咲夜が猫を拾ってきた。紅い毛色の、珍しい猫だ。
だからどうした、という話。私には関係ないだろうし、世話をみるのは妖精メイドとかその辺の仕事だろう。
雨の中立ち往生していた猫を不憫に思い拾ってきたらしいが、何のことはない。雨が降っているのに出かける猫が悪いのだ。私は同情なんてしない。
だから、この猫の事もほんの1日~2日すれば忘れてしまうだろう、とか考えてた。
「猫ちゃーん。可愛い可愛い」
あいつが溺愛するまでは。
あいつはお気に入りの紅いソファに座り、猫の額を何度も撫で返している。
何だよ、それ。全然あいつらしくない。だらしない笑顔で、みっともないったらありゃしない。そんな猫一匹を甘やかすなんて馬鹿馬鹿しい。
だいたい、いつもカリスマがどうたら言ってるのに、そんなんだからいつも幼く見られるのさ。少しは学びなさいよ。はぁ。
「あはは、人懐っこいわね」
猫も猫であいつに甘えっきりでさ。野生動物なんだからもっと警戒するなりしなさいよね。そんな飼い慣らされた猫みたいだからこの雨の中ボサーッてどんくさく、ずぶ濡れになるのさ。
ちょっと紅い毛並みしてるから珍しがられて、もてはやされて、いい気になってるし。仮に普通の茶色とか黒色とかの毛だったら、あんた確実に無視されるのが関の山ね。
一度言っておくけど、あいつが紅いもの好きじゃなかったら絶対に外に追い出されてるんだよ? わかってんの、その辺。調子にのらないで。
「野良の割に綺麗な紅い毛並みね。手入れが行き届いてるみたい」
まったく、あいつも紅いものが好きってのは判ってたけど、まさか猫みたいな軟弱な生き物が好きなんてね。信じられないわ。
そんな可愛いもの愛でてればカリスマも低下するわ。見た目年齢10かそこらだよ? そんな奴が猫と戯れてみなよ。他人からみたら微笑ましいの一言だよ。少し考えれば判りそうなものなのに。
だいたい紅いからって猫ばっかり構って。紅い色だったら私だって紅い服着てるじゃな…………
や、違う。今のは違う。口が滑っt……。それも違う。
いや、だから、その、あれだよ。
…………。
とにかく違うんだよ。判ったね?
別にあいつの気を引きたいから、いつも同じ紅い服を着ている訳ではない。断じて。
そして今現在、私の頭にネコミミが装着されているのも、特にあいつの気を引きたいからという訳ではない。
そう、これは、あの…………あ、朝起きたら生えてた。それだけ。そう、それだけ。
別に自分の意思で着けたわけではない。いや、ほんとに。
そろそろ勘違いする輩も出てくると思うんだ。ここではっきりさせておくけど、私はあいつの事なんてまったく興味がない。
だから、猫に焼き餅なんてそんなわけないじゃない。
考えてもみなよ。猫だよ? 仮に好きな人に他の女が馴れ合ってるとしたら、そりゃまあ、嫉妬くらいするよ。でもさ、猫だよ? 猫がじゃれついてるくらいで嫉妬なんて有り得ないじゃない。
もう一度言っておくけど、別に私は猫に焼き餅なんて焼いてない。
そう、だから私は普段通りに過ごしていればいいわけさ。
私は無視しながら、あいつの前を通り過ぎる。それだけ。いつものように、いつもどおりに。
……まぁ、通り過ぎても、その先は壁しかないんだけど……。
簡単な話。
そう、壁に用事があるだけ。
どんな用事か、って?
え…………いや、よくやるじゃん? 壁見たり、触ったり。
か、壁って手触りいいよね。ねぇ? ほら、あ、あのザラザラってした感じが……。あ、あいつの部屋の壁が、と、と、特にいい感触なんだよ。だ、だから私はあいつの部屋にいるのさ。そう。そうなのさ。
……と、とにかく。壁に用事があるのだもの。まずはあいつの近くを通り過ぎて、壁に近づかなくちゃ。
さ、普段通りに。普段通りに。
「にゃー」
……いや、ほら、私ってば動物の鳴き真似、得意じゃん? でもこれ……あの……ま、毎日の練習の賜物な訳なのさ。
だ、だから、あの……今日も、その練習で……つ、つ、つまり『にゃー』って鳴くのも平生な私なのさ!!
「……フラン。そんなことしなくても、『頭撫でて』って言えば撫でてあげるわよ……?」
ははっ。こいつは何を言ってるのだろう。私が頭を撫でて欲しい? 笑っちゃうね。
今の私のどこを見れば、そんな考えに行き着くのか。まったく、こいつは本当に呆れるほど人の気持ちが理解できていないようだ。
私はお前なんか慕ってもいないし、好きでもない。むしろ、呆れているし、嫌悪すら覚える。
なのに、『頭撫でてあげる』?
あはははは……笑止。
「はぁ。ほら、いらっしゃい。抱っこも、なでなでもしてあげるから」
「なに言ってるの? 私がそんな事思ってるわけないじゃない」
姉は私を手招きする。
こいつは馬鹿かな。私はそんなことを望んでいると?
「ああ、そっか。……『お願い』、フラン。抱っこさせて?」
「仕方ないなぁ!!」
まぁ、そこまで懇願されたら仕方ない。
抱っこくらいなら、させてあげようか。
「うん、そうそう。膝の上に座りなさいな」
姉は赤猫をゆっくりと床に下ろし、私を誘導する。
私は姉と正面で向かい合う形に座る。
「ふふっ。甘えたいなら素直に甘えればいいのに」
「…………」
こいつはこの期に及んで、何を言っているのだ。私は『お願い』されたから、仕方な~く膝の上に座り、抱きついてやっているのである。
まったくもって、不本意だ。
そんなことを知ってか知らずか。姉は私を強く抱きしめ、頭を優しく撫でる。
「まさか、猫にまで焼き餅焼いちゃうなんてね。焼き餅焼きなんだから。……ま、そこが可愛いんだけど」
「…………」
何度も言ってるじゃないか。私は一切焼き餅なんて焼いていない。
って、あ、こら。頬ずりするんじゃない。
「ネコミミまで着けてるし。よく似合ってるわよ。可愛い可愛い」
「…………」
違う。全然違う。これは着けたのではない、いつの間にか生えていたの。
それを自分の為に着けたとか、勘違いも甚だしいね。
って、あ、こら。は、羽は触っちゃ……あっ……だ、だめぇ……。
「ねぇ、フラン。お姉ちゃん大好き?」
「べ、べ、別に」
「お姉ちゃん大好きって言って? 『お願い』」
「お姉様だーい好きっ!!」
言っておくが、これは私の本心ではない。頼まれたから仕方なく、そう、仕方なく言っているわけさ。決して本心ではない。うん。その辺、そろそろ判って欲しいね。
「ねぇ、フラン。キスしていいかしら?」
「や、やだ」
まったく。この駄目姉は私が大人しく言う事を聞いていると思って図に乗り始めたじゃないか。キスだって? ふざけないで。そんなの哀訴でもしない限り、させてやるものですか。
「そ、ならいいわ」
え。
……えっ?
あれ? ……なんでそうなる。お前は駄目ならすぐ頼みこむヘタレでしょ。 それがどうして……えっ? なんで? いやいやいや、これはおかしい。今までなら、すぐ『お願い』とか、プライドもへったくれもなしに頼みこむじゃないのさ。どうしてそう……うん? いや、おかしい。これはおかしいね。い、言えばいいじゃない、いつもみたいに『お願い』って。そうしたら私も、少しは話くらい聞いてやろうって感じになるかもしれないじゃない。あれ? あれぇ?
ってなんで、私を抱っこするのを止めるのさ! ずっと抱っこしてればいいじゃない。『お願い』って嘆願するほど、この私を抱っこしたかったんでしょ? だったら抱っこしてればいいのに。いや、もちろん私はあれだよ? 仕方なく、してやってるだけだから、べ、べ別にいいんだけどね?
あ、あ、なんで猫の方見るの! まさか、また猫の方を抱っこするつもりじゃ……。
「あ……う……」
「……フラン。『お願い』は?」
うう……。姉が何を求めているのか判ってしまった……。
「あ……あ……」
「いや、別に無理強いはしないわよ? もとはと言えば私が、無理に頼んだのだしね」
うー。いじわる……。
「き……」
「あら」
「き……き……キス、して……くだ、ください……お、お願い、します」
「ふふっ。『お願い』されちゃったら仕方ないわね♪」
お姉様は再び私を強く抱きしめると、私の唇に優しく触れる。
「素直な良い子」
頭を撫でられる私。
思わず目を細めてしまう。
もう言い訳はしないさ。
ネコミミ? そうだよ。お姉様の気を引きたいが為に着けたよ。わざわざ咲夜に頼んで買ってきてもらったさ。
猫に嫉妬? まぁいいさ。認めるよ。私は昔からお姉様にベッタリさ。笑いたければ笑いなさいよ。いや、そういうニヤニヤした笑いは止めて。
壁? 壁がどうしたって言うのよ。どうでもいいよ。お姉様のほうがいい匂いだし心地いいもの。
そして私はお姉様に身体を預けるように甘える。まるで猫のようになっているかもしれない。
「お姉様だーい好きっ!!」
もう『お願い』は必要ない。
えへへ。大好き。
ついに自分の気持ちを認めてしまったフランちゃんはこれから遠慮なくちゅっちゅすることになるんだろうか……
そしてこれからの古明地姉妹はどうなるのか楽しみだ。
姉妹ちゅっちゅを知ったさとり様はこいしにどう接するんでしょうね。
普通にでれでれ甘えてそう。
ただ、若干調教されてる気がするのはきっと気のせいw
それにしても相変わらずあなたのツンデレフランは美味しすぎる^q^
レミフラちゅっちゅは素敵である。にゃー。感謝。
なにこの妹可愛すぎる
ここに自分一人しかいなくてよかった…
>姉を私を強く抱きしめ
姉は、ですか?
『お願い』でどうしてもバイオショックを想像してしまう……
それはともかく、妹様がかわいすぎて生きるのがつらい・・・・・・・