とある夏も終わりに近い日。
私はいつも通り守矢神社で早苗の手伝いをしている。
なぜ守矢神社なのかは前の話を云々。
午前中は主に早苗が外、私が中の仕事だ。午後は共同で中だけど。
そして今日も変わらず、早苗は里に信仰集め、私は中でお守りやおみくじ等を作る。
地道な作業だが、最近は慣れてきてる。
遊び時間は昼食後と夜のみ。守矢神社にくる前より随分と減ってるが、なんだかんだでこの生活は気に入ってる。
多分、早苗の存在が大きいと思う。
いつも私を振り回す早苗は一緒にいて退屈しない。
誰がなんと言おうと、私の最高のパートナーだ。本人には恥ずかしくて言えたもんじゃないけど。
「ぬえ~どこですか~」
どうやら帰ってきたようだ。
作業中断。早苗のところへ向かう。
「どうしたの?」
「あ、ぬえ!今日の夜、夏祭りへ行きませんか?」
「夏祭り?」
「はい!これを見てください!」
そういって一枚の紙を渡してくる。
どうやら里で貰ったようだ。
「どれどれ……」
今年の夏ももうすぐ終わり。
最後に思い出を残しませんか?
日時:暗くなってから
「ふ~ん……」
「ねぇ、行きませんか!?」
目をキラキラ輝け、こっちを向いてくる。
あぁもう、断れるわけないじゃない。
「いいけど……あの二人に言わなくていいの?」
「これぐらいは許可されますよ!」
なにやら自信満々な様子。
これは信用の証か。確かにあの二人はすぐに許しそうだけど。
「わかったわ。じゃあ、一先ず今日の分、早めに終わらせる?」
「そうですね。じゃあ、昼食後はそのまま続けましょう」
「うん、そうね」
夏祭り……ねぇ。
私が参加するなんて、夢にも思わなかったな。
妖怪も参加できることがこの幻想郷では普通なんだろうけど。
作業終了後。
とりあえず夏祭りに行くことを聖に報告。一応里のイベントに参加するんだし。そしたら、
それならそれ相応の格好をしなくてはいけませんね
と、暫くして浴衣を着せられた。色は私に合わせたらしく、黒を基調としたもの。
いつもの服と違って少し動きづらい。スカートっぼいところが長すぎるせいかな。
命蓮寺のみんなからは長くしろと言われるが、私はあれが動きやすくてちょうどいいのだ。変な輩はブッ飛ばせばいいんだし。
とりあえず私は聖から少しお金を受け取り、すぐさまでていった。
あんな格好を命蓮寺の連中に見られたくない。特にムラサや一輪。
普段とのギャップで絶対に笑われるのがオチだ。
時間的にはもうすぐ始まるかも。
少し急がなきゃ。
多分、いつもの場所にいるだろうし。
「お待たせ」
「あ、ぬえ」
予想的中。やっぱりいた。
早苗とわかれても大体はここで待ち合わせ、というのが私達。
早苗はいつもと違う、青を基調とした浴衣をきていた。
巫女服か寝巻ぐらいしか見たことのない私にはなんだか新鮮な感じがする。
「……どうしたのですか?ぬえ」
「え、あ、それ、似合ってるなぁって」
「ありがとうございます。これ、神奈子様が外の世界にいたときに作ってくださったものなんですよ。それを諏訪子様が思い出して、着せられて……」
「ふ~ん……」
「ぬえのはどうしたのですか?」
「今日祭に行くって言ったら聖が持ってきた。いつ作ったのかは知らないけど」
「そうなのですか。似合ってますよ、ぬえ」
「ん、そう……ありがと」
「賑やかですね」
「まぁ祭りだしね」
里についた私達。
祭りにはいろんな人達が行き交っている。
人の中に混じって妖怪や妖精なども違和感無しにいる。中には屋台をやっているものまで。
夜雀の屋台もある。なんだか賑やかそうだ。
「おっ、お前は……」
「あ、妹紅さん、あなたもやっていたのですか?」
「あぁ、せっかくだしな」
「そういえば前に早苗が焼き鳥屋って言ってたけどこのこと?」
「はい、そうですよ」
シャツ、赤いもんぺ、たくさんのリボン……言っちゃ悪いけど随分奇抜な格好をした人だ。
「おや、そっちは……」
「封獣ぬえ。よろしくね」
「あぁ、慧音が寺子屋で世話になってるって言ってたな」
「知ってるの?」
「まぁな。それなりに付き合いもあるし。そういえば、早苗もよく惚れ気話を言ってたな」
「そ、そのことは言わないでください!」
からかうように言う妹紅さん。
早苗は真っ赤にして抵抗する。
「私は藤原妹紅。見ればわかるが、焼き鳥屋をやってるんだ」
「ふ~ん……食べれるの?」
「失敬な。なんなら一つ食べてみるか?」
「それじゃ、一つ頂くわ」
「それじゃ、私も」
「毎度ありっと」
代金を払って焼き鳥受け取り、一口含んでみる。
「あ、おいしい……」
「だろ?」
「でも少し焦げてない?」
「あ、それ私も思ってました」
「ん?そうか?けどまぁそのほうが炭火焼きって雰囲気でるだろう」
「私は雰囲気より味ね」
「そうですか?私は大事だと思いますが……」
たまに早苗自身が雰囲気壊してるときもあるけどね。とは言わない。
私はそのほうが好きってときもあるし。この性格だから。
「ぬえ、かき氷食べません?」
「神社でよく食べたから今はいらないわ」
「そうですか……あ、ぬえ、それならわたあめはどうですか?」
「わたあめ?」
わたあめ?なんだろう。私はわたあめなんていうものを知らない。
「なにそれ。綿毛みたいだけど」
「わたあめは、ふわふわしてて甘くておいしいのですよ。綿みたいな飴、だからわたあめというのではないでしょうか」
「ふ~ん……」
「食べます?」
「それじゃあ、少し」
「いらっしゃ……あ、早苗さん」
「あら、妖夢さんですか?」
「知り合い?」
「えぇ、よく里で会うのですよ」
「魂魄妖夢と申します。白玉楼の庭師をしています」
「そんなにかしこまらくてもいいわよ。私は封獣ぬえ。命蓮寺と守矢神社に住んでる妖怪よ」
見るかぎり、真面目で素直そうな性格だ。背中には二本の剣を背負ってるあたり、剣士でもあるのだろうか。まだ未熟そうだけど。
それにしても周りを浮いてるものはなんなのだろうか。
「それがわたあめ?」
「えっ、どれですか?」
「そこに浮いてるの」
「違いますよ!これは私の半霊です!」
「半霊?」
「妖夢さんは半人半霊なのですよ」
「ふ~ん……珍しいわね」
「まぁまずいませんしね」
「そういえば幽々子さんはどうしたのですか?」
「幽々子?」
「妖夢の主人ですよ。冥界の主人でもありますね」
冥界の主……これはすごい人(?)と知り合えたね、私。
ていうか今更だけど早苗の人脈の広さに驚く。まだ幻想郷来て浅いのよね?
「幽々子様は私にこれを任されてどこかへ……」
「任されて?」
「最初は幽々子様がこの屋台を始めたのですが、」
「周りの屋台の匂いに負けてどこかへ行ってしまった、と……」
「はい……」
聞く限りは随分気ままで食いしん坊な人みたいだ。
「それでは、わたあめ一つください」
「あれ?一つでよろしいのですか?」
「はい。ぬえの分だけで平気です」
一つ?しかも私の分だけ?
「早苗?」
「はい、できました」
「ありがとうございます。ほら、ぬえ」
「あ、ありがと……」
早苗から渡されたわたあめは白くて、フワフワしてて、綿毛みたい。
「それでは、行きましょう」
「あ、待って早苗!じゃあまた!妖夢、だっけ!?」
「はい、また」
妖夢に別れを告げ、早苗を追いかける。
それにしても、何故私の分だけなのだろうか。早苗も食べてみればいいのに。
「ほらぬえ、食べましょうよ!」
「え、あ、うん」
とりあえず一口。
……早苗の言ったとおり甘くて、そして口のなかで溶けるような感じで……
「……おいしい」
「……ふふ、それはよかったです」
「早苗は食べないの?」
「いいのですよ、私は……」
ハムッ
……えっ!?
「鼻や口まわりなどにについたものを食べますから」
「そ、それならそう言ってよ!急にビックリしたじゃない……」
「ふふ、一度やってみたかったのです」
「……なによ、それ」
「ほら、もう一口」
「……もう、わかったわよ」
その後もお祭りを満喫する私達。
私は初めてのお祭りだし、とことん楽しんでる。
とはいっても、主に早苗に誘導されてるけど。
早苗が時間を見て、ふと思い出したように私に話す。
「そろそろ広場に向かいません?」
「広場?なんで?」
「そこで花火をするみたいなので」
「そんなのどこでだって見れるじゃない」
「雰囲気、というものは大事なのですよ」
「はぁ、わかったわよ」
「ほら、始まりましたよ!」
広場に着いてすぐに花火が上がった。
どうやらギリギリで間に合ったようだ。
でも、
「なんか人が多くて見にくいわね」
「そうですか?」
「早苗は気にならないの?」
「言われてみれば、少し窮屈ですね……」
う~ん……いくら雰囲気とはいっても、これでは楽しめる気がしない。
「……そうだ!」
「ぬえ?」
「早苗、ちょっとこっちに」
「え、ぬえ!?どこに行くのですか!?」
「いいから!」
多分、あそこなら花火がよく見えると思う。
早苗のいう雰囲気にも当てはまるだろうし。
「ほら、ここ」
私が案内した場所は里から少し離れた丘の上。
里の外とはいっても、ここにはなぜか妖怪はこないから安心だ。
「周りに人もいないし、ここならよく見えるでしょ?」
「ここって……」
「うん、覚えてる?七夕のときの」
そう、ここは前の七夕のときに早苗に案内した場所だ。
やっぱり、寺子屋の子供達には感謝しなきゃ。
「これなら早苗のいう雰囲気にも当てはまると思って」
「そう……ですね……」
「ほら、座りましょう」
「はい」
早苗と隣同士、体育座り。
暫く花火のなると音遠くの人のざわめきだけが聞こえる。
まるでお祭りの騒ぎが嘘のような静けさだ。
「早苗、」
「なんですか?」
「私、お祭り初めてだったんだ」
「そうなのですか?」
「ほら、私妖怪だし。人間がたくさんいるお祭りには参加できないわけ」
「あぁ……そうですね」
実は私もたびたびお祭りに参加したいと思っていたのだ。
人間が楽しそうにするのを見ると邪魔したくなるが、お祭りの雰囲気はどうしても邪魔したくない。むしろ参加したいと思っていた。
けれど、私は妖怪。昔なら参加できるわけがない。
今回、早苗に誘われなかったら参加しなかったと思う。妖怪がお祭りには参加できない、という私の中の勝手なルールのせいで。
「ありがとう早苗、お祭りに誘ってくれて」
「いえ、こちらこそありがとうございます。ぬえが断ったらどうしようかと……」
「……早苗?」
「私も、実は客として参加するのは初めてなのです」
「……そうなの?」
「えぇ、いつもは神社のお祭りを開催する側だったので」
そう話す早苗の目は、どこか寂しそうだった。
親しい友達とも、
憧れの人とも、
一緒に楽しむことはできず、いつも楽しませる側。
早苗にはそれが普通と思っていたが、内心では辛かったのだろう。
同年代のみんなが楽しんでる中、自分一人は忙しく動き回る。
本当は、一緒に楽しみたいのに。
「ありがとうございます。初めてのお祭りが恋人とのお祭りでよかったです」
「ま、まぁ、こちらこそ……」
「また、誘いますね」
「もちろんそうしてよね。そうじゃなかったら私が誘うわ。それに、」
「?」
早苗の頬に、キス。
「これからは神社のお祭りも、私がいるでしょ。楽しむことはできなくても、一緒にいて寂しい思いはもうさせないわ」
「……ありがとう、ございます」
早苗は、涙を浮かべながら言った。
二人の上空、綺麗に花火が咲いた。
すごくうまいと思います。
文による描写力っていうんですか、
素晴らしく楽しませていただきました!
さなぬえ!
さなぬえ!
読んでて楽しかったです、さなぬえ!