Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

drop

2010/08/23 23:32:40
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1.
ねえ、と指差したのは、彼女。
黒に揺らめくコントラスト、はらはらり、きらりと街灯にきらめいて、涙みたい
に流れる。ゆき、と頭ひとつ分小さい彼女の唇が動いて、音を紡ぐ。
彼女と共にこうして外に出たのは、いつぶりだったかしら。はァ、とついた息は
やけに白く、暗灰色の外套の立てた襟に顔を半分埋めた。

ふと、街が、揺らいだような気がした。
霞み掛かって頬を伝った温い感覚に泪なのだと認識。拭うことはしない。片方に
白い花束、片方は彼女の手と繋いでいるから、拭うことは出来なかった。手を離
せば良いのに離さないのは、離してしまったらきっと永遠に、繋ぎ直せないよう
な心地がしたから。
自分より一回り小さな彼女の手を握ると、あまりに冷たくて、少し強引に自分の
外套のぽけっとの中に彼女の手ごと突っ込む。ぽけっとの中で絡み合う指と指の
かすかなあたたかさ。狭すぎるぽけっとからあふれ出してしまいそうな沢山の愛しさを感じて、衝動的に彼女の鴇色に赤らんだ頬に唇を寄せたくなってしまったが、頑なに衝動を抑え込んだ。

深々と降りしきる雪の中、二人で寄り添い一つの影になる。モノクロームの古臭
い映画ように、ひどく色彩が褪せた、世界。二人は静かに街中を行く。
北へ。ひたすら、北へ。道すがら、彼女は指を折って数えていた。何を、と問え
ば儚んだような笑みで秘密、と返された。


2.
どうでも良かった。
彼女との絆を思えるのなら、他はどうでもいいとさえ感じた。

けれど思うことさえも許されない、融点のない氷のような時世。何もかもが熱を
奪い去る吹雪のようで、強引に引き離そうとする圧力はまるで抗いようのないク
レバスのよう。
互いの小指どころかすべての指に赤い糸を繋げても、足りなかった。
運命も束縛も依存も、すべて大きな鋏で引き裂かれた。

ならば二人で辞世しよう。泣き腫らした紅い目で持ちかけたのは彼女で、応える
自分はしかと頷いた。



吹雪もクレバスもない安寧の場所は、自分達には涅槃しかなかった。



3.
出会えたこと、教鞭をとってもらえたこと。時間を共有したこと、今こうしてい
ること、私と貴女が共に在れること。感覚のなくなりかけた指を折り数えたのは
幸せ。
記憶に明滅するのはいつだって貴女で、そのそばにいる私はいつだって幸福で。

でも人の性って恐ろしい。私は飽き足らなく貴女を求めてしまった。
真逆の色彩の貴女。私の黒いまっすぐな髪とは逆の、しろがねの綿みたいに柔らかい波打った髪、愁いを閉じ込めて輝く理知的な灰色の瞳、透き通って白い肌。どれをとっても綺麗で、宝物みたいな貴女。
宝物というのは手元に置いておきたくなる。私も例に漏れず貴女を引き止めて、
私という檻に閉じ込めておきたくて。
でも叶わなかった。見えざる手はあまりに力が強くて、私の手と貴女の手を引き
離そうとした。

だから私は貴女に提案した。

記憶の中で貴女が頷いたのを確認してまた指を折った。

彼女が立ち止まってもなお、指折り数えた幸せは尽きなかった。

4.
さっきまで強く吹き付けていた風が止んだ。雪もいつの間にか止んでいて、目深
に被った帽子を透かして見たら、薄く氷の張った湖にあらゆる色が朧ろに溶け合
っていた。
山紫水明だと、呟いた。そうねと応えた彼女の目からは紅い頬を透かして、紅涙
が流れているように見えた。


静寂が訪れた。


俯いた彼女、ここがいい、と声を上げた。この色彩に融けられるなら、自然と頷
きを返した。
湖のほとりに来た。
彼女の嗚咽が止まらない。窺うと幸せそうに笑った。

たりないの、幸せが多すぎて、指が足りない

突然吹いた風が花束をさらって、花弁を散らせた。冷たくない雪。降り積もる中
で自分は初めて彼女を抱き寄せた。


5.
薄氷の下に沈んでいく。繋いだ手は離さないように、髪を結っていたリボンで括
り付けた。

冷たいはずの水は、冷たくなかった。
月が星と踊って輝いた。不思議なくらいに綺麗で、おかしなくらい現実離れして
美しくて。
薄氷が割れた。
水鏡に写った自分達が耽溺。
黒い髪としろがねの髪が絡み合って、耽美に二人で薄氷の下に沈む。
手と手繋ぎ合ったまま、手首に縛りつけた赤いリボンが血のように揺らめく。

そして霞んでいく意識の中に、湖水に入る前に最期に呟いた彼女の声が響いた。
残響は消えず、そのまま自分は意識を手放した。

貴女に会えて、よかった
次に生まれ変わったら、また会いましょう



おはようございますこんにちはこんばんは。すいみんぐです。
きっとちょっとだけ、続きます。このまま終わらせたら報われないので。
私の思う、というか輪廻転生が当てはまるのなら、という条件下での永琳と輝夜。きっと身分だとか色んな意図に縛り付けられるのかな、思いながら、「雫」という曲を聴きつつかいてたらこんな重い話になってしまいました。

できたらあと2つお話を続けて、締めたいです。
ではここまで読んでいただきありがとう御座いました!
感想指摘批評、なんでもお待ちしております。
すいみんぐ
コメント



1.けやっきー削除
おおぅ、何か雰囲気が凄かった…。
風や雪の描写が綺麗に浮かんできました。
2.奇声を発する程度の能力削除
とても凄かった…
3.名前が無い程度の能力削除
おお、なんとも幻想的な世界。
4.紳士的ロリコン削除
溜息が出そう
綺麗
とにかく綺麗
5.名前が無い程度の能力削除
きれーでした。とっても
6.すいみんぐ削除
けやっきーさん ありがとう御座います。雰囲気を愉しんでいただけたなら幸いです。

奇声を発する程度の能力さん ありがとうございます。

3.のお方 幻想的になれと念じながら打った甲斐がありましたw

紳士的ロリコンさん さあため息を・・・! 綺麗だなんてお言葉、ありがとう御座います。

5.のお方 ありがとう御座います。