Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ごめんね

2010/09/05 13:17:02
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紅魔館。
門前。

「問題です」
フランドールが言った。手に持っている盆を、目の前の美鈴に差し出す。
「外れはどれでしょう。この三つの中から一つを選びなさい」
笑顔で言う。差し出した盆の上には、指でつまめるほどの大きさの黄色いゼリーが三つのっていた。
「……」
フランドールはそのまましばらく待ったが、いつまでたっても美鈴の反応は無い。というか、どうやら完全に寝ているようだった。
まぶたを閉じた顔が、こくり、こくり、と船をこいでいる。
「……」
フランドールはしばし黙って立っていたが、やがてちょっと目をぱちくりさせると、美鈴の顔をそうっと覗き込んだ。
「美鈴? おーい。おきろー。起きないとあんたの綺麗な目玉をほじくってコレクションにしちゃうぞ、いいのか? おーい。さぼんなよ。起きろー。おーい」
呼びかけてみるが、美鈴はやはり起きない。フランドールは、ふむと眉をひそめた。
とりあえず盆を置くと、背中に背負っていた棍棒に手をかけて持つ。紅魔館の地下倉庫に保存してあったもので、たぶん人間が使ったものなのだろうが、大きさだけでもフランドールの身長を越えているほどの巨大なものである。
「よいしょ」
フランドールはせーの、と無言でそれを振りかぶった。棍棒は玩具のように、軽々と掲げられて、ぎらりと光った。
「――はっ」
そのとき美鈴が目を開いた。フランドールは「あ」と、それに気づいたが、そのままかまわずに棍棒を振り下ろした。
「うおォんっ!?」
美鈴は紙一重で気が付くと、それをかわした。さすがに素人には真似できない、素晴らしい見切りである。
「あー。おしいな。いや。見事であったぞ? 感動した」
「いや、いきなり何をするんです……? あ。ごきげんようございます、フランドール様」
「ごきげんようございます。おい美鈴、お前また寝ていたわね。お姉さまに言うぞ?」
「はあ、面目ない。あ、いや、でもあれですよ? 私が寝ちゃうのはいつものことだし、レミリア様や咲夜さんもいちいち気にしやしないし、それでつい……」
「うーん。まーそれじゃ仕方ないかしらねー」
フランドールはちょっと首をかしげた。棍棒を下ろして、足元に置く。
「それじゃ、はい」
「はい?」
美鈴は目をぱちくりさせた。フランドールは、手に持った盆を突きつけた。
「はい。問題です。あたりはどれでしょう。この中からひとつ選びなさい」
「はあ……」
美鈴は眉をひそめた。なにか難しげな顔になって、盆の上を眺める。
「……ええと。ちょっと聞きたいんですけど、当たるといったいどうなるんです?」
「知りたい?」
「はい、そりゃまあ」
「ウフフ。秘密」
「……」
美鈴は黙り込んだ。フランは笑った。
「ウフフ、ロシアンルーレットっていいでしょ? ワクワクするわよね! 主に私がだけれど。美鈴はどうかな? ドキドキしているかな? 人生はやっぱりコンティニューできないスリルよね? やり直しがきかないからこそ後悔とか後悔とか絶望とかいう極上の美酒が味わえるのよね? そうよね?」
「ええと……」
美鈴はうめいた。眉をまげてなんとも微妙な顔で、目の前の羽根をパタパタさせている厄介な吸血鬼を見やる。
面倒くさがっているのは間違いないが、無視するのもまた面倒なことになる、とでも思っているのだろう。やがて覚悟を決めたようである。
「えー。わ、わかりました。それじゃあ、これで」
美鈴はぱくりとゼリーのひとつを口に含んだ。もむもむと口を動かして、それから徐々に「おっ」としたちょっと驚いたような目になる。
「美味しい?」
「はあ。ええ、美味しいですよ」
「そりゃよかった。それじゃちゃんと仕事するのよ。ではごきげんよう」
フランドールは手を振って去っていった。残された美鈴は、なにがなんだかわからないように目をぱちくりとさせていた。



しばし後。
館内。

「やあ、咲夜!」
「あら、フランドール様。どうかなさいましたか?」
「いえ、どうかって言われるとどうもしないけど。どうかな、ちゃんと仕事してるかな? サボりは駄目よ、咲夜は門番じゃないんだから。ちゃんと馬車馬のように死ぬまできりきり働いてくださいね」
「はい、もちろんですわ」
「よしよし咲夜はいい子ねー。どれなでなでしてあげよう。ちょっと頭下げて」
「はあ、ありがとうございます……」
素直に頭を下げた咲夜の頭に、フランドールは手を置いた。柔らかい銀髪がふかふかとして気持ちがいい。
「よしよしうーんいい毛並みだ。さすが咲夜はお利巧さんだな! それじゃあ、いい子だからついでにご褒美を上げようじゃないか。じゃじゃーん。さーて、あたりはどちらでしょう。選びなさい」
「……はあ。……あら、これ、フランドール様が?」
「うん。まあそんなところね。選んでささ選んで」
フランドールはにこやかにうなずいた。咲夜はちょっと迷うそぶりを見せたが、やがて指を伸ばした。
適当に選んだ手つきで黄色いゼリーをつむと、けっこうあっさりした仕草で口に運ぶ。ちょっと味わうようにもむもむと口を動かしてから、やがてちょっと驚いた顔をする。
「……あ。美味しい」
「ほう。そうかそうか。美味しいか。そりゃよかった。それじゃあ、お仕事がんばるんだよ」
「? はあ、ありがとうございます」



さらにちょっと間をおいて。図書館。

「はい! パチュリーっ!!」
「うおわ! ――なんだ、妹様ですか……」
「なんだとはご挨拶ね。あいかわらずもやしみたいに顔色悪いわね。雪のように白いというよりか土気色っぽいわ。ちゃんとご飯食べてるとは思えない」
「食べていませんよ」
「えー? なんだいなんだい、そいつはいけないな。どれ、しかたない。私がいいものをおごってやろう。ちょっと目閉じて」
「わ、ちょっと――なになさるんです……」
「うふふ。いいから大人しくなさい。ほう……これは……さすがパチェの目隠し姿は可愛いな。ちょっと血を吸っちゃってもいいかい? お前の唇が欲しいなーいじめたいなー」
「誰の真似ですかそれ……」
「お姉様に決まってるでしょ。ええと……」
フランドールは言うと、手に隠していた包みを解いた。取り出したゼリーの塊をパチュリーの口に押し込む。
「ん、――むぐ。ちょっと……なんです、これ?」
「なんでしょう? まあいいから食べて食べて食べて。そう、パチュリー大きく口をあけてそのまま飲み込んで……どう、美味しい?」
「……美味しいですよ」
「そうかそうか……ククク、そりゃあよかった」
「ところでそろそろこれ解いてくれませんか?」
「人に甘えるのはいけないと思います。それじゃあまたごめんあそばせっス」
「え……ちょっと」
「おや? パチュリー様、なになさっているんです?」



そして、館内某所。

「はあーっ! フランドール・スピニング・スラスト!!」
「おぶっ」
「はいお姉様、オッス。ごきっス」
「フランドールっ! いきなりなにをしてんのよ!」
「いやごめんあそばせっス。いやお姉さまがスキだらけだったんでさー。つい後ろから必殺技で襲い掛かってしまったわ。私って悪い子ね。まあお姉さまは心広いからきっと許すべえな」
「あのな」
「いや、今日は実はお姉さまに受け取って欲しいものがあってよ。それで出てきたんだべ」
「なんだよその言葉づかいは」
「こまかいことは気にしないでください。それじゃあはいどうぞ」
「? なによ。空の盆?」
「え。空ではありませんよ? この上には私の魔法でちちくさいお子ちゃまには見えないようにしたとてもとても高級なお菓子が乗っけてあります。もちろんレディの私には余裕で見えるんだけども、まあお姉さまには当然見えるだろうなお姉様レディだし。あれぇ? それとも見えなかったのかなぁ? うふん? あれ、やだ……嘘……本当……?」
「……ほほォう?」
「ああ……胸が痛い。私ったらせっかくお姉さまのためにと思って、咲夜に内緒で用意してもらったのに……お姉さまがそんな乳臭いお子ちゃまだったなんて……ごめんね……お姉様……フランドールは気遣いを知らない悪い子でした……」
「……なるほど、まあそんなことだろうと思ったわ。ごめんなさいね、フランドール。いまのはちょっとあなたをからかったのよ。ええ、ちゃんと見えているわよ」
「そうだったの? ああよかった! それじゃあ、さ。どうぞ。お姉様」
フランドールは言うと、ずいと盆を差し出した。レミリアはちょっと迷った顔をしたが、ふと表情をすましたものに変えると、そっと盆の上に指を伸ばす。
そのままつまんだふりをしたものを、それっぽく取り上げる動作をして口に運び、ひょいと放り込む動作をする。もむもむと、さもそれっぽく口を動かして、ふむ、とレミリアは唸った。
「あらおいしい。ありがとうねフランドール」
「ぶっ。そんなの嘘に決まってんじゃん。なにやってんの? おっかし」
「ケンカ売ってんのか、てめええええええええええっ!!」
「あははははははは!」
吸血鬼の咆哮が響き、その後度重なる衝撃が続いた。屋敷が揺れた。


吸血鬼姉妹の私闘は、その後数時間ほど続いたらしい。メイドの咲夜の迅速な対応で、被害は屋敷の中と妖精メイド数人だけの中にとどまったが、おかげでレミリアの機嫌は非常に悪くなった。

ただその翌日、屋敷の調理場に保管してあった二人分のゼリーを咲夜が見つけ、その日のレミリアのおやつに出した。なんだか、ゼリーそのものは冷蔵庫のすみに、ひっそりと置いてあって、咲夜もなんのけなしに見つけただけのものである。
ただゼリーを入れた器の上には、字が書かれた紙がかぶせてあった。見たとこ、それはフランドールの筆跡のようだった。
「ごめんなさい」
咲夜はその意図を察したわけではないが、とりあえずゼリーと一緒にその紙もレミリアに見せた。そのときのレミリアがどんな顔をしたのかは、その場にいた咲夜だけの秘密である。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
素直になれないんですねぇ…
2.名前が無い程度の能力削除
何で最初、外れはどれって言ったんでしょうか……
最後にちゃんと謝っててフランちゃんいい子ですね
おもしろかったです
3.奇声を発する程度の能力削除
フランちゃんはやっぱり良い子だねぇ
4.けやっきー削除
このフランの口調が大好きですw
気ままな感じが、よく出てると思います。
5.名前が無い程度の能力削除
口調が安定しないフランちゃん可愛いです
咲夜さんの頭を撫でるところ、咲夜さんも可愛いしフランちゃんも可愛い