Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夢でも逢いましょう

2010/09/04 19:58:44
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 夢は、記憶のブラックボックスだ。
 何があるか、何処で出てくるか、それは本人すら解りえない。
 厄介なことに、或いは素晴らしいことに、自身の体験だけが反映される訳でもなかった。

 覚えがないだろうか。
 例えば、死霊に追いかけまわされる夢。
 例えば、人生のハーレムルートに突入してうっはうはな夢。何故覚めた。

 失敬。



「こんにちは、霊夢さん」
「あー……早苗、こんちゃ」
「聞いてくださいよぅ、昨日、とってもいい夢を見たんです!」

 そして、少女二人もまた、そんな夢を語り合うのだった――。



 何時もと言えば何時もの場所、博麗神社。
 その縁側に腰かけ、東風谷早苗が上機嫌な表情を浮かべていた。
 よほどいい夢だったのだろう、瞳が、さも童女のように輝いている。

 握った両拳を上下に振って、口を開く。

「なんとなんと、夢の中で、私はポセイドンに乗っていたんです!
 しかも相手はドラゴノザウルス!
 ぐるんぐるんと千切っては投げ千切っては投げを繰り返しました!
 いやぁでも流石に奴は強かった!
 ぐにゅんぐにゅんとすぐに再生してしまうんです!」

 むふー。

 傍らに座る霊夢に解ったのは、とりあえず、早苗が何かのロボットに乗ったんだろうなぁ、程度のことだけだった。

 話は続く。

「触手に巻きつかれるかと思ったその直前、思いもしない救援が現れました!
 『私はメイドのプロよ、外しはしないわ』!
 そう、咲夜さんが助けてくれたのです!
 奴の動きをサザンクロスナイフで抑え、隙を作って下さいました!
 その好機を見逃す私たちではありません、霊夢さんに操縦を譲り、見事見事、博麗スパークが奴を打ち倒したのでっす!!」

 ぶんぶん、むふーっ。

 湯呑みに入った冷えた麦茶を一口含み、唇を潤わせ、霊夢は首を傾げた。

「何時の間に、私も乗っていたの?」
「魔理沙さんもいましたよ!」
「や、聞いてない」

 ミチルさん役はアリスさんでした――自身の配役に満足しているのか、頷きながら、早苗。

 勿論、霊夢が聞いた訳ではない。

 終わったかのように思えた早苗の話だったが、次にはその細部を語りだしていた。

 冷えた物を飲ませれば止まるだろうか。
 思った霊夢はしかし、狭間に置かれた盆に手を伸ばさなかった。
 蛇と蛙がプリントされた湯呑みを持ち上げるのが、煩わしかった訳ではない。

 ただ、落ち着いて欲しくなかっただけだった。

(時々鋭いのよね、早苗……)

 正確には、自身に注意を向けて欲しくない。

 重い瞼を飲み込んだ冷気でこじ開け、霊夢は、ちらりと早苗の顔を窺った。
 すると、するりと視線が絡み合う。
 瞳がかち合った。

(……!?)

 動揺を隠し、素気ない仕草で湯呑みを口に運ぶ。
 目を閉じながら、麦茶を一口二口と飲み込む。
 こくん、と音が鳴り、胃へと落ちた。

(もう大丈夫)――思った矢先に、手が頬へと伸ばされる。

 霊夢が声を上げるより先に、思った通り、そろりと目の下を指で触れられた。

「……あによ」
「ふにふに、ぷにー」
「って、ほんとになによ!?」

 怒声を張り上げる霊夢に早苗が返したのは、触れた指。
 一瞬呆然とする霊夢だったが、気付き、顔を顰めた。
 これはデモンストレーションだ。

 指の先端と節から下の色が、違う。

「寝不足ですか」

 一足飛びの、しかも確信めいた問い方に、霊夢は憮然とした表情になった。

 色の違いは、塗っているファンデーションのせいだ。
 珍しくも塗布しているのは、目の下の隈を隠すため。
 隈ができた理由は、指摘の通り、寝不足だからだ。

 ここまで正確に推測されたのだから、何れその先、原因もばれるだろう。

「……あんたのせいよ」

 ならば、その前に――早苗を思い、霊夢は口を開いた。



「私のせい、ですか。
 捉え方によっては、こう、ぐっときますね。
 ですが夜な夜な思い悩む必要などありません、いざ寝室へ!」

 変なスイッチを押してしまったようだ。



「だから寝られないんだっての」
「しょぼーん」
「えーと」

 何故かがっくりと肩を落とす早苗。

 話の接ぎ穂を探す霊夢だったが、打たれる空咳に、言葉を続ける。

「どうも最近、夢見が悪くてさ」
「襲ってしまいましたか」
「誰をよ」
「誰が、です」
「私を襲って来るような物好きな奴、いないと思うけど」

 早苗が笑みを浮かべる。それはもう、極上の微笑。

 場違いな微笑みに、綺麗だな、と思いつつ、霊夢は顔を少し背けた。

「あー、でも、ある意味、そう言うのかしら。
 人じゃなくて無機物だけど。
 ……概念かな」

 うってかわってきょとんとする早苗に、微苦笑を浮かべ、事の真相を語る――。



「場所は居間。
 風に揺れ、鳴る風鈴さえ疎ましい。
 机に向かう私にそう感じさせるのは、頬を伝う汗、落ちる先の白いノート」

 漠然としていた夢が、語るたび克明になり、霊夢はまた、顔を顰めた。

「そして、傍らに積み上げられた幾冊もの本――その名前は、総じて、宿題」



 霊夢に『宿題』の記憶はない。
 けれど、それは正しく『宿題』だった。
 夏の終わり、休み明けに提出しなくてはいけないもの。
 巫女の習いで祝詞に向き合うことはあっても、それは生涯付き合うものであり、一昼夜でどうこうと言う類ではなかった。
 しかし、眼前の、傍らのものは、明日までに片付けなくてはならない。

(この量を? 馬鹿言わないでよ……)

 思えども、手は動かす。
 だが、頁は一向に埋まらない。
 焦燥感だけが募り、加えて、じとりとした汗が浮かび続ける。

 終わらない。
 終わらない。
 おわらない、おわラナイ……「おわら、ない」。

 自身の呻きで目が覚める。
 多量の汗を吸った寝巻を、心底、煩わしく思う。
 手で額を拭い、瞳を閉じる……頭を振り、上半身を起こした。

 もう一度寝ても、恐らく同じ夢を見るだろう――浮かんでしまった推測に、霊夢は溜息を零したのだった。



「あー……」

 語り終えた霊夢に、早苗が頬を掻き、嘆息する。

「私のせい……ですね」

 宥めることも咎めることもせず、霊夢はただ、頷いた。

 簡単な話だ。
 霊夢が悪夢を見る数日前、何の気なしに、早苗がその話題を口にした。
 浮かぶ汗、埋まらない頁、無為に募る焦燥感、延々と終わらない夏休みの宿題。

「あれ? でも、私が話したのって、休みが終わる一日前に気付いた算数ドリルとか、そんなものだったと……?」
「んー、イメージの問題でしょうね。私、『宿題』ってやったことないから」
「なるほど、それで、概念なんですね」

 また頷く。
 直前に、気の抜けた音。
 欠伸をしていることに気付いたのは、手を口に当てた時だった。

「ごめん」

 小さく頭を下げる。
 直後に、後頭部を押さえる手と、気の抜ける感触。
 温かくも柔らかく、頭を蕩けさせる原因は、早苗の太腿だった。

 俗に言う、膝枕だ。

「いやだからね早苗、今寝ても一緒だと思うの」

 頭と体を反転させ、霊夢は首を傾げる。

「あん……」
「変な声出すな!?」
「違いますよ、霊夢さん」



 縁側には、陽光が降り注いでいる。
 けれど、霊夢の瞳には届かない。
 白い手に覆われていた。

 もう片方の手で、優しく髪を撫でられている。

「今は、私がいます」
「ふぁ……助けにきてくれる、とか?」
「顰め面をしたら起こそうと思っていたんですが……それもいいですね」

 霊夢に早苗の顔は見えない。
 だから、微笑んでいると思ったのは、勘だ。
 博麗の巫女の、だろうか。違う。友人としての勘だった。

 霊夢にとって、早苗は、無防備な寝姿を晒すのに一瞬の躊躇いもないほど、安心できる――友達なのだから。



「おやすみ、さなえ」
「お休みなさい、霊夢さん」
「――じゃあ、夢でも、あいましょう」



 重なる声に、二人の少女は、更に笑むのだった――。








 ――って、やっぱり、山積みのままじゃないの!?

 ――呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!

 ――……えっと、まだ、呼んでない。

 ――そんなつれないことを仰らずに。早く終わらせましょう。

 ――ん。

 ――明るいうちに終わったら、里に遊びに行きましょうか。

 ――食べ歩きね!?

 ――……えっと、まだ、何をするか言ってません。

 ――あれ、でも、なんかもの凄く明るくなってきてない?







 瞼を照らしだした陽光に、霊夢は薄らと目を開く。
 どうと言うことはなく、顔を覆っていた手がどけられたようだ。
 見上げると、早苗もうつらうつらと舟を漕いでいる。

 くすりと笑んで、もう一眠り、と霊夢は再び瞼を閉じた――。







 ――陽光が赤くなる頃、少女たちは目を覚ました。

「おはよう、早苗」
「ごめんなさい、寝てしまっていました」
「いいわよ、ちゃんと来てくれたし。美味しかったし」

 頭を下げる早苗に、霊夢は楽しそうに告げる。

 あの後。
 早々に宿題を終わらせた二人は、提案通り、里に向かった。
 饅頭を食べ、冷えた麦茶で喉を潤わせ、秋冬用の化粧品をわいわい言いながら眺める――そんな、楽しい夢。



 全てを一括りにして、霊夢は笑んだ。

「私ね、早苗と、色々なことをしていたわ」
「私も、霊夢さんに、色々なことをしていました」

 返す早苗もまた、しっとりと艶むのだった。……しっとり?





 ともあれ、少女二人が夢を語り合い、晩夏の夕暮れは過ぎていくのだった――。







                      <幕>
・最近見た一番鬱い夢は、学生時代に馬鹿やってた頃の懐かしいものでした。察してください。お読み頂きありがとうございます。

・霊夢よりの描写なので個人的には「ほのぼの」タグなのですが、うん、百合っぽいね。
・早苗さんが霊夢に『色々なこと』をしたのは、夢の中です。
・夢の中です。

・少し前に見た面白かった夢は、Z○に乗ってハマーン○と戦う夢です。何故か市街戦でした。

いじょ
道標
コメント



1.名無し削除
夢でもし逢えたら 素敵な事ね

そういう事ですね、やはりレイサナはいい
2.削除
貴女に会えるまで 眠り続けたい

次のお話はこういう事ですね、やはりレイサナはいい
3.名前が無い程度の能力削除
確かにこういう夢は寝不足になるなぁ…

しかし夢で逢えたら素敵ですね、やはりレイサナはいい
4.名前が無い程度の能力削除
絶対夢の中じゃないだろw
5.奇声を発する程度の能力削除
夢の中で逢えたらとても素敵な事でしょうね
素晴らしいレイサナでした
6.名前が無い程度の能力削除
早苗さんはエロいのう
7.けやっきー削除
夢の中って、何でも好きなことが実現するから好きです。
そう、まさにこの早苗さんのような。
夢の中ですからね。夢の中。
8.名前が無い程度の能力削除
笑顔になれました。
9.名前が無い程度の能力削除
ロボ好き早苗さんが好きです。でもレイサナの方がもっと好きです。