夢は、記憶のブラックボックスだ。
何があるか、何処で出てくるか、それは本人すら解りえない。
厄介なことに、或いは素晴らしいことに、自身の体験だけが反映される訳でもなかった。
覚えがないだろうか。
例えば、死霊に追いかけまわされる夢。
例えば、人生のハーレムルートに突入してうっはうはな夢。何故覚めた。
失敬。
「こんにちは、霊夢さん」
「あー……早苗、こんちゃ」
「聞いてくださいよぅ、昨日、とってもいい夢を見たんです!」
そして、少女二人もまた、そんな夢を語り合うのだった――。
何時もと言えば何時もの場所、博麗神社。
その縁側に腰かけ、東風谷早苗が上機嫌な表情を浮かべていた。
よほどいい夢だったのだろう、瞳が、さも童女のように輝いている。
握った両拳を上下に振って、口を開く。
「なんとなんと、夢の中で、私はポセイドンに乗っていたんです!
しかも相手はドラゴノザウルス!
ぐるんぐるんと千切っては投げ千切っては投げを繰り返しました!
いやぁでも流石に奴は強かった!
ぐにゅんぐにゅんとすぐに再生してしまうんです!」
むふー。
傍らに座る霊夢に解ったのは、とりあえず、早苗が何かのロボットに乗ったんだろうなぁ、程度のことだけだった。
話は続く。
「触手に巻きつかれるかと思ったその直前、思いもしない救援が現れました!
『私はメイドのプロよ、外しはしないわ』!
そう、咲夜さんが助けてくれたのです!
奴の動きをサザンクロスナイフで抑え、隙を作って下さいました!
その好機を見逃す私たちではありません、霊夢さんに操縦を譲り、見事見事、博麗スパークが奴を打ち倒したのでっす!!」
ぶんぶん、むふーっ。
湯呑みに入った冷えた麦茶を一口含み、唇を潤わせ、霊夢は首を傾げた。
「何時の間に、私も乗っていたの?」
「魔理沙さんもいましたよ!」
「や、聞いてない」
ミチルさん役はアリスさんでした――自身の配役に満足しているのか、頷きながら、早苗。
勿論、霊夢が聞いた訳ではない。
終わったかのように思えた早苗の話だったが、次にはその細部を語りだしていた。
冷えた物を飲ませれば止まるだろうか。
思った霊夢はしかし、狭間に置かれた盆に手を伸ばさなかった。
蛇と蛙がプリントされた湯呑みを持ち上げるのが、煩わしかった訳ではない。
ただ、落ち着いて欲しくなかっただけだった。
(時々鋭いのよね、早苗……)
正確には、自身に注意を向けて欲しくない。
重い瞼を飲み込んだ冷気でこじ開け、霊夢は、ちらりと早苗の顔を窺った。
すると、するりと視線が絡み合う。
瞳がかち合った。
(……!?)
動揺を隠し、素気ない仕草で湯呑みを口に運ぶ。
目を閉じながら、麦茶を一口二口と飲み込む。
こくん、と音が鳴り、胃へと落ちた。
(もう大丈夫)――思った矢先に、手が頬へと伸ばされる。
霊夢が声を上げるより先に、思った通り、そろりと目の下を指で触れられた。
「……あによ」
「ふにふに、ぷにー」
「って、ほんとになによ!?」
怒声を張り上げる霊夢に早苗が返したのは、触れた指。
一瞬呆然とする霊夢だったが、気付き、顔を顰めた。
これはデモンストレーションだ。
指の先端と節から下の色が、違う。
「寝不足ですか」
一足飛びの、しかも確信めいた問い方に、霊夢は憮然とした表情になった。
色の違いは、塗っているファンデーションのせいだ。
珍しくも塗布しているのは、目の下の隈を隠すため。
隈ができた理由は、指摘の通り、寝不足だからだ。
ここまで正確に推測されたのだから、何れその先、原因もばれるだろう。
「……あんたのせいよ」
ならば、その前に――早苗を思い、霊夢は口を開いた。
「私のせい、ですか。
捉え方によっては、こう、ぐっときますね。
ですが夜な夜な思い悩む必要などありません、いざ寝室へ!」
変なスイッチを押してしまったようだ。
「だから寝られないんだっての」
「しょぼーん」
「えーと」
何故かがっくりと肩を落とす早苗。
話の接ぎ穂を探す霊夢だったが、打たれる空咳に、言葉を続ける。
「どうも最近、夢見が悪くてさ」
「襲ってしまいましたか」
「誰をよ」
「誰が、です」
「私を襲って来るような物好きな奴、いないと思うけど」
早苗が笑みを浮かべる。それはもう、極上の微笑。
場違いな微笑みに、綺麗だな、と思いつつ、霊夢は顔を少し背けた。
「あー、でも、ある意味、そう言うのかしら。
人じゃなくて無機物だけど。
……概念かな」
うってかわってきょとんとする早苗に、微苦笑を浮かべ、事の真相を語る――。
「場所は居間。
風に揺れ、鳴る風鈴さえ疎ましい。
机に向かう私にそう感じさせるのは、頬を伝う汗、落ちる先の白いノート」
漠然としていた夢が、語るたび克明になり、霊夢はまた、顔を顰めた。
「そして、傍らに積み上げられた幾冊もの本――その名前は、総じて、宿題」
霊夢に『宿題』の記憶はない。
けれど、それは正しく『宿題』だった。
夏の終わり、休み明けに提出しなくてはいけないもの。
巫女の習いで祝詞に向き合うことはあっても、それは生涯付き合うものであり、一昼夜でどうこうと言う類ではなかった。
しかし、眼前の、傍らのものは、明日までに片付けなくてはならない。
(この量を? 馬鹿言わないでよ……)
思えども、手は動かす。
だが、頁は一向に埋まらない。
焦燥感だけが募り、加えて、じとりとした汗が浮かび続ける。
終わらない。
終わらない。
おわらない、おわラナイ……「おわら、ない」。
自身の呻きで目が覚める。
多量の汗を吸った寝巻を、心底、煩わしく思う。
手で額を拭い、瞳を閉じる……頭を振り、上半身を起こした。
もう一度寝ても、恐らく同じ夢を見るだろう――浮かんでしまった推測に、霊夢は溜息を零したのだった。
「あー……」
語り終えた霊夢に、早苗が頬を掻き、嘆息する。
「私のせい……ですね」
宥めることも咎めることもせず、霊夢はただ、頷いた。
簡単な話だ。
霊夢が悪夢を見る数日前、何の気なしに、早苗がその話題を口にした。
浮かぶ汗、埋まらない頁、無為に募る焦燥感、延々と終わらない夏休みの宿題。
「あれ? でも、私が話したのって、休みが終わる一日前に気付いた算数ドリルとか、そんなものだったと……?」
「んー、イメージの問題でしょうね。私、『宿題』ってやったことないから」
「なるほど、それで、概念なんですね」
また頷く。
直前に、気の抜けた音。
欠伸をしていることに気付いたのは、手を口に当てた時だった。
「ごめん」
小さく頭を下げる。
直後に、後頭部を押さえる手と、気の抜ける感触。
温かくも柔らかく、頭を蕩けさせる原因は、早苗の太腿だった。
俗に言う、膝枕だ。
「いやだからね早苗、今寝ても一緒だと思うの」
頭と体を反転させ、霊夢は首を傾げる。
「あん……」
「変な声出すな!?」
「違いますよ、霊夢さん」
縁側には、陽光が降り注いでいる。
けれど、霊夢の瞳には届かない。
白い手に覆われていた。
もう片方の手で、優しく髪を撫でられている。
「今は、私がいます」
「ふぁ……助けにきてくれる、とか?」
「顰め面をしたら起こそうと思っていたんですが……それもいいですね」
霊夢に早苗の顔は見えない。
だから、微笑んでいると思ったのは、勘だ。
博麗の巫女の、だろうか。違う。友人としての勘だった。
霊夢にとって、早苗は、無防備な寝姿を晒すのに一瞬の躊躇いもないほど、安心できる――友達なのだから。
「おやすみ、さなえ」
「お休みなさい、霊夢さん」
「――じゃあ、夢でも、あいましょう」
重なる声に、二人の少女は、更に笑むのだった――。
――って、やっぱり、山積みのままじゃないの!?
――呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!
――……えっと、まだ、呼んでない。
――そんなつれないことを仰らずに。早く終わらせましょう。
――ん。
――明るいうちに終わったら、里に遊びに行きましょうか。
――食べ歩きね!?
――……えっと、まだ、何をするか言ってません。
――あれ、でも、なんかもの凄く明るくなってきてない?
瞼を照らしだした陽光に、霊夢は薄らと目を開く。
どうと言うことはなく、顔を覆っていた手がどけられたようだ。
見上げると、早苗もうつらうつらと舟を漕いでいる。
くすりと笑んで、もう一眠り、と霊夢は再び瞼を閉じた――。
――陽光が赤くなる頃、少女たちは目を覚ました。
「おはよう、早苗」
「ごめんなさい、寝てしまっていました」
「いいわよ、ちゃんと来てくれたし。美味しかったし」
頭を下げる早苗に、霊夢は楽しそうに告げる。
あの後。
早々に宿題を終わらせた二人は、提案通り、里に向かった。
饅頭を食べ、冷えた麦茶で喉を潤わせ、秋冬用の化粧品をわいわい言いながら眺める――そんな、楽しい夢。
全てを一括りにして、霊夢は笑んだ。
「私ね、早苗と、色々なことをしていたわ」
「私も、霊夢さんに、色々なことをしていました」
返す早苗もまた、しっとりと艶むのだった。……しっとり?
ともあれ、少女二人が夢を語り合い、晩夏の夕暮れは過ぎていくのだった――。
<幕>
何があるか、何処で出てくるか、それは本人すら解りえない。
厄介なことに、或いは素晴らしいことに、自身の体験だけが反映される訳でもなかった。
覚えがないだろうか。
例えば、死霊に追いかけまわされる夢。
例えば、人生のハーレムルートに突入してうっはうはな夢。何故覚めた。
失敬。
「こんにちは、霊夢さん」
「あー……早苗、こんちゃ」
「聞いてくださいよぅ、昨日、とってもいい夢を見たんです!」
そして、少女二人もまた、そんな夢を語り合うのだった――。
何時もと言えば何時もの場所、博麗神社。
その縁側に腰かけ、東風谷早苗が上機嫌な表情を浮かべていた。
よほどいい夢だったのだろう、瞳が、さも童女のように輝いている。
握った両拳を上下に振って、口を開く。
「なんとなんと、夢の中で、私はポセイドンに乗っていたんです!
しかも相手はドラゴノザウルス!
ぐるんぐるんと千切っては投げ千切っては投げを繰り返しました!
いやぁでも流石に奴は強かった!
ぐにゅんぐにゅんとすぐに再生してしまうんです!」
むふー。
傍らに座る霊夢に解ったのは、とりあえず、早苗が何かのロボットに乗ったんだろうなぁ、程度のことだけだった。
話は続く。
「触手に巻きつかれるかと思ったその直前、思いもしない救援が現れました!
『私はメイドのプロよ、外しはしないわ』!
そう、咲夜さんが助けてくれたのです!
奴の動きをサザンクロスナイフで抑え、隙を作って下さいました!
その好機を見逃す私たちではありません、霊夢さんに操縦を譲り、見事見事、博麗スパークが奴を打ち倒したのでっす!!」
ぶんぶん、むふーっ。
湯呑みに入った冷えた麦茶を一口含み、唇を潤わせ、霊夢は首を傾げた。
「何時の間に、私も乗っていたの?」
「魔理沙さんもいましたよ!」
「や、聞いてない」
ミチルさん役はアリスさんでした――自身の配役に満足しているのか、頷きながら、早苗。
勿論、霊夢が聞いた訳ではない。
終わったかのように思えた早苗の話だったが、次にはその細部を語りだしていた。
冷えた物を飲ませれば止まるだろうか。
思った霊夢はしかし、狭間に置かれた盆に手を伸ばさなかった。
蛇と蛙がプリントされた湯呑みを持ち上げるのが、煩わしかった訳ではない。
ただ、落ち着いて欲しくなかっただけだった。
(時々鋭いのよね、早苗……)
正確には、自身に注意を向けて欲しくない。
重い瞼を飲み込んだ冷気でこじ開け、霊夢は、ちらりと早苗の顔を窺った。
すると、するりと視線が絡み合う。
瞳がかち合った。
(……!?)
動揺を隠し、素気ない仕草で湯呑みを口に運ぶ。
目を閉じながら、麦茶を一口二口と飲み込む。
こくん、と音が鳴り、胃へと落ちた。
(もう大丈夫)――思った矢先に、手が頬へと伸ばされる。
霊夢が声を上げるより先に、思った通り、そろりと目の下を指で触れられた。
「……あによ」
「ふにふに、ぷにー」
「って、ほんとになによ!?」
怒声を張り上げる霊夢に早苗が返したのは、触れた指。
一瞬呆然とする霊夢だったが、気付き、顔を顰めた。
これはデモンストレーションだ。
指の先端と節から下の色が、違う。
「寝不足ですか」
一足飛びの、しかも確信めいた問い方に、霊夢は憮然とした表情になった。
色の違いは、塗っているファンデーションのせいだ。
珍しくも塗布しているのは、目の下の隈を隠すため。
隈ができた理由は、指摘の通り、寝不足だからだ。
ここまで正確に推測されたのだから、何れその先、原因もばれるだろう。
「……あんたのせいよ」
ならば、その前に――早苗を思い、霊夢は口を開いた。
「私のせい、ですか。
捉え方によっては、こう、ぐっときますね。
ですが夜な夜な思い悩む必要などありません、いざ寝室へ!」
変なスイッチを押してしまったようだ。
「だから寝られないんだっての」
「しょぼーん」
「えーと」
何故かがっくりと肩を落とす早苗。
話の接ぎ穂を探す霊夢だったが、打たれる空咳に、言葉を続ける。
「どうも最近、夢見が悪くてさ」
「襲ってしまいましたか」
「誰をよ」
「誰が、です」
「私を襲って来るような物好きな奴、いないと思うけど」
早苗が笑みを浮かべる。それはもう、極上の微笑。
場違いな微笑みに、綺麗だな、と思いつつ、霊夢は顔を少し背けた。
「あー、でも、ある意味、そう言うのかしら。
人じゃなくて無機物だけど。
……概念かな」
うってかわってきょとんとする早苗に、微苦笑を浮かべ、事の真相を語る――。
「場所は居間。
風に揺れ、鳴る風鈴さえ疎ましい。
机に向かう私にそう感じさせるのは、頬を伝う汗、落ちる先の白いノート」
漠然としていた夢が、語るたび克明になり、霊夢はまた、顔を顰めた。
「そして、傍らに積み上げられた幾冊もの本――その名前は、総じて、宿題」
霊夢に『宿題』の記憶はない。
けれど、それは正しく『宿題』だった。
夏の終わり、休み明けに提出しなくてはいけないもの。
巫女の習いで祝詞に向き合うことはあっても、それは生涯付き合うものであり、一昼夜でどうこうと言う類ではなかった。
しかし、眼前の、傍らのものは、明日までに片付けなくてはならない。
(この量を? 馬鹿言わないでよ……)
思えども、手は動かす。
だが、頁は一向に埋まらない。
焦燥感だけが募り、加えて、じとりとした汗が浮かび続ける。
終わらない。
終わらない。
おわらない、おわラナイ……「おわら、ない」。
自身の呻きで目が覚める。
多量の汗を吸った寝巻を、心底、煩わしく思う。
手で額を拭い、瞳を閉じる……頭を振り、上半身を起こした。
もう一度寝ても、恐らく同じ夢を見るだろう――浮かんでしまった推測に、霊夢は溜息を零したのだった。
「あー……」
語り終えた霊夢に、早苗が頬を掻き、嘆息する。
「私のせい……ですね」
宥めることも咎めることもせず、霊夢はただ、頷いた。
簡単な話だ。
霊夢が悪夢を見る数日前、何の気なしに、早苗がその話題を口にした。
浮かぶ汗、埋まらない頁、無為に募る焦燥感、延々と終わらない夏休みの宿題。
「あれ? でも、私が話したのって、休みが終わる一日前に気付いた算数ドリルとか、そんなものだったと……?」
「んー、イメージの問題でしょうね。私、『宿題』ってやったことないから」
「なるほど、それで、概念なんですね」
また頷く。
直前に、気の抜けた音。
欠伸をしていることに気付いたのは、手を口に当てた時だった。
「ごめん」
小さく頭を下げる。
直後に、後頭部を押さえる手と、気の抜ける感触。
温かくも柔らかく、頭を蕩けさせる原因は、早苗の太腿だった。
俗に言う、膝枕だ。
「いやだからね早苗、今寝ても一緒だと思うの」
頭と体を反転させ、霊夢は首を傾げる。
「あん……」
「変な声出すな!?」
「違いますよ、霊夢さん」
縁側には、陽光が降り注いでいる。
けれど、霊夢の瞳には届かない。
白い手に覆われていた。
もう片方の手で、優しく髪を撫でられている。
「今は、私がいます」
「ふぁ……助けにきてくれる、とか?」
「顰め面をしたら起こそうと思っていたんですが……それもいいですね」
霊夢に早苗の顔は見えない。
だから、微笑んでいると思ったのは、勘だ。
博麗の巫女の、だろうか。違う。友人としての勘だった。
霊夢にとって、早苗は、無防備な寝姿を晒すのに一瞬の躊躇いもないほど、安心できる――友達なのだから。
「おやすみ、さなえ」
「お休みなさい、霊夢さん」
「――じゃあ、夢でも、あいましょう」
重なる声に、二人の少女は、更に笑むのだった――。
――って、やっぱり、山積みのままじゃないの!?
――呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!
――……えっと、まだ、呼んでない。
――そんなつれないことを仰らずに。早く終わらせましょう。
――ん。
――明るいうちに終わったら、里に遊びに行きましょうか。
――食べ歩きね!?
――……えっと、まだ、何をするか言ってません。
――あれ、でも、なんかもの凄く明るくなってきてない?
瞼を照らしだした陽光に、霊夢は薄らと目を開く。
どうと言うことはなく、顔を覆っていた手がどけられたようだ。
見上げると、早苗もうつらうつらと舟を漕いでいる。
くすりと笑んで、もう一眠り、と霊夢は再び瞼を閉じた――。
――陽光が赤くなる頃、少女たちは目を覚ました。
「おはよう、早苗」
「ごめんなさい、寝てしまっていました」
「いいわよ、ちゃんと来てくれたし。美味しかったし」
頭を下げる早苗に、霊夢は楽しそうに告げる。
あの後。
早々に宿題を終わらせた二人は、提案通り、里に向かった。
饅頭を食べ、冷えた麦茶で喉を潤わせ、秋冬用の化粧品をわいわい言いながら眺める――そんな、楽しい夢。
全てを一括りにして、霊夢は笑んだ。
「私ね、早苗と、色々なことをしていたわ」
「私も、霊夢さんに、色々なことをしていました」
返す早苗もまた、しっとりと艶むのだった。……しっとり?
ともあれ、少女二人が夢を語り合い、晩夏の夕暮れは過ぎていくのだった――。
<幕>
そういう事ですね、やはりレイサナはいい
次のお話はこういう事ですね、やはりレイサナはいい
しかし夢で逢えたら素敵ですね、やはりレイサナはいい
素晴らしいレイサナでした
そう、まさにこの早苗さんのような。
夢の中ですからね。夢の中。