空は暗く。しかし白く。白く舞い舞い吹きすさぶ。空切り身を切り雪は吹く。
吹け吹け吹雪。降れ降れ大雪。
踊れ踊れ。雪の中。回れ回れ。白の中。
レティ・ホワイトロックは一人で踊る。白と灰の世界の中で、一人で踊る。
白と灰のその中を、黒いなにかが縦に裂く。
レティはそちらに振り向いた。
「はろー。ご機嫌いかが?レティ」
空間を裂く真っ黒と目玉の中から、金色の髪と目がこちらに出てくる。レティは彼女に笑顔を返した。
「あらあら今や妖怪の賢者様のご筆頭が、しがない冬妖怪に何の御用?」
「ご挨拶ねぇ。私は変わってないわよ」
「ふふ。冗談よ。そんなあなたのおかげでこそ私がこうしてられてるんだから、感謝してるわよ。…って本当になんの用?…まさかその腕の中の…」
「そ。話が早くて助かるわー。お願いね。食べないでよ?」
「待ちなさいっての!私が食べなくてもその前に凍え死ぬわよ!人間の赤ん坊なんて!」
ぽい、と紫の腕から投げられたそれを落とさぬように、しっかと抱える。
「だからいいのよ」
耳に残る彼女の台詞に溜め息をつく。自分の息は風に消えて、腕の中の子の息は、白く棚引く。
「…雪女って、親子としては最後どういう話になるんだったかしら…」
またため息をついた。
その冬は、吹雪吹きすさぶ日あり暖かな日あり。気まぐれな冬の一つであったと記される。
稗田は記すがその理由までは知る気などない。
だってよくある冬の一回に過ぎないのだから。
冬が巡れば春が来る。
「春ですよー」
能天気で楽しそうな声ふりそそぐ下。白と赤が交わり離れる。
「それじゃ、お願いするわ。幽香」
「任されておくわ。レティ」
空は高く。そして青く。眩しく光が降りそそぐ。空へと雲へと風が吹く。
照るは太陽。降るは日光。
踊れ踊れ。日の光。回れ回れ。青い空。
風見幽香は一人佇む。青と光の世界の中で、一人で佇む。
二本の大きな向日葵の間に揺れるハンモック。それはゆらりゆらりと揺りかごで。
幽香は、頬に感じた風に混じる違う風に、ちらりと視線を横に流す。
そこにはやはり、黒い髪と黒い羽。鴉天狗が立っていた。
「人の側に来るときはノックぐらいしなさい」
「…いえ、向日葵畑の中ですよね、ここ。どこをノックしろと?」
ハンモックで眠る赤子と、その側のテーブルでくつろぐ、日傘の下の幽香を交互に見ながら天狗は言った。
「ややー、如何ですか、今度の巫女は?」
「巫女候補、よ。まだ」
鴉天狗はハンモックの中を覗き込む。
「やー、でも可愛いですねー。攫っちゃいたいですねー」
幽香の腕の中から攫うのは、天狗の実力者でも難しいだろうが。
「で、食べる?」
「やですねー。育てたりもしますよ?」
「でもまぁ、この子は天狗には預けられないけれど」
「ですね」
「あなたたち天狗にはね」
天狗では、群れ過ぎる。
「これ」は孤独にあるべきなのだから。
「まあ天狗以上に群れる性質の人間にそう刷り込むんですから大変ですよねぇ」
「そこは資質もあるでしょう。何事にも例外はあるわ」
貴女みたいに。幽香は見つめる。
天狗の新聞記者には珍しい、まだ事実に近いモノを記す鴉天狗に視線を送る。
「あやや、嫌ですよ、私はただのよくいる新聞記者の一人です」
天狗はくるくると、指にはさんだペンを回す。
「まあでも、生まれてしばらくは育てる者がいないといけない人間てのは面倒ですねぇ」
「卵から出たら一歩目から走り回る天狗と一緒にはできないわね」
「やー、天狗になるのって卵から生まれるのもいれば、人間や別のモノから変化する者もいますからねぇ」
「妖怪もそう。だから妖怪には親などいらない」
ふう、と長い吐息をついた幽香の様子に、鴉天狗はなるほどしたりと頷いた。
「フムン。なるほど最近近付く者に対して危険度極高、と言われるのはやはりこのためでしたか。無関心でいるでもなく、積極的に排除と行動されていたのは」
「丁度よいでしょ?」
ここには孤独があるのよ。ないといけないの。
人間と共にいること適わぬ者がいること。
適わぬことがあることを知っておくことが、この世界の巫女の条件。
幽香はまた一口茶を啜る。天狗はまた一つ問う。
「で、記事には…」
「したらどうなると思う?」
にこりと幽香は微笑んだ。鴉天狗はため息と共に、文花帖を仕舞った。ああこのスクープを書かせてもらえぬは何度目だったか。天狗は数えるのをやめた。
チルノが騒ぐ。
大妖精が慌てる。
レティが微笑む。
メディが騒ぐ。
リグルが慌てる。
幽香が微笑む。
博麗神社の境内の一角。そこを眺めていた魔理沙は言った。
「なあ霊夢。お前の親ってどんなだ?」
霊夢は猪口から口を離すと、首をかしげ、しばらく自分の記憶をたぐる。
「記憶が混乱するのよねぇ。髪はふわふわしてそうな記憶があるんだけど、全体的に青っぽくて寒そうだったり赤っぽくて暖かそうだったりでも逆だったり…」
「あー、もうその年で健忘症が出てるのか。気をつけろよ」
「違うに決まってんでしょ!」
「あらあら、お母さんが恋しいの?」
「違うって言ってんでしょこのスキマ!どこから聞いてた!」
「うふふ?そんな寂しさを感じたりもする子は、お母さんの膝に甘えてもいのよ?」
正座した紫が自分の太ももを、ぽんぽんと叩いた。
「誰がお母さんか!」
その頃わいわいがやがやと騒がしい縁側から離れた一角で、静かに寝息が4つほど。
レティの膝枕に妖精二人。
幽香の膝枕に妖怪二人。
それを見つめる妖怪二人。
博麗神社
成る程…これは新鮮ですね!
…こんな短い作品でそんな分かりやすい見落としするとは…
永琳のことかーとか思ってしまった
レ「どうして私たちだったの」
紫「あなたたち外見は母性的だから」
幽(胸か)
レ(胸ですか)
>これは新鮮
(幻想郷の)母だってぴちぴちよー。by紫
>永琳のことかーとか
あ。確かに。
輝夜の乳母だったりしないのかしら。<永琳
>レティさんとゆうかりんが良い味出してた
良い味の母乳が出てたと申したか。
>外見は母性的
中身はどうなんでしょうね。妖怪って。
我が子を思う母が成った妖怪もいますけど。
発想が素敵でした。
恐れ入ります。強者こそ優しい。そんな世界が素敵。