「霖之助さん、お祭りに行きましょう!」
もう秋の気候に変わり始めてもおかしくない葉月の終わり頃、夏の暑さは収まる気配すら無く文月の中頃の様な暑さが朝からずっと続いていた。
昼にもなると店内はストーブを使っている様な暑さになり、もう今日は店を閉めようかと思っていると早苗君がやって来た。
そして開口一番発した台詞が冒頭の言葉だ。
「……お祭り?」
「今日里でやるんですよ!お祭りですよお祭り!行きましょう!」
祭り自体は知っている。これでも里に近いのだ。
「幻想郷は夏祭りが年に一回しかないなんて、それは今日を思いっきり楽しめと言っている様なものですよ!」
「随分と元気だね……」
こっちは暑さでうだっているというのにだ。外界の人間は暑さに強いのだろうか?
「そりゃ元気もでますよ!だってお祭りですよ!?楽しまなきゃ損じゃないですか!」
「ハァ……」
「ね、行きましょう?行きましょう!?」
「……何故僕なんだい?」
「だって何時も暇してるじゃないですか、霖之助さん。今日も暇でしょう?」
「………………」
言い返せない。事実そうだったのだから。
「さぁ一緒に行きましょう霖之助さん!」
「やれやれ……」
このまま店で暑い一日を過ごすよりはマシか……
「分かったよ。……だが、早過ぎないかい?」
「そこは大丈夫です!私は今から準備があるので!」
「……準備?」
「はい!じゃ、後で迎えに来ますね!」
言って、早苗君は店を飛び出していった。
「祭りに何の準備が……?」
考えたが、蒸し暑い店内で思考は回らなかった。
***
昼の暑さが少し和らいできた夕刻、僕は店内で本を読みながら早苗君を待っていた。
「遅いな……」
此処から妖怪の山までは遠い。少し遅くなるのは仕方ないが、いくらなんでも遅すぎではないだろうか。
だがそんな事を言っても本人がいないのでは意味がない。大人しく待つ事にしよう。
そんな事を考えていると、扉が勢いよく開かれた。
「お待たせしました!」
声の主は早苗君。
「随分と遅かったじゃないか」
「これ着るのに時間が掛かっちゃいまして。すいません!」
「……着る?」
呟き、顔を上げる。
「私は青の方が良かったんですけど、神奈子様と諏訪子様が絶対こっちだって聞いてくれなくて……」
こちらに歩いて来ながらそう言う早苗君は、何時もの風祝の装束ではなく、淡い緑の浴衣に身を包んでいた。
幻想郷では余り見ない色だが、恐らくは外から持ち込んだ物なのだろう。
「似合ってます?」
「あ、あぁ」
余り見ない色と服装という事もあって、少し返事が遅れてしまった。
「ふふ、有難う御座います。さぁ!いざお祭りに!」
言って、早苗君は僕の腕を掴んで引っ張る。
「祭りは逃げないよ。引っ張らないでくれ」
「何を言ってるんですか!年に一度のお祭りですよ!?」
「はいはい……」
「そ、それに今回は霖之助さんも一緒ですし!」
「確かに一緒だが……それはただ単に一緒に行くという意味の他にも何か意味がある気がするね」
「え……!そ、それって……!」
「あぁ、まさか僕に色々奢らせようとかいう考えかい?」
「……え?な、何でそっちなんですか!?」
「ん?いや、そっちと言われても……選択肢はこれ一つだったんだが?」
「何だ……違ったんですか……」
「ん……何が違ったんだい?」
「ハァ……もう別にいいです」
「???」
「さ、行きましょー……」
「あ、あぁ……?」
何故か落胆する早苗君に腕を引かれ、僕は里へと足を進めた。
***
「うわー……幻想郷のお祭りもこんな感じなんですね」
「外の祭りもこんな雰囲気なのかい?」
「はい!的屋の数はもっと多いですけど」
「騒がしいのは苦手だが……それなら楽しそうだし、矢張り外には行ってみたいものだな」
「行くってなった時は言って下さいね。外の事は教えてあげますから!」
「フム、じゃあその時は宜しく頼むよ」
「ハイ!」
◆◆◆
「わー射的もあるんですね!」
「……まぁ、ね。普通はあるだろう」
「わー懐かしい……霖之助さん、やってもいいですか?」
「あぁ」
「あぁ、この銃の独特の手触りと重み……昔はよく店員のおじさんを狙ったものです……」
「今はしないでくれよ?」
「分かってますよ……えいっ!……あれ?……えいっ!あ、あれ?」
「下手だね」
「ひ、久しぶりなだけです!そ、そういう霖之助さんはどうなんですか!?」
「……(バシッ!)……ほら」
「う、うわ、一発……!な、何でこんなに上手なんですか!?」
「……黙秘権を行使するよ」
◆◆◆
「え、あ、あれは……!」
「まさか……な」
「あら、いらっしゃいませ」
「い、イカ焼き!!!」
「外界の食べ物だと聞いたが……成程、紫……君か」
「私ですわ霖之助さん。お一つ如何?」
「下さい!是非!」
「僕も貰おうか」
「はい、二人分」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!この味!食感!懐かしい!」
「はしゃぎすぎだ。だがこれは中々……」
◆◆◆
「お、霖の字じゃないか。奇遇だね」
「小町……仕事はいいのかい?」
「年に一度の祭りだよ?来なきゃ損だよ。それより……」
「……何ですか?」
「霖の字、洩矢の巫女と付き合ってたとはねぇ……将来は洩矢神社神主にでもなるつもりかい?」
「な、あ、貴女は何を言ってるんですか!?退治しますよ!?してほしいんですか!?」
「おっと、退治は勘弁だね。んじゃ、アタイは行くよ」
「あぁ。楽しんでおいで」
「ふふーん……お?輪投げか……楽しそうだね!ちょっと……」
「審判『ラストジャッジメント』」
「イ゙ェアアアア!!!」
「「あ」」
***
「……さて、ここらでいいだろう。人も少ないし」
「ですね」
日も沈み、辺りがすっかり暗くなった頃。
僕と早苗君は里から少し離れた所にある小さな丘に来ていた。
「あー……やっぱり幻想郷は星が綺麗ですね……」
早苗君が空を見ながらそんな事を呟いた。
「外の世界は星が綺麗じゃないのかい?」
「いえ、綺麗ですよ? でも見えにくいんです」
「見えにくい?」
「はい。人工の光が星の光を遮るんですよ。ですから都会は星が全然見えなくて」
「それは……何ともつまらないね」
僕の様に景色を肴に酒を愉しむ人からすれば夏に星が見えないのは困る。
蛍も肴の一つだが、恐らく都会では蛍が生息する様な清流は少ないのだろう。それに最近幻想郷に蛍が増えてきた様な気もする。外界では蛍は既に幻想となってしまったのだろうか?
「でもその分便利でしたよー。携帯は使えましたし、夏は涼しくて冬は暖かいですし」
「フム、何かを成す為には何かが犠牲になるという事か」
無縁塚で拾う外の世界の道具を見てもそう思う。文明の発達と共に、幻想となったものも多い。
「まぁ便利になればなる程、信仰も無くなっていっちゃったんですけど……」
そして早苗君も、犠牲となった幻想の一つ……か。
「……済まない」
彼女にとってそれは辛い事だっただろう。自分には見える神が他人には見えない為に誰も自分を信じず、神を認めてはもらえなかった。
それは彼女にとって辛い過去でしかないだろう。
「あ、謝らないで下さい!」
「いや、しかし……」
「私は別に何とも思ってないですし、それに今思えばそれで良かった様な気もします」
「……というと?」
「だって、幻想郷は神様が普通に信仰されているし、幻想郷の人々も私達を受け入れてくれました。今だって少しづつですけど信仰も集まってます」
「……そうか」
「はい!」
言って、早苗君は満面の笑みを浮べる。
「……それに、霖之助さんにも会えましたし」
「ん、何か言ったかい?」
「な、何でもありません!」
「そうかい?」
「は、はい!」
「ならいいが……」
そこで会話は途切れる。静寂がその場を支配する。
「………………」
「………………」
「……あ、あー!そうそう信仰で思い出しました!」
「ん?」
「霖之助さん、神奈子様を信仰しませんか?」
「僕がかい?」
「はい!」
「遠慮しておくよ」
「えー!?何でですか!?」
「僕は誰も信仰しないんだ」
そもそも、香霖堂の『香』は『神』を表し、『神』とは『博麗神社』を指している。つまり僕は既に神を祀っている。今更他の神を信仰するのは面倒だ。
「えー信仰しましょうよ!」
「お断りするよ。僕が興味のある神は龍神様だけだ」
「神奈子様も天候は操れますよ?一緒の様なものじゃないですか!」
「自らが仕える神の解釈がそんなので良いのかい?」
「ぐっ……」
「まぁ、龍神様に会わせてくれるというなら考えない事も無いが……君にはまだそれ程の力は無いだろう?」
「うぅ……」
如何に現人神といえど、結局の所は神術を使える以外は普通の人間と大差ないのだ。彼女が外の世界で普通の学生として暮らしていた事からもそれはあきらかだろう。
「まぁそういう事だよ。潔く諦めてくれ」
「……むー何か嫌われた気がします」
そう言うと、早苗君は俯いて落ち込んでしまった。
「いや、誰もそうは言っていないだろう」
「……ホントですか?」
「あぁ」
それに彼女は少し常識に囚われていないだけで、何時どんな時も信仰を得ようと頑張っているのだ。
「何に対しても努力する子は嫌いじゃないよ」
努力は報われる。魔理沙がいい例だ。
「そうですか……?」
「あぁ、むしろ好きだよ」
己がぶつかった壁に向かい、十全を尽くして困難に当たる。自分一人で駄目ならば仲間の力を得て再度試練に臨む。
人は昔からそうやって努力して生きてきたのだ。
故に努力をする人は嫌いじゃない。むしろ己の鍛錬や自分以外の者の為に努力できる人は好ましく思う。
そういう意味で言ったんだが。
「……は、はぇっ?」
何故早苗君は顔を赤くしているのだろうか。
「そ、そんな、いきなり好きだなんて……」
「……早苗君?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「顔が赤いが……大丈夫かい?」
「な、何でもないですよ!」
「……そうかい?」
「そ、そうです!」
「ならいいんだが……」
その時、今年一発目の花火が上がった。
「お、始まったな」
「え、あ……そ、そうですね」
そこで会話は途切れるが、花火のお蔭で静寂は訪れない。
結局そのまま会話も無く、二人暫く花火を見ていた。
時々早苗君の方から視線を感じたが、気のせいだろう。
***
「さて、そろそろ帰ろうと思うんだが?」
「え?あー……そうですね。いい時間ですし。……ふぁ」
「眠いのかい?」
「はい……げん、か……」
ぽすん。
そんな擬音が聞こえてきそうな倒れ方で、早苗君は僕に向かって倒れてきた。
「早苗君?」
「くぅ……くぅ……」
「……眠ってしまったか」
「くぅ……くぅ……」
「やれやれ、祭りだからといってはしゃぎ過ぎだ」
「くぅ……くぅ……」
何とも幸せそうな寝顔だ。これは起こしては悪いな。
「よっ……と」
「ん……くぅ……」
背中と膝の裏に腕を回し、持ち上げる。
外の世界で伝えられる、眠ってしまった少女の運び方「お姫様だっこ」だ。
「此処から山に向かう訳にもいかないしな……」
「くぅ……くぅ……」
「……仕方ないな」
呟き、早苗君をちゃんとした寝床で寝かせる為、僕は歩き出した。
まったく、霖之助のリア充っぷりには飽き飽きするZE(褒め言葉)
それにしても毎回後書きが秀逸ですな
ところで「自らが使える~」のところは仕える、じゃないでしょうか?
唯さんのSS来ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁーーーーーーーーー!!!!
これを早霖以外の何だというんですか?
朝から良いものを見せて頂き、誠に有り難う御座います!
霖之助の早苗君呼びにくねくねしました。
早苗君って…なんかいいんですけど!
相変わらずの小町のいえあああっぷりに笑いました。
…ミョンミョンミョンミョン
早苗君…早苗君。
何か…何か感じるものが…
小町さん…これで何回天に昇っていったんだ…
こまっちゃんのイ゛ェアアアアで吹いたww
小町のことが気になって仕方がない。
もしや、小町×霖之助も……(チラッ
誤字修正しました。報告有難う御座います。
>>下上右左 様
朝から叫ぶとはまた近所迷惑なw
早霖以外の何者でもないんですか……勉強になりました!
>>すいみんぐ 様
く、くねくね!?
君呼びっていいと思うんです。えぇ。
>>華彩神護.K 様
こ、これはアリ霖を書けという華彩電波か?それともただ妖夢を重ねて言っただけか!?
ま、まさかまさかのアリ妖霖なのかッ!?
でも、どれにしてももう夏終わりますよw
>>奇声を発する程度の能力 様
早霖もっと増えてもいいと思うんですけどねぇ……?
>>けやっきー 様
貴方が感じたもの、それはきっと恋ですw
>>7 様
六回ですねw今思うと随分と続いたなぁ……
>>8 様
きましたかw
>>拡散ポンプ 様
小町は自分の中では『霖之助の悪友』的ポジションなんですw
だからカップリングは考えてないですねー、すいません!
>>10 様
もう定番ですしね、小町w
>>高純 透 様
嫌いじゃないなら大丈夫だ!良かった!
読んでくれた全ての方に感謝!