「寝てる」
見たそのまんまだった。それを思わずつぶやかせるような、光景だった。
十六夜咲夜が寝ている。紅魔館の、キッチンである。ちょうど隙間のような時間帯なのか、妖精メイドの姿はない。かたむき始めた陽光が、窓から差している。レースのカーテンごしに、咲夜の銀髪をやわらかく輝かせている。咲夜は黒樫らしき椅子にからだを預けて、安らかに呼吸をしている。
ふうん、と魔理沙は思った。こいつにも、こういうとこ、あるんだ。
ちょっとあたりを見回してみる。整頓されたレンジ周り。整然と食器の収納された食器棚。ガラスにくもりはないし、木肌にしみひとつない。調度品もさりげなく、澄まし顔で並んでいる。人はいない。
「おやつ、つまみ食いしに来たんだけれど」
口に出してみる。咲夜は息を吸って、吐いて、少しまつ毛が震えたようだった。髪がひとふさ、さらりと落ちる。魔理沙は、あ、と思う。咲夜の髪がほどかれている。いつも編みこんだ髪につけられているリボンは、今、咲夜の手にゆるく握られている。
魔理沙は、も一度ぶんぶん首を振って、あたりを見る。そうして、咲夜の隣の椅子を引く。魔理沙のお尻に木材のひややかさ、そして、胸に差す光のあたたかさ。逆光のなかで、咲夜の横顔。輪郭が淡い光をまとって、ふわふわしている。魔理沙は手を伸ばしかけて、引っ込める。う、とうめきを漏らして、自分の手を見る。小さい手。咲夜の横顔に目を戻す。やすらかな寝息。ふう、と、ひと呼吸。そうして、も一度、手を伸ばす。咲夜の髪に、触れる。しっとりと、手になじむ銀髪。魔理沙はため息をつく。竪琴の弦のようだ、と思う。てのひらを傾けると、しゃらしゃらと鳴りながら、水のようにこぼれ落ちてゆく。光を反射するところからは、あまい香りが立ちのぼる気がする。魔理沙は、咲夜の胸の上下するのを見る。まぶたが安らかに閉じられているのを見る。そうして、ふう、と呼吸をしてから、その髪のひとふさに
今まででいちばん深い息をしてから、魔理沙は、帽子の端をぎゅっとつかむ。足を、音をたてないようにばたばたと揺らして、く、ふ、ふふふ、と笑いを口の中で殺す。魔理沙の笑いは、おさまらない。ぎゅうっと椅子の上で小さくなって、魔理沙は自分が爆発してしまいそうなのを我慢する。
そうして、ひとつ、いたずらを思いつく。
魔理沙は、そのいたずらを実行に移すのを考えて、もっと爆発しそうになる。でも、しない。それはとっても素敵ないたずらだからだ。しなければならないのだ。魔女のいたずらを、種なし手品師にみせつけてやるのだ。そう思って、自分の髪を解く。
そうして、咲夜は目覚める。ああ、と思う。そうだ、眠っていたのだ、と。懐中時計を見る。おおよそ予定通りの時刻。管理された仮眠。首をめぐらそうとして、気付く。隣の椅子に座って、白黒魔法使いが眠っている。ほとんど息のかかるような距離に、彼女の横顔がある。思わず、咲夜は微笑む。そうして、彼女の頭をなでようとして、あっ、と、今度は驚く。咲夜の髪が編まれている。魔理沙の髪と。
金糸と銀糸を
ああ、と、声が漏れていた。咲夜は、笑った。そうして、懐中時計を目でなでて、ポケットにしまう。咲夜は、魔理沙の手を取って、そうして、椅子に座ったまま、も一度目をつぶる。そうして、くすくす笑いながら、ひと言だけつぶやいて、それきり、黙った。
「もう、ばかね」
もっと書いてくれ! いや、書いてください!
さくめーの同人誌では見たことのあるシチュだけど咲マリとは……
金と銀の編み込みは芸術的だ。
胸が高鳴りすぎて禿げた。
好きすぎて困る。
まあ、萌え禿げたんだが。
咲夜さんの最後の一言で完全に禿げあがってしまいましたよ。
発毛剤を要求します。
すばらしい咲マリをありがとう。