「しめじ万歳。名付けて、上海しめじ装備」
心にも無いことを言ってみたり。
最近は、比較的涼しい日々が続いている。
特に朝方なんて、澄んだ空気が最高に気持ちいい。
でも、都会派な私の部屋は、いやに生臭い。
「…うわ、くっさ。臭さで殺されそう」
最近、私の家の物が、次々ときのこに置き換えられている。
今朝なんて、上海の右手がしめじになっていた。
しかも、腐ったしめじ。どうせなら食用にしてよ。
「…そろそろ限界ね」
今までは、置き換えられたきのこを食べて、何とか都会派を維持してきた。
でも、腐ったしめじを食べるのは都会派とは言えない。
これは異変だ。きのこ異変。
そういうのは、その道のプロに頼むのが基本よね。
両手いっぱいに上海の右手、もといしめじを抱えて、さぁ出発。
「さぁさぁ。ほら、さっさと解決しなさいよ」
「…残念ですけど、腐った食べ物は、元には戻らないんです」
やってきたのは、守矢神社。
別に霊夢のとこでもよかったんだけど、どうにも彼女に頼るのは癪。
見返りに、何を求められるか分かったもんじゃないし。
「あのですね、アリスさん。世の中には、どうにもならないことだってあるんです」
「それをどうにかするのが、あなたの仕事でしょ?」
この娘、早苗は、私の持ってきたしめじから目を離さずに言う。
…そういえば、私が何で来たのか言ってなかった。
でも、神様に仕える身なら、それぐらい悟ってもらわないと。
ねぇ。
「私の家から、きのこがぼこぼこ出てくるの。家具や人形とと引き換えに」
「ほほう。で、その出てきたきのこが、我が子のように愛しくなったと」
「そう。だから、この腐ったしめじを何とか…」
遊んでる場合じゃなかった。
「じゃなくて。これ、異変でしょ?」
「まぁ、そうですかね?」
「そうよ。ほら、早くビシっとバシっと解決してよ」
早く解決してもらわないと、近い将来、私は菌類派魔法使い。
喰らえ、無限大数のしめじ人形、みたいな。
…なかなかいいかも。
「いやぁ、アリスさん。とても良い判断ですよ」
「まぁね。…何が?」
「私に相談してくれたことです! この東風谷早苗、絶対に解決してみせます!」
「だから、さっさとしてよ」
いやにやる気な早苗。嬉しいことだけど。
どこか、どこかにやついているようにも見える。
腹立つから、そのにやつきやめてよ。
「私の見立てからすると、これは間違いなく魔理沙さんの仕業ですよ!」
「じゃ、早くあいつを懲らしめて」
「…私の仕事は、ここまでです」
「え?」
まぁ、魔理沙の仕業っぽいことは、何となく分かっていた。
でも、それを問い詰めて万が一違ったら、恥ずかしいじゃない。
だから。だからその役を早苗に頼みに来たのに。
「何でもかんでも私にしてもらえると思ったら、大間違いです!」
「でも。あなた、さっき『この東風谷早苗、絶対に解決してみせます!』とか言ってたじゃない」
「…あれぇ? そんなこと、言いましたっけ?」
「言ったわよ。絶対言った。言った言った」
「私、過去は振り返らない女なので」
過去を振り返らないのと、発言に責任を持たないのは違う。
でも、常識をかなぐり捨てた彼女には些細なことだったみたい。
彼女に相談したのは、大失敗だった。
「…情報ありがとう。これ、お礼」
「いえいえ。気持ちだけで結構ですよ」
「遠慮なさらず」
半ば強引に腐ったしめじを押し付け、神社を後にする。
そのしめじ、上海の右手の形見なんだから、大事にしてもらわないと。
鳥居にでも飾っておきなさい。
「やい、魔理沙。いるんでしょ?」
「いるぜ。なにせ、私の家だからな」
堂々と出てきた、この異変の犯人、霧雨魔理沙。
どこからそんな堂々とした態度が出てくるのか。罪悪感は無いのか。
…まぁ、そんな態度も今のうち。
「さぁ。追いつめたわよ、早く何とかしなさい」
「おぉ、追いつめられたぜ。…何を何とかすればいいんだ?」
まだシラを切るのか。
さっさと謝って元に戻してくれたら、そう怒るつもりも無いのに。
そうね、一週間、無くなった上海の右手代わりを務めるだけで許してあげるつもり。
「上海。しめじ。きのこハウス。さぁ、証拠は上がってるのよ」
「…ははーん。上海に室内しめじ栽培をやらせたら、見事にきのこハウスが出来上がったわけだな」
「どんなわけよ」
「知るか。どうせ暇だが、アリスの冗談に構ってる暇はないんだ。暇だけど」
少し苛立ちを見せる魔理沙。
いいだろう。そこまで言うなら、実物を見せてあげよう。
そうすれば、あまりの罪悪感に、土下座して謝るに違いない。
「暇なんでしょ? ちょっと、ついてきてくれるかしら」
「いいぜ。望むところだ」
「…弾幕ごっこじゃないわよ」
なんで、こう戦いたがるのだろうか。
もっと、もっと平和的に過ごそうとは思わないのか。
…いや、でも。今回に限っては、弾幕ごっこしたかったかも。
いくわよ、ストロードールマツタケ、とか。
…今日の私、この上なく冴えてる。ふふん。
「…おい、アリス」
「…何よ」
「これか? こんな光景を、お前は私に見せたかったのか?」
「ノーコメントで」
意気揚々と魔理沙を連れてきた、今この時。
自分の家を、何故か茂みに隠れてこそこそ見ている私たち。
その視線に先には…何で?
「何で、何で早苗が…?」
「それこそ知るか。これを見せたかったんじゃないのか?」
視線の先には、せっせと私の家を荒らし、せっせときのこを置く早苗の姿が。
何とも健気な…じゃなくて。
あ、今ベニテングダケ置いた。毒キノコじゃないの、それ。
「おいおい。あいつ、人形を次々と盗んでるぜ…いいのか?」
「いいわけないじゃない。とっちめてやるんだから」
「お、いい意気だ。私はここで見てるぜ」
「お好きなように」
立ち上がる私。
その音に気付き、こちらへ振り向く早苗。
苦々しい笑顔の私。
家から逃げ出す早苗。
それを撃ち落とす魔理沙。
…やるじゃない。
「あのですね。世の中には、言葉にし尽くせない感情というものもあるんです」
「ないわよ」
「ないぜ」
あるのかもしれないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
服はボロボロの癖に、いやに満足気な早苗が憎らしい。
どういうつもりだろうか。
「さ、理由を言いなさい。怒らないから」
「ホントですか? そう言う人に限って、既に怒ってたりするんです」
「アリスは都会派だからな。怒鳴り散らしたりはしないぜ。多分」
そうよ、都会派な私は怒らない。多分。
まぁ、多分ということは、おそらく、ということであって。
場合によっては、怒鳴り散らすということもある。
「…正直に言います」
「当たり前よ」
「…アリスさんに、頼られたかったんです」
「ほほう?」
魔理沙が、いやに腹立つ表情でこっちを見ている。
それにしても、どういうことだろうか。
「アリスさんの家だけでこんな異変が起きたら、誰かに相談しますよね」
「まぁ、そうね。そうしたし」
「アリスさんが、その、霊夢さんに相談するか、魔理沙さんに相談するか。はたまた、私を選んでくれるのか…」
「…」
「もし私に一番に相談してくれたら、こう、嬉しいな、っていうか…」
どこか嘘くさいと思ってしまう私は、捻くれているのだろうか。
でも、不思議と嫌な気はしない。
だって、少なくとも早苗は私に好意を寄せてくれているようだから。
「じゃあ、なんで私が相談した後も、こう続けてきのこを置いてたの?」
「アリスさんが、次に魔理沙さんのとこに行くのは分かってましたから。だから…」
「私の仕業じゃないと証明できれば、また早苗のとこにアリスが相談に行くと、そう考えたんだな?」
「…はい」
全く、くだらない。
何より、早苗は解決に動かなかったんだから、次があるとしたら霊夢に相談してたのに。
子供なんだから。まったく。
「…らしいぜ、アリス」
「早苗。それでも、あなたにはそれ相応の罰を受けてもらわないとね」
「…はい。覚悟してます」
「じゃ、一週間、無くなった上海の右手代わりをしてもらおうかしら」
上海の修理にも、しばらく時間がかかる。
その間の、料理洗濯掃除、全部やってもらおう。
「おい、いいのか? 犯罪者を家に住まわせて」
「いいのよ。それ以外にやってもらうこと無いし」
「ありがとうございます! じゃ、早速ごはんの準備から…」
「その前に。このきのこ、片付けなさいよ」
まったく、今日一日は家の片付けで終わってしまいそう。
でも、この先一週間、暇になることは無いみたい。
さぁ、楽しませてもらおう。
他にも突っ込みどころ満載で、楽しませて頂きました。
この魔理沙とアリスの雰囲気が好きです。
わけの分からん事件が起こるけど、なんだかんだと平和な感じも良かった。
アリス顔真っ赤、止めなさいと言うも早苗さんは止めず、逆に密着してくる。
アリスの胸に顔を埋めて眠る早苗さん。アリスは抱きつかれて成すすべなくそのまま就寝。
翌朝心配になって様子を見に来た魔理沙が眠ってる二人を見て顔真っ赤にしてあわあわ……まで幻視してしまったではないか、どうしてくれる。
でもなんか早苗さんのやり方どっかで見た事あるんだよなぁ……精神病の一種にこんなの(自作自演の上位版)があった気がする。
お話自体はすっごい良かった!GJ!!!
扱き使うと言いながら西洋の料理や作法やメイド技術を教授するわけですな。
この不思議な感じが好きです
暴走する早苗がかわいいw
自分も秋の空気大好きです!秋の空気ってなんかわくわくするっていうか・・・。