Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

片思い→←片思い

2010/09/03 12:20:27
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この物語は「片思い←→片思い」の続編となっております。
でも、以下の相関図だけ理解してもらえたら大丈夫です。



咲夜 ―― 好きだけど告白する前に振られた ―→ 霖之助 ←― 恋心?―― 神綺 ―― 溺愛 ―→アリス
咲夜 ←― きっと好きだった。けれど…… ―― 霖之助 ―― 恋心 ―→ 神綺 ←― 母親 ――アリス





< 片思い→←片思い >




朝は、どの世界にも平等に訪れる。

それは幻想郷もまた然り。

もっとも、毎回平和に訪れてくれるわけではない。

たとえば、今日とか……


「こーりん来てやったぜ! ってまだ寝てるのかよ」


早朝。

玄関のドアが、ひとりでに開いた。

ドアの後ろには、黒い影が仁王立ちしている。

黒い影は「玄関にカギをかけないなんて不用心だな」なんて言いつつ帽子をいつもの場所に置く。

そう、白黒の恋の魔法使い、魔理沙が開店前の香霖堂へとやってきたのだ。

ばたばたと忙しない音で、少し意識が浮かび上がったが、相当疲れているようで起きることはできなかった。

どうやら昨日咲夜と別れてから、そのままカウンターで寝てしまったようだ。

正確には絶賛睡眠中である。

だれが絶賛するかって?

もちろん、僕が寝ているのをいい事に、悪戯を仕掛けようとしている魔理沙だ。

さてさて、今日はどんな悪戯をするのだろうか。

内心楽しみだったりする。

もっとも、そんな事を口には出さないが。

そもそも寝ているから、寝言でもない限り口にも出せないが。

あぁ、それにしても起きるのが面倒だ。

とても面倒だ。

なんて考えている内に、魔理沙が動いた。

音をたてないように、こちらへと近づいてくるのが分かる。

そして魔理沙は僕の耳元まで唇を近づけ、優しく囁いた。


「好きだぜ。こーりん……」

「知っている」

「!! ちぇ、やっぱり起きてたか」

「いや、今起きたところだよ。おはよう」

「おう、おはよう!」


いつものやり取りを済ませ、朝の挨拶とする。

魔理沙は時々こうやって僕を起こしにくる。

それが何故か、僕が寝過している時だから、助かってはいるんだが……


「なぁ魔理沙。その起こし方もうやめてくれないか?」

「えー」

「どうしてそこまで嫌そうな声を出すのか、分からないな」


露骨に嫌そうな顔と声、さらに全身から嫌オーラを出す魔理沙。

こういうとき、魔理沙が何を考えているのか、僕には分からない。


「それじゃぁ明日からはフライパンとおたまにするぜ」

「それもやめてくれ……」

「こーりんは贅沢だ!!」

「僕が悪いのか?」

「あたりまえだろ?」

「あたりまえだったのか」


どうやら僕は贅沢で悪いらしい。

確かに年頃の女の子たちと話す機会が多くなった。

これは贅沢なことだろう。

で、どうして僕が悪いのだろうか。


「朴念仁だし」

「おっと、また考えていることを声にだしてたか」

「おう。毎晩いたいけな女の子を抱いては捨て抱いては捨て、贅沢だなぁ僕はハァハァって言ってたぜ」

「勝手に捏造するな」

「捏造は勝手にするものだぜ」

「確かにそうだけど、いやいやだめだろう」

「あははは。そんなに真剣な顔をして言うなよ~」


朝から大笑いする魔理沙につられ、僕も笑っていた。

魔理沙のおかげで今日も一日がんばれそうだ。

やっぱり僕は贅沢だな。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




「魔理沙、魔法具店の仕事はどうしたんだい?」

「だって誰も店に来てくれないんだもん」

「それは森の中まで人は来れないからだろう。どうしてあんなところに開いたんだい?」

「こーりんだってこんな変な場所で店を構えているじゃないか」

「僕はまだ森の前で開いている。人通りはあるさ」

「それは五十歩百歩っていうんだぜ?」

「そうなのか?」


朝ごはんを食べ終わり、無事に開店準備も終わった。

今は店内の空気の入れ替えをしているところだ。

そして僕たちは朝の空気を吸うために、外にイスを持ち出して団欒している。


「ところでこーりん」

「なんだい?」

「えっと、さ……」

「うん?」


魔理沙は何かを言いたげに、けれど言いにくそうにしていた。

「おきがくにどうぞ」という看板を、魔理沙は箒で突きながら、次の言葉を探している。

僕は待ち続けることにした。

幸い、時間なら沢山ある。

一文字ていうと、「暇」だ。

思慮をめぐらせている内に、10分くらいたっただろう。

ついに魔理沙が口を開いた。


「咲夜を泣かせたって、本当か?」

「どうしてそれを君が知っているんだい?」

「聞いているのはこっちだぜ」


少し、いやかなり怒った様子で、魔理沙はこっちを見ていた。

嘘はつけない、か。


「あぁ。本当だ」

「……何をしたんだ? まさか咲夜に襲いかかったんだじゃないだろうな」

「そんな事していたら、頭と体が永遠にさようならしているよ」

「まじめに答えてくれ」

「……襲ってないよ。ただ、謝っただけさ」


本当の事だ。

それに僕は告白されていない。

ただ、謝っただけなんだから。

自分勝手、だな。


「あぁもう分からん! 昨日いきなりパチュリーがきて、図書館なくなったから泊めてとか言い出すし」

「図書館が?」

「なんでも咲夜がいじっていた空間が、元に戻ったらしい。そして図書館そのものが消えちゃったんだと」

「時間を操れるということは、空間を操れるということと同意、だったか」

「パチュリーは本がないと寝れないとかいって、私に抱きついてくるし、咲夜が泣いていたと聞いて私もどうしたらいいのか分からないし、あぁぁぁだれか説明をしてくれ!!」


誰も通らないからといって、店前で大声を出されたら困るのだが。

頭を抱えてやんやんと首を振っている魔理沙を見ていると、そんな事も言っていられない。

それよりも、咲夜が心配になっている自分がいた。


泣いていた。

胸が痛い。

泣いていた。

喉が痛い。

泣かした。

心が痛い。

泣いた。

咲夜の世界が崩壊するほどに。

やっぱり僕は、悪いやつなのだろう。


「そうだ、お前が悪い。だから殴らせろ」

「それは嫌だな」


殴られたらこの痛みは消えてしまうかもしれないから。


「自分勝手なやつめ!」

「それを魔理沙に言われる日が来るとはね」


話が一向に進まない。

僕にもどうしたらいいのか分からない。

もうすぐ咲夜が来店する時間だけれど、きっと来ないだろうから。

僕では、この話を完結させられない。

いっそのこと、僕も叫んでみようか。


「近所迷惑になるから、やめた方がよろしいですわ」

「ご近所さんは精々、魔理沙とアリスだから別にかまわないだろう……え?」

「さ、咲夜、咲夜じゃないか!」

「ごきげんよう、霖之助さんと白黒のネズミさん」


咲夜がいつものようにお辞儀をして、そこにいた。

幻でもない。

相変わらず機械のような動きで、外向き用の仕草で挨拶をしている。

目に、泣いたような跡もなく、空色の瞳が美しい。

相変わらず完全で瀟洒なメイド長だった。


「お、おい咲夜、大丈夫なのか?」

「女は、涙の数だけ強くなりますのよ。アスファルトに咲く花のように。覚えておきなさいな。恋色の魔法使い」

「は?」


咲夜の冷ややか目を見る限り、元気そのものらしい。

一晩泣いて、すっきりしたということだろうか。

話はこれで完結してくれたのだろうか。

僕たちは、いつもの調子でいられるのだろうか……

それなら、まずは僕から声をかけないといけないな。

第一声は重要だぞ。

だから何気ないように、慎重に……


「いらっしゃい。今日の咲夜は奇麗だね」


し、しまったーーー!!

これじゃダメな男にランキングインしてしまうじゃないか。

確かに、なんだか今までよりも奇麗にみえるけども。

女性を意識してしまうような雰囲気が、咲夜から立ち上っているけども。

唇はいつにもまして、ぷるんとしているし、髪も、少し切ったのか? 今の方が似合っている。

ただでさえ短かったスカートの丈、がさらに短くなってふとももが眩しい。

さらに爪の先まで磨きたてのステンドガラスのように、太陽の光を透過している。

これで見惚れない男性はいないだろう。

それほどまでに、美しい。




あ…………

これはいけない。まずい。

たぶん、今のも声に出してた。

だって、魔理沙もさっきから足を踏んでるし。


「魔理沙……痛い」

「そりゃ、力いっぱいに踏みつぶしているんだから当たり前田のクラッカー」

「これはだな、道具屋としてのするどい観察眼がなす、いわば職業病なんだ。親父さんもそうだっただろう?」

「毎日毎日、胸が0.1ミリ成長したねとか、おっぱい小さくなってるぞ、とか言われる身にもなってみろ」


ぐりぐりと踏みにじられる僕のつま先。

親父さんへの恨みも篭っている気がしてならない。

そろそろやめてもらわないと、足がバターチーズになってしまいそうだ。


「霖之助さん、そろそろ注文よろしいかしら?」


ここで咲夜が声をかけてくれる。

まさに天の助け!

今ならなんでもセールにしてあげよう。

涙目で感謝の言葉を述べつつ、魔理沙の足から逃げ出した。


「い、いらっしゃい。何が要りようかな?」

「紅色の毛糸と、白色の毛糸を下さいな」

「ふむ……普通の毛糸と、笛を吹くとウネウネ動く魔法の毛糸があるけれど、どっちがいい?」

「普通の毛糸でお願いしますわ」

「分かった。少し待っていてくれ」



注文の品を取りに行くため、僕は一人店に入る。

店の外で魔理沙と咲夜が話しているのが、気にならない分ではないが、それよりも僕は落ち着きたかった。

心臓がバクバクと熱くなっている。

咲夜を見てからの記憶が曖昧だ。

でも、目をつむれば、咲夜の姿が映し出される。

自己嫌悪。

僕は最低な男になったようだ。

神綺の事が好きなのに、咲夜も『ほしい』と思っている。

神綺とキスをかわしながら、咲夜を抱きしめたい。

闇い衝動が、僕の体を支配しようとしている。

本当……最低だ。


「とりあえずは……毛糸か」


今考えるのはよそう。

後で、一人でじっくり考えよう。

毛糸の棚は、目の前にある。

僕はゆっくりと毛糸を手にとり、玄関へと向かった。





「おまたせ。これでいいかい?」


僕の手には毛糸の束が4つほど握られている。

握るというよりも、抱えていると言った方がいいほどの量だった。

その姿をみて目を丸くした咲夜が、笑顔で答えた。


「クスッ。霖之助さんが頭が、毛糸から生えているように見えるわ」

「水でもやったら成長するんじゃないか?」


けらけらと笑いながら悪乗りする魔理沙。

ジョーロで水をさすような仕草をしないでくれ。地味に怖い。

魔理沙の魔の手から逃れようと、一歩さがったのがまずかった。

一番上に乗っていた毛糸が、落ちたのだ。

あぁ、これはもう売り物にならないな。

そう思った瞬間、咲夜が目の前に現れた。


「ほら、ちゃんと持っていないと落としてしまいますわよ?」

「! あ、ありがとう」


時間を止めて、拾ってくれたのだろう。

毛糸は砂がつくこともなく、咲夜の手におさまっていた。


「これ、いただきますわ。あとはこれとこれと……」

「ま、待て咲夜。そんなど真ん中から抜いたら落ちる」

「私はパーフェクトメイドだから大丈夫よ」


これと、これと……と言いながら、自分の目に適った毛糸を選別していく。

スカートの内側に毛糸をしまう咲夜。

どんな仕組みになっているのか分からないが、山のように抱えていた毛糸の半分くらいは、スカートの中へと消えていった。

毛糸羨ましいだなんて思ってないぞ?


「後は、これもいただこうかしら。それと……これもね」

「咲夜、それは僕の手だ」

「あら失礼」


左手に最後の毛糸を持ちつつ、右手で僕の手を握る咲夜。

失礼と言った直後、すっと暖かい手の感触が失われる。

同時に力を吸い取られたかのように、虚無感が自分の中に生まれたのを感じた。


「霖之助さん、全部でおいくら?」

「1文」

「あら、思ったより安いのね」

「妥当な値段さ。ほかに買う人もいないしね……魔理沙、ちょっとこの毛糸持っていてくれないか?」


ほいさっと、残った毛糸を魔理沙に渡す。

今度は魔理沙の頭が、毛糸から生えてきたようにみえる。

僕たちの視線が何を意味するのか分かっている魔理沙は、にかっと笑う。

それをみて、咲夜がつぶやいた。


「まるで向日葵ね」

「水をかけてもらったら、背伸びるかな?」

「太陽の畑の主にでも頼んでみたら? はいこれお勘定」


魔理沙と話ながら、咲夜はお金を僕の手に置いた。

もう一度、温かく柔らかな感触が手に触れる。

虚無感が満たされるのが分かる。

そして、すぐに虚無感に包まれる。

人の感情というのは、こんなにも怖いものなんだな。

咲夜からもらったお金を、僕はポケットにしまいこんだ。

その様子を確認してから、咲夜がお辞儀をしながら言う。


「それでは私はこれで失礼いたします」

「あとでマスパで押し掛けるから、うまい紅茶とクッキーよろしくな」

「ネズミに出す紅茶はありません」

「ついでにパチュリーもお届けにあがるぜ?」

「そういえばパチュリー様、家出中でしたわね……もう少し外の空気を吸ってから帰ってこられた方が健康にはよろしいのですが」

「魔法の森の、まいなすいおんを体中に浴びて来いって外にほうり出してあるから、きっと今頃泣いてるぜ?」

「あらあら、それは楽しそうですわね。少しだけよって行こうかしら」


言いながらも、もう一度お辞儀をして帰る仕草をする。

きっとこの後、朝ごはんを作って、館を掃除して、パチュリーに怒られて、レミリアに甘えられる。

そんな一日を過ごすだろう。

忙しい毎日の中に、僕がいることを、嬉しく思う。



「さてと、それではお仕事に行ってまいります」




それだけで、客が来ない一日を過ごしていけるのだから。

だから僕は、またのおこしを、と言えばそれでいいんだ。



「行ってらっしゃい、またのおこしを」



それだけの関係で。それ以上望むわけにはいかない。

望んでしまえば、神綺に対しても、咲夜に対しても、それは悪い。完全なる悪意となるから。


それなのに、たった今決意したのに。


咲夜は帰り際に、言い放った。



「そうだ、霖之助さん」

「ん、なんだい?」











紅い目で、僕だけを見つめて。





悪魔の狗がほほ笑んだ。







「I Love You」
全部霖之助が悪い?

「心は意思で押さえつけても、押さえれば抑えるほどそれでもあふれ出るものなの。それそれは悲しいことですわ」

なんだか霖之助が、神綺を愛していると思い込んでいるように見えてきましたぞ?
こじろー
コメント



1.けやっきー削除
なんかもう、とんでもなく上手かったです!
こういう霖之助もいいなぁ…

>贅沢だなぁ僕はハァハァって言ってぜ
言ってたぜ、ですか?
2.奇声を発する程度の能力削除
>当たり前田のクラッカー
懐かしいww

ドギマギが治まらない…(何
続きが楽しみです!
3.K-999削除
そろそろ神綺様出てこないじゃないですか!(前回の感想返し)
代わりに出てきたのはひたぎさんときたもんだ。もっとやってください。
そーですよー咲夜さんー。相手が誰を好きであろうと相手を好きであることをやめる理由にはならないんですよー。

>>私はパーフェクトメイドだから大丈夫よ
なんか咲夜さんが失恋を経て、瀟洒なメイド長からパーフェクトメイドにクラスチェンジした感じですね。

>>毛糸羨ましいだなんて思ってないぞ?
 き っ と 声 に 出 し て い る
4.名前が無い程度の能力削除
幻想郷は常識に捕らわれない世界!なら別に重婚してもいいじゃな(ピチューン

まあ本気のジョークはさておき、咲夜さんなんて悪魔っ娘。とてもGJでした。
次回も楽しみにしてます。
5.名前が無い程度の能力削除
イイヨイイヨー
咲夜→霖之助→神綺の三角関係がどうなるのか、続きがありましたら期待してますぜ!
6.こじろー削除
>けやっきーしゃま
おとこのこな霖之助もたまにはいいよね!

>奇声しゃま
霖之助の揺れる心
咲夜さんの揺れる心
神綺の心はどうなるのか!
自分でもどきどきする不思議ですね

> K-999しゃま
神綺さま出すつもりが、咲夜が可愛くてつい・・・(ぁ
次は神綺さまメインで!
咲夜さんみたいに、まっすぐ愛してくれる人いないかなぁ

>4しゃま
重婚しても二人を愛する体力が(物理的に)あるのか怪しいのぜ?

>5しゃま
三角関係が止まらないやめられない
最後はどうなるんだろうねぇうんうん