※前作『幸せの価値』の設定を引き継いでます。
これ単体でも楽しめますが、そちらを読んでからの方が楽しめると思います。
それが面倒だと言う方は、取り敢えず
『慧音と霖之助が付き合ってる』
この設定だけ頭に入れておいてご覧になってください。
では以下よりどうぞ。
木の葉が少し色付き始めた九月の初め。
僕は店内で何時もの様に店番という名の読書をしていた。
今日は珍しい事に、朝から誰も店に来ていない。咲夜のような客や、霊夢や魔理沙といった常連組もだ。
静かに本が読めるのは別に構わないのだが……こうも静かだと、まるで自分以外の生命が全て死に絶えてしまったような錯覚に陥る。
以前はそれでもどうという事は無かったのだが……自分でも気付かない内にあの騒がしさに慣れていたらしい。習慣とは恐ろしいものだ。
そんな事を考えながら本を読み進めていると、本日最初の来客が扉の鈴を通して伝わった。
「おーい、霖之助ー」
修正。客ではなかった。
「やぁ朱鷺子。今日はどういった用だい?」
店に入ってきた少女……朱鷺子は遊びに来ただけーと答えた。
朱鷺子は最初僕に本を返せと迫ってきていたが、僕の書庫に自由に出入りして自由に本を読んで良いと言うと、その本の事はもう言ってこなくなった。尤も、その本も書庫にあるから当然といえば当然なのだが。
因みに、書庫を彼女に公開する条件は、彼女が拾った本を僕にくれるというものだ。後々書庫に入れるので、彼女にとっては何の損も無い。
今日も書庫に行くのだろう。そう思って本に目を戻そうとすると、朱鷺子は店の奥には行かず、僕の所へやって来た。
「よいしょ」
「こら、そんな所に座らないでくれ」
そんな所とは僕の膝の上だ。
朱鷺子は魔理沙より背が小さい。魔理沙が座った時の様に本が読めない事はないが、如何にも読みづらい。
「いーじゃん。今日は何かそーいう気分なの」
「気分の問題なのかい?」
「そ。それに減るもんじゃないし」
「やれやれ……」
そう言われてしまうと僕は言い返せなくなる。実際、何が減るわけでもないのだし。
本が読み難いという点はあるが、そんなものは我慢すればいいだけだ。
というか、僕が我慢する必要は無いのだが……
「ふふーん♪」
……こう背を預けて凭れられると、何とも退かすのが申し訳なく思える。
「……ハァ」
この子はよく分からないな。そう思っていると、朱鷺子が顎に指を当てて細かく動かしてきた。
「うりうり」
「くすぐったいだろう。呼ぶなら他の方法にしてくれ」
「ん、ゴメンゴメン。ねぇ、今日は外に出ないの?」
「……また突然だね。何故だい?」
「んー……何となく」
「……そうかい」
「そー」
この子も鳥頭か。そう思った所で、自分の思考に待ったをかけた。
確かに最近は外に出ていない。霧雨の親父さんの所にも暫く顔を出していないな。
この前顔を出しには行ったが……その日は慧音の家に泊まり、色々あった所為で結局行けず仕舞いだった。
……久しぶりに、顔でも出しに行くか。
「……そうだな」
「ふぇ?」
呟き、朱鷺子を膝から下ろす。
「……むー」
よじよじ、ぽすん。
「こら」
再び下ろす。
「……何処か行くの?」
「あぁ、里にね。君の言う通り最近外に出ていないからね」
「ふーん……じゃあ私も行くー」
「………………」
「……え、駄目?」
まぁ、僕が店にいない間に店にいられるのも少々怖いな……
「……人に会いに行くんだ。なるべく騒がないでくれれば構わないよ」
「やった!霖之助と一緒にお出かけ!……ふふ」
「随分と嬉しそうだね?」
「うん!」
朱鷺子は満面の笑みで答える。まだ子供か。
「じゃあ先に外で待っていてくれ。支度をしよう」
恩師に久しぶりに顔を店に行くのだ。手ぶらは悪いだろう。
「分かった!じゃあ外で待ってるね」
「あぁ」
言って、朱鷺子は勢いよく扉を開け、店を飛び出した。
その反動で扉に取り付けた鈴の音が店内に鳴り響く。
「……やれやれ」
元気なのは良い事だが元気すぎるのも如何かと思いながら、僕は店の奥に足を進めた。
***
「わー……里が賑やか」
「もうすぐ豊穣祝いの秋祭りだからね。騒がしくもなるだろう」
「お祭り?」
「あぁ」
朱鷺子の言葉からも分かる通り、里は多くの人で賑わっていた。
理由は先程僕が言った様に、豊穣祝いの秋祭り。
祭り本来の意味である祀りの通り毎年豊穣神秋穣子が招かれ、人も神も関係無くその日を祝う。
……蛇足だが、祭りの次の日は毎年決まってといい程香霖堂の窓硝子が割れる。文が投げ込む号外の所為だ。
「お祭りかぁ……霖之助は参加しないの?」
「まぁ、ね。騒いで飲むのはどうも好きじゃない」
「それが美味しいと思うんだけどなぁ……」
「価値観なんてものは人妖それぞれだからね」
「うーん……あ!じゃあさ、今度一緒に宴会行こ?神社の!」
「騒がしいのは苦手だと言っているだろう」
そんな事を言いながら歩いていると、見知った顔に出くわした。
「む、霖之助か。お前が祭りの時機に里に来るとはな」
「慧音か。祭り関係で来た訳じゃないよ。別件だ」
「ねぇ霖之助、この人誰?」
「霖之助、その子は?」
「あぁ、会うのは初めてだったか。この子は朱鷺子、朱鷺の妖怪だよ」
「始めまして!」
「あぁ、始めまして」
「で、この人は慧音。寺子屋の教師をしてる。……まぁ、僕と同じ……半人半妖だよ」
「半獣だ。……始めまして」
「始めまして!」
互いの自己紹介が終わり、慧音が問うた。
「霖之助、さっき『別件』と言っていたな。それは何だ?」
「あぁ……」
先程も述べたが、里は祭りの準備で忙しい。この時機に里に祭り以外の理由で訪れればそう問われる理由も分かる。
「霧雨の親父さんに顔見せに……ね」
言って、手に持った菓子折りを見せる。先程そこの店で購入した物だ。
店を探したはいいが、茶菓子の類は殆ど霊夢と魔理沙に食い荒らされていて酷い有様だった。
「ム、そうか。奇遇だな」
「奇遇?」
「私も霧雨の大旦那に少し用事があってな」
「それは……奇遇だね」
「そうだな」
言って、何となく二人とも笑った。
「あ!じゃあ一緒に行こっか!」
と、それまで静観していた朱鷺子がそんな事を口にした。
「フム、まぁ別に僕は構わないが……慧音はどうだい?」
「あぁ。私も構わないぞ」
「ん!じゃあ行こー!」
そう言うと、朱鷺子は僕の右手を自分の左手で、慧音の左手を自分の右手でそれぞれ掴んだ。
丁度、僕と慧音の間に朱鷺子がいる構図だ。
「ふふーん♪」
「……どうしてだい?朱鷺子」
「ん~……何となく。そんな気分だから」
「……そうか」
「うん」
「まぁ何でもいい。早く行くとしよう」
「あぁ、そうだね。さ、行こうか」
「うん!……ふふ」
何故か終始ニヤニヤしている朱鷺子に疑問を抱きつつ、僕と慧音は霧雨道具店に向かって歩き出した。
……途中、里人が生暖かい目で見てきたが、何だったのだろうか。
***
霧雨道具店。
人里一番の商家にして、僕の恩師の営業する店であり、困った妹分である魔理沙の実家。
暖簾を潜ると、僕が修行を詰んでいた頃の二倍程の人で溢れかえっていた。
探すのは一苦労かと思ったが、目的の人物は案外すぐに見つかった。
「……ご無沙汰しています、親父さん」
「こんにちは、霧雨の大旦那」
「ん……?おぉ!霖之助か!変わってないな!それに慧音先生も一緒か!」
「まぁ、半分は妖怪ですからね。あ、これ皆さんでどうぞ」
「おぉ、悪いな」
親父さんは僕から受け取った菓子折りを従業員の一人に渡すと、僕等の方に向き直った。
「しかし、お前達二人が一緒とは……ん?」
親父さんの目線が下に行く。どうやら朱鷺子に気付いたらしい。
「ねー霖之助。この人は?」
「ん?あぁ、霧雨の親父さんだよ。白黒のお父さんと言えば分かるかい?」
「へー、白黒の……始めまして!」
「ん、あ、あぁ」
「……ねー霖之助」
「何だい?」
「あっちの本見てきていい?」
「あぁ、言っておいで」
「うん!」
言って、朱鷺子は本の並べられた棚に向かって走っていった。本当に本が好きな子だ。
何か問題を起こさなければいいがと思ったが、あっちには霧雨の奥さんがいる。任せて大丈夫だろう。
「霖之助、あの子は……?」
「え?あぁ、紹介します。あの子は――」
僕が朱鷺子の事を親父さんに紹介しようとした時だった。
「いや、いい」
親父さんが、僕の言葉を遮っていた。
「……いい、とは?」
「言わなくても分かる……」
「……?」
朱鷺子と面識があったのだろうか?いや、朱鷺子は初めて里に来た様な事を言っていた。面識がある可能性は零に近い。
「そうか……」
親父さんはそう呟くと、僕と慧音を交互に見て、言った。
「お前と慧音先生の子供か……」
「――な」
「……親父さん?」
「そうか……昔から怪しいとは思っていたんだが、もうそんな仲だったとはな……」
「お、大旦那!何を言っているんだ!?」
「あのー……親父さん?」
「あぁー言わなくてもいい。今日は夫婦円満の秘訣でも聞きに来たんだろう?わしの女房は慧音先生と似た様な性格だからきっと上手くいく。安心して聞いて来い」
「わ、私と霖之助はまだそんな関係じゃ……!」
「親父さん」
「先ず最初に夜の運動の話だがな、これは男が……ん?」
「……分かってて、言ってますよね?」
「ハッハッハ!!!ばれてたか!」
「……ふぇ?」
「幾ら何でもおかしいでしょう。僕と慧音はまだ結婚してもいませんし、恋仲になったのだってついこの間です。それに、慧音はずっと里にいると言うのに、生命を宿したならすぐにわかりますよ」
「やーれやれ、お前には冗談が通じんな」
「大体、僕と慧音の間に子供が出来たなら、もっと大人しい性格に育ってますよ」
「それもそうか。まー外見だけならお前達は十分家族に見えるんだがなぁ?」
「フム……」
言われ、少し考える。
確かに朱鷺子は事情を知らない人が見れば、僕と慧音の子供に見えるかもしれないな。
先ず、髪。
僕の銀髪と慧音のメッシュを綺麗に混ぜ合わせた様な髪型だ。
次に、頭の角。
慧音は半獣で、その半獣の部分は白澤だ。白澤の角が劣性遺伝すればあの様な短い角になるのかも知れない。
それに、頭と背中の翼。
僕は半妖だが、妖怪部分が何の妖怪なのかは自分でも分からない。故に、どんな形の子供が生まれてもおかしくはないのだ。
成程、親父さんの言葉は中々に的を射ている。
「……まぁ、そうかもしれませんね」
「だろう?ハッハッハ!」
「慧音、君はどう思う?」
「ふぇっ!?あ、あぁ!そうだな!」
「顔が赤いが……大丈夫かい?」
「え?あ、あぁ大丈夫だ。気にするな」
「そうかい?」
「そ、そうだ」
少し気にはなったが、本人が大丈夫と言うのだ。放っておいて構わないだろう。
「おーい」
「うん?」
朱鷺子が小走りで此方にやって来た。どうしたというのだろうか。
「これ!」
「ん……本かい?」
「書庫に置いて!」
「……ハァ」
つまり、買ってくれという事か。
しかも外の世界の品だ。何故此処にあるのだろうか。
僕の好みを抑えている辺り、何とも強請り上手な事だ。
「……分かったよ。親父さん、これ幾らですか?」
「ん?あぁ……それなら……」
言いながら、親父さんは算盤を弾いてゆく。
パチ、パチと、独特な音が耳に響く。昔はよく弾いたものだ。今の店では……帳面の計算にしか使っていないな。その帳面も赤一色。嘆かわしい事だ。
「これくらいだな」
フム、これくらいなら大丈夫か。
「えぇ、買わせて頂きます」
「おう、毎度!」
「管理は僕がするが……大事にしてくれよ?」
一応、言っておくべきだろう。そう思って言った。
そして朱鷺子から返って来た返答は、あまりにも予想外のものだった。
「うん!おとーさん!」
時が、止まった。
「……朱鷺子?」
「何?おとーさん」
「何でそんな呼び方を?」
「だって、あの人が」
言って、朱鷺子がさっきまでいた場所を指差す。
指の先には霧雨の奥さん。全くこの夫婦は。
魔理沙があんな性格に育った訳を少し理解した。
「霖之助、どういう事だ!?」
「け、慧音?」
見ると、慧音が顔を赤くして怒鳴ってきた。手が震えている事から憤慨しているのだろう。
「どういう事、と聞かれてもね……」
僕が戸惑っていると、第二の爆弾が投下された。
「どうしたの?けーねおかーさん」
「お、お母さんっ!?」
「と、朱鷺子?」
「ん?」
「……まさかとは思うが?」
「うん」
先程と同じ場所に向けて指を差す。先にいたのは霧雨の奥さん。
分かりやすく此方に手まで振っている。全く何処までもこの夫婦は。
肝心の慧音はと言えば、顔を赤くしてうろたえている。顔を染めている理由は先程とは違うのだろうが。
「……慧音?」
「な、いや、でも、そんな……あぅう」
「慧音?」
「いや、でも、霖が望むなら、私も……」
「……ハァ」
どうやら頭の中に幽香が現れ能力を解放したようだ。つまりは頭が花畑。
「慧音」
「そうだな。朱鷺子もいるし次は男の子を……ん?」
「ハァ……」
どこまで話が飛躍しているのだ。
「君は何をさっきから呟いているんだい?」
「な、え、えと、その、霖が望むなら、私は別に何人でも……」
「……やれやれ」
話から察するに、僕と子作りの計画でも脳内で立てていたのだろう。
頭のいい慧音の事だ。心配はしていないが……一応、諌めておくか。
「慧音」
「な、何だ?」
「気が早いよ」
甘くはなかった、かな。
普通に夫婦。
もう夫婦ですねこの二人は。
そうすると朱鷺子の能力は…
モノの過去、歴史が分かる程度の能力
対象に触れることにより、名前、用途、どういう経緯で作られどのように変わって行ったか等が分かる。
なお対象が昔のものでも最新の情報が得られる。(昔の時計に触れて歴史を調べる際に最新式の時計の情報も得ることが出来る)
なお、この『モノ』には者と言う意味もあるため、触れて能力を使えば人の名前と過去を知ることができる。
…何か凄い事になった。さすがお二人さんの娘。
最近華彩電波はフィールド、又はウイルスと言われています。
各位ご注意を。
そのうち……ね。
矢張り甘くはなかったですか。もしやと思い聞いたんですがね……
>>奇声を発する程度の能力 様
おまけ基準で書いてたらこうなりましたw
>>華彩神護.K 様
随分と凄い能力ですねw
読んでくれた全ての方に感謝!
あれ? もうしてる?
さて、二人目はどんな子でしょうかw
まだしてません。えぇ。
二人目(と言っていいのか?)は霖之助似の大人しい子で本ばっかり読んでて、
朱鷺子が遊ぼうと言って無理矢理連れ出したら「やめてよ朱鷺子お姉ちゃん……」とか言う子ですかねwww
読んでくれた全ての方に感謝!
はくたくで変換しようとすると出ないですしねぇ。
白沢は白澤が漢字制限でそうなるらしいんです。(Wikiっち情報)
読んでくれた全ての方に感謝!
あと、
甘さ:無量大数
でsぶべらぁ!!(口から砂糖が吹き出た