神社からは、風景を臨む事ができる。
石畳が広がる境内と、何段かの石段。
開けた空間と、地上を見下ろす高さがあれば、空を飛ばずとも自ずと風景は広がるのである。
「……春、ねぇ」
いつもの縁側でお茶をすすりながら、霊夢は呟いた。
春雪異変……
5月過ぎまで長く続いた冬も、異変の解決と共に雪解けが近づいてきた。
待ちわびた春のようやくの兆しに、街も賑わいを見せているようだ。
残念ながら神社からはその様子を伺い知ることはできないが、
僅かながらに増えた参拝客の言葉の端々からも、その賑わいは伝わってくる。
「賽銭はいつも通りシケてるんだけどね」
変わらない事だって、ある。
「はぁ……」
仰ぎ見る空、まだ少し暗い空の中に、流れる雲が見える。
その深い藍色に、心奪われる。
見下ろす地上、遠く霞んだ風景。
春の兆しを受けて、多くの命の芽生えを感じる。
「……寒い」
朝の境内は、まだまだ冷え込みが厳しい。
長き冬は、最後の抵抗を見せているようだ。
「あ……」
ぱぁっ……と、
光が広がった。
霞にぼやけて、揺れる世界。
朝焼けに染まり、鮮やかに空気を変えていく。
「きれいねぇ……」
しばし見とれる。緑を深める木々と、霞にけぶる朝焼け。
見慣れすぎた雪の景色の後だけに、その光景は幻想的ですらあった。
「きゃ……」
ぶわっ……と、
風が吹き抜けた。
暖かい南風、春の始まりを告げるぬくもり。
浴びる砂埃に目をぱちくりさせながら、霊夢は呟いた。
「春一番……、かな」
「いい風だったぜ」
風に乗って、白黒の魔法使い。
手に持つ箒と共に、神社を訪れた。
「こんな時間から表に出ているとは、お前らしくないじゃないか、霊夢」
「あんただって朝から空の散歩なんてキャラじゃないんじゃない、魔理沙」
「春だからな。私だって浮かれる時くらいあるんだぜ?」
「あんたは年中お祭り状態の浮かれっぱなしじゃないの」
「頭が年中春続きの巫女には言われたくないぜ」
たわいもない、口論。
「……あ!!」
「どうしたんだ……あぁ……!」
叫ぶ霊夢、振り向く魔理沙。
眼下に広がる風景は、明るさを増していて。
一面の花が、そこには狂い咲いていた。
「春告精……か!」
見上げた空に、小さな妖精。
ほんのわずかな瞬間、一面に春を実らせて、飛び去っていった。
「花もいつもよりあざやかに見える……」
「今年の春は短いから、懸命に咲いているのかもな」
狂い咲き、まさしくそういった雰囲気だった。
求めるは久遠の春、だが今は5月も半ば。
おそらく半月も経たずして夏の気配が近づくのだろう。
夢は、叶わない。
「……花は散るから美しいのだがな」
「哀しき生命ね」
「……だが、悪くないと思うぜ」
二人は、ゆっくりとあたりを見渡した。
ここぞとばかりに、狂い咲く花々。
本来は既に散っていてもおかしくない時期。
最後の、命の残り火。魂の成れの果て。
花が咲く あざやかに
石畳が広がる境内と、何段かの石段。
開けた空間と、地上を見下ろす高さがあれば、空を飛ばずとも自ずと風景は広がるのである。
「……春、ねぇ」
いつもの縁側でお茶をすすりながら、霊夢は呟いた。
春雪異変……
5月過ぎまで長く続いた冬も、異変の解決と共に雪解けが近づいてきた。
待ちわびた春のようやくの兆しに、街も賑わいを見せているようだ。
残念ながら神社からはその様子を伺い知ることはできないが、
僅かながらに増えた参拝客の言葉の端々からも、その賑わいは伝わってくる。
「賽銭はいつも通りシケてるんだけどね」
変わらない事だって、ある。
「はぁ……」
仰ぎ見る空、まだ少し暗い空の中に、流れる雲が見える。
その深い藍色に、心奪われる。
見下ろす地上、遠く霞んだ風景。
春の兆しを受けて、多くの命の芽生えを感じる。
「……寒い」
朝の境内は、まだまだ冷え込みが厳しい。
長き冬は、最後の抵抗を見せているようだ。
「あ……」
ぱぁっ……と、
光が広がった。
霞にぼやけて、揺れる世界。
朝焼けに染まり、鮮やかに空気を変えていく。
「きれいねぇ……」
しばし見とれる。緑を深める木々と、霞にけぶる朝焼け。
見慣れすぎた雪の景色の後だけに、その光景は幻想的ですらあった。
「きゃ……」
ぶわっ……と、
風が吹き抜けた。
暖かい南風、春の始まりを告げるぬくもり。
浴びる砂埃に目をぱちくりさせながら、霊夢は呟いた。
「春一番……、かな」
「いい風だったぜ」
風に乗って、白黒の魔法使い。
手に持つ箒と共に、神社を訪れた。
「こんな時間から表に出ているとは、お前らしくないじゃないか、霊夢」
「あんただって朝から空の散歩なんてキャラじゃないんじゃない、魔理沙」
「春だからな。私だって浮かれる時くらいあるんだぜ?」
「あんたは年中お祭り状態の浮かれっぱなしじゃないの」
「頭が年中春続きの巫女には言われたくないぜ」
たわいもない、口論。
「……あ!!」
「どうしたんだ……あぁ……!」
叫ぶ霊夢、振り向く魔理沙。
眼下に広がる風景は、明るさを増していて。
一面の花が、そこには狂い咲いていた。
「春告精……か!」
見上げた空に、小さな妖精。
ほんのわずかな瞬間、一面に春を実らせて、飛び去っていった。
「花もいつもよりあざやかに見える……」
「今年の春は短いから、懸命に咲いているのかもな」
狂い咲き、まさしくそういった雰囲気だった。
求めるは久遠の春、だが今は5月も半ば。
おそらく半月も経たずして夏の気配が近づくのだろう。
夢は、叶わない。
「……花は散るから美しいのだがな」
「哀しき生命ね」
「……だが、悪くないと思うぜ」
二人は、ゆっくりとあたりを見渡した。
ここぞとばかりに、狂い咲く花々。
本来は既に散っていてもおかしくない時期。
最後の、命の残り火。魂の成れの果て。
花が咲く あざやかに
楽しみにしてます
白トカゲさん大好きでしょうがなかったので、少しだけ頑張って書いてみました。
紅楼夢か冬コミあたりで新作出るのでしょうか…。楽しみですね。
>奇声を発する程度の能力 さん
かなり好き嫌いがハッキリと分かれる方ですが、ハマる人には最高にハマります。是非。
その雰囲気がとても伝わってきて、いい感じでした。
あぁ、まだ春は遠いなぁ…