Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

想いが届く、その日まで。

2010/09/17 21:05:23
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「ご機嫌よう♪」


 箒に跨って空を飛ぶ白黒魔法使いさんに向かって私は努めて明るく挨拶をした。
 どうやらあちらさんもこちらに気付いてくれたようで、陽気な笑みを浮かべながら私に向かって手を振ってくれた。
 だけどそのまま山の頂を目指して彼女は飛んで行ってしまった……仕方ない、誰しも厄神には近付こうとはしないもの。

 でもそれでいいの。
 私に纏わりつくこの厄は周りの者に移ったら大変な事になるのだから。


「うん♪ どうやらあの娘には厄は着いていないようね♪」


 だから強い厄が着いてしまった者以外にはなるべく私からも近付かないようにしているの。
 病と一緒で掛からないに越したことはないしね。もちろん、無闇に厄をばら撒いたりもしない。
 寂しいと思わない事もないのだけれど、神様なんて大体こんなもん。
 触らぬ神に祟りなしってね。
 私はちょっとだけ余所の神様よりそう思われる回数が多いだけの事。

 それよりも力の無い神様の方がよっぽど辛い。

 私は、厄神は確かに人の役に立てるのだからそれで満足。
 何時までも見守っていられる存在で有りたいと、常日頃から思ったりするの。






 魔法使いさんを見送ってから私は一人、山の河原へと足を運んだ。
 

 何時からだろう?

 此処に私が足蹴無く通うようになったのは……永く生きているときっかけは朧気になって忘れてしまうけれど。
 でも目的なら今もはっきりとしているの。
 此処に来れば彼女に会えるかも知れないから……。
 恥ずかしいけど、その……私にも心に想う女性(ひと)が居て……///

  …………やっぱり寂しいものはどうしたって寂しいのよ。

 それに彼女が居なくても此処は十分に私を癒やしてくれる。
 冷たく澄んだ水に足を浸けるだけで何とも言えない気持ちよさと解放感が得られるの。

 ぱちゃぱちゃと足で水しぶきを上げながら、一人水遊びに興じる私。
 スカートは濡れてしまうから膝小僧までたくし上げてしまった。


 ぷかー


「…………?」


 そこへ流れてくる大きな桃……妙な既視感を漂わせたその桃は奇妙にも緑色をしているわ。
 それに僅かだけど厄を感じる……私は迷う事無くそれを両手で掴みあげ──ようとした。


 むにゅう。


 感触がやけに柔らかい。その割には思っていた以上に重いようね。
 不思議に思い首を傾げながらも今一度、力を込めて桃を掴みあげてみる。


 パシャッ


「かぱぁ…………」

「に、にとりちゃん!?」


 だけど持ち上げてびっくり! 目を回したにとりちゃんとご対面する事に。
 でもどうしてにとりちゃんが川を流されたりしているの!?


「大丈夫!? にとりちゃん!? しっかりして!!」


 兎に角今はにとりちゃんの無事を確認するのが先決ね。
 そう思い掴んだままのお尻を左右に揺すってみる。するとにとりちゃんの目蓋が僅かに動いた。
 もうひと息……ここはやっぱり人工呼吸かしら?


「待っててね、にとりちゃん! 今助けるから!」


 そうと決まれば即実行! 迷っている暇なんて無い!
 まずはにとりちゃんを岸に上げて仰向けに寝かせて……それからどうするのかしら?
 …………きっとキスね。というかそれ以外に何があると言うのかしら。


「それじゃあ……するね?」


 気絶するにとりちゃんにとりあえず断っておく。
 だってこれがにとりちゃんのファーストキスだったら大変だもの。
 因みに私は初めて。
 だって仕方ないじゃない……誰も近寄ってこないのだから。
 そう! これは私にとっても大事なことなのよ!


 ゴクリっ……。


 な、何もやましい気持ちなんて無いのだから思い切ってやれば良いのよね? だってほら、これも立派な人命救助な訳だし……。


「ん…………あれ? 雛さん?」

「っ!? にとりちゃん……起きちゃたの?」


 折角のチャンスを不意にしたとあって、私はガックリと肩を落とした。
 ああ、私のばかばか! グズグズしてたから、にとりちゃん起きちゃったじゃない!


「? 起き、ちゃった……?」

「あっいえ! 何でも無いの! でも良かったわ、にとりちゃんが無事で!」

「ああ、うん。そっか……雛さんが助けてくれたんだね。ありがとう。」


 真っ直ぐなにとりちゃんの笑顔に私の頬も自然と緩む。


「いいえ、当然の事をしたまでですもの。何はともあれ、ご機嫌よう♪」


 気を失っている間に唇を奪おうとしていたなんて、この際水に流すべき。そうすべき。


「はは……雛さんには敵わないや。相変わらず雛さんの笑顔は素敵だね。」


 素敵だなんてそんな……もう、歯の浮くような台詞をさらっと言うんだから……///
 やっぱりにとりちゃんはこの山一の紳士さんだわ。


「おーい、雛さん?」


 あらやだ! うっとりしている場合じゃ無かったわ。
 小首を傾げて覗き込んでくるにとりちゃんの顔が余りにも近かったものだから、思わず私の胸がトクンと鳴った。


「ご、ごめんなさい! ちょっと考え事を……それよりその、どうしてにとりちゃんは川を流れていたのかしら?」


 どぎまぎしながらもどうにか話題を逸らす事に成功。ナイスよ、私。


「ははは…………それが、その……。」


 とても言いにくそうに歯切れを悪くさせるにとりちゃん。
 河童であるにとりちゃんが流されてたんだもの、きっと深い理由があるに違いないわ!


「良いのよ……! 話しづらい事なら無理に話さなくても……。」

「あ、いや。そんな大袈裟なもんじゃなくて……その……。」

「…………?」


 恥じらいから顔を赤く染めて下を向いてしまうにとりちゃん。
 ぼそぼそと何か続きを言っているようだけれども、私の耳にはどうしても届かない。


「…………頭ぶつけた。」


 それでもどうにか拾ったその言葉に私は大いに驚いた。


「ぶつけた?……ぶつけられたのでは無くて?」


 俯いたままコクンと首を鳴らすにとりちゃんに思わず私は顔を引き釣らせた──河童の川流れなんて言葉もあるけど、何もにとりちゃんが体現する必要も無いだろうに……。


「日差しが余りにも気持ち良かったものだから、それで気分がのって背泳ぎを……そしたらついうとうとと……あっ! 普段ならね、背泳ぎだろうと岩に頭ぶつけるなんてヘマは──」

「もう良いのよ。それ以上は……。」

「──う、うん……え? 雛さん?」


 これ以上可哀想なにとりちゃんを見てられなくなった私は先程感じた微量の厄を取り除いて上げる事に。
 これが私の役目だもの……別に贔屓とかじゃないんだから。
 なんて心の中で言い訳しつつも、元気なにとりちゃんが一番だって思ってる私も当然のように居るわけで……詰まるところ私は彼女の事が大好きなのだ。


「じっとしてて……今貴女の厄を取ってあげるから……。」


 にとりちゃんの正面に立って両手をかざす。
 直接触れなくてもこの程度の厄ならしっかり取れる。


「……うん、もう大丈夫よ。」


 取り終わると心なしかにとりちゃんもすっきりした顔になっている。
 うん、やっぱりにとりちゃんはこうでなくちゃ♪


「ありがとう……雛さん。」


 はにかんだ笑みを浮かべながら感謝してくれるにとりちゃんに、なんだかこっちが照れてきちゃう。
 とりあえず照れ隠しに回っておきましょう。 くるくる~。


「はははっ。やっぱり雛さんは面白いや。さて……名残惜しいけどそろそろ帰るよ。」

「えっ……もう……?」


 にとりちゃんの言葉に驚いて私は回るのを止めた。
 だってせっかく会えたのにもうお別れなんて寂しいもの……。


「ごめん……約束があるんだ。」


 そう言って困った顔をするにとりちゃんに慌てて私は取り繕った。
 しまった……にとりちゃんを困らせるつもりは無かったのに……。


「謝らないでにとりちゃん……私たちが会ったのは偶然なんだし……それに約束ってひょっとしたら人間の魔法使いさんじゃなくて?」


 二人がとても仲が良いのは私も知っている……そしてにとりちゃんの想いも。


「そうだけど……どうしてそれを?」

「さっきね、彼女が空を飛んでるのを見かけたの。」


 私の答えを聞いて、にとりちゃんは目に見えて狼狽し始めた。
 やっぱり……もう二人は約束までする仲なんだ。


「こうしちゃいられない! 早く戻らないと魔理沙が帰っちゃう!」

「…………。」


 とても後ろ髪引かれる想いだった……私だってにとりちゃんと一緒に居たい。もっとおしゃべりしたい。
 だけど結局、川に飛び込もうとする彼女の背中を呼び止める事は出来なかった──見守る事は慣れてるもの……。
 本当に彼女の事を想うなら、ここは黙って見送るべき。
 切ない想いを胸の奥にそっと仕舞い込んで、私は川の中へと消えたにとりちゃんにヒラヒラと手を振った。


 パシャ!


「にとりちゃん?」


 そのまま泳いで行ってしまうのかと思いきや何を思ったのか、にとりちゃんは水面から顔だけを出した。


「今日はありがとう! 雛さんには何時もお世話になりっぱなしだね。この埋め合わせは必ずするから! またこの河原で!」



 ……きゅん。



 それだけまくし立てると、またにとりちゃんは水面の中へと姿を消した。


「……うん、楽しみにしてる///」


 見えなくなった小柄な紳士さんに向かって私はそう呟き、頬の火照りが冷めるまでこの手を振り続けるのでした。
 金曜の夜にこんばんわ。どうもヘルツです。
 今回初めて雛さんを使わせ頂きました。
 なのでキャラが固まって無いような気が自分ではしてしまいます(^_^;)

 いつもは実る恋を信条に書いてきましたが、たまにはこう言うのも良いかなっと思って書きました。
 それではまた次回もお読みいただけたら幸いです。
 ヘルツでした。

>コメントをくださいました、紳士の皆様へ

 いつもお読みいただきましてありがとうございます。
 本当に私、ヘルツは皆様からのご支援のお陰で続けられています。
 本当に感謝の極みでございます……。

 けやっきー様、ご指摘ありがとうございました!
 遅くなりましたが、訂正さて頂きました!
ヘルツ
コメント



1.削除
雛可愛いよ雛!ヒヌァアアアアアアアアアアアアアアア!!!

……すいません、雛の可愛さに思わず取り乱しました。
2.エクシア削除
あぁ、にとひなはいいなぁ・・・。

ただ、雛はちょっと落ち着けやwww
3.奇声を発する程度の能力削除
ニヤニヤが止まらないや!
4.けやっきー削除
ちょっと寂しげな雛がもうww
いやぁ、可愛かったです!

>背泳ぎだろう岩に頭ぶつけるなんてヘマは
背泳ぎだろうと、ですか?
5.ぺ・四潤削除
雛ちゃん桃を掴む前に気づけよww
乙女な雛が可愛いな。こんな爽やか真摯なにとりだったら惚れるのも無理ないな。
雛ちゃん誰でも助けてくれるのか。そうだ!今度川で溺れてみよう!