Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

空の花 ~フラワーマスターの場合~

2010/08/22 00:22:25
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蝉の鳴き声がまだまだ夏だと実感する葉月の中頃。僕は何時もの様に客が来ない店内で店番をしていた。
客も来ず、この暑さでは常連も来ず。こんな日に店を開いていて何か得があるのだろうか……と店主としてそれはどうかと言いたくなる様な考えが頭を過ぎった。
日も傾いてきたし、もう今日は店仕舞いをして水風呂にでも入ろうか。
そんな事を考えていると、店の扉に取り付けた鈴が来客を知らせた。

「ごきげんよう。霖之助」

「……君か、幽香」

扉の向こうに居たのは、四季のフラワーマスターこと風見幽香。

「こんなに暑い日に……よく此処まで来たものだ」

「貴方がくれたコレがあるもの」

言って、幽香は手に持った日傘をくるりと回す。

「……それで? 今日は何の用だい?」

「と、特に無いわ。ただの暇潰しよ」

店の中に歩みを進めながら幽香は答え、近くの椅子に腰掛けた。

「そ、そういえば」

「うん?」

「今日此処に来る時里の方が騒がしかったのだけど、何かあったの?」

「あぁ……知らなかったのかい?」

「わ、悪かったわね」

「お祭りだよ。年に一度の夏祭りさ」

「あら、もうそんな時期だったのね」

「あぁ。君ほどではないが時が経つのが早く感じるよ」

「そ、そう」

「あぁ」

そこで会話は途切れる。外から聞こえる葉鳴りの音と蝉の声がその場を一時的に支配する。

「………………」

「………………」

「……お祭り……」

不意に、幽香がそんな言葉を口にした。

「行きたいのかい?」

「え……えぇ。まぁ、弾幕ごっこよりは安全に楽しめる娯楽だし……」

「フム、僕の様に荒事が苦手な者にはうってつけだからね」

「あ、貴方は行くのかしら?」

「考えてはいるよ」

「……まさかとは思うけど、一人で?」

「何故まさかなのか分からないんだが?」

「だ、だって一人でお祭りに参加してもつまらないんじゃなくて?」

「……そうかい?」

僕としては誰にも振り回される事無く自由に的屋を見て回れるからそっちの方が都合がいいのだが……

「そ、そんなの駄目よ! 何一つ楽しくないわ!」

「そうかい?」

「そうよ! 折角のお祭りなんだから、楽しまなきゃ!」

「まぁそれはそうだが……」

「でしょ?だ、だからぁ……」

「………………」

やれやれ、幽香はどうも素直じゃないな。

「分かったよ」

「え?」



「幽香、一緒にお祭り行かないかい?」

「……はぇ?」

「一人で行くのもつまらないからね。どうだい?」

「な、ななななななななななな、なんでアタシなのよ!?」

「じゃあ、行きたくないのかい?」

「う」

「行きたくないのなら仕方ない。強要はしないよ」

「あ、あぅう……」

「さて、じゃあ僕は祭りに行ってくるよ。商品を壊さないなら居てくれて構わないから」

言って、店から出ようと勘定台を離れ、扉に手を掛けた時だった。

「ま、待って……!」

「ん?」

わざとらしく止まり、わざとらしく振り返る。返って来る言葉は分かっているようなものだ。

「私も……」

「私も?」

「私も……い」

「何だって?」

わざとらしく聞き返す。これくらいが丁度いいだろう。何がかは知らないが。

「わ、私も一緒に行きたい、からぁ……!」

「やれやれ……素直じゃないね」

「なっ……誰の所為よ!誰の!」

「……ん?」

その言い方から察すると、幽香を素直じゃなくする人物がいる事になる。

「……どういう事だい?」

「だ、だから……!ぅう~!馬鹿!」

「???」

何故馬鹿と言われたのだろうか。どれだけ考えても理由が見つからない。

「……で!行くの!?」

「あ、あぁ……何故怒ってるんだい?」

「うっさい!」

そう言うと、幽香は僕の手を握った。

「怒らせた罰よ。……わ、わたあめ奢りなさい」

そう言う幽香の顔は、耳まで真っ赤だった。

「はいはい分かったよ。じゃ、行こうか」

「きゃ! ち、ちょっと、引っ張らないで……」

幽香の手を引き、僕は普段と違い喧騒に包まれる里へと歩みを進めた。





***





「ねぇ、わたあめ……」

「あぁ、最後にしたほうがいいよ」

「何でよ?」

「持ち歩くのに不便だからね。帰る時に買おう」

「その時に売り切れてたらどうするのよ?」

「フム、それは考えていなかったな」

「もう……でもまぁ、確かに邪魔になるわね」

「ならどうするんだい?」

「そうねじゃあ……あ、あの水あめで許してあげるわ」

「フフッ……分かったよ」

「な、何で笑うのよ~!」

「いや、別に……フフッ」

◆◆◆

「あら、射的じゃない」

「そうだね」

「昔は射的屋潰しなんて呼ばれてたわね、貴方」

「頼むから忘れてくれ……」

「別にいいじゃない?……あ、あれ取って?」

「やれやれ……どれだい?」

「あれ」

「分かったよ。……(バシッ!)……ほら」

「ふふ、有難う」

「本当に好きだね、向日葵……」

◆◆◆

「あ、幽香……と、霖之助」

「あらリグル。貴女も屋台出してたの?」

「ううん。屋台をやろうって言い出したのはチルノで……僕は手伝いだよ」

「で、そのチルノが見当たらないが?」

「あ、チルノは製造担当だから表には出ないんだ」

「製造?」

「うん。山の巫女さんに教えてもらって……一本どうですか?アイスキャンデー」

「あぁ、それで製造か。合点がいったよ」

「そうね、一つ貰おうかしら?」

「僕も貰うよ」

「あ、はいどうぞ」

「んっ……!冷たいわね」

「こうやって普通に氷が的屋で売られる様になるとは……時代だな」

「チルノじゃないと無理ですけどね」

◆◆◆

「あ……」

「どうかしたのかい?」

「べ、別に?」

「ん?……あぁ。そういう事か」

「何がよ?」

「幽香、林檎飴食べるかい?」

「へ? な、ななな何で?」

「いや、だって……ずっと見てるじゃないか」

「(ぎくっ)」

「……食べないのかい?」

「え、えぇ! あ、あんな子供っぽいものなんか……」

「そうか。じゃあ僕が食べたいから買ってこよう」

「えっ?」

「君は此処で待っていてくれ」

「え……!ま、待って!」

「ん?」

「…………い、いちご一つ……」

「分かったよ、一緒に行こう」

「……うん」





***





屋台を半分程回った頃だろうか。前方に見知った顔が見えた。
向こうもこっちに気付いたらしく、此方に歩いてくる。

「霖の字じゃないか。奇遇だね」

目の前の女性……小町はそう言う。
今日は完全に休みなのだろうか?歪に曲がった鎌を持ってはおらず、代わりに綿菓子を持っている。

「小町……仕事はいいのかい?」

「年に一度の祭りだよ?来なきゃ損だよ」

「まぁそれはそうかもしれないがね」

事実、僕もそう言われて此処に来た訳だしな。

「ま、それに……」

そう言って、小町は僕の隣りに立つ幽香を見る。

「……何?」






「霖の字と幽香嬢……半妖と大妖怪のお祭りデートかい?お熱いねぇ!」





「な、ななななななな何言って……!!!」

「お、顔真っ赤にしちゃって可愛いねぇ!霖の字、大切にしてあげなよ?」

「相変わらず君は訳の分からない事を言うね……」

「ふふーん」

小町はそう笑うと、幽香の手を引き、僕に背を向けて何かを話し始めた。
何を言ってるのかは気になったが、僕に背を向けているなら僕に聞かれたくはないんだろう。
勝手にだがそう決めつけ、僕は暫し静観する事にした。

◇◇◇

「しっかし、アンタが霖の字にお熱とはね……天狗に言ったら面白そうだね」

「ふ、ふざけないでよ!?わ、私は別に、あんな混ざり物の事なんか……!」

「おやそうだったかい。そいつは失礼したね」

「そ、そうよ!変な事言わないでよ……」

「んじゃ、アタイが霖の字を奪っちゃっても良いって事だね?」

「ッ!?」

「だってそうだろう?アンタは霖の字に興味無いんだし、アタイが霖の字の伴侶になっても何の問題もないだろう?」

「……そんなに潰されたいの?」

「ん~?霖の字に興味が無いのにアタイが霖の字とくっつく事は気に入らないのかい?やっぱりアンタ、霖の字の事……」

◇◇◇

「いい度胸じゃない死神!花火には早いけど、貴女の血で空に彼岸花を咲かせてあげるわ!!!」

「え?いや、ちょ、ま、そういう方向かい!?」

「問答無用!覚悟しなさい!」

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

叫び声を残し、二人はその場から走り去ってしまった。

「……何があったんだ?」

考えても仕方ないので、僕は二人と比べるとはるかに遅い速度で二人を追いかけた。





***





「全く……何処まで行ったんだ……」

屋台の並びを抜け、霧雨道具店の前を通り、遂には里を抜けて、今は里から少し離れた小さな丘に来ていた。
手に持っている物が、何故か何十倍も重く感じる。

「ん?」

見ると、前方から疲れた顔をした幽香が歩いてきた。

「あら、こんな所まで来てたの?」

「まぁ、ね。ほら」

言って、手に持っていた物を渡した。



















「あ、わたあめ……」

「丁度最後の一つだったからね。走って疲れただろう?ほら」

「あ、有難ぅ……」

「ハァ、疲れた……」

呟き、地面に腰を下ろす。幽香もそれに従い、僕の隣りに腰掛けた。

「あぁ、小町はどうしたんだい?」

「逃げたわ。後ちょっとだったのに……」

「……気になってたんだが、何故君は小町を追いかけていたんだい?」

「え、そ、それは……ひ、秘密よ」

「そうかい」

「そうよ……馬鹿」

「?」

何故馬鹿と呼ばれたのだろうか。
考えてはみるが、分からない。

「……あ」

「ん?」

幽香が何かに気付いた様な声を上げ、何事かと思って顔を上げた。
その時、今年最初の花火が空に咲いた。

「あぁ、始まったか」

「そうね。……綺麗」

「あぁ、綺麗だね」

そこで会話は途切れる。だがそれは話す事が無いからではなく、言葉が無駄だからだ。
綺麗。
この一言を交わした以上、二人の意見は交換できた。後は、この年に一度現れる空の花畑を観賞するだけだ。

「………………」

「………………」

何となく、本当に何となく横を見た。

「あっ……」

幽香と、目が合った。

「……何だい?」

「え、な、なななななななななな何でも無いわよ!?」

「?そうか」

「そ、そうよ! 黙って花火見てなさい!」

「あ、あぁ……?」

言われ、再度花火に目を向ける。
綺麗、その一言に尽きる。

「………………」

「………………」

途中何度も横から視線を感じながら、僕は空の花を愉しんだ。





***





「………………」

「………………」

小一時間程花火を見、そろそろ帰ろうかと幽香に言おうとした時

「……ん?」

とすん、と。肩に何かが乗った。

「………………くぅ」

「…………幽香?」

見ると、幽香が僕の肩に頭を預けてすうすうと寝息を立てていた。
恐らくは小町との一方的な鬼ごっこに疲れたのだろうが……これでは動くに動けない。
帰るためには起こすのが一番なのだが……

「ん……くぅ」

「………………」

何とも心地よい寝顔で眠っている。これを起こすのは何か悪い気がする。

「やれやれ……っしょ……っと」

「んにぅ……」

このまま放っておく訳にもいかないだろう。そんな考えの元、僕は幽香を家に連れて帰る事にした。

「霖のしゅけぇ……」

「ん?」

「くぅ……くぅ……」

「……寝言か」

「くぅ……くぅ……」

「………………」

ぎゅう。
幽香の腕に力が込められた。

「くぅ……くぅ……」

「しかし……こうしていると……」

大妖怪というより、何処にでもいる普通の……
















































「可愛い少女じゃないか」

「んぅ……」

寝言か寝息かあやふやな声を漏らしながら、幽香は更に抱き着いてくる。

「やれやれ……」

「んにぅ……」

少し遠くで鳴り響く花火を背に、僕は歩き出した。
「ふぃ~……何とか撒けたね」

全く……あの向日葵妖怪め……折角死神が素直にしてやろうって言うのに……

「……っと、そういえば全然祭りを楽しんでないじゃないか」

あの向日葵妖怪の所為でずっと逃げっぱなしだったからだね

「まぁ、この話は天狗に特ダネで高く売れそうだし良しとするかね!
明日の見出しは……」

「『年に一度の夏祭り! 天に咲く火の花と宙に舞う愚かな死神!』……ですね」

「げーっ閻魔!」

ジャーンジャーンジャーン……って何がだい!

「覚悟は良いですか?」

「ま、待ってくださいえーき様!話せば分かります!」

「審判『ラストジャッジメント』」

「イ゙ェアアアア!!!」

◇◇◇

「ん……?」

此処は……私の家じゃないわね。
昨日は確か、お祭りで霖之助と一緒に……

「ッ!?」

そうだ。私花火見てる時に寝ちゃったんだったわ!
じ、じゃあこれは多分、り、霖之助の布団……!?

「………………」

ヤバイヤバイヤバイ!顔絶対真っ赤だわ今!
か、隠さなきゃ……って、何からよ!

「……霖之助の、布団……」

いい……匂い……

◇◇◇

「幽香、起きて……ん?」

「くぅ……くぅ……」

「やれやれ……そんな寝顔を見せられては、寝かせておく他無いな」

幽香の腕の中には、向日葵のぬいぐるみが抱かれていた。






……蛇足だが、幽香は僕が起こすまで眠っていた。
まさか逢魔時まで眠るとは……
目覚めた時に何故か置いていた日傘で何発も殴られた。
本人曰く、『寝顔を見たから』らしいが……何故寝顔を見られただけでああも怒ったのだろうか?
永遠亭のベッドの上で、そう思った。



どうも、唯です。
空の花シリーズ肆作目は淡色さんのリクエストで幽香霖。
淡色さん、こんなので良かったですか?
今回は乙女なゆうかりんにした……つもり。なんかもう原作からかけ離れてますね……そんな常識には囚われたほうがいいんですか?
甘い物に目がないゆうかりんは可愛いと思います。でも好きな人と一緒だから気になって食べれないとかだったら全私が悶えます。
何かまだ直す所とかあった様な気もしましたが、私が思い浮かべた乙女ゆうかりんが書けたのでそのまま投稿しました。
そんな自身の欲望を吐き出したgdgd作品でしたが、如何でしたでしょうか。
今回も誤字脱字その他御座いましたらご報告ください。
最後に、ここまで読んで下さり有難う御座いました!

http://yuixyui.blog130.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
最初はおや?と思ったけど後書きでやっぱりwwww
ゆうかりん可愛いよゆうかりん!!!
2.華彩神護.K削除
どんだけ病院送りwww
呪いの館が再びwww
3.すいみんぐ削除
ゆうかりん可愛いぞゆうかりん…!

きっとこの幽香の家にはファンシーな小物が飾られているんだろうなとか思いました。

ちらちらとSの片鱗を閃かせつつ乙女なゆうかりん堪らなかったです。……Sチラ?
次の作品も楽しみにしています。
4.淡色削除
ゆうかりんktkr!
リクの物を書いて頂き、ありがとうございます!
やっぱり乙女幽香さん可愛いよ。霖之助の病院送りももはや鉄板ですね…。
相変わらずの小町姐さんには爆笑させていただきましたw
5.下上右左削除
小町があとがきに移動してる・・・!

ゆうかりんが乙女にしか見えなくなってしまったではないか
6.投げ槍削除
これは良い、これは良いッ
こんな可愛いゆうかりんはGJとしか言いようがない
それから霖之助が段々いい男になってきている、一体どうした
7.名前が無い程度の能力削除
最初から最後までニヤニヤしっぱなしでした、GJ
ところでこの二人はいつ結婚式をあげるんですか
8.高純 透削除
なにこの乙女ゆうかりんの可愛さ。マジで萌死にが出るレベルですよ。
これは作者様が私の命を狙ってるに違いない!!

個人的にはタイトルが『空の花』なので、ゆうかりんはトリかなぁと思ってました。
9.削除
コメ返しでーす。

>>奇声を発する程度の能力 様
このシリーズには欠かせないモノになっちゃいましたからねw小町w
幽香は可愛いです。はい。

>>華彩神護.K 様
貴方は見れたようですねw投稿したけどすぐに消した『こまっちゃん病院送りEND』www

>>すいみんぐ 様
絶対飾ってますねw
Sチラ……初めて聞きましたw
楽しみにしていただけるとは……有難う御座います!

>>淡色 様
まぁ乙女なゆうかりんで一本書きたいなーとは思っていたんでwリンク記念もありますかね?w
鉄板ですかw
ゆうかりんは可愛い。乙女だと尚良しですw

>>下上右左 様
少し趣向を凝らしましたw
私の中でのゆうかりんは乙女なもんでw

>>投げ槍 様
良かったですか、良かったですかッ
うちの霖さんは空気の読めるいい男ですwww

>>7 様
結婚式?2008年春を予定しておりますw

>>高純 透 様
も、萌え死に!?
まだ十八にもなってないのに前科は欲しくないですww
実を言うと、トリはもう決まってたりします。

読んでくれた全ての方に感謝!
10.けやっきー削除
>ぎゅう。
幽香の腕に力が込められた。

ここに、何かもういろいろ悶えましたw
あぁ、いいなあ。
11.削除
>>けやっきー 様
寝てるから無意識なんですよ。だがそれがいいと思います。
悶えましたかw

読んでくれた全ての方に感謝!