博麗神社にて
その夜は魔理沙が一冊の本を持って遊びに来ていた。
夕飯を済ませお風呂の支度をしていた時の突然の来客。
こんな時間に来るなんて珍しいなと思いつつも魔理沙にお茶を出すと。
「面白い本を借りてきたから一緒に読もうぜ。」
との事。
一緒に本を読もう。そんなこと魔理沙が言い出すなんて滅多に無いことだ。
「なにかあったの?」
怪しいと思って魔理沙に尋ねると
「なななな……なんでもないぜ!」
と返してきた。ますます怪しい。まぁとりあえず魔理沙が持ってきた本を手にとってみる。
「怪談?」
「だぜ。この季節にはピッタリだろ?」
本の内容はどうやら外の世界の怖い話らしい。
少し興味が沸いてきたことだし、魔理沙に付き合ってあげることにした。
一時間後
「へぇ~作り話にしては良くできてるわね。この怪談。」
「だ……だろ?」
普段本を読まない私にも読みやすく、内容もスーッと頭に入ってくる。
内容としても真夏に涼をとるのにちょうどいい感じの怖さ加減。
魔理沙の持ってきた本に関心しつつ、私はある異変に気付いた。
「ところで魔理沙。」
「な……なんだよ?」
「なんで私にピッタリとくっついてるわけ?」
最初隣にいたはずなのに魔理沙はいつの間にか私の背後から抱きつくような形で
私にぴったりと張り付いていた。
「ふぇ?あ、こ……これはだな……」
最初の不自然さと良い今の動揺といい。
私はすぐにピンときた。
「さては…………あんたもしかして一人で読むのが怖いから……」
「ち……ちがうぜ!!そんなことは……」
図星だ。博麗の勘は舐めてはいかんよ。
ってかあんたバレバレでしょが。
「あーそういうことかぁ。おかしいと思ったわよ。」
「だ、だからちがうって!」
「あんたがこんな遅い時間にわざわざ本持ってウチにくることなんてないもんね。」
「そ、そんなこと……わかんないだろ?」
なかなか素直にならない魔理沙に少し意地悪をしてやりたくなった。
「素直じゃないわね。正直に言わないと今日はウチに泊めてあげないわよ?」
「え…………?いや、それは困るぜ……あっ」
「なんで?帰って独りでネンネするのが怖いから?」
「……そんなことないぜ……子供じゃあるまいし。」
「そう?でもこの本みたいにお風呂入ってるときに……そーっと後ろから……」
ちょっと怖がらせるつもりだったのだ
「ま、まりさ?」
座布団の下に頭を潜らせてプルプル震えている魔理沙。
「うぅ……や……やだ……やだぜ……」
どうやら撃沈したようだ。
「ちょっ……冗談よ。冗談。何もそんなに怖がんなくたって……」
「……だって!…………………こわいもんはこわいんだぜ……」
ついに白状した
なにこの可愛い生き物……
「はぁ、わかったわよ。しょうがないわね。」
「ぐすっ……れいむ?」
「どうせ帰れって言ってもテコでも動かないんでしょ?いいわよ。今日は泊まってって。」
魔理沙にお泊りの権利を上げる。
すると魔理沙は被っていた座布団から頭を抜いて涙目で私のほうを向いてくる。
「れいむ……たのみがあるんだ……」
「なぁに?一緒に寝てほしいの?」
「うん……。あとさ……その……」
魔理沙は顔を赤らめながら私に言い辛そうなことを言おうとしている。
「な、なによ。言いたいことがあるならハッキリ……」
「……一緒におふろはいってくれないか?」
呆れてものが言えなかった。どこのお子様だ?
「……………。」
「だだだだって!……れいむが……おふろでうしろから……って……言うから……」
「はぁ、しょうがない子ね。わかったわよ。」
必死で弁明しようとする魔理沙が、可愛らしく見えて
一緒にお風呂に入ることを承諾した。
「……ありがと」
でも私の心に同時に悪戯心が芽生えてしまう。
「でも大丈夫かしら?」
「なにがだ?」
「私が魔理沙を脅かすかもしれないわよ?」
「ッ?!そ、そんなの……霊夢がやるってわかってたら……こ、こわくないぜ!……でも……」
「でも?」
「……やったら怒るからな。」
自然に笑みがこぼれる。
「何笑ってんだよ!ホントに絶交だからな!」
「はいはい。わかったわよ。」
ポンポンと頭を撫でる。必死に涙目で訴えてくる魔理沙が可愛くて
ついさっき私に芽生えたイタズラ心が爆発した。主にお風呂場で。
魔理沙が髪を洗っていて無防備になっている背中を無言でつーっと指でなぞってあげた。
「きゃあっ」
という魔理沙らしからぬ悲鳴をあげ私の方に向かって抱きついてきた。
「れいむっ……おばけ……おばけ……」
プルプルと恐怖で肩を震わせる魔理沙。
さすがに申し訳なくなった私は自分がやったことを白状した。
案の定、その夜は寝るまでまともに口を聞いてくれなくなかった。
寝室にて
「ねぇ魔理沙。」
「……」
「ごめんねって言ってるじゃない……」
「もぅ、いい加減機嫌なおしてよ。」
「……」
一向に魔理沙の機嫌は直りそうにない。
ホントに困った子だ。
「……魔理沙。」
「……」
「わかったわよ。返事してくれなくていいから。」
「……」
「その、もうちょっと離れてほしいんだけど……」
「……」
今の魔理沙の状態。蓑虫のように私に正面からぴったりと引っ付いている。
しかも私の寝巻きをしっかり掴んでいて離してくれる気配も無い。
正直寝苦しい。
「そんなにくっつかれると……その、暑いでしょ?」
「…………ばつだ。」
「え?なに?」
「私をこわがらせた罰だ。」
やっと口を開いたかと思えば……
「はぁ……わかったわよ。」
私は自分の着ている寝間着をぎゅっと掴んでいる魔理沙の手に
そっとを自分の手を添え軽く撫でた。
やがて寝間着を掴んでいる手の力がゆるくなりするりと抜ける。
その手を軽く握ってあげた。
「これなら怖くないでしょ?」
「……。」
無言で魔理沙は私の手を握り返し、分かるか分からないかくらい
小さく
コクンと頷いた。
「ふふふ。おやすみ。魔理沙。」
「…………おやすみ」
ちゃんとした返事が返ってきて安心した私は、そのまま眼を閉じた。
やがて魔理沙は私よりも先に可愛らしい寝息を立てて寝てしまった。
魔理沙の手のぬくもりを感じながら私も夢の中へと落ちていった。
翌朝
「そういえば魔理沙?」
「なんだ?」
「なんでアリスのトコじゃなくてウチに来たの?」
ちょっとした疑問を魔理沙に投げかけた。
最近ではアリスと一緒に行動することの多い魔理沙。
二人の関係もそれとなく知っているつもりだ。
「べ……別にいいじゃないか。」
魔理沙はそっぽを向いた。
なるほど。
「つまり、アリスの前で怖がってるところを見られたくなかったとか?」
「ッ!?」
本当にこの子はわかりやすいんだから
「ア……アリスに昨日のことは……」
かなり動揺しているみたいだ。
私は勤めて優しい表情で
「わかったわ。」
と答えた。
魔理沙は安堵の表情を浮かべる。
それが魔理沙の甘いところ
私はわかったと答えただけで
喋らないとは言っていない。
朝食を食べ終え魔理沙は家に帰っていった。
さて、アリスにどうやって今日のことを伝えようかしら。
怖がり魔理沙可愛い。
いや、神社というのも怖くないか?と思うけど。
アリスちゃん特選怖い話集、ちゃっかり期待しています。
なんか、霊夢って魔理沙の弱み結構沢山握ってそう・・・。