私が咲夜を殺した。
そう、他でもない、私が殺したのだ。
あの、十六夜咲夜を。
喧嘩の理由は、些細な物だった。
今となっては、思い出す事も出来ない。
「咲夜なんて、死んでしまえばいい!」
私は、そう言った。
間違い無く、そう言ってしまった。
だから、咲夜は死んだ。死んでしまった。
咲夜の運命を、死の方向へと、操ってしまったに違いない。
私が、レミリア=スカーレットが、咲夜を殺したのだ。
それは、無意識の内に起こった。
今となっては、何も覚えていない。
「咲夜、お出掛けするの? 私も一緒に行きたい」
私は、そうおねだりした。
昼間だから、駄目ですと返されて、ちょっと腹が立った。
そうしたら、咲夜は死んだ。死んでしまった。
自分でも、気付かない間に、咲夜を壊してしまったに違いない。
私が、フランドール=スカーレットが、咲夜を殺したのだ。
何を何処で誤ったのか。
今となっては、全く分からない。
「いつもの、疲労回復の術式を、やってもらえませんか?」
咲夜にそう頼まれたから。
いつもの術式を、いつも通りに施した筈だった。
ところが、咲夜は死んだ。死んでしまった。
どこかで、体力を奪う方へと、術式を間違えてしまったに違いない。
私が、パチュリー=ノーレッジが、咲夜を殺したのだ。
昼寝をしていて、いつものように怒られた。
今となっては、魔が差したとしか思えない。
「咲夜さん、胸が私より小さいからって、苛めないで下さいよ」
私は、そう言った。
間違い無く、そう言ってしまった。
だから、咲夜は死んだ。死んでしまった。
胸の大きさを言われて、精神的に、ショックを受けたに違いない。
私が、紅美鈴が、咲夜を殺したのだ。
四人で、咲夜の死体を、ベッドに寝かせてあげた。
四人で、ただ咲夜の死体を、見つめる事しか出来なかった。
そこに、博麗の巫女が、扉を蹴破るようにして入って来た。
「異変ね!」
四人は、告白した。
自分が、咲夜を殺したことを。
博麗の巫女が、鼻で笑った。
「巫女の勘よ。間違い無く、犯人は外の人間ね」
誰かが咲夜を殺したのだと、博麗霊夢は力説した。
仇を討たなくていいのかと、四人は詰問された。
四人は悩んだ。
自分が殺した事については、確信に近い物があったから。
四人は迷った。
誰かに罪を着せようとしている気がしたから。
それでも、四人は立ち上がり、紅魔館を後にした。
博麗の巫女の、勘の方を信じる事にしたのだ。
猫が、泣いている。
狐が、怒り狂っている。
「ほら、こういうときの黒幕って、紫のことが多いじゃない?」
襲撃者の代表である博麗の巫女には、反省の色は見られない。
「違ったみたいだから、次に行きましょ、次に」
橙が泣き続ける。
藍が抗議し続ける。
当の紫は、ぐっすりと寝ていた。
庭師が、半分くらい地面に埋まっている。
半霊も、半分くらい地面に埋まっている。
「ここの連中も、犯人じゃないみたいね」
幽々子は少し怒っている。
「違ったみたいだから、次に行きましょ、次に」
幽々子が、庭師と半霊を、地面から引き抜く。
哀れな庭師は、泥に汚れたままの状態で。
弱過ぎる、と主人から怒られた。
てゐは、早々と逃げた。
永琳は、人里の患者を診ていた。
輝夜は、布団から出て来なかった。
「たぶん犯人じゃないけど、行きがかり上、ね」
鈴仙一人が、ぼこぼこにされた。
「違ったみたいだから、次に行きましょ、次に」
鈴仙は、いつものように涙を拭った。
輝夜は、一回だけ寝返りを打った。
次なる標的は、洩矢神社。
妖怪の山の中腹で、何故か四季映姫と小野塚小町が待ち伏せていた。
「随分と、暴れているそうですね」
裁判長が、五人の前に立ちはだかる。
映姫は地面を強く蹴ると、宙に舞い上がった。
そのまま滑り込むようにして、レミリアに土下座をする。
「この度は、十六夜咲夜さんの件で、ご迷惑をお掛けしました」
蒼白な顔をした小町も、隣で土下座をしていた。
十六夜咲夜は、レミリアの機嫌を直したかった。
お八つに入れる為の、希少品を探していた。
彼岸花を求めて三途の川へ行った時。
間違えて、小町が船に乗せて渡してしまったのだ。
「当方の手違いですから、責任を持って生き返らせます」
四人とも、大いに喜んだ。
けじめを付ける為に、レミリアが小町を殴った。
小町は、妖怪の山の麓まで飛んでいった。
咲夜が、ベッドの上で、目を覚ます。
レミリアが、涙を堪えていた。
フランドールは、素直に喜んだ。
パチュリーは、静かに微笑んだ。
美鈴は、こっそり逃げようとしていた。
「お嬢さま、美鈴の理由だけは、許せません」
頷いたレミリアが、けじめを付ける為に、美鈴を殴った。
美鈴は、綺麗な放物線を描いて、湖に落下した。
異変が解決し、満足した霊夢が帰ると、いつもの日常が戻って来た。
咲夜は、元気に忙しく働いている。
紅魔館は、今日も平和だった。
なんというか、すごく霊夢らしさが出ていた。
咲夜さん、愛されてますね。
>「咲夜さん、胸が私より小さいからって、苛めないで下さいよ」
なにか、新しい美鈴を見た気がします。えぇ。