「はぁ・・・。」
そう溜息をついてトボトボと歩く少女の名は犬走椛。
妖怪の山に住む哨戒天狗であるが、どういうわけか今は人里にいる。
彼女にだって休暇はあるし、妖怪の山に常にいないといけない訳ではない。
ただ、何か悩みがあるらしく、こうして時々溜息をつきながら徘徊しているわけである。
だが、彼女も流石に歩きっぱなしは疲れたらしい。
ふと、顔を上げてみると、一軒の茶屋。
ここで一服しようか。
そう考え、椛は暖簾を潜った。
中はお昼時ともあって、満席のようだ。
あぁ、気分も優れない上に、満席か・・・。
そう考えながら店の中を見渡していると。
「おや、君は確か妖怪の山の哨戒天狗の・・・。」
その声に振り返ってみる。
店の外に設置してある席に座っているのは。
「えっと・・・。貴方は確か八雲藍さんですよね。」
そこにいたのは、幻想郷の大妖怪、八雲紫の式、藍であった。
耳を隠しているような形をした帽子。
なによりも目立つ、金色に輝く九つの大きな尻尾。
そんな尻尾を見て。
あぁ、この人なら少なからず私の悩みを理解してくれるかも。
そんな淡い期待を胸に抱き、藍に尋ねてみた。
「あの、もし宜しければ同席してもよろしいでしょうか?」
なにせ、あの大妖怪の式。
そして、自身も九尾を持つだけあって、強力な力を持っている妖怪だ。
遠慮がちになるのは無理はない。
だが、藍はそんなことを気に留めるような妖怪ではない。
「あぁ、構わないよ。どうやら悩みがあるみたいだね。よかったら聞かせてくれないか。なに、遠慮することはない。私も一人で暇だったんだ。私の暇つぶしとでも思ってくれたらいい。」
流石である。
椛が何か悩んでいるのを一瞬で見抜いた。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて。」
椛が店員に頼んだ団子と緑茶が運ばれてくる。
ここの店が出すものはどれも美味しい。
評判の店である。
「で、失礼だが、まず最初に聞いておかないといけないな。」
そう藍が喋り始める。
「宴会の席で顔は見たことある。だが、こうやって直接話すのは初めてだな。一応名前の確認をしておいていいかな。まず、私は八雲藍。さっき、私の名を言ってくれたので知っているとは思うが、とりあえず改めて名乗っておくよ。で、君は確か椛・・・だったよな。」
「あ、はいそうです。犬走椛と申します。・・・宴会の席で見たことあるというだけで私の名前を把握していたんですか?」
「あぁ、これでも紫様の式をやっているのでね。博霊神社の宴会に来ている人妖の名前とかくらいなら把握している。よく、一緒にいる鴉天狗のブン屋たちが喋っているのを聞いてね。」
「あぁ、もしかして文さんとはたてさんですか?まさか山の神社の異変のときに、ほんのちょっと対峙しただけで宴会にまで呼ばれる身になるとは思ってみませんでした。まぁ、文さんが強引に引っ張り出してきたのがきっかけでもあるんですけど。でも流石は藍さんですね。あの大宴会のメンバーを全員把握しているのですか?」
椛が感心したように尋ねると、藍はうっすら微笑み。
「あぁ。ウチのご主人様は何かと霊夢にご熱心でね。何か悪巧みでも考えているのが紛れ込んでいるといけないし。とりあえず、全員の簡単な素性は把握しているんだ。」
ほぅ、と椛が感嘆の吐息を漏らす。
幻想郷の賢者である八雲紫の式をやっていることだけのことはある。
聡明で美人だし、なんか優しそうな方だ。
「で・・・。」
お茶を一飲み。
椛に本題を切り出してくる。
「私でよければ相談にのるが。」
その言葉に、椛が思い切って切り出す。
「あ、あの・・・。藍さんの尻尾って素敵ですよね。」
その言葉に、少し目を丸くした藍は。
「あ、あぁ。そう言ってもらえると嬉しい・・・のかな?私の式に橙っていう黒猫がいるんだが、いつも潜り込んできてね。まぁ、あの娘は私の子供みたなものだから気にしないというか、むしろ喜んでくれて嬉しいんだが・・・。」
そう言って、ふと椛の尻尾を見る。
フサフサしてて良い感じである。
「・・・なるほど。君の悩みというのは、もしかしてその尻尾が原因かい?」
「・・・そ、そうなんです。」
そう、椛の最近の悩みというのは、この尻尾である。
フサフサしてて、触り心地のよさそうな尻尾。
もちろん、椛の自慢でもある。
毎日、手入れは欠かせない。
だが、そんな尻尾に関してある悩みがある。
「・・・つまり、もふもふしてくる輩が多いと。」
溜息をついてそう言う藍。
「そうなんです。ってことは、やっぱり藍さんも。」
「ああ・・・。」
そういって、自分の尻尾を撫でる。
「毎日手入れをしているだけあって、自慢ではあるのだがね。まぁ、紫様くらいならいいか。主人だし。ただ、その、もふもふしてくる奴が多いんだよな。紫様がよく神社に行くから、当然霊夢もことあるごとにもふってきてね。さっきも言った通り霊夢は紫様のお気に入りでね。強くは言えないんだが・・・。ご存知の通り、あそこは様々な人妖が来る。魔理沙、早苗、レミリア、萃香・・・。」
思い出すだけでどっと疲れが出てくる感じの藍。
「そうなんです。私も藍さんほど立派ではないですけど、やっぱしもふもふしてくる人が多いんですよね。文さんやはたてさんは勿論、にとりさんとかも。あと、先ほど藍さんが仰っていた早苗さんや諏訪子さんも来ます。宴会に参加すれば、もう揉みくちゃですよ・・・。アレ、なんとかなりませんかね?」
同じように、疲れたように話す椛。
それに答える藍。
「美鈴や妖夢のように、断りを入れてからもふるんならまだいいんだよ。でもね、突然飛びついてきて揉みくちゃにされるのはちょっと・・・。この前もチルノが突然潜り込んできてね。分かるだろ?あの娘が潜り込んできたらどうなるか。」
「・・・後のお手入れ、さぞかし大変だったんですね。」
椛にも理解はできる。
下手しなくても凍るだろう。
「・・・で、最近耳にした噂なんだがな。」
藍が困ったように話す。
「なんでも、最近『もふもふの会』なるものができているらしい。」
「も、もふもふの会?」
なんなんだ、その会の名前!
嫌な予感しかしないじゃないか!?
そんな椛の表情を見、溜息をついて藍が話を続ける。
「嫌な予感しかしないのは分かる。大方、私たちのような『もふもふ』に目を付けて、何やらよからぬ事を企んでいるに違いない。どうやら噂によると会員はかなりの数らしい。主催者は・・・、分からん。」
戦慄する椛。
もし、その噂が真実だとしたら、大変なことである。
その会の狙いは、間違いなく私たちの尻尾だ。
主催者も、メンバーすらも分からない。
それはつまり、見えない敵と、何時、何処で襲われるか分からないということだ。
「ら、藍さん!私たちはどうすれば!?」
団子(みたらし)をもぐもぐ食いながら焦りを隠せない椛が叫ぶ。
「私も困惑しているんだ。分かると思うが、尻尾の手入れは大変だ。特に揉みくちゃにされたときはな。そう考えると、この会の存在は憂鬱で仕方ない。」
どうにかならんかなぁ・・・。
そう呟いて、お茶を啜る藍。
藍のような聡明な妖怪でも悩むのである。
椛にはどうしようもない事態である。
だからといって、このまま無視することもできない。
「誰かに相談とかできないでしょうか・・・?」
「そうしたいのは山々だが、誰が会員かも分からんのだ。敵味方が判断しづらい。」
これは私たち『もふもふ』を持つものにとっては重大な危機である。
誰が会員かも分からないのでは、迂闊に相談することもできない。
もはや、神にでも祈るしかないのか?
そう椛が考えた、その時!
天が、割れた。
そこから降り注ぐは神々しい光。
人里内が騒然となる。
椛もごくごく飲んでいたお茶を置き、立ち上がる。
この雰囲気、只事ではない!
「ら、藍さん!これは一体・・・!?」
その声が耳に入っているかどうか怪しい様子の藍が立ち上がる。
「こ、この光。この気配。ま、まさか!?」
藍が食い入るように天を見上げる。
藍はこの現象に覚えがあるのか?
椛も光溢れる天を凝視する。
一体何が現れるというのか?
まさか、幻想郷に言い伝わるあの龍神!?
そして。
天から現れたのは。
黒い二つの尻尾。
黒い猫耳。
・・・橙?
だが。
格好がいつもと違う。
真っ白な布のようなものを巻きつけた服は、まるで西洋の神が纏う神秘的なものだった。
その神をも思わせる佇まいは、普段の橙から出すものではない。
なにか、とてつもないオーラを漂わせていた。
その時。
「ち、ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
いきなり、藍が叫び始める。
突然のことに、思わずビクッとなる椛。
「え!?あれ橙ちゃん!?いや、そっくりだけど違うでしょ!なんであんなところから橙ちゃんが現れるんですか!?」
半ばパニックになっている椛が藍に問いただす。
その問いに、藍が興奮したように答える。
「あれは・・・!幻想郷に百年に一度現れるかどうかと言われている伝説のご神体!古くから幻想郷を見守ってきたと言われる伝説を具現化したもの!・・・『橙の神』だ!!」
そう説明し終わると、再び「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」と叫び始める。
何がなんだか分からないといった感じの椛が辺りを見回してみると、他の人々も空を仰ぎ、拝んでいるのが見える。
「橙・・・、橙の神がおいでなすたぞぉ!!」とか、「ついに・・・、ついに我が里にも伝説の御神体が現れなすった!!」とか、「宴ぢゃ!宴の準備をするんぢゃあ!!!」など、人里は騒然としている。
「え?この現象って人里じゃ有名なの・・・?」
橙ちゃんの御神体なんて初めて聞いたんだけど?
てか、橙ちゃんって神様だったの?
いや、あれいつもの橙ちゃんじゃないよね・・・。
ここで、椛は一つの仮説を立ててみた。
橙の『神』ってことはもしかすると『橙』というのは名前と言うよりある種の一族のような名称でもあって本当は猫又の妖怪というより『橙』という妖怪で私の知らない所で大量の『橙族』が集落を作って生活してて雄橙とか雌橙とかに分けられていて爺橙は山に芝刈りに行って婆橙は川に洗濯にいって桃から生まれた桃橙とかが犬橙と猿橙と雉橙を従えて妖怪の山に攻め入り大量の炒り豆を萃香さんにぶつけまくって退治される寸前のところに現れたのが今藍さんの式をやっている橙ちゃんで橙が連れ帰った萃香さんがマヨイガに迷い込む形として紫さんと知り合うようになって友情が育まれてその勇気と功績が認められた橙ちゃんのところに今上空に浮かんでいる『橙の神』が舞い降りて藍さんが崇拝するようになったから今藍さんはあの神様に向かって叫んでいるんですね!!!
そんなことを考えながら自己完結し、再び橙(神ver.)を見る。
とりあえず後光のお陰で椛の千里眼をもってしても下から覗かれても平気であることにホッとし、これから何が始まるのかを固唾を呑んで見守っている。
すると、橙(G・O・D)が天を指差し、お告げが始まった。
『マタタビを漁るなら天をさす!マタタビ吸って吸い過ぎて、吸い抜けたなら我らの勝ち!私を誰だと思っている、私は橙だ!お燐のアネキじゃない!私は私だ! マタタビ橙だ!!』
そうして、お告げが終わった。
そしてそのまま再び上空へと舞い戻っていく(ぼくらの)橙。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええっっ、ゴホッ、ゴホッ!?」
むせる藍。
他の人々も吐血したり過呼吸になりながら必死に祈りを捧げながら叫んでいる。
そして、その姿は見えなくなり、再び天が閉じた。
後光も収まり、元の人里の風景が戻る。
色々な意味で呆然と見ていた椛が我に返り、藍に水と間違えて団子(きな粉)を渡す。
「え、えっと、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ・・・ゴホッ、すまない。こんなときにむせるなんて、私もまだまだ修行が足りないな。」
そういって、団子を口に含む。
どうやら藍も落ち着いたようだ。
「で、なんでまたいきなり神(橙)さまがご光臨なされたんでしょうか?」
しかも上空から。
いや、地中から出現されても困るけど。
「・・・ふむ。もしかしたら、先ほどのお告げに、我々の悩みを打開するヒントがあるのかもしれないな。」
そういって考え込む藍。
・・・今のお告げにヒントが?
・・・。
・・。
いや、全然わからないんですけど。
横でブツブツ呟く藍を見やる。
自慢の明晰な頭脳をフル回転させている。
「ちぇん・・・。
チェン・・・。
もふもふ・・・。
マタタビ・・・。
尻尾・・・。
ボスケテ・・・。
も、ふ・・・!?」
その瞬間!!
藍の脳裏に幾つもの情景がハイスピードで駆け巡る(※作者は時々この現象で鬱になります)!!
「そ、そうか!分かったぞ!!」
藍が再び立ち上がって叫んだ。
そんな藍を見て、椛は流石だと感嘆の吐息を漏らす。
この難解な(倉庫番ゲーム並みのレベルの)お告げに隠された打開策を見事導き出したのだ。
「し、して!その打開策とは!?」
椛が興奮するように問いかける。
「つまりだ。先ほどのお告げと私たちの悩みを掛け合わせると!」
一息つく藍。
そして、こう答えを出した。
「我々も、対抗組織を作り上げるということだ!その名も・・・!」
『もむもむの会』だ!!
もふもふの会?あぁ、私第三支部長ですが何か? w
もむもむの会?興味がありますね、入会申請はどこすれば良いんですか?ww
もむもむの会?私も興味がありますね、何処に(ry
もふもふの会入会特典の『てゐのしっぽもふもふ券』をそろそろ使いたいのですが
>(※作者は時々この現象で鬱になります)
フラッシュバック現象?
もむもむの会? 何をもむのか見当も付きませんな
>藍の脳裏に幾つもの情景がハイスピードで駆け巡る(※作者は時々この現象で鬱になります)!!
あるある
実は、もふもふの会に入ってるなんて言えないっ…!