※一部、前作「未来派魔法使い」の設定を受け継いでいます。
・アリスが超能力習得を目指す。
・その為に、アリスは紅魔館の図書館へ行ったことがある。
・マガトロダケは、毒きのこである。
程度のものですが、前作を御一読頂けると嬉しいです。
「はい、チーズ。…カシャ」
「…どうです?」
「ダメですねぇ…さっぱり」
今日は、朝から椛を巻き込んで特訓中。
何の特訓かと言うと、すばり念写。
新聞記者のトップを走る者として、他の天狗が出来ることは、私も出来ないといけないハズ。
…何か悔しいし。
「…椛のポーズがいけないんじゃないですか?」
「いやいや。そもそも、念写なんですから、文様一人でも出来ますよね?」
「いや、まぁ、そうだけど」
私が練習しているのは、あの念写天狗、姫海棠はたてのものとはちょっと違う。
自分が写したいと思った、念じたものを、そのまま印画紙へ写すこと。
そして、その対象に選ばれたのが、この椛。
私が撮影する念写対象第一号になれるんだから、光栄に思ってもらいたい。
…のに。
「一人だと、失敗する度に虚しくなるじゃないですか」
「私がいたって、失敗は失敗ですよ」
「…冷たいですね」
「それほどでも」
今日の椛は、どこか冷たい。
こんな超能力まがいのこと、どうせ出来ないとでも思っているのか。
…でも、確かに闇雲に練習してるだけじゃ、上手くいきそうにない。
分からない事は、分かる人に聞くのに限る。
あ、はたては除く。
「ちょっと出かけてきます。留守番よろしく」
「どうぞどうぞ。任せてください」
「…ちょっとは寂しがってくださいよ」
「うえーん」
絶対に、絶対に念写をマスターして帰ってくる。
そしたら、椛の裸体を念写してやるんだから。
「気になるあの人を、自由に思い描きたいんです」
「そう」
「しかし、それは許されない事なのです」
「誰が許さないの?」
やって来たのは、紅魔館の大きな大きな図書館。
そこにいるのは、か弱く可愛い紫魔女、パチュリーさん。
「いや、その。誰って、誰でしょうね」
「さぁ」
「それはともかく。私、実を言うと、恋愛事を相談しに来たんじゃないんです」
「知ってたわ」
おおぅ。まさか知ってたとは。
恋愛事の相談に見せかけて、興味をそそらせる予定だったのに。
まぁ、相談出来れば結果オーライ。
「念写、知ってます?」
「知らないわ」
「知ってください。そして、その方法を私に教えてください」
半ば、諦めながら頼んでみる。
念写を知らないのなら、教えようにも教えられないだろう。
私のために、わざわざ調べてくれそうにも思えない。
「奥に小悪魔がいるわ。彼女に相談してみて」
「あなたに分からないことが、使い魔に分かるんですか?」
「さぁ。でも、少なくとも私は知らないもの」
…まぁ、使い魔といっても、悪魔。
知ってなくとも、ちょっとしたヒントならもらえるかもしれない。
藁をも掴む気持ちが無いと、新聞記者は務まらないの。
さぁ、行ってみよう。
「…ここが、あなたの住処なんですか?」
「秘書室です」
彼女、小悪魔を見つけたのは、暗い暗い図書館の隅っこ。
どう見たって、ただの廊下でしかない。
ここを部屋だと言い張る彼女のこだわりとは。
…次の新聞の、ちょっとしたコラムにいいかも。
「何の用ですか。さっさと済ませてくださいね」
「あ、はい。えっと、念写ってご存知ですか?」
「知りません」
何で、こんなにも不機嫌なんだろうか。
彼女に何があったのかは知らないけど、私に八つ当たりは勘弁してほしい。
結構、本気で悩んでるんだから。
「じ、じゃあ。念写に関する本を探したりとか、出来ないですか?」
「出来ません」
「…、ですよね。やっぱり、こんな超能力まがいなこと…」
「超能力…?」
これ以上頼んでも、間違いなく協力してくれそうにない。
むしろ機嫌を損ねて、今後の取材に逆効果になりそう。
他に、頼れそうなところは…。
悔しいけど、はたて本人に聞こうか。
「じゃあ、お邪魔しました」
「…アリスさんなら」
「はい?」
「アリスさん、この前、似たような件でここに来ましたから」
「…ありがとうございます」
次に繋がった。
でも、あの魔法使い…どうにも気がのらない。
何考えてるのか、よく分かんないし。
まぁ、行くだけ行ってみよう。
「アーリースさーんっ」
「合言葉は?」
「エスパー文!」
「…及第点ね、おめでとう」
この合言葉、一体何の意味があるんだろう。
そもそも、合言葉に及第点って、どういうことなのか。
決まった答えは無いってこと?
「おっじゃましまーす…相変わらず、お洒落な部屋ですねぇ」
「でしょう。…で、その他には?」
「え? あ、いや。人形、多いですねぇ」
「そうね」
何なんだ、何者なんだ。
この人が求める答えって、何なんだろう。
いや、そもそも、どんな思考をしてるのか気になる。
「で、何の用?」
「あ、あのですね。念写って知ってます?」
「…」
「…?」
急に黙り込んだアリスさん。
もしかして、もしかして心当たりがあるのだろうか。
もしそうなら、何か報われた気になれる。
「…どう?」
「…え、何がです?」
「今、知らないってテレパシーを送ったんだけど」
「あぁ、そ、そうですか。気づきませんでした」
「…そう」
もうやだ。帰りたい。
結局のところ、無駄足だったんじゃないか。
もう。
「私のところより、図書館にでも行った方がいいんじゃないの?」
「行ったんですよ。でも、パチュリーさんは知らないみたいだし。それに…」
「それに?」
「小悪魔さんも、どうやら不機嫌なようで協力してくれないんです」
「…あぁ」
何か納得したように頷くアリスさん。
何だろう。小悪魔さんが不機嫌な理由を知ってるのか。
ちょっと気になってたから、是非とも知りたい。
「何ですか? 何の『…あぁ』なんですか?」
「疑問は、まず自分で考えてみるものよ」
「考えた結果ですよ」
「まだまだ」
「…もう限界、分かりません」
「パチュリーにね、お仕置きを喰らったのよ。自業自得ね」
お仕置き。
何したんだろう。そして、何されたんだろう。
…って、やっぱり、私は八つ当たりじゃないか。
やってられない。
「それはともかく。念写、本当に知らないけど」
「あ、えぇ。そうですよね…」
またもや、先が詰まってしまった。
図書館の魔女に聞いてもダメ。
考えがサッパリな魔法使いに聞いてもダメ。
ん、魔法使い…。
「あの、魔理沙さんって、こういうのに詳しくないですかね?」
「さぁ。彼女、超能力には否定的だから」
「超能力じゃないですよ。念写です」
「似たようなものじゃない」
やっぱり、知らなさそう。
…いや、でも、他に頼りは無いんだし。
ダメ元で行ってみる価値はある。
鳴かぬなら 他を当たろう ホトトギス。
「…あ、いや。もしかしたら魔理沙、知ってるかも。行ってみるべきね、絶対」
「えぇ。そのつもりですけど…急にどうしたんですか?」
「そんなこといいから。さぁ、行きましょう」
「え。一緒に来るんですか?」
「当然」
何か裏があるのは確実だけど、念写の方法さえ分かれば、それでいいんだから。
とりあえず、行ってみよう。
「まーりーさーさーんっ」
「合言葉は?」
「え、えっと…」
「どうせ鍵かかってないでしょ。お邪魔するわ」
手慣れた様子で、静かにドアを開けるアリスさん。
今、魔法使いの間では合言葉が流行ってるのか。
…今度、私もやってみよう。
「いいとこに来たな、今から昼ごはんだ」
「いらないわよ、別に」
「アリスにはやらんぜ。どうだ、文、食べるか?」
「あ、いえ。私もいらないです」
魔理沙さんから貰うなんて、怪しさ120%。
こんなところで、貴重な命を無駄にしたくない。
長く生きているだけ、この世に未練がまだまだある。
「食えよ。文が来る気がしたから、わざわざ用意しておいたんだ。わざわざ」
「…魔理沙、それ本当?」
「そりゃもう。何だろうな、最近予感が的中することが多いんだ」
「そう…」
ひどく落胆するアリスさん。
あ、なるほど。自分のために用意してくれなかったのが悔しいんだ。
ふふん。
「まぁ、それはともかく。食えよ、ほら」
「えぇ…いや。だから、いいですって」
「食べなさいよ、せっかく用意してもらったんだから」
「そうだぜ。メニューは、マガトロダケを使った、きのこパスタだ。名付けてキリサメパスタ」
1対2。
空気が、食べなきゃいけない方へ傾いてる。
私は何をしに来たんだろう。
「…うぇ、おぇえぇぇ…」
「ありゃ、やっぱりマガトロダケがダメだったんかな…吐くなよ?」
「あれって、確か毒きのこでしょ? 幻覚作用の」
「あぁ。身をもって体験したからな」
何で、アリスさんは止めてくれなかったのか。
何で、魔理沙さんは毒と分かって食べさせたのか。
何で、今日の私はこんなにも不運なのか。
「それにしても、魔理沙。あなた、予知能力があるのよ。絶対」
「…? あぁ、文が来る気がしたからか」
「そう。なのに、何で訓練に励んでる私には、超能力が身に付かないのかしら」
「才能の差じゃないか?」
「…悔しいけど、その通りかも」
あぁ、なるほど。
アリスさんは、魔理沙さんが何か仕掛けてくると思って、私と一緒に来たんだ。
その仕掛けに、超能力っぽさが出るかもしれないから。
案の定、魔理沙さんの予感が的中したことを、アリスさんは確認できた。
そして、見事にアリスさんに害は及んでない。
「そうだろ? いやぁ、超能力って、いいもんだな」
「…別に、魔法があれば十分じゃない」
「何言ってるんだ。ロマンを知れ、ロマンを」
「都会派は、そんなの気にしないの」
「強がるなって、ほらほら」
魔理沙さんの予感が的中した時、アリスさんは落胆した。
それは、自分のために用意してなかったからじゃない。
特別訓練してない魔理沙さんに、超能力っぽさが出てきているから悔しかったんだ。
…何で私はほっとかれてるんだろう。
「ところで、何の用があって来たんだ?」
「…あぁ、忘れてたわ。念写よ、念写」
「ほう。で、その念写がどうしたんだよ」
「この子、念写がしたいんだって。でも、私もパチュリーも知らないから」
「で、私のとこか」
そう。その予定だったのに。
…いや、ここまで来て、手ぶらで帰るのは悔しい。
意地でも魔理沙さんから聞きだして帰ろう。
…おぇ。
「お。なかなか根性あるじゃないか」
「…まぁ、妖怪ですから。で、念写のことなんですけど…」
「あぁ。もう出来るんじゃないか?」
「え?」
何言ってるんだ。
時間が解決してくれる悩みとは違うんだから。
「ほらほら。私が被写体になってやる、やってみようぜ」
「何を…」
「いいから。珍しく魔理沙が協力的なのよ、やってみなさい」
「…まぁ、いいでしょう」
どうせ失敗するんだから。
この二人、もう二度と一緒には相手したくない。
「はい、チーズ。…カシャ」
「どうだ?」
「…おぉ、おぉう! 見てください、見てください! ほら、ここに、魔理沙さんが!」
「えぇ、おめでとう」
まさか。まさか。
何、何でか分からないけど、念写、出来てしまった。
印画紙にぼやけてゆらめく、魔理沙さん。
…え。何で、ゆらめいてるの…?
まぁ、いいや。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「いやいや。あ、お礼はいらないぜ」
「何と寛大な御心! 本当にありがとうございます!」
「私には何かちょうだいね」
「…何でです?」
アリスさんが何か言ってるけど、気にする余裕はない。
早く帰って、椛に自慢してやろう。
あ。椛の裸体も撮ってあげないと。
「じゃあ、私はこれで。ありがとうございました!」
「あぁ。気をつけて帰れよ」
「はい!」
何だろう、今日の魔理沙さんは輝いて見える。
魔理沙さん、なんて馴れ馴れしくは呼べない。
今後とも、霧雨様を頼りにさせてもらおう。
「…もう一度聞くけど、あの子に食べさせたのって」
「マガトロダケ。幻覚作用を持つ毒きのこだぜ。比較的軽症だから大丈夫さ」
「そういう問題じゃ…いや、本人が幸せならそれでいいのかも」
「そうだぜ」
束の間の幸せを掴ませてあげるのも、悪くない。
あ、夕日が綺麗。
「はい、チーズ。…カシャ」
「…どうです?」
「何で…何で写らないんですか…?」
あれから、山に帰って数刻。
会いたい時に限って、どこにもいない椛。
必死で探した結果、滝の裏で一人将棋をしてた。くそぅ。
「さっきは! さっきは霧雨様を撮れたんですよ!」
「はいはい」
「椛のポーズがいけないんです! ほら、さっきの霧雨様と同じポーズをして下さい!」
「そのポーズ、知らないです」
「こうです! 足を肩幅に開いて、膝をちょっと曲げて! で、右手の人差指を上に向ける!」
「…恥ずかしくないですか?」
それにしても、何で写らないんだろう。
霧雨様みたいに、清く正しい心を持った人しか写せないのだろうか。
全く、椛は心が汚い。
「文様、もう寝ましょうよ…」
「何言ってるんですか! 三度の睡眠より念写でしょう!」
「でも、文様、目が血走ってるし…」
「それでも!」
「ほら。布団、二人分用意してますから…」
「…」
それなら話は別。
出来ない時は、気分転換に別のことをしてみるのも一つの手。
椛が一緒に寝たいっていうなら、仕方がない。
仕方ない。
「明日、また頑張りましょう。付き合いますから」
「…ありがとう」
「お互い様です」
今朝の、ちょっと冷たい椛の事は忘れてあげよう。
きっと、本当に寂しかったんだ。
「おやすみなさい、椛」
「おやすみなさい」
椛の裸体を撮るの、考え直してあげてもいい。
だって、今晩はとても月が綺麗だから。