私、藤原妹紅は不機嫌の極みに達していた、理由は簡単…
「いやー、美味しいなぁこの饂飩、うん旨いよ、ホントに」
目の前で呑気に饂飩なぞ啜りやがってくれている女教師に対してである
「…あのさぁ慧音、一つ聞いて良い?」
「うん?どうした妹紅」
「犯人はいつ捜すんだ?」
「あー、はいはい」
そう言いつつ饂飩の汁を飲み干す慧音、何故私たちがこんな事をしているのかと聞かれれば始まりは今日のこと
時は遡ること四時間前、私はいつものように迷子を人里まで案内していたときのことだった
『じゃな、もうここら辺で迷うなよ、少年』
『すいません、ありがとうございました』
『おう、気を付けてな~』
その少年の家の人から貰った鯛焼きを囓りながら帰途についている途中、ある人物に出会ったのだ
『お、妹紅じゃないか』
『おう慧音、どしたん』
『うん、まぁちょっとあってな、お前の家寄って良いか?』
『あぁ構わないよ』
今思えばこの発言が良くなかったのかもしれないな…、今更だが
『発光体?』
『うん、妹紅は見たこと無いか?』
『…いや、無いなぁ、発光体って人魂とか?』
『そう、真っ先に思いつくのはそれだな』
慧音は一頻りためたあと、こう言ってのけた
『その発光体は人語を喋ったそうだ』
『人語?』
『バカらしい、と思うだろう?』
『あぁ普通はそう思うな』
『だけど被害が人間だけじゃなく妖怪にも増えてきている、そして被害者全員に共通することが発光体に遭遇した、と言うことなんだ』
『……』
『これがその時の被害者達の証言だ、人間以外に妖怪だっている』
Case1.紅魔館の全身ピンクさん(仮名)の証言
「あのね、あのね、夜のお空を飛んでたの、月が綺麗だったからね、それでそれで前の方から丸い何かが飛んできたの、で何か喋っているから耳を傾けたらね『か~たつむりだぞ~、た~べちゃうぞ~』って言ってきたから怖くって怖くって、その、少し泣いちゃったの」
『なぁ仮名が実名で流れてくる、どうしたら良い、慧音』
『他にも分かりやすい証言がある、スルーしてくれ』
Case2.幻想郷文様を愛でたり覗いたりする会の会長(仮名)の証言
「えぇあの夜は必ず居ると分かってましたからね、あのお方は月夜の晩に水浴びをするんです、私たちはその夜二十名の同志と[中略]会合地点に着いた瞬間ですよ、そいつと出会ったのは、悪夢の始まりですよ、その発光体が『ぽっぽー、ぽっぽー』と叫び一瞬にして我々は友愛されてしまいましてね[以下略]」
『長すぎるなぁ』
『ちゃんと文章を読める力を付けなければならないぞ、妹紅』
『だからといってこの資料の大半が「文様は可愛い」だの「文様の[自主規制]はほどよい大きさ」に「文様の[自主規制]はフローラルなかほり」だとか、狂ってるんじゃないかと』
Case3.烏写真倶楽部会長(仮名)の証言
「あの日はとても良い月でしたからね、水浴びをしたあと写真を取りに行ったんです、そしたら前方から物凄い勢いで光る丸い物が飛んでくるのですよ、カメラを構えようとしたらいきなり『撮るな!』って声が頭に響きましてね、その瞬間カメラのレンズが割れてしまったんですよ、あぁせっかく外界から入ってきたオリン○ス製の高性能レンズが使わない内にオシャカですよ、まったく」
『…成る程、これは興味深いな』
『そんなのより他のも見てくれ、妹紅』
『いや待て、これまで出た中でこれが一番まともだった気がするんだが』
Case4.子連れ剣士(仮名)の証言
「あの晩は師匠と一緒に月見をしていたのです、そしたら師匠が空を指さして『あれなに?』って聞いてくるものですから指さす方を見たら謎の発光体が漂っていたんです、その発光体下から上に飛んだと思いきや右から左へと飛んでいき『ケ~ンヂくん、あ~そび~ましょ』と言って揺れ始めたんです、ガタガタっていう風な感じで、それで危険を察知した私はとっさに師匠を抱きかかえ白玉楼に帰りました、すいませんこんな情報しかなくて」
『嬉しいね、まともな情報なのに謝罪入れてくれるなんて、あたしゃ泣けてきたよ』
『そんなことよりケンヂ君って誰のことだと思う、妹紅』
『突っ込みどころそこかよ…違わないか?』
Case5.自営業の超咲霖 剣道八段(仮名)の証言
「あれはぁ、満月の晩でした、歩いてると…草むらがですね……ガサガサガサガサガサッとなってね…丸くて光っている何かが飛び出てきましてね、その瞬間『金は命よりも重い!!』という声が頭に響きましてね、もう足が震えて震えて…『南無阿弥陀仏』を何回も唱えたらね…『わ~い、ひじり~』って声が響いて、発光体が消えたんです、あれはいったい何だったんでしょうね、僕が思うにあれはぁ…あそこでぇ……死んだぁ…霊がなんらかのぉ[以下略]」
『…何も言えなくなってきたよ、これなんだい』
『私もワカラナイ』
『段々リアクションが尽きてきたな…』
そして一通り資料を読み終えた私に慧音はこう言った
『で、手伝ってくれるか?妹紅』
『あー、一応聞くが拒否権は…』
『有るわけ無いだろ?』
『やっぱりな、分かったよ手伝うよ』
そこから私と慧音の調査が始まったわけだが…
「饂飩美味しいな、妹紅」
「…悔しい、でも旨い」
まともに調査できずに饂飩なぞ啜っている、二時間前から
時は遡ること二時間前…
『…結局分かった情報を整理すると「月夜の晩」「発光体から何らかの被害を受けている」「被害を受ける前に何らかの発言を聞き取っている」てなところかな、慧音』
『あぁしかも人妖問わず、だ』
途方に暮れている私に慧音は思いついたように言ってのけた
『あ!』
『どうした?慧音、なにか手がかりでも…』
『まだ昼ご飯食べてない』
『は?』
『妹紅、饂飩食べに行こう、饂飩』
そんなことを言いやがった慧音は私の腕を掴むと人里の方へ全力疾走し、人里の饂飩屋へと駆け込んだ
『親爺ッッッ!』
『へいッッッ!』
『天麩羅饂飩ッッッッッッ、二つッッッッッ!』
『へいッッッッッッッッッッッッ!』
そうやって饂飩を食べ始めたのだ
「…でいつから調査を再開するんだ、慧音」
「まぁ急くな妹紅、腹が減っては戦は出来ぬと古人も言っているぞ」
「だからといって五十杯は食べ過ぎだと思うんだけどな」
いつの間にか私たちのテーブルには器の壁が完成していた
「いやー、ここの天麩羅饂飩が美味しすぎるのがいけないんだ、親爺、貴方を逮捕します」
「刑事さん、あっしは饂飩で犯罪を犯してしまったんですね、分かりました、お縄につきましょう」
私はキリリとした顔で突拍子もないことを言い出した慧音の言葉に素直に従おうとしている店主を急いで止めた
「ちょっ店主さん、別に良いよ従わなくて、慧音は饂飩の食い過ぎで頭が沸いてるだけだから」
「良いんですよ、お嬢さん、あっしはあっしの饂飩に誇りを持っています、その饂飩で粗相をしてしまったなら腹ぁかっ斬って死ぬべきなのでさぁ、でも逮捕って事ぁ生かしてもらえる、こんだた嬉しいことはねぇですだ」
店主は晴れ渡った顔でそう言ってのけた、外にはいつの間にか自警団が居た
「…店主さん」
いつの間にかコ○ンの事件の終わりに流れるあのメロディが聞こえ始め泣き崩れる店主、そして涙を堪える自警団員達、そして慧音の一言
「はい、カーット、お疲れさーん」
「は?」
メロディがやみ自警団員達が帰ってゆく、皆々一様にしてやったり顔で
「店主、名演技だった、この先語り継がれるであろう程にな」
「ありがとうございます、慧音先生」
そして固い握手をしたあと饂飩を啜り始める慧音、そして私は呟いた
「…何が、何だかワカラナイ」
私は呆然として、慧音は饂飩を啜っていた
「…なぁ慧音、いつまでこうやって饂飩食べてる気だ?」
「まぁ待て妹紅、大体目星はついてるんだから」
「本当か?」
「本当だよ、うん、饂飩美味しい」
そうやって饂飩を黙々と啜り続ける慧音
そして饂飩屋に慧音と私以外の客が居なくなった瞬間、慧音は注文を止め、店主を呼び出した
「…店主、饂飩美味しかったぞ、本当に」
「ありがとうごぜぇやす」
笑みを浮かべる店主、真剣な面持ちな慧音、何が始まるんだ
「…月見うどんを、一杯貰おう」
やっぱこいつ駄目だ、そう私が思った瞬間
「…………………」
店主は動かなかった、いや、動けなかったのだ
「…やはりな、この店の品書きにはいつも月見うどんがあるはずだったのだが、今日はなかった、お前、店主じゃないな」
「ど、どういう事だ?慧音、この人は店主じゃないのか?」
慧音がそう言い放った瞬間、店主だったそれは高笑いをし始めた
「ふふ、うふふ、あはははははははははは、流石は里の守護者といった所ね、流石だわ本当に」
店主だった“それ”は鈍い光を放ち別の物へと変身した
「…初めまして、かしら?慧音先生」
「名前だけは知ってるよ、封獣ぬえ」
「あら嬉しいわね、名前を知ってくれているとは」
私たちの目の前に姿を現したのは命蓮寺の正体不明娘、封獣ぬえだった
「…そっちのお嬢さんは、ひょっとして藤原妹紅さん?久しぶり」
「なんで私の名前を?それに久しぶりって?」
「あら、昔に会ったの忘れたのかしら?悲しいわ」
「…そうだったっけ?」
こちらには覚えがないのだが、スルーしよう
「うすうす感づいていたんだ、発光体が飛び回るなんてそうそう無い事件だしな、喋る発光体と言ったら幻想郷じゃ大体の目星はつく」
「う~ん、でも抜かったわね、貴方の行動パターンを調べ尽くして月見は注文しないとふんでいたのに注文するとは」
「品書きから消したのがまずかった、無い物を食べてみたい、それが人間の欲求だ」
「…そう言う物かなぁ」
「そういえばなんで月見うどんを出そうとしなかったんだ?」
私が疑問に思ったことを聞くと彼女は
「…実は目玉焼きを焼くのが苦手で」
「…月見うどんは目玉焼きじゃないぞ、そのまま卵を乗っければ良いんだ」
「え?そうなの?」
「そうだよ」
とたんに顔を真っ赤にする彼女に慧音は問い質した
「この一連の発光体騒動はお前が犯人なんだな?」
「…うん」
頷く彼女に慧音はさらに問いかけた
「驚かすくらいなら良いが白狼天狗の集団を友愛したり烏天狗のカメラを壊したり、少しやりすぎじゃないか?」
「…だって、白狼天狗は見てるだけで気持ち悪かったし、烏天狗は写真を撮られれば正体がばれて存在そのものが危なかったし…」
「前者には概ね賛同するよ、なぁ慧音?」
私が言うと無言で頷く慧音
「…所で本当の店主は?」
「夏休みで今日はどこかに旅行してた気がする、間違っても食べたりはしてないよ、信じて」
「分かってる、お前はそんな事する奴じゃないって」
「…ありがとう」
自分を分かってもらえて嬉しいのか彼女はそっと呟いた
「もう…こんな事するなよ、分かったな?」
「うん」
「もう帰れ、な」
慧音がそう言うと彼女は光の玉となってそこから飛び去った
「これにて一件落着か…ん?なんだこれ?」
私は足元の紙片を拾い上げ読み上げた
「何々『次は絶対ばれないようにやってやる!』だってさ、慧音」
「ははは、ならば何度でも縄を打ってやろう妹紅」
「…結局これからも慧音に付き合わなければならないのか、まぁ良いや」
「さ、帰ろう、里長に事件終結の知らせをしなければならない」
「あぁ」
そう言って私と慧音はまだ夏の暑い日差しの中を歩いていった
友愛されたんじゃ、幻想郷文様を愛でたり覗いたりする会に入れないじゃないか…
>『へいッッッ!』
>『天麩羅饂飩ッッッッッッ、二つッッッッッ!』
>『へいッッッッッッッッッッッッ!』
ここでもう駄目でしたw犯人誰か分かってたけど、ぬえがこんな事言ってるとか想像したらもうねwwwww
ぬえっちドンマイ!