幻想郷、人里からほど近いこの土地に烏天狗が経営する写真館が存在する
今日もこの写真館には人間や妖怪が訪れたり、ここの烏天狗が様々なところへ飛び往く事もある
日もまだでない朝、写真館の主、射命丸文はいつもの時間に目覚めた
「…いやぁ涼しい、すっかり秋ですね~」
文は窓から流れ込む冷涼な空気を浴び秋の訪れを感じた
寝所の片づけをして寝間着から仕事着に着替え台所へ降り
「味噌汁作って、米炊いてと…」
仕事着の上から割烹着を着込み手際よく朝食作りを開始する
「えっとぉこの前アリスさんから貰ったお味噌は…と、あったあった」
昨日から仕込んでおいただし汁に味噌を溶く
「う~ん良い香り」
味噌汁の火を止め蓋をかぶせ米の調子を見る
「ふふん、あと少しですね」
炊きあがるであろう米の釜を眺めつつ笑顔を浮かべ、焼き網に魚を載っける
「…海魚は高級品ですよね~、紫さんと言う上客が居てくれて良かったですよ」
ここらでは全く手に入らない海の魚を目の前にして顔を綻ばせ呟く
完成した朝食に手を合わせ食事の前の挨拶をする
「それでは、頂きま…」
言い切る前に来客を告げる呼び鈴が鳴り響いた
「文ー、来たわよー」
「…あー忘れてた、今日は取材があるんだったよ~、しくったぁ」
目の前で美味しそうに輝いている食事を文は一瞥し玄関へ向かう
「朝早くにごめんね」
玄関に立っていたのはツインテールが可愛らしい烏天狗、姫海棠はたてだった
「話は聞いてますよ、上がって下さい」
「はいはーい」
文ははたてを連れ食卓へと戻った
「…食事中だったのね、ごめん」
「いや良いですよ、それより朝食は摂ったの?」
「あぁそう言えば今日はまだだった」
ケロッと答えるはたてに文は頭を抱えた
「なんでそんな平然と言えるんですか?食事ってのは一日の…」
その後たっぷり一時間、文ははたてに講釈した
講釈を終え、文は食卓に着いていた
「…良いの?」
「構いませんよ、食事をしないとまともな仕事は出来ません、さ、頂きましょう」
「頂きます」
はたてと共に
「そう言えば文」
「んー?」
笑顔で朝食を食べる文にはたてはふとした疑問を投げかけた
「鯖って海の魚よね」
「うん」
「どうやって手に入れたの?」
「八雲家の紫さんはご存じですね?」
「えぇ」
「その方から」
「あ、なーる」
はたては文の簡潔きわまりない回答を聞き食事を続ける
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
食事を終えた二人は食器を手早く片づけ仕事場へと向かった
「…フィルムとカメラ、それから望遠にフィルターと良し、行きますか」
大きいカメラバッグを肩に担いだ文は写真館を出た
「ちょ、ちょっと何処行くの?」
「出張ですよ、日帰りのね」
飛び往く文の後を必死に着いていくはたて、まだ朝日は昇り始めたばかりだった
「とうちゃーく」
里を南東方面に行って四時間位、はたてと文は広大な花畑へ降り立った
「…綺麗」
それがはたての第一声だった
「でしょ?ここは太陽の畑、今日の一発目の仕事はここの管理人さんの写真を撮ることなんです」
そう文が言ったとき、タイミングを計ったように後ろから声を掛けられた
「よく来てくれたわ、貴方が射命丸文さんね?」
声を掛けてきたのは緑髪の女性だった
「あぁ幽香さん、おはようございます」
「定刻通り、噂は本当だったのね」
懐中時計を取り出し時刻を確認する幽香、微笑みがよく似合う美しい女性だ、はたてはそう思った
「いえいえ」
にこやかな笑顔を浮かべて幽香の手を握る文にはたては小声で問いかけた
「…ねぇ文、この人は誰?」
「あぁ太陽の畑の管理人で更には稗田出版で園芸指南本『風見幽香の楽しい園芸』農業指南本『家庭で出来る野菜と果物』を執筆している風見幽香さんその人です」
文の声ではたてに気付いた幽香ははたてにも握手を求めた
「貴方は見ない顔ね、見た目からすると烏天狗、新聞記者かしら?」
「あ、はい、花果子念報の新聞記者、姫海棠はたてと申します」
「よろしくね、今日は文さんの取材?」
「はい」
やはり笑顔が似合う女性だ
「…じゃあ向日葵をバックに撮りますんで、日傘を差して…そうです、それから微笑をたたえて、はい、じゃあ撮りますよー」
カメラを三脚に据え付け覗き窓から目を離さず声を出す文、そしてそれに従う幽香
「はい、一足す一は?」
「二」
にっこりと笑った幽香にピントを合わせシャッターを切る文
「ありがとうございました、現像した写真は後日お送りしますんで」
「お礼をするのはこっちよ、お茶でも飲んでいかないかしら?」
「申し訳ありません、この後も用件がありますので、気持ちだけ受け取らさせて頂きます」
「そう、じゃあまたいつか」
「えぇまたいつか」
そう言ってまた握手をする二人
写真館へ戻る道中、文とはたては先程の被写体について語り合っていた
「…綺麗な人でしたね、はたてさん」
「うん」
「あの人はね、花を育てることに関してはこの幻想郷で一二を争うお方なんです、その人から仕事が来るなんて写真家冥利に尽きるという物です」
そう得意げに語る文の言葉をメモるはたて
「そうだ、写真館に人や妖怪は来てるの?」
「えぇ来てますよ、今日これから訪れる予定ですからね、早く戻りますよ」
そう言うが早いか速度を上げる文
「ちょっと待ってよ、いきなり速度上げるなんて酷いわ!」
二人は程なくして写真館へたどり着いた
「さて、あのお二方が着くのはあと少しですかね」
「お二方?」
はたての疑問はすぐさま解決した
「すいませ~ん、予約していた紅美鈴と申す者ですが」
「はいは~い、大丈夫ですよ」
来客の知らせを聞き受付へ走り去る文
「…じゃあ、こちらに来て下さい」
文に連れてこられたのは人間と妖怪という現在ではさして珍しくもない組み合わせ
「いや~ありがたいですね、結婚写真に射命丸写真館をご利用して頂けるとはねぇ」
カメラを準備しながら笑顔で二人に問いかける文に美鈴は苦笑いし、咲夜は赤面した
「あ、あはは」
「……………」
「んじゃあどうします、美鈴さんが咲夜さんをお姫様抱っこするか、咲夜さんが椅子に座ってその後ろに立つか」
カメラのレンズを拭きつつ質問する文に美鈴は言ってのけた
「じゃあお姫様抱っこで」
「ちょっと、美鈴?」
赤面して詰め寄る咲夜に優しく問いかける美鈴
「咲夜さん、私たちの結婚式は一度きりなんです、今恥ずかしくてもいつかきっと良い思い出になりますよ」
そう言って咲夜の髪の毛を優しく撫でる美鈴
「そうですよ、咲夜さん、旦那さんの言うとおりです」
文が美鈴の意見に賛同する
「…美鈴の、言うとおりにする」
それが、顔を真っ赤にした咲夜の言葉だった
「…じゃあ撮りますよ、お二人さん」
文はカメラを通し二人に言った
「はい、お願いします」
微笑みながら咲夜を抱っこする美鈴がそう言って
「…お願いします」
依然顔が赤いままの咲夜はそう言った
「ふふん、じゃあルートの四は?」
「「二!」」
にっこりと二人が笑うと文はシャッターを切った
覗き窓から顔を離し、微笑みながらOKサインを出す文に二人は礼を述べ、写真館を出て行った
「今度来るときはー、お二人の愛の結晶、見せて下さいねー!」
去りゆく二人に文が掛けた言葉が、それだった
「…さて、今日はこれで終いですね、はたてさん、面白い記事を期待してますよ」
文ははたてに手をさしのべ握手を求めた
「任せて頂戴」
差し出された手を力強く握るはたて
「あ、そうだ忘れてた、はいこれ」
「何です?これ」
はたては鞄から何かを取り出し文に手渡した
「今日のあんたの仕事風景を撮ったのよ、それを現像したの」
「…いつの間に」
「現像室借りたわ、ごめんね」
写真が包まれた包みを持った文は
「…ありがとう」
とだけ言った
「…記事、楽しみにしておいてね」
「了解です」
返事が返ってきたのを合図に、はたては夕暮れの空を飛んでいった
「…結構、いい顔してるんですね、私」
はたてが去った後の写真館で自分の顔を見た文はそれだけ呟き
「…ありがとうございます、はたてさん」
はたてが飛び去った方角を見つめた
次の作品はー、お二人の愛の結晶、見せて下さいねー!投げ槍さんッッッッッ!!!
旦那は美鈴ではなく、咲夜さんの方です。
……ゴメンナサイ、タダノモウソウデシタ
見てて温かい気持ちになれる。
気持ちが温かくなりました、ありがとうございます。
>はたてそう思った
はたては、ですか?
>>唯様
…善処します、頑張ります、はい
>>2様
いいえ、間違いはありません、昼の旦那は咲夜さん、夜の旦那は美鈴です
……ゴメンナサイ、タダノモウソウデス
>>3様
そうですか、そう言う気持ちになって頂ければこちらとしても本望です
>>奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます!
>>けやっきー様
きっと綺麗でしょう、燦然と輝く向日葵
先程も言いましたがそう言う気持ちになって頂けて嬉しいです