「さあ、ここがアリスさんの家ですよ阿求さん」
「ほうほうこれが噂の」
「では、下ろしますね。気をつけてください」
「いつもありがとうございます」
ゆっくりと高度を下げていく。力を抜いている阿求の足が地面に接触し、しっかりと土を踏みしめたと思われる反動を感じるまで、ゆっくりと、ソフトに。
「もう大丈夫です文さん」
「大丈夫ですか阿求さん」
文が手を離すと、阿求は自分の足で立つ。ふう、と小さく息を吐いた。
なかなか慣れませんね、と彼女は呟く。
「さて、さっそく参りましょうか阿求さん」
「いえ待ってください文さん」
「なんでしょう阿求さん」
「甘い匂いがします」
「ふむ。しますね。洋菓子……焼き菓子かと思われます」
「真実が見えましたよ文さん」
「見えましたか阿求さん」
「魔女とお菓子といえば明白です。ここのアリスさんはずばりヘンゼルさんとグレーテルさんを食べようとした魔女ですね文さん」
「性的な意味でですか阿求さん」
「卑猥なのはよろしくないと思います文さん」
「失礼しました、ところで卑猥と稗田ってちょっと似てませんか阿求さん」
「鴉天狗は下ネタにこだわると記録してよいのでしょうか文さん」
「ごめんなさい阿求さん。ところでヘンゼルとグレーテルは兄と妹という意味で個人名ではありませんよ阿求さん」
「知ってました」
「知ってましたか」
「ともあれ、悪い魔女に違いありません。さっそくそう記録しておきます」
「さすがです阿求さん。ところでその童話によると魔女は既に殺されているように思いますが阿求さん」
「知ってました」
「知ってましたか」
「いえ、わかりましたよ文さん」
「わかりましたか阿求さん」
「人間に殺されたと思われた魔女は、実は魔界に封印されていただけなのです。封印されている間に力を蓄えて幻想郷に復活してきたのです。ああ恐ろしい」
「私最近そんな話を聞いたことがあります阿求さん」
「それがこのアリスさんで間違いありません」
「いえ文句なしに別人です」
「知ってました」
「知ってましたか」
「……人の家の前で何をこそこそとやってるの、あんたたち」
「あ」
「あ」
話し続ける二人の前に、いつの間にか当のアリスが立っていた。
隣には、ふわふわと小さな人形が浮いている。
「悪い魔女が現れましたよ文さん」
「実際いい人なんで心配しないでくださいっていうかあんまり続けられると私が怖いです阿求さん」
「いや本当に何をやってるのよ……」
「取材です」
「暇つぶしです」
二人は間髪無く答えた。
前者が阿求のほうなのは言うまでもない。
「ところでますます甘い匂いがします」
「洋ナシのタルトではないでしょうか。これから図書館に持って行く予定だと思われますよ阿求さん」
「……文、本当は覗いてたんじゃないでしょうね?」
「当たってましたかアリスさん」
「タルトはともかくとして、なんでフィリングまで匂いだけでわかるのよ」
「ガスの匂いが混じっていました。アリスさんのかまどは普通に薪木なのでガスを使うとしたらバーナーです。タルトでバーナーを使うとしたら、シブーストか、洋ナシの表面を炙る時くらいです。シブーストならもっとカラメルの匂いがするはずです。あとは季節柄から考えて洋ナシのほうだと判断しました」
「凄いです文さん」
「記者としては当然です阿求さん」
「尊敬します文さん」
「まっすぐに褒められると結構恥ずかしいです阿求さん」
「知ってました」
「知ってましたか」
「……えーと。で、何、取材? 三十分くらいなら付き合えると思うけど……」
ノリについていけないアリスが、困った顔で言う。文は、意外そうに目を丸くする。
「あやや、大丈夫なのですか?」
「すぐに出かけるつもりだったわけじゃないしね。まあ、上がってちょうだい。端材が余ったからそれをクッキーにできるくらいの時間はあるわ。それくらいなら出せるから」
「いい人じゃないですか文さん」
「言ったじゃないですか阿求さん」
「友好度:高……と。まる」
「適当ですね阿求さん」
「とりあえずそうしておけば帰る前に食べられることはないかなと思いました」
「性的な意味でですか阿求さん」
「そういう経験もなきにしもあらずです」
「まじで!」
「嘘です興奮しないでください文さん」
「嘘だと知ってました」
「知ってましたか」
「ほうほうこれが噂の」
「では、下ろしますね。気をつけてください」
「いつもありがとうございます」
ゆっくりと高度を下げていく。力を抜いている阿求の足が地面に接触し、しっかりと土を踏みしめたと思われる反動を感じるまで、ゆっくりと、ソフトに。
「もう大丈夫です文さん」
「大丈夫ですか阿求さん」
文が手を離すと、阿求は自分の足で立つ。ふう、と小さく息を吐いた。
なかなか慣れませんね、と彼女は呟く。
「さて、さっそく参りましょうか阿求さん」
「いえ待ってください文さん」
「なんでしょう阿求さん」
「甘い匂いがします」
「ふむ。しますね。洋菓子……焼き菓子かと思われます」
「真実が見えましたよ文さん」
「見えましたか阿求さん」
「魔女とお菓子といえば明白です。ここのアリスさんはずばりヘンゼルさんとグレーテルさんを食べようとした魔女ですね文さん」
「性的な意味でですか阿求さん」
「卑猥なのはよろしくないと思います文さん」
「失礼しました、ところで卑猥と稗田ってちょっと似てませんか阿求さん」
「鴉天狗は下ネタにこだわると記録してよいのでしょうか文さん」
「ごめんなさい阿求さん。ところでヘンゼルとグレーテルは兄と妹という意味で個人名ではありませんよ阿求さん」
「知ってました」
「知ってましたか」
「ともあれ、悪い魔女に違いありません。さっそくそう記録しておきます」
「さすがです阿求さん。ところでその童話によると魔女は既に殺されているように思いますが阿求さん」
「知ってました」
「知ってましたか」
「いえ、わかりましたよ文さん」
「わかりましたか阿求さん」
「人間に殺されたと思われた魔女は、実は魔界に封印されていただけなのです。封印されている間に力を蓄えて幻想郷に復活してきたのです。ああ恐ろしい」
「私最近そんな話を聞いたことがあります阿求さん」
「それがこのアリスさんで間違いありません」
「いえ文句なしに別人です」
「知ってました」
「知ってましたか」
「……人の家の前で何をこそこそとやってるの、あんたたち」
「あ」
「あ」
話し続ける二人の前に、いつの間にか当のアリスが立っていた。
隣には、ふわふわと小さな人形が浮いている。
「悪い魔女が現れましたよ文さん」
「実際いい人なんで心配しないでくださいっていうかあんまり続けられると私が怖いです阿求さん」
「いや本当に何をやってるのよ……」
「取材です」
「暇つぶしです」
二人は間髪無く答えた。
前者が阿求のほうなのは言うまでもない。
「ところでますます甘い匂いがします」
「洋ナシのタルトではないでしょうか。これから図書館に持って行く予定だと思われますよ阿求さん」
「……文、本当は覗いてたんじゃないでしょうね?」
「当たってましたかアリスさん」
「タルトはともかくとして、なんでフィリングまで匂いだけでわかるのよ」
「ガスの匂いが混じっていました。アリスさんのかまどは普通に薪木なのでガスを使うとしたらバーナーです。タルトでバーナーを使うとしたら、シブーストか、洋ナシの表面を炙る時くらいです。シブーストならもっとカラメルの匂いがするはずです。あとは季節柄から考えて洋ナシのほうだと判断しました」
「凄いです文さん」
「記者としては当然です阿求さん」
「尊敬します文さん」
「まっすぐに褒められると結構恥ずかしいです阿求さん」
「知ってました」
「知ってましたか」
「……えーと。で、何、取材? 三十分くらいなら付き合えると思うけど……」
ノリについていけないアリスが、困った顔で言う。文は、意外そうに目を丸くする。
「あやや、大丈夫なのですか?」
「すぐに出かけるつもりだったわけじゃないしね。まあ、上がってちょうだい。端材が余ったからそれをクッキーにできるくらいの時間はあるわ。それくらいなら出せるから」
「いい人じゃないですか文さん」
「言ったじゃないですか阿求さん」
「友好度:高……と。まる」
「適当ですね阿求さん」
「とりあえずそうしておけば帰る前に食べられることはないかなと思いました」
「性的な意味でですか阿求さん」
「そういう経験もなきにしもあらずです」
「まじで!」
「嘘です興奮しないでください文さん」
「嘘だと知ってました」
「知ってましたか」
クセになります。
文と阿求はとても仲良しですね。
知ってました。
知ってました。
知ってました。
知ってました。
知ってました。
読んでて、楽しかったです。
ところで、アリスさんの家はどのような噂になっていたのでしょうか。
知ってました。
知ってました
それは知らなくていいです
あきゅあや可愛いよあきゅあや
変な人たちにいちいち突っ込みを入れるアリスは受難ですね。
知ってました。
そして、やっぱりあきゅあやっていいもんです。
知ってました。