木の葉が少し色づいてきた九月の初め。
僕は何時もの様に相変わらず客が来ない店内で店番という名の読書をしていた。
何時もなら、ここで霊夢や魔理沙がやって来るのだろうが……今日は来ないだろう。
その理由は……今日扉の鈴を鳴らす筈だ。
「ん?」
ふと顔を上げると、誰かが此方に向かってくる足音が聞こえた。
普段なら聞こえないような小さな音だが、店の外は無風で葉鳴りの音一つ無い。更に店の中は、今現在僕しか音を出す事の出来る要因は存在しないし、その要因は静かに本を読んでいるだけなのだ。外の小さな音が聞こえてきても、何らおかしくは無い。
そんな事を考えていると、足音が止まった。そして代わりに聞こえてきたのは、扉に取り付けた鈴の音。
「失礼します」
噂をすれば影、とはよく言ったものだ。
「いらっしゃいませ。お客様」
彼女に言われた様に、しっかりと対応をする。
「ちゃんと御客の相手をしているみたいですね。歓心歓心」
どうやら喜んでもらえた様だ。
しかし、彼女は「ですが」と前置きし、
「私にその様な言い方は止めて下さいと言った筈です」
そう、言い放った。
「……分かったよ」
自分から「ちゃんと御客の相手をしろ」と言っておいて、何とも勝手な事だ。
「いらっしゃい。……映姫」
言って、彼女の目を見る。
そこにいるのは幻想郷担当の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥ。
霊夢や魔理沙程ではないが、週に一度必ず香霖堂を訪れる常連だ。
被っている帽子を勘定台の上に置く。彼女曰く「結構邪魔」らしい。
「よ……っと」
茶を入れなおす為に席を立つ。
「その辺の椅子に座っててくれ。今お茶を入れてくる」
「はい、すみません」
言って、店の奥に向かった。
***
茶を入れて戻ってくると、映姫は椅子の上にはいなかった。
「ん?」
変わりに映姫がいたのは、商品を置いている棚の前。
「何か気になる物でもあったのかい?」
「えぇ。……何ですか?これは」
言って、映姫は棚を指差す。
「棚だが?」
「違います!棚ではありません!」
「じゃあ君が指差しているそれは棚以外の何だと?」
「そ、それはそうですが……って!私が言っているのはそう言うことじゃありません!」
「では、どういう事だい?」
「……これです」
言って、映姫は棚の上に指を滑らせる。
指は埃を取り除き、後には埃の無い綺麗な道が出来上がった。
「掃除、しているのですか?」
「……いや」
「それは、何故ですか?」
つつー……と、映姫は再び指を滑らせる。
「それは雰囲気作りであって、決して面倒だと言う訳ではないよ」
「そうですか……」
そう言うと、映姫は指についた埃を払い、こちらに向き直る。
「……ですが」
「………………」
内心、溜息を吐いた。
どうやら、また始まるらしい。
有難いお説教が。
「いくら雰囲気作りの為とはいえ、こんなに埃が溜まっているのは見過ごせません」
「はぁ……」
まぁ最近は余り掃除もしていなかったから、確かに埃は少々溜まっているだろう。
「掃除をしてちゃんと換気もしなければ、御客は見込めませんよ?折角接客態度を改めたというのに御客が来なくては本末転倒です」
「まぁそれは……」
「でしょう?」
そう言うと、映姫はだからと付け足し、
「ですから、これからはもう少しお店の清掃を心がける事。それが今の貴方に積める善行です」
「……ハァ」
「(ムスッ)……なんですかその溜息は。人が貴方の為を思って言っていると言うのに……」
「いや……」
言わずと知れた事ではあるが、映姫は閻魔だ。下手に逆らえば死後どうなるかわかったものではない。
「しかしですね閻魔様……」
「映姫。敬語も止めて下さい」
「……しかしだね映姫。毎日の様に掃除をしていれば、読書をする時間が無くなってしまうだろう」
「その読書をする時間が他の事をする時間を食い潰しているのだと貴方は実感するべきです」
「しかし、本とは知識の塊だ。その書物を一冊読むだけで得られる知識は限られているかもしれない。だがそこから考察を巡らせる事で、その書物が本当に伝えたかった事に辿り着ける事もある。その場合に得られる知識は計り知れないものなんだよ」
「……貴方の読書の時間がやたらと長い理由が分かった気がします」
「分かってくれたならもう言わないでくれよ?」
「……まぁ、百歩譲ってそれは許せたとしてもです。本を読む冊数を一冊か二冊程減らして、その時間毎日埃を払うだけでも効果は得られるでしょう。読書を止めろとは言いません。ですが、掃除も大事な事なのです」
分かりますか?と映姫は付け足す。
「……善処させてもらうよ」
「ん。それでいいのです」
言うと、映姫はにっこりと笑う。
「おや」
「ん、どうかしましたか?」
「いや、随分と珍しいものを見たと思ってね」
閻魔の笑顔とは随分と珍しいものだ。
普段から誰構わず説教をしている彼女は、自然と厳ついイメージを持ちがちになる。だがこうしている所を見ると、矢張り彼女も一人の少女なのだと思い直す。
「珍しいもの……ですか。そんなに珍しいですか?」
「うん?あぁ、君の笑顔は珍しいと思うが?」
「そうですか」
「あぁ。意外と可愛い顔で笑うんだね」
自然とその言葉が口から出た。
実際、彼女も幻想郷の少女であり、少女が笑うと可愛いというのは世の理だ。何処の誰が定めたものかは知らないが。
「――な」
「ん?」
映姫が奇妙な声を上げたと思って見ると、そこには顔を真っ赤にしてうろたえる閻魔様が一人。
「な、な、なぁ……っ」
「映姫?」
「ひゃ、ひゃい!?」
「何をそんなにうろたえて……」
「う、煩いです!どうせ貴方の事です、そんな事微塵も思ってないのでしょう!?」
「何故僕の事と言われているのかは分からないが、思ったのは本当だよ。それに、少女が笑えば可愛いというのは世の理だ」
「へ?……こ、理?」
「あぁ、そうだろう?」
そう言うと、映姫は更に顔を赤らめた。
先程と違う点は、手が震えている所だろう。
喜びに震える様な状況ではない筈だから、この場合は……憤慨、か。
……憤慨?
「……貴方という人は! 以前言ったでしょう、『自分が理解している事が相手も理解しているとは限らない』と!『貴方は少し言葉が足りなさすぎる』と!! もう忘れたのですか!?そんな事では地獄行きにしますよ!?」
「あ、あぁ……済まない」
「貴方の済まないは聞き飽きました!そう言えば許されると思っているのですか!?言葉だけでなく行動に示しなさい!」
「す、すいません……」
怒っている。閻魔が自分相手に本気で怒っている。
その事実から、自然と敬語になる。
「全く、貴方という人は……何度言えば分かるというのですか……」
「………………」
言われ、少し考える。
冒頭付近で述べたが、彼女は週に一度必ず香霖堂を訪れる。そして、その度に僕に説教をしては帰って行く、この繰り返しだ。
そして今日の様に怒気を含んだ言葉で説教してくる時も多々あった。むしろ普通の説教よりも多いのではないだろうか?
これらから導き出される答えは……
「……映姫」
「何ですか。また何か紛らわしい事でも言うつもりですか?」
「いや、そうではないが……一つ、聞きたい事がだね」
「はぁ、まぁいいでしょう。何ですか?」
そして、導き出された結論を確信に変えるべく、僕は問うた。
「僕の事は、嫌いかい?」
そう、これが僕が導き出した結論。
『映姫は僕の事が嫌いなのでは?』だ。
言葉と言うのは、自分の感情を相手に伝える最も有力な手段だ。
それ故、言葉には力……言霊が存在する。
そして言霊に吹き込まれる感情で、その言葉は大きく意味を変える。
一度だけ、彼女が小町に説教している一部始終を見た事がある。
その時の映姫の声は、何と言うか……慈愛を帯びていた。
対し、僕に対する説教には、怒気が含まれていた。
これは僕の事を嫌っていると見ていいだろう。
なら何故、毎週香霖堂を訪れるのか?
それにも当然理由がある。
言っては何だが、この道具屋は半分道楽でやっている様なものだ。しかし、商店には変わりない。
故、映姫は商家としての何たるかを僕に説いているのだろう。
聞く気は微塵も無いが。
さて、話が脇道に逸れてしまった。
映姫は……
「は、はぁあ!?」
……何故、驚いている?
「どうしたんだい?」
「い、いえ。貴方がそんな事を聞いてくるとは思ってもいなかったので。少し驚いただけです」
「あぁ、そういう事かい。……で、どうなんだい?」
「嫌いか、ですか」
そう言うと、映姫は少し考え、言い放った。
「嫌いです」
矢張り。僕の見立ては間違ってはいなかった様だ。
「そうかい」
「えぇ。嫌いも嫌い。大っ嫌いです」
「そう、か……」
「………………」
「………………」
「………………」
……気まずい。
自分から撒いた種なので、何も言えないのがむず痒い。
どうしたものかと悩んでいると、映姫が口を開いた。
「では、今日はもう帰ります」
「ん、帰るのかい?」
「えぇ、私は閻魔、忙しいんです。貴方の様な道楽仕事ではないので」
「………………」
勘定台に置かれた帽子を被りながらそう告げる。
「では、また来週にでも説教をしに来ます。それまで善行を積んでおく事です。詰まなければ地獄に落としますから。では」
言って、映姫は店を出て行ってしまった。
「……参ったな」
地獄に落とすと言われてしまったか。これは善行を積む最後の機会と捕らえていいだろう。
だが以前地底に潜った霊夢と魔理沙から聞いた話では、地底の旧地獄は随分と賑やかな場所らしい。
「……そうだな」
天国は穢れの無い清らかな世界だと聞く。天国の道具に興味はあるが、そんな詰まらない所には一切の興味が無い。
このまま地獄に落ちるのも悪くは無い。が……それはまだ先の話だ。
「……よし」
僕を嫌う閻魔がこの先、どう変わるか。その事にも少し興味がある。
次は御客としてではなく、客人として迎えてみようか。
そんな考えと共に、僕は里に茶菓子を買いに足を進めた。
***
是非曲直庁にある、閻魔の休憩室。
浄瑠璃の鏡や悔悟棒の他、仮眠用のベッドが置いてある。
そのベッドの上で、私はうつ伏せに寝転んでいた。
「あの店主は……」
思い出すだけで怒りが込み上げる。前々から何度言おうと直す心構えすら見せる気配が無い。
だから今日の様な誤解を招くのだ。
「………………」
が、そこで思い直した。
私は彼に言葉が足りないと強く言っている。
だが、それは自分自身もそうなのではないだろうか。
……いや、彼は考察するのを好む。気付いていなくとも違和感ぐらいには感じている筈だ。
「彼は……分かっているのでしょうか」
週に一度の休みの日、彼の元に説教をしに行っている理由が。
私のトレードマークとも言える、あの帽子を店の中では取る理由が。
私があそこで……『閻魔様』と呼ばれたくない理由が。
「………………」
まぁ、いい。
分かっていなければ、来週も行くだけだ。
「……ハァ」
魔法の森の入り口にある古道具屋、香霖堂……
「今日は閻魔は……お休みです」
私が唯一、嘘を吐ける場所。
僕は何時もの様に相変わらず客が来ない店内で店番という名の読書をしていた。
何時もなら、ここで霊夢や魔理沙がやって来るのだろうが……今日は来ないだろう。
その理由は……今日扉の鈴を鳴らす筈だ。
「ん?」
ふと顔を上げると、誰かが此方に向かってくる足音が聞こえた。
普段なら聞こえないような小さな音だが、店の外は無風で葉鳴りの音一つ無い。更に店の中は、今現在僕しか音を出す事の出来る要因は存在しないし、その要因は静かに本を読んでいるだけなのだ。外の小さな音が聞こえてきても、何らおかしくは無い。
そんな事を考えていると、足音が止まった。そして代わりに聞こえてきたのは、扉に取り付けた鈴の音。
「失礼します」
噂をすれば影、とはよく言ったものだ。
「いらっしゃいませ。お客様」
彼女に言われた様に、しっかりと対応をする。
「ちゃんと御客の相手をしているみたいですね。歓心歓心」
どうやら喜んでもらえた様だ。
しかし、彼女は「ですが」と前置きし、
「私にその様な言い方は止めて下さいと言った筈です」
そう、言い放った。
「……分かったよ」
自分から「ちゃんと御客の相手をしろ」と言っておいて、何とも勝手な事だ。
「いらっしゃい。……映姫」
言って、彼女の目を見る。
そこにいるのは幻想郷担当の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥ。
霊夢や魔理沙程ではないが、週に一度必ず香霖堂を訪れる常連だ。
被っている帽子を勘定台の上に置く。彼女曰く「結構邪魔」らしい。
「よ……っと」
茶を入れなおす為に席を立つ。
「その辺の椅子に座っててくれ。今お茶を入れてくる」
「はい、すみません」
言って、店の奥に向かった。
***
茶を入れて戻ってくると、映姫は椅子の上にはいなかった。
「ん?」
変わりに映姫がいたのは、商品を置いている棚の前。
「何か気になる物でもあったのかい?」
「えぇ。……何ですか?これは」
言って、映姫は棚を指差す。
「棚だが?」
「違います!棚ではありません!」
「じゃあ君が指差しているそれは棚以外の何だと?」
「そ、それはそうですが……って!私が言っているのはそう言うことじゃありません!」
「では、どういう事だい?」
「……これです」
言って、映姫は棚の上に指を滑らせる。
指は埃を取り除き、後には埃の無い綺麗な道が出来上がった。
「掃除、しているのですか?」
「……いや」
「それは、何故ですか?」
つつー……と、映姫は再び指を滑らせる。
「それは雰囲気作りであって、決して面倒だと言う訳ではないよ」
「そうですか……」
そう言うと、映姫は指についた埃を払い、こちらに向き直る。
「……ですが」
「………………」
内心、溜息を吐いた。
どうやら、また始まるらしい。
有難いお説教が。
「いくら雰囲気作りの為とはいえ、こんなに埃が溜まっているのは見過ごせません」
「はぁ……」
まぁ最近は余り掃除もしていなかったから、確かに埃は少々溜まっているだろう。
「掃除をしてちゃんと換気もしなければ、御客は見込めませんよ?折角接客態度を改めたというのに御客が来なくては本末転倒です」
「まぁそれは……」
「でしょう?」
そう言うと、映姫はだからと付け足し、
「ですから、これからはもう少しお店の清掃を心がける事。それが今の貴方に積める善行です」
「……ハァ」
「(ムスッ)……なんですかその溜息は。人が貴方の為を思って言っていると言うのに……」
「いや……」
言わずと知れた事ではあるが、映姫は閻魔だ。下手に逆らえば死後どうなるかわかったものではない。
「しかしですね閻魔様……」
「映姫。敬語も止めて下さい」
「……しかしだね映姫。毎日の様に掃除をしていれば、読書をする時間が無くなってしまうだろう」
「その読書をする時間が他の事をする時間を食い潰しているのだと貴方は実感するべきです」
「しかし、本とは知識の塊だ。その書物を一冊読むだけで得られる知識は限られているかもしれない。だがそこから考察を巡らせる事で、その書物が本当に伝えたかった事に辿り着ける事もある。その場合に得られる知識は計り知れないものなんだよ」
「……貴方の読書の時間がやたらと長い理由が分かった気がします」
「分かってくれたならもう言わないでくれよ?」
「……まぁ、百歩譲ってそれは許せたとしてもです。本を読む冊数を一冊か二冊程減らして、その時間毎日埃を払うだけでも効果は得られるでしょう。読書を止めろとは言いません。ですが、掃除も大事な事なのです」
分かりますか?と映姫は付け足す。
「……善処させてもらうよ」
「ん。それでいいのです」
言うと、映姫はにっこりと笑う。
「おや」
「ん、どうかしましたか?」
「いや、随分と珍しいものを見たと思ってね」
閻魔の笑顔とは随分と珍しいものだ。
普段から誰構わず説教をしている彼女は、自然と厳ついイメージを持ちがちになる。だがこうしている所を見ると、矢張り彼女も一人の少女なのだと思い直す。
「珍しいもの……ですか。そんなに珍しいですか?」
「うん?あぁ、君の笑顔は珍しいと思うが?」
「そうですか」
「あぁ。意外と可愛い顔で笑うんだね」
自然とその言葉が口から出た。
実際、彼女も幻想郷の少女であり、少女が笑うと可愛いというのは世の理だ。何処の誰が定めたものかは知らないが。
「――な」
「ん?」
映姫が奇妙な声を上げたと思って見ると、そこには顔を真っ赤にしてうろたえる閻魔様が一人。
「な、な、なぁ……っ」
「映姫?」
「ひゃ、ひゃい!?」
「何をそんなにうろたえて……」
「う、煩いです!どうせ貴方の事です、そんな事微塵も思ってないのでしょう!?」
「何故僕の事と言われているのかは分からないが、思ったのは本当だよ。それに、少女が笑えば可愛いというのは世の理だ」
「へ?……こ、理?」
「あぁ、そうだろう?」
そう言うと、映姫は更に顔を赤らめた。
先程と違う点は、手が震えている所だろう。
喜びに震える様な状況ではない筈だから、この場合は……憤慨、か。
……憤慨?
「……貴方という人は! 以前言ったでしょう、『自分が理解している事が相手も理解しているとは限らない』と!『貴方は少し言葉が足りなさすぎる』と!! もう忘れたのですか!?そんな事では地獄行きにしますよ!?」
「あ、あぁ……済まない」
「貴方の済まないは聞き飽きました!そう言えば許されると思っているのですか!?言葉だけでなく行動に示しなさい!」
「す、すいません……」
怒っている。閻魔が自分相手に本気で怒っている。
その事実から、自然と敬語になる。
「全く、貴方という人は……何度言えば分かるというのですか……」
「………………」
言われ、少し考える。
冒頭付近で述べたが、彼女は週に一度必ず香霖堂を訪れる。そして、その度に僕に説教をしては帰って行く、この繰り返しだ。
そして今日の様に怒気を含んだ言葉で説教してくる時も多々あった。むしろ普通の説教よりも多いのではないだろうか?
これらから導き出される答えは……
「……映姫」
「何ですか。また何か紛らわしい事でも言うつもりですか?」
「いや、そうではないが……一つ、聞きたい事がだね」
「はぁ、まぁいいでしょう。何ですか?」
そして、導き出された結論を確信に変えるべく、僕は問うた。
「僕の事は、嫌いかい?」
そう、これが僕が導き出した結論。
『映姫は僕の事が嫌いなのでは?』だ。
言葉と言うのは、自分の感情を相手に伝える最も有力な手段だ。
それ故、言葉には力……言霊が存在する。
そして言霊に吹き込まれる感情で、その言葉は大きく意味を変える。
一度だけ、彼女が小町に説教している一部始終を見た事がある。
その時の映姫の声は、何と言うか……慈愛を帯びていた。
対し、僕に対する説教には、怒気が含まれていた。
これは僕の事を嫌っていると見ていいだろう。
なら何故、毎週香霖堂を訪れるのか?
それにも当然理由がある。
言っては何だが、この道具屋は半分道楽でやっている様なものだ。しかし、商店には変わりない。
故、映姫は商家としての何たるかを僕に説いているのだろう。
聞く気は微塵も無いが。
さて、話が脇道に逸れてしまった。
映姫は……
「は、はぁあ!?」
……何故、驚いている?
「どうしたんだい?」
「い、いえ。貴方がそんな事を聞いてくるとは思ってもいなかったので。少し驚いただけです」
「あぁ、そういう事かい。……で、どうなんだい?」
「嫌いか、ですか」
そう言うと、映姫は少し考え、言い放った。
「嫌いです」
矢張り。僕の見立ては間違ってはいなかった様だ。
「そうかい」
「えぇ。嫌いも嫌い。大っ嫌いです」
「そう、か……」
「………………」
「………………」
「………………」
……気まずい。
自分から撒いた種なので、何も言えないのがむず痒い。
どうしたものかと悩んでいると、映姫が口を開いた。
「では、今日はもう帰ります」
「ん、帰るのかい?」
「えぇ、私は閻魔、忙しいんです。貴方の様な道楽仕事ではないので」
「………………」
勘定台に置かれた帽子を被りながらそう告げる。
「では、また来週にでも説教をしに来ます。それまで善行を積んでおく事です。詰まなければ地獄に落としますから。では」
言って、映姫は店を出て行ってしまった。
「……参ったな」
地獄に落とすと言われてしまったか。これは善行を積む最後の機会と捕らえていいだろう。
だが以前地底に潜った霊夢と魔理沙から聞いた話では、地底の旧地獄は随分と賑やかな場所らしい。
「……そうだな」
天国は穢れの無い清らかな世界だと聞く。天国の道具に興味はあるが、そんな詰まらない所には一切の興味が無い。
このまま地獄に落ちるのも悪くは無い。が……それはまだ先の話だ。
「……よし」
僕を嫌う閻魔がこの先、どう変わるか。その事にも少し興味がある。
次は御客としてではなく、客人として迎えてみようか。
そんな考えと共に、僕は里に茶菓子を買いに足を進めた。
***
是非曲直庁にある、閻魔の休憩室。
浄瑠璃の鏡や悔悟棒の他、仮眠用のベッドが置いてある。
そのベッドの上で、私はうつ伏せに寝転んでいた。
「あの店主は……」
思い出すだけで怒りが込み上げる。前々から何度言おうと直す心構えすら見せる気配が無い。
だから今日の様な誤解を招くのだ。
「………………」
が、そこで思い直した。
私は彼に言葉が足りないと強く言っている。
だが、それは自分自身もそうなのではないだろうか。
……いや、彼は考察するのを好む。気付いていなくとも違和感ぐらいには感じている筈だ。
「彼は……分かっているのでしょうか」
週に一度の休みの日、彼の元に説教をしに行っている理由が。
私のトレードマークとも言える、あの帽子を店の中では取る理由が。
私があそこで……『閻魔様』と呼ばれたくない理由が。
「………………」
まぁ、いい。
分かっていなければ、来週も行くだけだ。
「……ハァ」
魔法の森の入り口にある古道具屋、香霖堂……
「今日は閻魔は……お休みです」
私が唯一、嘘を吐ける場所。
しかしこの映姫様は可愛いなぁ
映姫様はかわいい!
甘いかっていったら・・・甘酸っぱいって感じかな?
ほら、休みで思いっきり遊ぶぞー……な気分の時に急な仕事とか入ったらムカッてきますよね?
あれの上位版ですw
>>投げ槍 様
……前作の影響なんです。えぇ。
可愛かったですか!良かった……
>>3 様
そうですね。何時ものリクエストと同じ感覚で投稿してしまいました。
以後気をつけます。すいませんでした。
>>4 様
成程、これが恋の味ですかw
読んでくれた全ての方に感謝!
最後の一言が、とても綺麗にお話を終わらせていて素敵でした。
そしてこの小町はww
自分でも綺麗に終わらせれたかなーって不安だったんで安心しましたw
小町は……あのシリーズの影響でしょうね。えぇ。
読んでくれた全ての方に感謝!