくるもの・物・者、そして優しい友人。私はこんなにも持っていた。いや、持ち過ぎていた。私は……私は……。
「………私は……何て幸せ者なのかしらね。」
涙声で言う紫の頬を温かい涙が伝う。人前で泣くなんていつ位だろう。そんなことを思ってしまう。けれど、今はそんなことはどうでもよかった。泣き顔を見られても構わなかった。今は、ただ今この時だけは何も言わず抱きしめてくれる恋人の胸で泣いていたかった。
「よしよし。」
時々、幽々子が頭を撫でてくれる。それが、とても気持ちよかった。そして、耳に入って来る色々なコエ・こえ・声。今の紫にとってそれは、どんな音楽よりも心を癒してくれるものだった。
「どうしたのよ、幽々子。何してるの?」
そんな時、聞きなれた声が二人の耳に入る。博麗の巫女、博麗霊夢である。ちなみに今日の主催者でもある。
「あんた達、今日の主役なんだから飲みなさいよ。」
「あぁ、ありがとうね、霊夢。」
「そっ、ならいいんだけど………今なら宴会場の外…空いてるから。」
そうぶっきらぼうに言って宴会の和へと戻って行く霊夢。わざわざ見に来てくれたのか。何とも優しさもぶっきらぼうな子だと幽々子は思った。
「ねぇ、紫。貴女はこんなにも愛されているのよ。」
そっと紫の耳元で囁く幽々子。それに首を縦に動かして応える紫。これでは本当に単なる親子みたいじゃないかと、幽々子は少し楽しく思えた。
「さぁ、紫。気分転換に夜風にでもあたりましょうか。」
「…………ん。」
二人はそっと音を立てないように、宴会場を出た。
弐
優しい月の光が二人を包む。いつも見ているはずの月なのに、今日は妙に新鮮な気がした。
「あの月の姫様が何かしてくれたのかしらね。」
幽々子が面白そうに言う。対する紫は、まだ少し泣いていた。
「ふふっ……落ち着いたかしら?」
「ぐすっ………ふぇ………えぇ、ありがとう。」
月の光が紫の頬を伝った涙を浮かび上がらせる。美しい、と幽々子は思った。元々、紫の顔はとても美しいが泣き顔なんてものを見たせいか、いつも以上に美しいと思った。儚さ。触れれば壊れてしまそうな脆さ。そういった類のものが今の紫には感じられた。
「………綺麗ね。」
紫が空を見て言う。
「そうね、綺麗な月ね。」
それに合わせるように幽々子も空を見た。
「ふふっ……月ではなくて。」
紫がさっきまで泣いていたのが嘘のように楽しそうに言う。
「えっ?」
気付いた時には、紫の顔が目の前にあった。自分が何をされているのか。唇にある温かさと、いつもにはないほんの少しのしょっぱさで理解した。
「んっ……。」
「んっ……はっ………。」
溺れた魚みたいだな、と紫は思った。最も私は幽々子に溺れているけれど。それにさっきまで泣いていたのに、次の瞬間にはこんなことをしている自分に嫌気が差す。それでも紫は、今この時は溺れていたかった。愛する幻想郷に見守られながら愛する幽々子に。
その時だった。
「うわあああああああああああああああああ!!!」
バタンと大きな音がしたかと思うと、宴会場の襖が前に開き、向こう側から魑魅魍魎が現れた。その一番下になっているのは、あの鴉天狗である。
「あやや……もう!だから押さないでと言ったじゃないですか!」
「まったくだぜ。だから、止めろって言ったのに。」
「魔理沙黙りなさい。あんたが言いだしっぺでしょうに。」
「霊夢だって見たがってたじゃないか。」
「いや、いいもの見たわね、咲夜。」
「はい、お嬢様。やはり歳を重ねるごとに妖艶さとは増すものです。というわけで、私も幼さと妖艶さを兼ね備えたお嬢様と。」
「黙れ。」
「ふむ、せっかくもっと見ていたかったのだがな。なあ、ご主人様?」
「えっ、あぁ、そうです……って何を言わせるんですかナズーリン!あっ、あんな………はしたない!」
「でも、食い入るように見ていたじゃないか。」
「そっ、それは………。」
「あぁ、光が満ちる………。」
各々勝手に感想を言っているが、見られていた当の本人達は。
「あんた達………覚悟はできてるのよねぇ?」
漫画だったらゴゴゴゴゴと文字が付きそうなほど、妖気全開の紫。その隣で幽々子は、あらあらと楽しそうな笑みを浮かべている。
「境符、四重結界!!」
紫の宣言とともに、一様に散っていく覗き組の面々。
「逃がすかぁ!!」
と、紫が飛ぼうとした時である。クッと服の袖を引かれた。もちろん幽々子にである。
「……私を置いて行ってしまうの?」
上目づかいに紫を見る幽々子。あぁ、もう。そんな顔をされたら。
「………行くわけないでしょ。貴女は私の恋人なんだから。」
「あらあら、そう言ってくれると嬉しいわ、紫。」
今度はそっと幽々子から唇を重ねた。
參
宴会から数日後。紫はいつものように幽々子の住む白玉楼を訪ねた。
「こんにちは、幽々子。」
「こんにちは、紫。」
あの宴会の後、紫は見ていた者達を追うことはしなかった。別に見られても構わないと思っていたし、それに何だかんだで愛されていると実感できたから。
「あら、幽々子。それ……何?」
紫は幽々子の傍に置かれている白い紙を見て言う。
「あぁ、これ?」
「そうそう、それ。」
「うふふ……これはね。」
白を裏返すと、そこにはあの時の二人が写っていた。
終
おまけ
幻想郷「すいません。八雲紫と西行寺幽々子のキスシーンの写真を百枚お願いします。」
今日も今日とて幻想郷。いつものように博麗神社では魑魅魍魎入り乱れての宴会が行われていた。そして、今日の宴会の趣旨は―――。
『愛されるということ』
壱
「本当に失礼しちゃうわ。私はまだ十七歳だっていうのに。」
今日の宴会の主役でもある八雲紫は、怒っていた。そりゃもう怒っていた。後で食べようとして冷蔵庫に残して置いたプリンを食べられてしまった時位に怒っていた。
「まぁ、紫。そんなに怒らなくてもいいじゃない。」
そんな紫をお酌しながら宥めているのは、長年の友人兼恋人でもある西行寺幽々子である。二人がいつどこでそういう関係になったのは後で語るとして、紫とは反対に幽々子は楽しそうである。
「今日は、外の世界では『敬老の日』というお年寄りに感謝する日なんでしょう?素晴らしいじゃない。」
うふふと上品に笑う幽々子。
「はぁ……ねぇ、幽々子。貴女は悲しくないの?悔しくないの?」
「あら、どうして?」
可愛らしく首を傾げる幽々子。だが、その顔は全てお見通し書いてある。紫は何だかそれが悔しく、手に持っていた杯を一気に飲み干す。
「今日ばかりは、幽々子の方が一枚上手ね。」
唇を尖らせ悔しそうに、でも嬉しそうに紫は言う。そんな紫を見て幽々子は何だか可愛らしいと思ってしまう。何だかんだ言って、二人ともまだまだ乙女なのである。
「あら、紫から一枚取れるなんて何か御褒美でもあるのかしら?」
「さぁ、どうかしらね?」
それがなんだか可笑しくて二人して笑ってしまう。紫は宴会場を見た。楽しそうに騒ぐ妖精たちや白黒の魔法使い。幼い吸血鬼は今日の主役……には選ばれなかった。主催者いわく『あれは例外』らしい。また、今日の主役でもある山の軍神は溺愛する巫女にお酌され意気揚々としている。土着神は例外のようだ。更に永遠の命を持つ薬師は、上品に笑いながらも瞳は笑っていなかった。そして、最近幻想郷に入って来た大魔法使いはいつもの面々と和やかににこやかに楽しそうに過ごしている。紫は想った。ここまで来るのに何を棄てたのだろう。どれほどの季節を過ごしてきたのだろう。何を……何を……。
「えいっ。」
間の抜けた掛け声が聞こえたかと思うと、紫の左頬に幽々子の右の人指し指が添えられていた。
「………何するのよ、幽々子。」
「紫、また難しいこと考えてたでしょう?」
「そんなことっ。」
紫が言おうとすると幽々子は人指し指を紫の唇へと当てた。ふざけているのかと紫は思ったが、幽々子の目は真剣である。普段、幽々子はおっとりしているが、いざという時の意志の強さは凄まじいものがある。
「考えるのは結構。物思いに耽るのも結構。でも……だからこそ……そんな悲しい顔はしないでちょうだいな。私は紫のそういう顔を見るのが一番辛いの。」
ねっ、と付け加えて幽々子は空いている左手で紫の頭を優しく撫でた。それはまるで、泣いている我が子をあやす母親のようだった。
「貴女は頑張りすぎなのよ。もう少し、私やここにいる方々に頼ることを覚えなさいな。」
あぁ、と紫は思った。私は……私は……何も棄ててはいなかった。むしろ手に入れてばかりだった。幻想郷、優秀な式、博麗の巫女、幻想郷に流れてくるもの・物・者、そして優しい友人。私はこんなにも持っていた。いや、持ち過ぎていた。私は……私は……。
「………私は……何て幸せ者なのかしらね。」
涙声で言う紫の頬を温かい涙が伝う。人前で泣くなんていつ位だろう。そんなことを思ってしまう。けれど、今はそんなことはどうでもよかった。泣き顔を見られても構わなかった。今は、ただ今この時だけは何も言わず抱きしめてくれる恋人の胸で泣いていたかった。
「よしよし。」
時々、幽々子が頭を撫でてくれる。それが、とても気持ちよかった。そして、耳に入って来る色々なコエ・こえ・声。今の紫にとってそれは、どんな音楽よりも心を癒してくれるものだった。
「どうしたのよ、幽々子。何してるの?」
そんな時、聞きなれた声が二人の耳に入る。博麗の巫女、博麗霊夢である。ちなみに今日の主催者でもある。
「あんた達、今日の主役なんだから飲みなさいよ。」
「あぁ、ありがとうね、霊夢。」
「そっ、ならいいんだけど………今なら宴会場の外…空いてるから。」
そうぶっきらぼうに言って宴会の和へと戻って行く霊夢。わざわざ見に来てくれたのか。何とも優しさもぶっきらぼうな子だと幽々子は思った。
「ねぇ、紫。貴女はこんなにも愛されているのよ。」
そっと紫の耳元で囁く幽々子。それに首を縦に動かして応える紫。これでは本当に単なる親子みたいじゃないかと、幽々子は少し楽しく思えた。
「さぁ、紫。気分転換に夜風にでもあたりましょうか。」
「…………ん。」
二人はそっと音を立てないように、宴会場を出た。
弐
優しい月の光が二人を包む。いつも見ているはずの月なのに、今日は妙に新鮮な気がした。
「あの月の姫様が何かしてくれたのかしらね。」
幽々子が面白そうに言う。対する紫は、まだ少し泣いていた。
「ふふっ……落ち着いたかしら?」
「ぐすっ………ふぇ………えぇ、ありがとう。」
月の光が紫の頬を伝った涙を浮かび上がらせる。美しい、と幽々子は思った。元々、紫の顔はとても美しいが泣き顔なんてものを見たせいか、いつも以上に美しいと思った。儚さ。触れれば壊れてしまそうな脆さ。そういった類のものが今の紫には感じられた。
「………綺麗ね。」
紫が空を見て言う。
「そうね、綺麗な月ね。」
それに合わせるように幽々子も空を見た。
「ふふっ……月ではなくて。」
紫がさっきまで泣いていたのが嘘のように楽しそうに言う。
「えっ?」
気付いた時には、紫の顔が目の前にあった。自分が何をされているのか。唇にある温かさと、いつもにはないほんの少しのしょっぱさで理解した。
「んっ……。」
「んっ……はっ………。」
溺れた魚みたいだな、と紫は思った。最も私は幽々子に溺れているけれど。それにさっきまで泣いていたのに、次の瞬間にはこんなことをしている自分に嫌気が差す。それでも紫は、今この時は溺れていたかった。愛する幻想郷に見守られながら愛する幽々子に。
その時だった。
「うわあああああああああああああああああ!!!」
バタンと大きな音がしたかと思うと、宴会場の襖が前に開き、向こう側から魑魅魍魎が現れた。その一番下になっているのは、あの鴉天狗である。
「あやや……もう!だから押さないでと言ったじゃないですか!」
「まったくだぜ。だから、止めろって言ったのに。」
「魔理沙黙りなさい。あんたが言いだしっぺでしょうに。」
「霊夢だって見たがってたじゃないか。」
「いや、いいもの見たわね、咲夜。」
「はい、お嬢様。やはり歳を重ねるごとに妖艶さとは増すものです。というわけで、私も幼さと妖艶さを兼ね備えたお嬢様と。」
「黙れ。」
「ふむ、せっかくもっと見ていたかったのだがな。なあ、ご主人様?」
「えっ、あぁ、そうです……って何を言わせるんですかナズーリン!あっ、あんな………はしたない!」
「でも、食い入るように見ていたじゃないか。」
「そっ、それは………。」
「あぁ、光が満ちる………。」
各々勝手に感想を言っているが、見られていた当の本人達は。
「あんた達………覚悟はできてるのよねぇ?」
漫画だったらゴゴゴゴゴと文字が付きそうなほど、妖気全開の紫。その隣で幽々子は、あらあらと楽しそうな笑みを浮かべている。
「境符、四重結界!!」
紫の宣言とともに、一様に散っていく覗き組の面々。
「逃がすかぁ!!」
と、紫が飛ぼうとした時である。クッと服の袖を引かれた。もちろん幽々子にである。
「……私を置いて行ってしまうの?」
上目づかいに紫を見る幽々子。あぁ、もう。そんな顔をされたら。
「………行くわけないでしょ。貴女は私の恋人なんだから。」
「あらあら、そう言ってくれると嬉しいわ、紫。」
今度はそっと幽々子から唇を重ねた。
參
宴会から数日後。紫はいつものように幽々子の住む白玉楼を訪ねた。
「こんにちは、幽々子。」
「こんにちは、紫。」
あの宴会の後、紫は見ていた者達を追うことはしなかった。別に見られても構わないと思っていたし、それに何だかんだで愛されていると実感できたから。
「あら、幽々子。それ……何?」
紫は幽々子の傍に置かれている白い紙を見て言う。
「あぁ、これ?」
「そうそう、それ。」
「うふふ……これはね。」
白を裏返すと、そこにはあの時の二人が写っていた。
終
おまけ
幻想郷「すいません。八雲紫と西行寺幽々子のキスシーンの写真を百枚お願いします。」
後私にも写真を(ry
ゆかゆゆは我らのアルティメットトルゥースです
あぁ、もちろん写真h(ry
自分にも写真三枚ほど(ry