「ん。んん、んっ!」
今日も朝から超能力の練習。
今朝のメニューは、テレキネシスで上海をここからそこまで運ぶこと。
依然、1mも1cmも1mmも動かない。
「んんっ!んっ、ん…!」
超能力をマスターして、私は都会派から未来派魔法使いに。
…なる予定で、健気に練習中。
暑い。
『アリス。超能力なんて、魔法でいくらでも変えが利くじゃないか』
『ロマンを知りなさい。ロマンを』
昨日交わした、魔理沙との会話が思い出される。表情ごと。
あの、冷やかな目線。今思い出したって悔しい。
絶対見返してやる。絶対。
いや、多分。
「ん…んぅ…はぁ」
空は、どんよりとした曇り空。
朝から、むしむしとした暑さが私の周囲にまとわりつく。
上手くいかないのは、きっとこの天気が原因。
そうよ、絶対そう。
「…やった、今朝はこれで終わりね」
上海を見事、ここからそこまで送り届けることができた。
無論、いつも通りの魔法で。
さぁ、今日はこれからが本番。
さっきまでの失敗は、無かったことにしよう。
こんな毎日、通算十二日目。
「伝わらない想いが、胸の中を渦巻いてるの」
「そう」
「私、胸が張り裂けそうで」
「張り裂けたら相談して」
闇雲に練習したって、どうにもならないと気付いた十二日目の私。
そうしてやって来たのが、この大きな大きな図書館。
そこに引き籠る、紫色の可愛らしい女の子、パチュリー。
「私ね、他人の恋愛事に付き合ってる暇なんて無いの。分かる?」
「恋愛事?違うわ、テレパシーよ」
「…あ、そう」
確信犯万歳。
見事に勘違いしてくれたパチュリーに、自然と私の気分もいい感じ。
当然、パチュリーの機嫌は反比例。
「奥に小悪魔がいるわ。彼女に構ってもらって」
「嫌よ。相談料として、魂取られるかもしれないじゃない」
「でも、このままじゃ胸が張り裂けちゃうんでしょ?」
「仰る通り」
…きっと、久しぶりの私との会話に恥ずかしさがあるのだろう。
優しい私は、パチュリーが内気で人見知りする子だということにしてあげる。
まったく、可愛い子なんだから。
「じゃ、小悪魔のとこに行ってくるわ」
「えぇ、行ってらっしゃい」
「小悪魔が教えてくれたら、あなたに聞く必要は無くなるわね」
「そうね」
本当は寂しいくせに。
…そんな様子が少しでも見られれば、いい気分になれたのに。
何か、私が寂しい。そして恥ずかしい。
図書館、秘書室。
…という名の、図書館隅っこ。
「部屋じゃないわよね?」
「私が部屋と思えば、こんな隅っこだって秘書室になるんです」
まぁ、自分が納得しているのなら別にいいのかも。
こんな埃っぽくて、薄暗い、そして壁で仕切られていない秘書室があっても。
悪魔っぽい雰囲気が、出ていない気がしないでもない。
「で、私自慢の秘書室まで来て、何の用ですか?」
「あなた自慢の秘書室を見に来たのよ」
「…どうぞどうぞ、ご自由に見て行ってください。何も無いですが」
「本当、見渡す限りの廊下、そして本ね」
少しずつ、少しずつ小悪魔の目に涙が溜まっていく。
よく聞くと、声色も少し震えている。
楽しいけど、これ以上からかうと何も教えてくれないかもしれないから、ここでお預け。
「超能力を使えるようになりたいの。テレキネシスとか」
「突然ですね。でも、何で私に聞くんですか?」
「あなた、悪魔でしょ?」
「悪魔なら何でも出来ると思ったら…まぁその通りですけど」
「でしょ?」
まさか。
本当に超能力が使える娘だったとは思わなかった。
これは新たなライバル登場。
「テレキネシス、やってみせてくれる?」
「いや、あの、今は、その。力が足りないんですよ」
「そんなもの、パチュリーに分けてもらえばいいじゃない」
「パチュリー様はケチですから」
こういう失言があろうかと用意しておいた、録音機能装備型上海。
やっぱり、私には予知能力があるに違いない。
後で、うっかりパチュリーの近くに落として帰ろう。
うっかり。
「じゃあ、どうやったら超能力者になれるか教えてよ」
「え?え…えっと…えっとですね…」
「…」
「強く念じれば…出来ちゃったり?するんじゃ?ないですか?」
可愛く言ったって、まだまだ都会派な私は許さない。
この見栄を張った失言だって、しっかり録音されてるんだから。
しっかり、しっかりとパチュリーに折檻してもらいなさい。
「ほ、ほら。私だって忙しいんだから、早く帰ってくださいよ」
「…えぇ、邪魔したわね」
「超能力、習得できるといいですね」
「あなたも、お仕事頑張って」
魔理沙の、ほらみろと言わんばかりの顔が目に浮かぶ。
もう、ああ、もう。
頭の中で、腹立だしい魔理沙の顔が増殖していく。
くそう。
『パチュリー様はケチですから』
『強く念じれば…出来ちゃったり?するんじゃ?ないですか?』
「…小悪魔、ちょっと、ほら、来なさいよ」
「ん。んん、んっ!」
今日の夕方も超能力の練習。
夕方のメニューは、テレキネシスで魔理沙の家のドアを開けること。
んっ、いける、開く!
「何してるんだ?」
「…ハンドパワー、いや、パントマイムよ」
もうちょっとだったのに、魔理沙は私に気づいて、ドアを開けてしまった。
…いや、これも超能力かも。
私のドアを開けたいという念が、魔理沙を無意識のうちに動かしたのかもしれない。
やっぱり私は、未来派魔法使い、アリス。
「いやぁ、それにしても、やっぱダメだったな」
「…えぇ」
「小悪魔にまですがるなんて、中々本気みたいじゃないか」
「当然」
本気だからこそ、十二日間もの間、イメージトレーニングを続けたんだから。
イメージトレーニング。イメトレ。なんかかっこいい。
…あれ?
「あなた、何で私が小悪魔を頼ったことを知ってるの?」
「あ、本当だったのか」
「本当だけど」
「何かそんな気がしたんだよ。何でだろうな」
…これは、テレパシー習得の第一歩を踏み出せたに違いない。
小悪魔と別れたあの時、ほらみろと言わんばかりの魔理沙の顔で頭がいっぱいだったから。
無意識のうちに、魔理沙にテレパシーを送れたんだ。
そうよ、絶対そう。ふふん。
「なんだよ。なんだ、そのにやついた顔。気持ち悪い」
「今に見てなさい。遂に私は、超能力者見習いになれたのよ」
「ほぉ。習得したら、まず一番に見せてもらいたいな」
「えぇ。あなたの顔、常に泣き顔にしてやるから」
「そりゃあ、楽しみだ」
嫁にいけない顔にしてやる。
「とりあえずさ、ほら、早くあがれよ」
「え、何で?」
「今日はな、珍しく私が晩ごはん、用意してやってるんだ」
「本当に珍しいわね」
「何かな。まぁ気分だよ。ほら、さっさと準備手伝え」
「はーい」
…泣き顔にするの、止めてやってもいい。
晩ごはんの味による。
「…二人分にしては、少なくない?」
「アリスが来る時間が分からなかったからな。つまみ食いしちゃったぜ。計十二回」
「あら、そう」
十二回、だって。
私が未来派魔法使いとなり、幻想郷を支配する日は近い。
とりあえず、晩ごはんだ。
超能力か……一時期電磁波操作という名の『自分の意思で静電気を発生させる程度の能力』なら使えたよw数分だけだけどwww
超能力…自分も使えると本気で思ってた時期がありました…(遠い目
……幻想郷を支配して何をするんでしょうか、それが気になる。
超能力……妄想を加速させれば、瞬間移動と時間移動が会得できますよby経験者
がんばれアリス!