朝。
部屋に入ってくる日差しと共に起床する。
結局、聖がどんなところに連れて行くと喜ぶのか分からなかった。
こうして考えてみると、私は聖のことをよく知らないんだなぁ、と痛感する。
何せ、ご主人様に付きっきりだったからな、長年。
私はうんっと背伸びをすると、身支度をすませる。
まぁ、今更あれこれ模索しても仕方あるまい。
今回は、私の買い物という名目で連れ出すのである。
あとは、今日の人里の様子に期待しよう。
さて、出発だ。
聖との初めての買い物だな。
「あ、ナズちゃん。おはようございます。」
私が門の前に行くと、すでに聖がいた。
「やぁ、おはよう。もしかして待たせてしまったかな?」
やれやれ、私が誘ったというのに待たせてしまったのでは面目がたたない。
「ふふっ。大丈夫ですよ。私も今さっき来たところですから。」
そういって、いつものように柔らかい口調で話しかけてくる。
だが。
何か、楽しそうな雰囲気も出している。
やはり誘ったのは正解だったかな。
で、聖の格好なのだが・・・。
うん、普段と変わらない服装だ。
そして、私もだ。
・・・。
うーん、女性として(私は妖怪だからあまり気にしないが)少しはファッションに興味を持つべきなのだろうか?
まぁ、幻想郷の主だった面子は、いつも同じ格好をしているわけだが。
後で服屋にでも行ってみるか?
「さて、とりあえず回るのは人里内だ。もし何か気を引くものがあったら言ってくれ。」
「わかったわ。じゃあ、行きましょう。」
そう言って、私たちは歩き始める。
良い天気だ。
今日が聖にとって楽しい1日になるといいんだが。
で、歩き始めて30分くらいは経ったか。
とりとめのない話をしながら人里を歩く。
こうやって、聖と話す機会なんて今まであまりなかったな・・・。
・・・いやいや。
問題はそこじゃない。
私が買い物とか適当に言って連れ出したのも悪かったのかもしれないが。
ここまでに、聖が何かに興味を持った形跡が見当たらない。
これでは、ただの散歩である。
いかん、これはいかんぞナズーリン。
ともかく、昼御飯にも早いし、どっか店に入ってみるか。
さて、どこに入るか・・・?
と、そこで目に留まったのは書店。
よし、普段から書物に目を通している聖なら、本にも興味を持つはず。
手始めに、書店にでも入ってみるか。
「なぁ、聖。ちょっと本屋で新刊とかもチェックしたいのだが。寄ってみていいかい?」
「本屋ですか・・・。えぇ、いいですよ。」
・・・うん、興味はあるみたいだ。
さて、人里の本屋はかなりデカイ。
3階建てになっており、様々な書物が置いてある。
最近では、外の世界の本も取り扱っており、マンガや小説なんかもある。
特にマンガは人気だ。
はっきし言って、絵とかが付いていないと、とてもじゃないが外の世界の情景なんて想像がつかない。
私はマンガも読むが、今回はファッション雑誌を手にとってみた。
私なんかはともかく、聖なんかは着飾ったら中々様になるんじゃないかと思う。
さて、何か聖に似合いそうなものはないかと見ていると。
「ナズちゃんナズちゃん。」
聖が一冊の本を持ってきた。
「ん?聖、何か興味のある本でも見つけたのかi・・・!?」
聖が持っている本を見て、私は驚愕する。
「ナズちゃん、なんでこの人たち、男同士で抱き合ってi「ナズーリンロッドォォォオ!!」」
私は聖の持っていた『すごく、大きいd(ry』なコミックを斬殺した。
「ど、どうしたのナズちゃn「さぁ、聖。こういった店は初めてだろう?私と一緒に見てまわろう。」」
みなまで言わせず、聖の手を引く。
さて、とりあえず聖に変な知識を与えないようなコーナーを探す。
ふむ、聖はまだ幻想郷についてあまり知るまい。
稗田阿求が書いたという、『これであなたも幻想博士!幻想郷探索記(聞いたところによると)』とかいいんじゃないかな?
なんか少し信憑性に欠けるタイトルだが、これなら聖も安心して読めるはz・・・?
「ん?聖?」
さっきから、何も話しかけてこないことを不思議に思い、聖のほうに振り向く。
・・・おや?
なにか、少しボーっとした感じで焦点が定まってない聖。
「ど、どうした聖?」
私が心配そうに尋ねる。
もしかして、私がいきなり興味を持った本を切り裂いたのに不安を感じたか?
すまん、聖。
アレは、君が読むような内容じゃないと思うんだよ。
私も、手にとって内容を見たときは、なんか、イヤだったし。
「おーい、聖。大丈夫かi「え?えぇ、なんでもないですよナズちゃん。」」
そう突然意識を取り戻したかのように話しかける聖。
「・・・あぁ、大丈夫ならいいんだが。しんどくなったら言ってくれ。何処かで一休みしてもいいし。」
「大丈夫ですよ、ナズちゃん。さぁ、次は何処に行くんですか?」
・・・どうやら元気そうだな。
よし、本屋はこれくらいにして次に行くか。
私たちは本屋を後に、再び人里を散策する。
それから、ちょこちょこ店を覗いていたりして、昼御飯にした。
休憩がてらの軽い食事のほうがいいだろうと、喫茶店のような店を選んだ。
私は、注文したサンドウィッチとコーヒーを口に含みながら聖の様子を見る。
聖は何を注文したらいいか分からないような感じだったので、パスタをお勧めしてみた。
この類の料理は幻想郷では大変珍しい。
せっかくの外出の機会だろうと、普段聖が口にしないような物を選んだんだが・・・。
「ん?どうしたんだい、聖?」
聖がパスタを凝視したまま、微動だにしない。
というか、何か戸惑っているような・・・、あ。
「すまない聖。もしかして食べ方が分からないのかい?」
そう尋ねると、ほんのり顔を赤らめて。
「ご、ごめんなさいねナズちゃん。このスプーンっていうのは、よくムラサちゃんがカレーのときに出してくるから分かるんだけど・・・。えっと、この右側にあるのは何かしら・・・?」
しまった、聖がフォークの使い方、というか、パスタの食べ方を知らないことを失念してた。
「あぁ、これはね、こういう風に食べるんだよ。」
私は、テーブルに前のめりになるように体を乗り出し、フォークにパスタを絡ませて、スプーンの上に乗せる。
「こうやってね、スプーンの上でくるくる回して・・・。」
そう説明しながら、聖に顔を伺う。
・・・ん、反応は上々みたいだ。
まるで子供のように、好奇心いっぱいな目でそれを見つめる聖。
よし、あとはパスタが聖の口に合うかどうかだけ。
「こうやって、フォークに巻きつけて食べるんだ。さぁ、ちょっと口を開けてみてくれないか?」
「あ、は、はい。」
そういって、控えめに口を開く聖。
そこに、フォークに巻きつけたパスタを差し出し、食べさせる。
「こうやって食べるんだ。すまない、先に説明するのを忘れていたよ。いやいや、私も意外と気がまわらないものだ。普段、ご主人様のサポートをやっている身としては、大変失礼だったな。で、どうだい聖?味の方は・・・?」
そういって、聖の方を伺うと。
なにやら、顔を俯かせてもぐもぐ口を動かしている。
ん?
もしかして、口に合わなかったか?
いや、すぐに飲み込まず、よく噛んで食べているということは決して味がどうとかではないと思うn・・・!!
し、しまった!?
「す、すまない聖。こんな公衆の場で。」
彼女が俯くのも当然だ。
今のでは、まるで母親が子供にご飯を食べさせているみたいじゃないか。
しかも、私のほうが小柄で、どちらかというと子供みたいな体型をしているのだ。
これじゃ、立場が逆ではないか。
そんな真似を、こんなところでされたら恥ずかしいに決まっている。
「いや、悪かったよ聖。本当に気が回らなくなっているみたいだ。気を悪くしたなら謝るよ。」
私が申し訳なさそうに謝罪すると、ごくんと口に含んでいたパスタを飲み込み、聖が顔を上げる。
「ふふっ、ごめんなさいナズちゃん。確かに少し恥ずかしかったけど、別に気を悪くしてなんかいないわ。私のためにメニューを選んでくれて、食べ方を教えてくれただけだもの。ありがとうね、これ、すっごく美味しいわ。」
そういって、嬉しそうに微笑んでくれる聖。
「あ、あぁ。聖が喜んでくれたのなら構わないよ。今度からは気をつける。」
そういって、サンドウィッチを頬張り、コーヒーを流し込む。
しまったなぁ・・・。
普段、あんだけ手のかかるご主人様のサポートをしているというのに、こんなことにさえ気が回らなかったなんて。
やはり、もうちょっと聖や他のメンバーとも行動を共にする機会を増やしたほうがよさそうだ。
私、なんか完全にご主人様専用みたいな感じになってしまってるんじゃないか?
そんな風に悩んでいると。
「ほら、ナズちゃん。あーん。」
そういって、私が教えて通りに綺麗にフォークに巻きつけたパスタを差し出してくる聖。
「い、いや、あーんって。私は別に聖のを欲しがっているわけじゃ・・・。」
「ふふっ、いいじゃないですか。ほら、これ美味しいですよ。」
そういって、にこやかに突き出してくる。
「・・・もしかして、さっきの意趣返しってやつかい?」
「あら、そう受け止めてもいいんですよ?ただ、私はナズちゃんに食べさせてあげたいだけ。さ、ほら。」
・・・。
まぁ、いいか。
少し恥ずかしいが、さっき聖に同じ恥ずかしさを味合わせてしまったのだ。
これくらい構うまい。
「じ、じゃあ、一口・・・。」
そういって、おずおずと口を開ける。
そこに、聖が差し出したフォークが入る。
それを、よく噛み締め、味わう。
「どう、美味しいでしょ?」
「あぁ、とても美味しいよ。」
そういって微笑む。
聖も、ふふふって笑い、再びパスタを食べ始める。
偶にはこんなのもいいか。
寺の皆の前じゃ、とてもじゃないが恥ずかしくてできない。
これも、貴重な体験だということで。
さて、昼食も終わり、店の外に出る。
「とても美味しかったわ、ナズちゃん。ありがとうね。」
「はは、私が作ったんじゃないんだ。お礼ならシェフにでも言ってくれ。」
さて、次は何処に行くかなぁ。
と、考えたところで、私が聖の興味を引くようなものなんて一晩考えて分からなかったんだ。
とりあえず、難しいことは考えずに、行き当たりばったりでいくか。
横目で聖を見る。
微笑ましそうに私を見ている聖と目線が合う。
とっさに視線をそらす。
・・・。
そういや、ご主人様と一輪が勘違いしていたよな。
『デート』だって。
私は、そんなものをやったことないので分からないが・・・。
はてさて、これはデートに分類されるのかな?
いや。
それには該当しまい。
私は聖を慕っている。
でも、それは恋愛感情ではないと思う。
そもそも、私にはそんな感情を抱いたことは無い。
ただの監視ネズミだ。
そんな感情を抱く資格すらない。
・・・。
・・。
いや、そんなネガティブ思考なんていらない。
恋愛感情でないにしても、ご主人様は私の大切な人だと思っている。
そして、今では寺のみんなもそうだ。
そう。
それでいい。
皆が私をどう思ってるかは知らないが、私が疎遠な気持ちでいては、何も始まらない。
今、聖は少なからず楽しんでいるはずだ。
決して、私に悪い感情を抱いてはいないはずだ。
さぁ、何時までもネガティブに悩むなナズーリン。
そんなことでは、聖を楽しますことなんてできないぞ?
そう自分に言い聞かせ。
「さぁ、行こう聖。」
「えぇ、行きましょうナズちゃん。」
再び人里へと繰り出す。
さて、何か聖が楽しむようなことは無いかな?
うほっ
続きが楽しみ!頑張って思い出してくださいww
>>奇声を(ry様
張飛とな
それ、探索記…?ww
いやぁ、面白かったです!