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夜。
博麗神社、その社務所の居間にて。
霊夢の背中を眺めていた藍は、僅かな驚嘆を漏らした。
「驚異的だな」
「そうかしら」
「たかだか数日で、ここまでの回復を見せるとは予想できなかったよ。私は加減などしなかったはずだが」
「いちいち怪我で巫女稼業休んでたら、身体がいくらあっても足りないじゃない」
少し外れたことをいう彼女に、かぶりを振るう。
「そういう問題ではないよ、巫女だって怪我をすれば休むだろう」
「そういう問題よ」
「……ふむ」
小さくうなる。
巫女は白い寝間着の上着をはだけ、ほどいた髪を前にやり、藍に背中を晒していた。
見やれば、数日前には残っていた傷の跡――藍の狐火によって爛れ変色していた肌は、すでに正常に戻りつつあるのが判る。
(人間とは思えないな……)
失礼だとは理解しつつも、それが素直な感想だということを、藍は認めた。
巫女と相対した日。札を持ち、恬淡とした調伏の眼差しを向けてくる彼女を思い出すと、今でも腑に落ちないのだ。
本気の自分を相手取り、未だ生きている人間。その存在が事実だとしても、簡単に信じられことではない。
例え、実物がその場に居たとしても。
(いや、実物が目の前にいる分、余計に信じられないのか)
胸中でつぶやいて、自分より二回りは小さい背中を眺める。
と。
「もういい?」
巫女が訪ねてくる。
藍は返事をしようとしたが、彼女はこちらの返事を待たず、はだけた衣装を着なおしてしまった。空気が冷え込んでいるため、肌寒いのだろう。
そのまま立ち上がろうとするものだから、彼女の肩を押さえてその場に押し留めた。
「こら、待ちなさい」
「どうしてよ」
「確かに傷は塞がっている。だがこのままでは跡が残ってしまうかもしれないだろう」
「ほっときゃ治るわ」
頓着の無い様子で言う。
それはめんどくさいというよりは、本当に放置していても傷跡が消えるからなのかもしれなかったが。
藍はかぶり振って、説得の口調で宥めた。
「そうなのかもしれないがな。私が手を貸したほうが、早く治るのも確かだろう。もう少し座っていなさい。すぐに終わるから」
「あんたの手、熱いからイヤなのよね」
「我慢しなさい。これは私の責任でもあるんだから、流石に適当という訳にはいかない」
「めんどくさい狐ね」
難色を示しながらも、霊夢は腰を上げなかった。従うということなのだろう。
藍は小さく呼吸を整えて、裡に在る力を手のひらに集中させた。
「おかしな話よね」
しばらくして、巫女は小さな声でそんなことを言った。
藍は首を傾げる。
「なにがおかしいんだ?」
「どうして妖怪の力で、私の傷が治るのかしら」
「うん?」
「だってあんたは妖怪で、わたしは巫女じゃない。あんたはわたしに退治されないといけないのに、なのに退治されないし。しかも治るって、おかしいでしょう」
巫女の疑問は、あまり要領を得たものではなかったが。
珍しいものではあった。霊夢が何かを訪ねてくるのは、はじめてのことだ。いつもは藍が話しかけ、霊夢が適当に頷くという構図だった。
ともあれ、藍は視線を上げて考えを巡らせた。しばしの沈黙を挟んで、答える。
「霊夢。妖怪の力と巫女の力は、背反の関係にある訳ではないんだよ」
「そうなの?」
背中越しに、巫女の意識がこちらに向くのを感じ取る。
うなずいて、あとを続けた。
「そういった側面もあるのは確かだ。でも純粋な両極ではない。善と悪、昼と夜といった二元で比べられるものじゃないんだ」
「巫女と妖怪はそういう関係でしょ」
「違うよ。私たちは二元ではない。それに巫女は人間だろう。そこに入る関係は、人間と妖怪だよ」
「巫女は人間なのかしら……」
ふと、ひとりごちるようにつぶやいてくる。
藍は自分の発した言葉に、胸中で驚いていた。
先ほど、この巫女を人間とは思えないと、そう感じたばかりではないか。
だが。
(だが、彼女は人間だ。妖怪でも神でもない。傷を負えば痛みは感じる)
例えそれがどんなに薄いものだとしても、何も感じない訳ではないのだ。それが身体を主柱とする人間の本能なのだから。
霊夢が続けて口を開く。
「じゃあ妖怪の力って、なんなの」
「そうだな、妖力は霊力にも転じるし、霊力は妖力にも転じる。混じり合って反発しあって、だが離れることはないものだ。つまりはまあ、隙間みたいなものだよ」
「隙間って、あんたの主人のあれ?」
「似たようなものだろう」
「よく判らないわ」
「そういうことだ」
巫女は納得したのか、それとも諦めたのか。ふーんとつぶやいて、それ以降口を開かなかった。
藍もまたしゃべる必要を感じず、何も語らなかった。
蝋燭の灯りに陰が射し込み、耳を澄ませば埃の落ちる音も聞こえそうな時刻。
「さて、今日はもういいだろう。これぐらいにして、床に就こうか」
耳鳴りの響く静寂を破り、藍は治療を区切って促した。
やはり寝るには早すぎる時間帯ではあったが、家主に合わせない訳にもいかない。
が、待てども巫女からの返事は無く、藍は訝った。
「霊夢、どうした。寝てしまったのか」
いつもならすたすたと寝室へと向かう巫女は、座したまま動く様子を見せない。
様子をうかがおうとしたが。
「ううん」
ちいさく首を振って、応じてくる。寝てはいないようだ。
霊夢は腰をあげようとして、足が崩れたらしい。そのまま後ろへと転がってくる。
胸の中へと納まった巫女を、藍はきょとんとして眺めた。
「足がしびれでもしたのか? めずらしいな」
霊夢もぱちくりと目を瞬かせていた。自分でも意外だったらしい。
やがてこちらを黒い瞳で見上げて、答えた。
「なんか、のぼせたみたい」
「のぼせた?」
「あんた熱いのよ」
意味は分からなかったが。
藍の力を身体へと流したため、身体が熱を持ったのだろうか。
それほど流してはいないはずだが、力の配分を誤ったのかもしれない。
「大丈夫か」
「ほっときゃ治まるわ」
藍はうなずいて、提案した。
「判った、このまま寝室へ運ぼう」
「いいわよ、別に」
そう断って、身体を離そうとする。
巫女を押し留めて、告げる。
「もしかしたら、私が加減を外したのかもしれない。どうにもお前の構造は捉えにくいんだ。明確なものが見えないとでも言えばいいのか」
「わたしがちょっと持て余しただけ。あんたのせいじゃないわ」
淡々とした様子で、霊夢。
見れば彼女の頬は僅かに火照っていた。気の高ぶり抑えるように静かな呼吸を繰り返しているのが、肌を通して伝わってくる。
藍は眉を顰めた。
「布団で横になって休んだほうがいいだろう」
「いいからほっといて」
「だがな――」
「あまりしつこいとまた針で刺すわよ」
台詞を遮る形で、じと目を向けてくる。
無理やりにでも連れていきたいところではあるが、そうすると巫女は本当に刺してくる。それは望むところではない。
巫女はむくりと体を起こして、藍から身体を離した。いまいち距離感が掴めず、ぼうっと虚空を眺める霊夢を、藍はただ見守るのだった。
翌日の午後。
日々の日課を終え、藍と霊夢はなにをすることもなく、居間でくつろいでいた。
巫女はこたつに足を突っ込んでみかんをむしり、藍はこたつに入ることなく書物に視線を走らせる。
やがて本をぱたんと閉じて、巫女に視線を転じた。
「人の里に行くぞ」
声をかけると、彼女はみかんを口に放り込むところだった
中断して、意味が分からないという口調で問うてくる。
「なに?」
「先日に言っただろう。もうすぐ食糧が尽きる。その前に買い出しに行かないとならない」
「そうね。行ってらっしゃい」
そしてまたみかんを食べはじめる。
藍は腰を上げ、淡々と促す。
「行くぞ」
「行けばいいじゃない」
「お前も付いて来るんだ」
「わたし怪我人」
などといって、両手を広げる。怪我をアピールしたいのだろうが、あまり意味のない仕草だ。
巫女を冷たく見下ろす。
「もう治っているだろう。少しは出歩いて、調子を戻したほうがいい。ただでさえ出不精だろうに」
「まだ完治してないもの」
「それは表面上の問題だ。お前はただ寒いから出歩きたくないだけだろう」
「そうよ。寒いと身体が冷えて、傷に響くでしょう。傷が開いたら大変じゃない。責任取れるの」
「その時は私が塞いでやる。立つんだ」
視線で促すと、巫女は呆れを帯びた眼差しを向けてきた。
「あんたさ。厳しいのか甘いのか、どっちかにしなさいよ」
「言ったはずだよ。わたしは紫さまほど甘くはないと」
「それ、なんだか眉唾よねぇ」
よく判らないことを言う。
藍は袖に腕を入れた姿勢で、あとを続けた。
「お前が行かないのなら、私の判断で食材を買ってくることになるが、構わないな」
その台詞に、特別な念を押した訳ではないが。
巫女はあからさまに不平の表情をのぞかせた。諦念の吐息と共に、のっそりと立ち上がってくる。
「判ったわよ、行けばいいんでしょ。まったくもう、脅し上手なんだから」
「それはどういう意味だ」
思わず聞き返すが、返ってきたのは胡乱な眼差しだけだった。
巫女はふい、と顔を背けて、
「でも、そうね。なんか甘えてたみたい。昔から、自分の面倒は自分で見てたんだけどなぁ」
そう零して、すたすたと玄関まで歩いていく。
残された藍は巫女の言葉を脳裏に巡らせて、しばしその場に佇んだ。
人の里。
「豆腐を買ってもいいけど、日持ちするものにしてね」
巫女のその台詞を携えた藍は、一人豆腐屋に居た。
霊夢は別段豆腐を食べる習慣は無いようで、買いたいのなら勝手に行けとのこと。道中、熱く大豆の可能性について語り、なんとか理解を得ようとした藍の努力は無駄に終わったのだった。
それ故に別行動となり、巫女は今頃は八百屋に居るはずだ。
「狐さま。いつもので構いませんか」
「ああ、よろしく頼む」
主人の言葉に、うなずく。
豆腐屋の主人とは顔見知りだ。藍は彼が赤ん坊のころから知っており、更に言うのなら、彼の先代の先代の、そのまた先代とも顔見知りでもある。もちろんもう生きてはいないが。
藍は巫女の言葉を思い返して、言い直した。
「すまないが、高野豆腐も一袋頼む」
「おや、珍しいですね」
「家主の命令でね。日持ちするものを買って来いと」
「いつも大変ですね。おまけしときますよ」
「すまないね、ありがとう」
彼の言ういつもとは異なるが、藍は笑みを浮かべて、素直にその好意を受け取っておいた。どちらにしろ、苦労しているのには変わりない。
代金を渡して、店を出た。
(さて、肉屋に寄るか、それとも霊夢を迎えに八百屋に寄るか)
顎に手を当てて、考える。
決断はすぐに下された。先に霊夢と合流して、それから肉屋に行ったほうが彼女も喜ぶだろう。
藍は歩を進めた。
八百屋の軒先には、白菜や大根などの冬野菜が所狭しと並べられていた。
他にも乾物や漬物など置いてあるため、店内もそれほど寂しくはない。夏野菜のきゅうりが置いてあるのは、河童と提携でもしているのだろうか。
紅白の衣装は目立つため、巫女はすぐに見つかった。日持ちのいい乾物と漬物を眺めている。どうすっかなーという表情だった。
が。
(……なんだ?)
ふと、藍は違和感に襲われた。
足を止め、八百屋をぐるりと見渡す。
店内に居るのは、巫女がただ一人。苦い表情の八百屋の主人を含めれば、二人だが。
そう言われるとあまり繁盛しているとは言い難いが、そういう訳でもない。
他にも客らしき人間は数人いた。店内から――正確には霊夢から距離を取って、彼女の様子を窺うように眺めている。
「……」
怪訝に思い、藍はその様子を観察した。
なぜ彼らが霊夢の様子を窺っているのか? その疑問は、彼らの目を見た瞬間に氷解した。
その眼には戸惑い、困惑、そして恐れの色がありありと浮かんでいる。
あれは、
(妖怪を見る眼だ……)
巫女に向けられる眼差しは、まさにそれだ。妖怪を……つまりは、得体の知れないものを見る眼。
妖怪神社――その言葉を、藍は思い出していた。人の里での、博麗神社の呼び方だ。
博麗霊夢。妖怪を退治して、異変を解決する巫女。人と妖怪の均衡を保つ人間。幻想郷の要。
だが里の人間にとって、今代の博麗の巫女とは、ただの得体の知れない存在なのだろう。滅多に人里に姿を見せない、妖怪のような人間。だが妖怪でも無い。
――巫女は人間なのかしら……
昨晩、そう零した霊夢の横顔が、まぶたの裏に蘇る。
(私には彼ら責める権利も資格も、義理もない)
口の中に苦いものを感じて、藍は巫女に歩み寄った。
先に気が付いたのは、店の主人だった。思わぬ助けが来たとばかりに、声を掛けてくる。
「おや藍さんじゃあないですか。久しぶりですねえ」
「ああ、久しいね」
「今日はお仕事のお帰りで?」
「いや、連れを迎えに」
告げて、巫女の傍による。
彼女はすぐに気が付いた。振り向くと、意外なものを見た表情を見せる。
「あら早かったわね。当分は帰って来ないと思ってたんだけど」
割と真面目に、そう告げてくる。
藍は半眼で霊夢を見やってから、聞いた。
「お前の私に対する偏見は、今後みっちり直すとして。買うものは決まったのか?」
知り合いかと、主人が驚くのを気配で感じ取るが。
霊夢は頷いて、乾物と漬物を指差した。
「この切り干し大根の束と、この漬物一瓶。それからええと」
「そんなに買うのか? 山籠もりでも慣行する量だな」
「あんたが居るんだから、持てるでしょ。それに日持ちするから、一度買うと当分は困らないのよ。わざわざ買い出しに来なくてもいいもの」
「……」
巫女の言葉に黙して――
藍はくるりと背を向けた。そして軒先に並んだ白菜と玉ねぎ、それからニンジンを持って、主人の元へと向かう。
品物を置く。
「これで頼む」
「へ、へえ」
困惑も露わに、主人が対応するが。
霊夢が近寄ってきて、眉を上げた。
「ちょっとちょっと藍、どういうつもり?」
「豆腐を買い過ぎてね、手が塞がってしまったんだよ。足で持つわけにも行かないだろう」
告げると、巫女は藍の背後に目を向けた。
「尻尾で持てばいいじゃない。なんの為にたくさん付いてるのよ。無駄にふりふりしてないで、偶には役に立ちなさいよ」
藍は大人の狐である。
ぐっと堪えて、口を開く。
「霊夢。今日はこれぐらいにしておいて、また近いうちに買いに来よう。なにもここで無理して買う必要はないだろう?」
「わたしが持つからいいわ」
「駄目だ。怪我人に重荷を強いるわけにはいかないよ」
「はあ?」
ぽかんと口をあける霊夢の表情は、珍しいものだったが。
藍は笑みを浮かべて、主人を促した。
「すまないが、会計を頼む」
「はあ……。ああ、おまけしときますよ、いつも贔屓してもらっているんで」
「すまないね、ありがとう」
礼を告げ、会計を終えると、霊夢が納得のいかない様子で佇んでいた。
説明しろとばかりに、憮然と言ってくる。
「ちょっと、藍」
「なんだ、拗ねるんじゃない。買わないとは言ってないだろう」
「そうじゃないでしょ」
「ほら、行くぞ」
皆まで言わせず、藍は霊夢の手を取って八百屋を後にした。
霊夢はぶつくさとなにやら零していたが、肉屋の前に来ると、それも収まりを見せる。
あまり肉屋に寄る機会がないのか、彼女は豚肉を見て、声を上げた。
「肉だわ」
「ああ肉だな」
「買うの?」
「買うぞ」
「ふ、ふーん……そう」
騙されないぞとばかりに、腕を組んで平静を保ってはいるが、視線はちらちらと肉に泳いでいる。
藍は穏やかに言った。
「好きなものを選んでいいぞ」
「じゃあこの干し肉を」
「それは駄目だ」
即答する。
「どうしてよ」
霊夢が睨むように見てくる。
藍は説明のポーズで淡々と告げる。
「日持ちのいいものは、冬前に備蓄として買うものだろう。もう獣たちも目覚め始めているのに、わざわざ干し肉を買う必要もない」
霊夢はかぶりを振るった。
学のない者に説明するように、やれやれといった様子で肩を竦める。
「判ってないわね。自然界なんて、いつ異変が起きて不作になるか判らないじゃない。そういう時の為に、常に一定の食糧を備蓄していかないと、いざという時に困るでしょう。あんた、妖怪になって高慢になってるのよ。九尾だかなんだか知らないけど、元は狐なんだから自然界の常識を心に留めて、一寸先は闇ということわざを知って、しっかりとした危機管理を」
「主人、この豚肉を頼む。塊でいい」
「まいど」
夕闇に呑まれた幻想郷。朱い日差しの中、藍と霊夢は博麗神社へと向かっていた。
野菜の入った籠をぶら下げた霊夢は、ぽつりと言った。
「結局さ……」
藍は巫女に視線を投げる。
彼女はあとを続けた。
「わたし、来る必要あったのかな」
「あっただろうよ」
目を瞑って、答える。
霊夢は首をかしげた。
「そうかしら。なんか結局全部あんたが選んでた気がするんだけど、これって気のせい?」
「気のせいだよ」
「まあ、お肉買えたし、いいんだけどさ。それにあんたのお金だもの」
「そういうことだ」
言葉を返しながらも、藍の脳裏には八百屋での光景が離れていなかった。
遠巻きに、得体の知れないものを見る眼差しを向けられていた巫女。
霊夢は口には出さなかったが、彼女とて、その視線の意味には気が付いているのだろう。日持ちのいいもの買いたがるのは、おそらくはそういうことだ。
「……」
霊夢に視線をやる。彼女はいつものぼんやりとした表情で、空に浮いている。
藍にとってはどこか馴染んだ光景でも、彼らの目にはきっと異質に映るのだろう。
視線を転じて、藍は自分の持つ籠を見た。
中には豆腐が入っている。行きつけの店で購入し、心遣いもしてもらった。八百屋でもそうだ。
それは彼らにとって、自分が馴染みのある存在だからだ。
(なんとも言えないな……)
小さく吐息して、まぶたを閉じる。
人を襲う妖怪の自分が人間に親しまれ、人を守るはずの巫女が恐れられている。
その矛盾。
「おかしな話よね」
思考を先回りしたように、霊夢が小さく声を響かせた。
はっとして、巫女を見る。彼女は視線を遠くに向けながら、ただ浮いていた。
藍は問うた。
「なにがだ?」
「なんでもないわ」
「……」
空の空気は冷たく澄んでいるが、それでも日が経つごとに温かみを見せ始めている。
間もなく、春が来るだろう。
「霊夢。近いうち、また買い物に行くからな」
「そうね。買い損ねちゃったもの、買わないと」
「……そうだな」
うなずいて、幻想郷の東端に沈む太陽の赤色に、目を細める。
次の買い物――
果たしてどのように霊夢の買い物を阻止すべきか、藍は頭を巡らせた。
続きが楽しみです
なんと言うかもうね、藍さま頑張れとしか
続き期待してます。
思わず1から読み返してしまいました。
やっぱり霊夢は人里の人から見たら異端なのか…
少しずつだけど、確実に霊夢も変わっていってる気もします。
おかえりなさいませ。
楽しみに待ってます