「イ゙ェアアアア!!!」
***
「……夢か」
朝、正体不明の奇声が夢の中で鳴り響いたのに呼応し目が覚めた。
その日は今朝の夢以外に特に変わった事は無く、何故か霊夢も魔理沙もやって来なかった為静かに本が読めた。
騒がしいと鬱陶しい事この上ないが……静かだとそれはそれで少し寂しい様な気もするな。自分でも気付かない間にあの騒がしさに順応していたらしい。
そんな事を考えていて、何となく外を見た。窓の向こうが茜に染まっている。
長く生きると時の流れが速く感じるな。……尤も、半妖の身で百二十年生きただけで長生きとは言えないが。
そんな事を考えていると、扉の鈴が鳴り響いた。
「おーい霖の字、祭りに行こうじゃないか!」
言って、その女性は店に入ってくる。
『霖之助』、『香霖』、『半妖』、『霖』……数ある僕の呼ばれ方だが、僕の事を『霖の字』と呼ぶのは一人しかいない。
「小町か……何の用だい?」
サボリ死神、小野塚小町だ。
「だからー今言ったじゃないか。祭りに、い か な い か ?」
「僕が騒がしいのは苦手だと知らなかったのかい」
「知ってるさ。でも騒がない祭りなんて祭りじゃないだろう?」
「まぁそれはそうだが」
「だろう?ホラ立った立った!里にれっつごーだよ!」
「こら、押さないでくれ」
小町は大概の場合自分の主張を曲げはしない。この大概に含まれない場合というのは閻魔にしぼられている時であり、他は知らない。
それは友人の僕もよく分かっているので、渋々腰を上げる。
「さーて、年に一度の祭りだ!派手に楽しもうか!」
「……まさかとは思うが、財布は僕持ちじゃないだろうね?」
「流石霖の字!よく分かってるじゃないか!」
「何故……」
「男女のデートでは男が払う。常識さ」
「やれやれ……そういえば、仕事はいいのかい?」
「気にしちゃ駄目だよ霖の字!さーて何処から回ろうかねぇ……」
つまり、サボリか。
閻魔に見つかった場合、僕も同罪なのだろうか。
見つからない場合もあるのだろうが、何故か何をやっても見つかりそうな気がするのだ。
これから始まるであろう楽しい祭りの時間と、恐らくその後にやって来るであろう恐怖の時間。
その二つに何ともいえない感情を抱きつつ、僕は小町と共に歩き出した。
***
「お、霖の字霖の字!『イカ焼き』って何だい?」
「確か外界の的屋で売られている代表的な食べ物だが……?」
「外の世界、ねぇ……随分と面白そうじゃないか」
「フム、その意見には賛同だね」
「よーっし霖の字!行ってみようか!」
「分かったから引っ付かないでくれ。動きにくいだろう」
「まぁまぁ、そこからそこじゃないか」
「やれやれ……」
「あら、いらっしゃ……って霖之助さんと死神じゃない」
「何だ、珍しいと思ったらそういう事かい」
「まさか妖怪の賢者様が直々に働いてる所を見れるとはね」
「まぁ酷い。それじゃ私がまるで仕事してないみたいじゃない」
「事実だろう……二つ貰えるかい?」
「はーい……どうぞ?」
「ほーこれが外界の、ねぇ……」
「ム、これは中々……」
「そうかい?どれ……ん!中々美味いじゃないかい!」
「ふふ、有難う」
「いい仕事するじゃないかー九尾の!」
「な、ちょ、何で私じゃないのよ!?」
「誰が作ったのかぐらいは分かるよー?死神舐めてるのかい?」
「むー霖之助さん、何とか言って!」
「あぁ、流石は傾国の美女の作ったものだとしか言いようがないね」
「むむむ」
「「何がむむむだ」」
◆◆◆
「お、霖の字!射的だよ!」
「だから何なんだい?」
「いや、昔みたいに隣りにいる子供が銃を構えて照準を合わせ、さぁ撃とうと思った時にはもう全部の商品を打ち落としてたりとかはしないのかい?」
「頼むからそれは忘れてくれ……」
「いーや忘れてはやらんね。霖の字を送る時に延々と語らせてもらうつもりさ」
「ハァ……若気の至りとは恐ろしいね……」
「自分で言うかい?……ん?」
「どうしたんだい?」
「霖の字、アタイと勝負しようじゃないか!」
「何のだい?」
「あれをどっちが取れるか、さ!」
「やれやれ……あれか。大きすぎて打ち落とすには不向きな物だし、君は弾幕ごっこで常に鍛えている。僕にとっては随分と不利だが……」
「だが?」
「賭け事は何が起こるか分からないから面白いんだよ、小町」
「さっすが霖の字は分かってるねぇ!じゃ、一つ勝負と洒落込もうか!」
「やれやれ……」
「そうだね、じゃあ先手は譲ってあげるよ」
「ほぅ……余裕だね」
「ま、ね」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「………………」
「(バシッ!)」
「!」
「……僕の勝ち、だ」
「霖の字ぃ……勝負だって言ってるのに普通一回で終わらせるかい?」
「分が悪い賭けなら、勝てる所に勝負所を持ってくればいい」
「ハァ……こういう所の空気は読めないんだねぇ……」
「……何だ、その、済まない」
「まぁいいさ。それも霖の字だしねぇ」
◆◆◆
「お、霖の字!氷だよ氷!」
「ほう、氷か。一昔前は貴重なものだったが……こうして普通に売られていると時代を感じるね」
「だねぇ……ま、時代って言う程幻想郷は古くないけどね」
「まぁ、ね。さて、どうするんだい?」
「霖の字、アタイのはしゃぎ方を見てなかったのかい?」
「自分で言うかい?……見てたよ」
「んじゃ、もう言わなくても分かってるだろう?」
「やれやれ……ほら」
「何だい?この上のしろっぷは?」
「コーラという外の世界の飲料水だよ。何度か飲んだ事があるが、中々いけるよ」
「ほー、どれどれ……んっ!ッ~~~頭にくるね、コレ!」
「まぁ氷だからね」
「……ん、ほー!何かよく分からないけどシュワシュワしてるね!美味いじゃないか」
「まぁ、コーラならね」
「ん、霖の字はイチゴかい?」
「あぁ。危ない冒険はしたくないんでね」
「つまらないねぇ……一口貰うよ」
「こら、勝手に取るな……」
「ん~~~!やっぱコレだね!」
「やれやれ……」
◆◆◆
「霖の字、綿菓子が売ってるよ!」
「食べたいのかい?」
「あの甘さは堪らないからねぇ~!霖の字、一つ!」
「持ち歩くには不便だが?」
「構やしないさ」
「分かったよ……ほら」
「ん。む……~♪やっぱこの味だね!」
「砂糖を糸状にした物を割り箸に巻きつけただけじゃないか」
「まぁそうだけど……雰囲気とかあるじゃないか」
「まぁ、ね。的屋といえばコレを連想する人も多いんじゃないかな?」
「ま、そういう事だよ。む……ん~!美味いねぇ!」
◆◆◆
「ほー!これ全部飴細工かい!凄いね!」
「確かにこれは凄いな……」
「紅い館の吸血鬼、山の上の軍神、竹林の医者に亡霊嬢!細かい所までよく出来てるねぇ~」
「霊夢や魔理沙を模った物もあるのか……こっちは幽香に……君の上司か」
「おやまぁ悪霊に魔界神まであるのかい!随分と種類が豊富だねぇ……ん?」
「どうしたんだい?」
「り、霖の字じゃないか!ハハハ!ソックリだ!」
「普通笑うかい?それだと僕が笑われてるようで不快だね」
「ハハハ……いやー悪い悪い。余りにも似てるモンだからねぇ」
「まぁ、確かに……僕に似てはいるな」
「店主!霖の字型の飴、一つ貰えるかい?」
「何故僕なんだい?」
「何となくだよ何となく。おー……改めて見ると本当に良く出来てるねぇ……本物みたいだね」
「此処まで良く出来てると食べるのが勿体無い気もするがね」
「確かにねぇ……あ、じゃあ本物の霖の字を食べようかねぇ?」
「僕は半妖だ。食べても美味しくはないと思うが?」
「アタイが言ってるのはそういう意味じゃないよ、霖の字?」
「……?」
「今夜、布団の中で霖の字を頂いちゃおうかねぇ……?」
「引っ付くな。首に腕を回すな。顎を指で撫でるな。それからそういう事は冗談でも言うものじゃないよ」
「ありゃりゃ、連れないねぇ。霖の字が望むならアタイは何でもしてあげるよ?」
「そういう事は冗談として取らない人もいるんだ。無闇に言うものじゃないよ」
「ホントに枯れてるね~……ま、アタイには関係無いか。んじゃ、頂くよ」
「あぁ」
「ん……ちゅぷ……」
「………………」
「れちゅ……ん、はぁ……ぁむ……ん、おいひ……」
「……小町」
「……ん、ふぁんらい……?ひんのひ……んちゅ」
「音を立てて舐めるのは上品とは言えないよ」
「……ハァ。連れないねぇ……興奮とかしないのかい?」
「何処に興奮する要素が?」
「……やれやれ、だね」
◆◆◆
「霖の字、輪投げだよ!」
「唐突だね」
「まぁね。偶にはいいじゃないか。やるよ?」
「僕は別に構わないよ」
「ふふ……言ったね?後悔するなよ霖の字ぃ~?」
「……?」
「射的じゃ負けるけど……ほぃっ」
「!ほぅ……」
「投げ輪の腕はアタイの方が格段に上だよ」
「一回で九つの輪を全て投げ、九つの棒に狂い無く同時に通す……か」
「どうだい?」
「何故そんなに上手いんだい?」
「ん~?ま、大きさこそ違えどアタイの銭にも穴は開いてるからね」
「成程、そういう事か」
「そうだよ。さ、次は霖の字の番だね。ふふ、霖の字が負けたら何して貰おうかねぇ~?」
「……は?」
「夜伽を頼もうか……いや、でもあっちも捨てがたいしねぇ……」
「……君は何を言っているんだい?」
「え?」
「僕は一度もやるとは言ってないが?」
「あ……!あちゃー!騙されちゃったねぇ!」
「思考が足りないね」
「精進しとくよ」
***
夜も更け、そろそろ花火が始まるという頃、僕と小町は里の広場にある長椅子に腰掛けていた。
「さて、もうすぐ花火が上がるし……どうしようか?」
年に一度の空の花。見るなら出来るだけいい場所で……というのがある。
「お、それならいい場所知ってるよ?」
「ほう?」
小町は酒を飲む時風情や雰囲気を大切にする。花火を肴に一杯やろうと言っている時にいい場所を知っていると言う。恐らくかなりの穴場なのだろう。
「此処からだとちょっと遠いんだけど……ま、アタイが居るから関係無いね!」
「フム、じゃあ連れて行ってくれるかい?」
「あい分かった!んじゃ、一名様ご案内!」
言うと、小町は僕の腕を掴んで大きく一歩前へ踏み出した。僕もそれに連れられる。
「ほい、到ちゃーく」
「ほぅ……」
踏み出した瞬間目の前に広がった景色は、先程の喧騒に包まれた里ではなく、大量の木々。
「此処は……魔法の森かい?」
そう尋ねると、小町はふふんと笑い、続けた。
「ま、此処なら静かに花火観賞もできるだろうし……ね」
「フム……」
それはつまり、誰にも邪魔される事無く花火を楽しめるという事だ。
周りの木々は背が低く、此処からでも少し遠くに里が見える。
「ほら霖の字、そろそろ始まるよ?」
「あぁ」
言われ、なみなみと酒の入った杯を渡される。小町も同じ様な物を持っている。
「さて霖の字!何に乾杯しようか?」
「フム……花火だろう」
「ま、それもそうだね。それを肴に酒を飲もうって言うんだから当然だね」
「じゃあ、花火に乾杯だ」
言って、杯を上に上げる。
「乾杯!」
小町も同様に杯を上げる。
その時、今年最初の花火がはるか前方で爆ぜた。
「お、始まったな」
「だね」
会話は途切れる。遠くから時間差で花火の音が聞こえてくるが、それでも静寂と呼ぶには十分な静けさが訪れる。
「………………」
「………………」
暫く二人、無言で花火を眺めていた。
***
どれくらい、そうしていただろうか。
不意に小町が口を開いた。
「霖の字」
「うん?」
「霖の字は……映姫様の事どう思ってるんだい?」
「映姫?」
「あぁ。もっと詳しく言うなら、好きか嫌いかだよ」
「……フム」
言われ、考える。
口煩くて、人の顔を見る度に説教をし、何故か休みの日はかなりの確率で家にやって来ては何故か顔を赤くして説教をする。
だがそれは全て僕の為を思って言ってくれているのだ。その事に嫌悪感は無い。
だが、それを時に鬱陶しく思うのも事実。つまり……
「……よく分からないな」
「そうかい」
「あぁ」
そこでまた静寂が訪れる。花火の音が少し煩く感じる。
「………………」
「………………」
「……何故、そんな事を?」
「いやなに。見ててむず痒くなるんだよねぇ……あの人は」
「……?」
「アタイも後押ししてるんだけどねぇ……あと一歩が踏み切れないみたいでさ」
「何を……」
「だからさ、いっその事極限まで追い詰めれば踏み出せるんじゃないかなーと思ってさ?」
「……?」
「だから……」
そして小町はこっちを見ながらたっぷりと溜め、こう言った。
「アタイが霖の字を頂いちゃおうと思って……ね」
「君は何を言っているんだ?」
「別に……そのうち分かるよ」
言って、小町は僕に近づいてくる。座った状態から迫っているので丁度四つん這いの様な状態だ。
訳がわからず、小町との距離はあっという間に三寸程になってしまった。
「霖の字……」
小町が更に顔を近づける。視界いっぱいに小町の顔が広がる。酒が入ってる事もあってか、顔が赤い。
「……何だい?」
「いくら霖の字が朴念仁でも……分かるだろう?」
「……?」
「若い男女、酒の勢い、誰にも見つからない場所……。此処まで言っても分からないのかい?」
「…………???」
「ふふふ……すぐに良くなるよ。『旦那』……」
「そこまでです!!!」
その時、僕と小町の間を縫うような正確さでレーザーが放たれ、突然の事に思わず離れる。小町が押し飛ばしてくれたのも幸いしたか。
そして、上空にいたのは。
「やあぁぁぁぁぁぁぁっっっっと見つけましたよ? 小町ぃ……」
「え……映姫様……?」
まさに閻魔と呼ぶに相応しい程の殺気を纏った、四季映姫・ヤマザナドゥ。
「お盆休みも終わって霊が大勢帰って来るこの忙しい時に船頭の貴女はこんな所でお祭り騒ぎですか……いいご身分ですね……?」
「え、えーき様!怖いです!その笑顔怖い!」
「それに、て、店主さんに、了承も得ず、な、何て淫らな行為を……!く、黒!黒です!真っ黒です!」
「や、それには深い訳が……」
「問答無用! 貴女には近々本格的な刑を執行した方がいいと思ってましたが……いい機会です」
「ちょっ、待ってくださいえーき様!も、申し訳ありません!!!」
「謝らないで下さい小町。許す気など米粒程もありません」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「………………」
何故。その一言に尽きる。
何故、小町はあんな質問をしてきたのか。
何故、小町はあんな行動をしてきたのか。
何故、此処に閻魔がいるのだろうか。
他にも色々と気になる事はあった。
が、今のこの状況から一つだけ分かった事がある。
今朝の奇妙な夢は、この時の予知夢だったという事だ。
でもまあ、「イ゙ェアアアア!!!」とならないこまっちゃんはこまっちゃんじゃない。小町だ。
なので、ちょっと安心しました。
これで最後なのは残念ですが、なぁに来年があるさ。
ちくしょう!!夏が終わっちまった!!!
小町は結構好きなキャラだな。
…カオスミタイナー
ミョンミョンミョンミョン
イ゙ェアアアア!!!
このシリーズも終わっちゃうのかー…
来年の夏まで『人形遣いの場合』、待ってますw
小町がいいキャラしてて和みました。
次に見るのは来年になるのかな……?
霖之助は最後の最後までリア充生活を送ったわけですね、爆発しろwww
次の夏まで『天狗の場合』を待ってます
ちくしょー、霖之助が本当に羨ましい。
次の夏まで『半獣の場合』をお待ちしてます。
コメント返信でーす。
>>拡散ポンプ 様
絡ませる事は考えてたんですが、カップリング「は」考えてませんでしたw
>>2 様
一行目に六割かけてましたw
>>高純 透 様
こまっちゃんなら仕方ない。そう思っていただければ幸いですw
来年……ですか。続けられるかな?
>>華彩神護.K 様
カオスハムズカシイネー
>>奇声を発する程度の能力 様
ア゙ァァァァイ!!!
ひょっとしたら来年またやるかもしれませんw
>>けやっきー 様
一行目に六割かけてm(ry
リクエストしていただいたのにすいませんでした……
>>淡色 様
一行目に六わr(ry
多分来年ですね。
>>投げ槍 様
一gy(ry
爆発……フランちゃん?
天狗の場合ですか。気長にお待ちを~
>>すいみんぐ 様
(ry
半獣の場合は絶対にやりますよ!ジャスティスですもの!
読んでくれた全ての方に感謝!
来年の夏の「空の花」シリーズ続き待ってますね!^^
というか、怪力乱神と無意識少女の場合が超気になる……
あと吸血鬼の場合は姉妹でやってくるんですよねわかります
一気!?
勇儀姉さんとこいしちゃんですね。
姉妹!?姉だけのつもりでしたが……いいですねw
読んでくれた全ての方に感謝!