※ この話は、ジェネリック作品集73、『後輩以上恋人未満。』の話の内容を若干引き継いでおります。
気にならない程度だとは思うのですが、気になったら是非お読みください。
照りつける太陽に汗を拭いつつも、決して手に持った工具を放さない。
そんな意外にも頼もしい、にとりの背中を私は何となく見つめていた。
「こんな暑いのに外に出てて平気かよ?」
皿の水が乾くと不味いとかいう河童の言い伝えは迷信だったか?
……それともあの帽子のお陰なのだろうか。
やっぱりにとりの頭にもお皿が付いていて、それを守るために被っているとか。
考え過ぎかもしれないが、にとりが帽子を脱いだところを見てみたい気もする。
「ん? どうして? ポカポカしてて気持ちいいじゃん。」
機械から目を逸らすことなく平然とした様子で答えるにとり。
肌もこんがり焼けて、とっても健康的だ。
そんなにとりの姿に何だか悩みなんて無さそうだな、なんて訳も無く羨ましくなったり。
いや……訳なら有るか。
自分だけが苦しんだって、そんな被害妄想じみたものがずっと頭の片隅でちらついているのだ。
ホント、大した悩みでもないんだがな……自分の器が知れたようでまた自己嫌悪に陥ったり。
「それより今日はどうしたの? 何か悩み事?」
そう言ってにとりは一度工具を置くと、私に振り返ってくれた。
その真っ直ぐな瞳に見透かされてしまったようで、堪らず私はそっぽを向いた。
「どうして分かったんだ……? 私はまだ一言も言ってないぜ?」
正直不思議だった。にとりは遂に読心の術でも会得したのだろうか?
それよりかはそんな機械を発明した、と言う方がしっくり来るが。
「何をそんなに驚いているのさ? 大体魔理沙が自分から此処へ来る時って、相談事か厄介事のどっちかをぶら下げてるじゃない。」
何を今更と、冗談めかしてからからと笑うにとり。
当然のように見抜かれた自分が恥ずかしくなった。呆れられても仕方ないとさえ思う。
だけどにとりは、こんな私でさえ優しく迎え入れてくれる。
「……迷惑……だったか?」
自覚はしているつもりだ。でもにとりなら許してくれると分かってるから……。
「そ、そんな事は無いさっ! 寧ろ私は嬉しいんだよ? 私なんかを頼ってくれているようで──」
ほら、やっぱり。にとりはどうしたってにとりなのだ。
そんなお人好しのにとりに付け込む私はなんて狡いんだろう。
分かってる……分かってるけど。でもやっぱり、にとりじゃなきゃ駄目なんだ。
こう言う時、相談できるのはやっぱりにとりだけなんだ。
「──だからその、そんな泣きそうな顔、しないでおくれよ。」
「──え?」
途中からにとりの話を聞き流してしまっていたが、思いもよらない一言で不意に現実へと引き戻された。
心配そうに私の顔を覗き込んでくれるにとりに、どうしたことか私は本当に泣きそうになった。
「わ、わりぃ……。」
そんな自分がどうしようもなく恥ずかしくて……にとりから逃げるように私は顔を背けた。
「第一さ、私の他に適役がいるんじゃないのかなぁ。魔理沙の回りには。」
どうしてこうも謙虚かな、にとりって奴は。
お前ほどの適任なんていないのに……にとり程、友達甲斐のある奴なんていないのに。
本人はまるで気付いていない。そこが良い所でもあるんだが、勿体無い気もする。
「…………その回りの事で悩んでいるんだよ。」
だけど丁度いい……核心に近付いたし、ここいらで本題に入るとしよう。
ここまで来てまだ話す事を躊躇していた私だったが、なけなしの勇気を振り絞る事に成功した。
「パチュリーやアリスと喧嘩でもしたのか?」
すると予想以上に驚いてみせるにとり。そんな驚く事だろうか。
ていうか別に、喧嘩した訳じゃない……と、思う。
「…………分かんない。」
……やっぱりちょっと自信がない。最近なんだか二人の様子がちょっと変なのだ。
ひょっとしたら自分では気付かないうちに怒らせるようなこと、してしまったのかも知れない。
だから、分かんない。
「分かんないって……そんな筈ないだろう?」
「分かんないものは、分かんないだよ。」
私は嘘なんか付いていない。
それはにとりにも伝わったようで、だから余計に深い溜め息をさせてしまった。
「ほら。とりあえず水でも飲みな。摘むもんは相変わらずきゅうりしか無いんだけど……?」
先にテーブルに着いている魔理沙の前へ、水の入ったコップときゅうりの漬け物を皿ごと置いてやる。
私は人里に降りたりしないから、食べ物は自分で栽培しているきゅうりしか無いし、飲み物だって色の付いた物なんて皆無。
それで私は困らないのだけど……やっぱりお客さんが来た時には不便だよね……。
今度ナスにでも挑戦してみるかな…………結局漬け物になるんだけど。
「さんきゅ。甘いもんは余所でしょっちゅう食ってるからな。たまににとりの漬け物が食べたくなるんだぜ。」
「魔理沙……。」
嬉しいこと言ってくれちゃって……!
感激のあまり、ついつい涙腺が緩みそうになる。。
中々いないのだ、河童以外でこの漬け物の良さを理解してくれる者は。
「おいおい、何でお前が泣いてるんだぜ?」
困ったように顔をしかめる魔理沙を見て、私はハッとなった。
いけない、いけない。今は魔理沙の問題だった。
乱雑に目元を拭って無理にでも私は笑顔を繕った。
「な、泣いてなんかないよ? ただちょっと、そうちょっとだけジンと来ただけ。」
どうも私は涙もろくていけない。いつか泣きすぎて干からびたりしないか、結構本気で悩んだりする程だ。
「そんな事より。ほら、魔理沙の話。」
「あ、ああ……。」
魔理沙と向かい合うように私も席に着いて、先程の続きを促した。
さっきは冗談交じりだったけど、今度はちゃんと聞く姿勢を見せてやる。
すると彼女は深い溜め息と共に小さく言葉を零した。
「どっから話たら良いのかな……。」
「分かりやすく話そうなんて思わなくて良いよ。魔理沙が思い付くこと全部吐き出してみなよ。」
頭をかきむしって悩む魔理沙に見かねて、私はそう助言した。
そんなに乱暴に扱ったらせっかくの綺麗な金髪が台無しだ。
「うん……関係がはっきりしてないって言うのかな?」
「ははぁ~ん……なるほどぉ。」
何かと思えばそう言う事か……なんだかんだ言って、魔理沙もお年頃ってことか。
想像していたのより随分と甘酸っぱい話に頬の筋肉が思わず緩んでしまうのを禁じ得なかった。
「な、なんだよ。急ににやついたりして。」
魔理沙だって自覚ぐらいしているみたい。ほんのりと頬を染めながら恥ずかしそうに身をよじった。
うんうん。人間、華が短いからね。妖怪と違って。そう言うのは早いに越した事はないさ。
「で? どっちが本命?」
「な、なんの事だ?」
「だからさぁ~、意識しちゃってるんだろ? パチュリーやアリスの事。誰にも言わないからさ?」
かく言う私だって、興味がある。それに相談に乗るには情報はよりリアルじゃないとね。
ずいずいと魔理沙に迫るようにして、私はテーブルに身を乗り出した。
「……っかんない。」
「え?」
「だからぁ! 分かんないだって! それが分かってたら私はこんな風にいじいじしないっ!」
思った以上に過敏な反応を示す魔理沙……ちょっと弄り過ぎたかな?
どうも気を急いてしまった様だと、すぐに私は反省した。
「ごめん、ごめん。謝るからそんな怒鳴んないでよ。でもどうして急に?」
まだ心の整理が付いていないようだ。相談に来ているくらいだから当然か。
何にせよ、まずは落ち着いて貰わなきゃ話も碌に出来ない。
「……きっかけは……まぁ色々合ったんだけどさ。でも、結構前から不思議には思ってたんだぜ? 何で二人はこんな私に良くしてくれるのかって。」
どこか憂いを込めたその瞳は、きっと此処には居ない二人を見ているのだろう。
テーブルに肘を付いて溜め息を吐く魔理沙の姿はちょっとだけ色っぽかった。
「聞いてんのかよ、にとり?」
「……っと、ごめん。ああ、聞いてるさ。二人が魔理沙に優しい理由、だったよね?」
知らず知らず見とれていたようだ。魔理沙のあんな顔、見たこと無かったから……ちょっとだけドキっとしちゃった。
気恥ずかしさに声が震えそうになったけど、何とか取り繕う事には成功したようだ。
「なんで謝るんだ? そうだ……にとりはどうしてなんだ? 私に振り回されても、文句だけで結局いつも許してくれるじゃないか。」
振り回してる自覚はあったんだ……。
心の中でそっと苦笑いしながら、魔理沙の質問に私は真面目に答える事にした。
「それは自由奔放なのが魔理沙の良いところだからさ。きっと二人も、そう思ってるんじゃないかな?」
「良く分からないんだぜ……。」
「自分じゃ分かんないものかもね。まぁあくまで私はって話だから保証は出来ないけど。ってあれ?
魔理沙の悩みってそんな事? 私はてっきり二人は自分の事好きなのかな? とか、そう言った次元のお話かと思ってたんだけど……?」
「ば、馬鹿やろう! ちゃんと話聞いてたのか!? そんなんじゃないって///!」
だったら悩む程の事でも無いじゃん。と言ってやりたかったが、流石にそれは失礼だと思って止めた。
だってほら、腕組しながら本気で悩んでる姿見せられちゃあそんな野暮な事は言えないよ。
「大体ほら。二人とも私の事、対等に見てないっつうか、見下してるっていうか……。」
「穏やかじゃないな、その言い方。」
思うにこの問題、難が有るとすればそれはきっと魔理沙の方だろう。
何かしらの心境の変化でもあったのか。これまでの関係に疑問を持ったというのはきっとそう言う事なんだろう。
それに今更あの二人が手の平を返すと思えないし……て言うか私から見たら二人とも魔理沙にぞっこんって感じだし。
…………死語かな、ぞっこんって。
「あ、いや。これはあくまで言葉のあやで……なんっつうのかなぁ~?」
また頭を掻き出した魔理沙。ふむ。どうやら魔理沙にはまだそう言う自覚は無い、と。
それはそうと、見ていて可哀想なその苦悩っぷりを放って置ける筈も無く。
偶然にも思い付いた言葉でそっと助け舟を出してみることに。
「妹?」
「そう! そんな感じだ! 兎に角私のこと、恋愛対象とは見てない事は確かだ。……パチュリーにははっきり言われたしな。」
とか言いつつちょっと落胆して見せる魔理沙。
自分では違うなんて言っておいて、詰るところやっぱりそういう話じゃん。
「だったら悩みは解決したようなもんじゃん。」
「どうしてだ?」
「魔理沙の事、妹みたいに思ってるから優しくしてくれるんだろ、パチュリーもアリスも。」
実際のところどうなのかは分からないけど。
パチュリーもアリスも、色恋沙汰とか疎そうだし。案外気付いてないだけかもね。
でも魔理沙の話しっぷりから察するにまだ彼女にアプローチをしてる輩はいないという事になるのかな。
それなら──
「私が立候補しちゃおっかなぁ~。」
「ん? 何の話だ?」
「何でもないよ。何でも。」
そろそろ友達も、卒業……かな?
不思議そうに首を傾げる魔理沙が妙に可愛いなと思ってしまう今日この頃だったとさ。
どんな関係にあっても付き合うなら彼女が一番安心できるかもしれません。
そのイメージが、そのままこの作品から感じられました!
>気恥ずかしさに声が震えそうになった
ひゅい!