Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

眼鏡

2010/09/11 23:09:03
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「霊夢さんって、お洒落とか興味無いんですかー?」
「は? 何よ突然?」

 文の言葉に、霊夢は首を傾げる。
 博麗の巫女とはいえ、年頃の女の子。少しは服やアクセサリー、髪型や化粧などに興味を持ってもおかしくはない。しかし、文は霊夢が化粧しているところや、アクセサリーをつけているところ、巫女服以外の私服を見たことが無かった。

「別に。お金の無駄だし、そもそも何をどうすればいいか分からないし」

 霊夢は特に興味無さそうに、卓袱台の上にある煎餅を手に取り齧る。定番のしょうゆ味だ。美味しいのか、頬を緩めている。
 その頬を、むにーんと引っ張る文。
 もちろん、霊夢はその手を払う。

「もう、何すんのよ?」
「何すんのよ、じゃないですよ。お洒落の話してる最中に煎餅食べるって、もうお洒落の欠片もないじゃないですか。霊夢さんは、お洒落すればもっともっと魅力的になると思うのです」
「興味無いわ。可愛い服と煎餅、どっちか選べって言われたら、私は迷わず煎餅を取る自信がある」
「そんな自信、からっぽの賽銭箱にでも捨てて下さいな。へぶふぁ!?」
「殴るわよ?」
「殴ってから言わないで下さい……いたた」

 笑顔だが、なんとなく漫画みたいに怒りマークが、霊夢の頭にあるように見えた。
 文は殴られた頬を手でさすり、霊夢をジッと見る。その視線は、霊夢の足から頭のてっぺんまで、じっくりと絡みついているように思えた。

「な、何よ?」
「よし、霊夢さん、お洒落しましょうか」
「はぁ? だからしないってば。大体、アクセサリーとかそういうもの、私には似合わないわよ」
「ふっふっふ、霊夢さん。今の世の中、ペンダントや指輪などだけがお洒落アイテムじゃないのですよ」
「他には、服とか? 服だって私、そんなに持ってないし……」
「いえいえ、服もそうですが、他にもお洒落アイテムはあります」
「何よ? 勿体ぶってないでハッキリと言いなさいよ」

 ニヤニヤとした笑みを浮かべる文に、何か嫌な予感がしつつも、霊夢は訊ねる。

「それは……ずばり、眼鏡です!」
「え? 眼鏡って、霖之助さんがかけてるような、あの眼鏡? 私、別に目悪くないわよ?」
「眼鏡は眼鏡ですが、お洒落眼鏡ですね。今では目が良い人でも、度の入ってない眼鏡をかけて、ファッションの一つとして取り入れたりするのです」
「へぇ……でも、眼鏡なんて私には――」

 似合わない。そう言おうとした霊夢を、文は荷物を担ぐのと同じように、ひょいっと肩に担ぐ。
 そして、妖しい笑みを浮かべて、部屋を飛び出す。
 突然の展開に、わけが分からない霊夢。とりあえず、暴れることにした。

「ちょ、降ろしなさいよ! おーろーせー!」
「はいはい、良い子だから暴れないで下さいねー」
「大体何処に連れてくのよ! この人攫い!」
「私の家です」
「は?」

 それ以上、文は何も言わなかった。
 空高く飛び、恐怖を覚えるくらいの速度で翔る。
 抵抗が無駄だと悟った霊夢は、大きなため息を一つだけ吐いて、そのまま身を任せることにした。ここで下手に抵抗して、二人とも怪我をしても困る。それに、文から抜け出すことは容易ではない。大人しくすることが、今は一番だった。





◇◇◇





「さぁ、まぁ気楽にそこらへん座って下さいな」
「あんたの家って、初めて来たわ。意外に綺麗ね」
「割と綺麗好きなんです。ごちゃごちゃっとしていると、どうも落ち着かなくて」

 文の室内は、まさに和という言葉が似合う。
 床は畳、そして木製の箪笥や卓袱台。一つだけ、大きな机がある。少し古びたその机は、長い間愛用していることが良く分かった。机の上には、何やらたくさんの資料や写真、新聞が重ねて置いてある。恐らく、普段はその机で記事を練っているのだろう。

「じゃーん! 眼鏡ですよ!」
「……なんでそんな物持ってるのよ」
「以前人里の眼鏡屋さんを宣伝したら、お礼に少し貰いました。もちろん、伊達眼鏡ですけど」
「どんな眼鏡屋よ……」
「さぁ、どれでもお好きなものを着けてみてください!」

 数種類の眼鏡が、霊夢の前に差し出された。
 黒縁の丸眼鏡、四角いフレームの赤眼鏡、そして何故かモノクルまである。
 霊夢は戸惑ったが、とりあえず丸眼鏡を手に取り、装着した。少し幼くなったような、そんな見た目になった。
文は思わず、言葉を発することを忘れ、ただひたすらこのレアな状況をカメラに収めるべく、シャッターを切りまくっていた。

「ちょ、なんで無言で写真撮ってるのよ! あ、こら、撮るなぁ! な、何か言いなさいよ!」
「良いですね、その少し不安そうな表情! 似合ってるかな、変じゃないかな、みたいなおどおどオーラが目に見えるようです! あはははははは! 良い! 可愛いじゃないですか!」
「ひとまずお前は落ち着け!」
「ごふぁっ!?」

 テンションが上がりすぎて明らかにおかしくなっていた文を、博麗霊夢流妖怪退治武術の回し蹴りで落ち着かせた。
 回し蹴りは脇腹に綺麗に入り、文は床でごろごろとのたうち回っている。
 少しして、がばっと起き上がる。やはり妖怪だからか、回復が早かった。

「すみません、少し冷静さを失ってましたね」
「少しどころじゃなかったけどね。気持ち悪いくらいに笑ってたし」
「まぁ過ぎたことですし、水に流してあげますよ」
「え? なんであんたが上から目線なの? 普通それ私の台詞よね?」
「霊夢さん、ちょっとしつこいですよ? そんな細かいこと気にしていたら、成長できませんよ。主にその貧相な胸とか可哀想な胸とか残念な胸とか」
「張り倒すぞ鴉」
「おぉ怖い怖い。あ、次はそっちの掛けてみて下さいね」

 霊夢は全力で殴ってやろうかと考えたが、それはそれで文の思うつぼになりそうなので、ぎりぎり堪えた。
 次に、四角いフレームの眼鏡を装着する。さっきの眼鏡とはまた違い、少し賢そうな、そんな印象を文に与えた。

「ふむ、さっきのを可愛いとすると、こちらは格好良いって感じですかね」
「自分じゃよく分からないけど……」
「良くお似合いですよ。というわけで、また一枚カシャッと」
「あ、こら!」

 文がカメラを構えたのを見て、霊夢は慌てて手を伸ばすがもう遅い。カシャッと言うカメラ独特の音と共に、眼鏡を掛けた霊夢の慌てた姿が写真に収められた。
格好良いはずなのに、その慌てた様子はどこか、少し幼さを漂わせていた。

「あー今日は最高の日かもしれません」
「新聞に載せたりしたら、全力で退治するからね」
「そんなことしませんよ。これは私だけのものです。霊夢さんのこんなレアな姿、他の誰にも見せる気起きませんよ」
「……珍しいわね。いつもなら、こういうネタになりそうなこと大好きなくせに」
「いやーこれはちょっと、なんか他の人に見せるのは勿体ないなと! 私だけのもの、ってなんか良くないですか?」
「いや、私に訊かれても困るけど……。まぁ、あんたが他の誰にも見せないって言うのは、私にとっても良いことだし。じゃあこれは、私とあんただけの秘密よ? 絶対に写真ばらまいたりとか、そういうことしないでよね?」
「はい、もちろんです。私はこれでも約束を破ったことは一度もないので、ご安心を」
「嘘くさ……」

 営業スマイル以上の、とても良い笑顔で文は言った。が、逆にそれが、霊夢にとっては嘘臭く見えてならなかった。
 ジーッと、睨むように文を見つめる。
 文はその視線に気付き、思わず苦笑いを浮かべてしまう。頬を人差し指でぽりぽりと掻き、あははと笑った。

「わ、私そんなに信用ありませんかね?」
「普段の自分の言動、思い返してみなさいよ。それで信頼を得ていると思っているなら、あんたはとんでもないくらいに、おめでたい頭してるわよ」
「うぐぅ……そこまで言わなくても。第一、私と霊夢さんは、地底を一緒に潜り異変を解決した仲じゃないですかっ!」
「実際潜ったのは私で、あんたは私を良いように使っていただけよね」
「うぐぐぅ……そ、そんなことないですもん! わ、わわ私は霊夢さんを信頼していたからこそ、一人で行かせたのであってですね。そ、それに私ちゃんとサポートしましたし!」
「むしろあんたのサポートのせいで、事故りまくってた記憶があるんだけど?」
「ぐふぁ!?」

 霊夢の一言が、見事文にとどめを刺した。
 その場に膝から崩れ落ちる。無駄にオーバーリアクションだ。そして、演技派だ。しばらく突っ伏したまま動かない。
 霊夢は、少し言いすぎたかな、とちょっと罪悪感。

「えっと、文、起きなさいよ」
「私は酷く傷付きました。どれくらい傷付いたかと言うと、数十年一緒に過ごした家族にある日突然、お前は本当の子じゃあないからくたばれ、と言われた子どもくらい、傷付きました」
「それは中々にダメージ大きいわね。あーもうっ、子どもみたいに足ばたつかせないの!」
「ぶーぶー! 霊夢さんのばーかー!」
「なんで幼児化してるのよ! だから足ばたつかせない! その、えっと、ばたつかせすぎて下着見えてるから!」
「霊夢さんのえっちーへんたいー誰か助けてくださいー霊夢さんに襲われちゃいますー」
「っ!」

 わざとらしく棒読みで、そしてキャーキャーと煩い文に、霊夢はとうとう――



 ~少女お仕置き中~





「いや、本当すみませんでした。調子乗りました」
「反省した?」
「ごめんなさい」

 数分後、そこにはボロボロになった文がいた。
 霊夢の博麗式お仕置きコースをくらって、反省したようだ。今は正座でぷるぷると震えている。しかし、何故か表情は笑顔。それがまた、恐ろしい。どんなお仕置きをされたかは、霊夢と文しか知らない。

「よろしい。今回は許してあげるわ」
「わぁい! それじゃあ、次はモノクルを。さぁ、早くしてくださいよ。こっちは写真撮る準備万端なんですから!」
「反省の色がまったく見えないんだけど?」
「気のせいですよ、多分。そんなことより、さぁ、早く!」

 もうすっかり反省の色が見えなくなった文に、霊夢はため息を零した。
 これ以上怒ったりしたところで、文には効果がないだろう。それが今までの付き合いで分かっている霊夢は、大人しくモノクルを手に取った。

「えっと、これってどうやって……」
「あぁ、これはこうやってですねー紐でかけるタイプでしてー」

 霊夢は、モノクルなんて今まで一度も触ったことがない。そのため、どうやって装着すればいいのか分からなかった。適当にいろいろ試して、自分で装着するという方法もあったのだが、それをやってもしも壊してしまったら、申し訳ないという気持ちがあった。
 仕方なく、文に装着してもらう。文の手が耳や髪に擦れ、霊夢は少しくすぐったさを感じた。

「ん、どうかしら?」
「霊夢さん、私の嫁に来ませんか?」
「モノクルで!?」

 モノクルを装着した霊夢は、いつもとは全く違う雰囲気を纏っている。先ほどの四角いフレームも、中々に知性的だったが、モノクルはそれ以上だった。
霊夢がモノクルをかけているという、そのアンバランスなギャップから生まれる可愛さが、確かにそこには存在した。もちろん、知性的な雰囲気も生まれている。つまり、可愛い上に知性的。さらに、霊夢の普段を知っている文からすれば、このギャップは洒落にならないくらいに大きかった。
文は思わずニヤニヤとしてしまいそうになるが、それを必死に抑えて、カメラのシャッターを切る。

「えっと、似合ってるの?」
「似合ってると言いますか、もうヤバイです。軽く兵器ですね。責任とって、私と結婚しましょう」
「寝言は寝て言えバカラス」
「いや、でも本当、可愛いですよ。それに格好良いです。んー……やはり、霊夢さんという素材が良いからでしょうか」
「褒められて悪い気はしないけど、文は似合わなかったの?」
「うーん、一度着けたんですけど、ちょっと私には合わなかったと言いますか……」

 苦笑い気味にそういう文だったが、霊夢は文だって似合うのではないだろうかと思った。
 霊夢はモノクルを外す。そして、文に差し出した。

「あんたも掛けてみてよ」
「え? いやー、私はモノクルは遠慮しておきますよ」
「そう? じゃあ、こっちの四角いやつ」
「遠慮しておきます」
「じゃあ、丸い――」
「遠慮しておきます」
「……なんでよ?」
「眼鏡を掛けた自分の顔は、あまり好きじゃないんですよ。自分じゃないような気がして」
「私には掛けさせたくせに」
「あははー良いじゃないですか。霊夢さんは似合ってますからっ」

 そう言われても、霊夢は納得できない。
 ぐいぐいと眼鏡を押し付ける。
 いやいややめてください、と文。
 掛けろやこら、と霊夢。

「やですー!」
「あぁもうっ、なんでそんなに嫌なのよ?」
「だって、その……ちょっと恥ずかしいじゃないですか」
「何を恥ずかしがってるのよ。良いじゃない、ちょっとくらい」
「とうっ!」
「あ、こら!?」

 勢いよく外に飛び出し、逃げる文。しかし、霊夢の投げた針が文の後頭部にぷすっと。文はその場にぱたりと倒れる。

「い、いくらなんでも頭は酷いかと……」
「妖怪だから大丈夫でしょ。逃げるあんたが悪い。さぁ、掛けてもらおうかしらー。あ、もちろん写真も撮ってあげるからね」
「酷い! 鬼! 悪魔! 貧乳腋巫女!」
「よし、もう容赦しない」
「きゃ、きゃああああああああああああ!」

 文の珍しく可愛らしい悲鳴が、妖怪の山に響いた。
 眼鏡を掛けた文が、どういうものだったかは、文と霊夢しか知らない。
 
9月になりましたねー。それでも、まだ暑かったりしますけど。体調が崩れそうで崩れない、そんなギリギリな最近です。みなさんも、体調管理には気をつけましょう。
今回は、眼鏡+あやれいむでした。先日、ちょっとあやれいむなお祭りをやっていたとき、振られたネタでした。
文ちゃんも霊夢も、眼鏡かけたら、さらに格好良くなったり可愛くなったりしそうな気がします。
さて、そんなこんなではありますが、少しでも楽しんでもらえたなら、嬉しいです。
喉飴でしたー!
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
コメント



1.削除
ヒャッハー!久々の喉飴様のあやれいむだぁ!
相変わらず霊夢は可愛いなぁ……
文ちゃんも最高に可愛いなぁ……
総じて可愛いなぁああもうさっさと結婚しろこの野郎!!!
今回も最高でした!いい物を見せていただき、有難う御座いました!!!
2.拡散ポンプ削除
素晴らしいあやれいむでした。にやにや
3.ぺ・四潤削除
定番のドタバタあやれいむ!和むなぁ……
このいつまでたっても進展しない二人がホント可愛い。
4.奇声を発する程度の能力削除
眼鏡姿のあやれいむのイラストが凄く見たい!
とっても良かったです!
5.名前が無い程度の能力削除
会長のあやれいむはやはり素晴らしいですな…
どったんばったんしてるのがとても似合う二人。
めがね霊夢とめがねあややが軽く想像できた!

ところで、博麗式お仕置きコースの詳細を所望したいですよ?
6.オオガイ削除
ニヤニヤさせていただきました。感謝。
お二人がとても可愛らしくて悶絶しておりました。
良いあやれいむでした。(モノクルを検索したのは私だけだろう)
近頃は温度変化も激しいので御身体気をつけて下さい。
7.ケトゥアン削除
お疲れ様です。
眼鏡…か。ふむ…
…はっ!え、影響されたりなんてしませんからねっ!
一回霊夢にお洒落させようとして挫折したのを思い出しました。
きれいにまとめてくる辺り、さすがです。
お体を大切に、頑張ってください!
8.なるるが削除
自分は正直ファッションで眼鏡をかける人は嫌いでしたが…
この二人なら許せる…だって可愛いんですから。
この時期は特に体調にお気をつけ、どうかご自愛ください。
…ところでモノクルってなんだろう。
9.名前が無い程度の能力削除
着実にふたりだけの思い出が増えていってますねー、ほかの貧乳巫女目当ての娘さん達もうかうかしてられませんぞ!
10.名前が無い程度の能力削除
文ちゃんは絶対似合うだろうなぁ眼鏡。
二人だけの秘密とか、さらっと言えるこの二人が大好きです。
喉飴さんも風邪引かないようにしっかり睡眠とってくださいね。
11.喉飴削除
>>唯様
割と久し振りな感じ、あやれいむでしたー。
楽しんでもらえてなによりです。

>>拡散ポンプ様
ありがとうございますっ!

>>ぺ・四潤様
この二人はこんな距離感が似合うと思います。

>>奇声を発する程度の能力様
私に無茶振りした絵師様が多分描いてくれますよ、えぇ。

>>5様
お仕置の詳細は……あまりにも過激なので御想像にお任せしますw

>>オオガイ様
ありがとうございます。
私は体が弱いので、気をつけます。

>>ケトゥアン様
ありがとうございますっ。
無理しない程度に頑張ります!

>>なるるが様
可愛いは正義です!
モノクルは片眼鏡ですよー。

>>9様
霊夢さんと文さんが一番近しい関係って信じてます。

>>10様
文さん似合いそうですよねw
最近あまり寝てないので、気をつけますっ!
12.名無し削除
さっさと結婚するべき
13.けやっきー削除
>じゃあこれは、私とあんただけの秘密よ?
この一言に、二人の仲の良さがはっきりと見えました。
にやにや。