「んぁ~」
間の抜けた声が神社の座敷から聞こえてくる。
じりじりと焦がすように暑い熱線を放つ太陽は、容赦なく神社を照らした。
座敷の部屋にまで太陽の光が浸食してくるのが横目で確認できる。
そこまでして私の体力を蝕みたいのかと私は心の中で嘆いた。
座敷に力なくごろんと寝転がっている。
頭の角のせいもあり、寝返りを打つ事も出来ず、ただ天井を見ているだけだった。
ツクツクボーシ、ツクツクボーシ……
この時期はツクツクボウシがうるさい。
四方八方からツクツクボウシの鳴き声が聞こえ、室内にいるんじゃないかと錯覚するくらいうるさかった。
しかし、それも短い命の中で必死にお嫁さんを探す行為だと思うとしかたが無いなぁと思える。
故に、道端でひっくり返っている蝉を見るとなんだか悲しい気持ちになるものだ。
「霊夢あつい~」
でも今の暑さの中で蝉にかまっていられるほどの心の余裕は無い。
汗は噴水のように至るところから噴き出し、畳にうっすらと染みを作っているほどだった。
隣に転がる瓢箪は、いつもの霊夢なら冷やしてくれるのだ。
だけど今日は、冷やしてくれず、私と同じように隣で転がっている。
当然の事ながらぬるいお酒しか出てこないわけで、そんなお酒を真昼間に飲みたいとは思わない。
「私は暑くないわよ~」
向こう側から霊夢の返事が返ってきた。
そんなことくらい分かってる。
だってさっきから一人でかき氷食べてたり、冷たいお茶飲んでたりするんだもん。
もちろん私にくれるはずがない。
今日の霊夢はあまり機嫌がよろしくないから。
「ね~、お酒冷やしてよ、おさけ~」
「あんたいつも無断で桶に氷いっぱい入れて冷やしてるせいで氷無くなっちゃうのよ。今日は駄目」
「ケチ」
「あ~、かき氷は冷たくて美味しいわねぇ」
そういって霊夢は向こうの部屋から私を覗きこむ。
霊夢の手にはかき氷の入った器があった。
かき氷の入った器も、私と同様に汗を流れている。
しかし、私の流している汗とは違い、冷たい汗だった。
ピンク色の氷は、私の鼻へほのかに甘美な香りを届ける。
スプーンで掬い、それをゆっくりと温かな口の中へと放りこむ。
シャリっという心地よい音がここまで聞こえてくるのだ。
そして満面の笑み。
それに加えて、見下すようなとどめのドヤ顔である。
「うがぁ~!!」
足を振り、振り子のようにして起きあがる。
そして霊夢のもとまで駆け寄ると、肩をがっしりと掴んだ。
「ちょ、なにすんのよ!」
「一人だけ涼しむなんてずるい!」
「あんたいつも氷独り占めしてたじゃない。しかも私の」
確かに霊夢の言っていることは正論だ。
瓢箪を冷やしてくれるなどというのは嘘で、本当は勝手に私が氷を持ち出しているだけなのだ。
だから正直言って反撃するにもできず、唸ることしかできない。
でも、ここで指をくわえて黙っているようじゃ鬼として情けない。
「私の事を都合の良いように使うくせに!」
「でもその分ちゃんとご褒美あげてるじゃない。お酒だったり料理だったり」
「くっ。 じゃ、じゃあ、私の開催した宴に参加してるんだから、氷くらいいいでしょ!」
「別にあんたが開催しなくてもいいのよ? それに、勝手に博麗神社で宴開いてるのはあなただし、参加するくらいの権利はあるわよね」
「うぐぅ……」
私の言葉はことごとく跳ね返された。
霊夢の言っている事は正確であり、何も言い返せない。
なんでこう優しくオブラートに包むこともせず、ストレートでくるのだろうか。
そんな言い方されたら何もできなくなってしまう。
「霊夢~」
こうなったら必殺技を使うしかない。
目を潤わせ、じっと上目遣いで霊夢を見つめる。
こんな可愛らしい姿を見たらどんな人間でも一発で――
「あんたが可愛い子ぶったって私は何も思わないわよ?」
「なっ!? そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないか!」
あっさりと私の必殺技がかわされ、カウンターまでもらってしまった。
いくら鬼の私だってそこまで言われたら悲しいものである。
何年生きようとも、こういうのには慣れないのだ。
「そんな言い方しなくても……えぅ~」
「あぁ、もう。仕方ないわねぇ」
ふと前を見ると、霊夢がかき氷をスプーンに乗せて、私の方に差し出している。
ピンク色に染まったかき氷が、私の口のまん前までやってきた。
なんだかんだ言って霊夢はやっぱり優しい。
だけど、一つだけ言いたい事があった。
「ねぇ霊夢」
「なによ。早く食べなさいよ」
「私レモン味がいい」
その瞬間スプーンはUターンし、霊夢のところへと帰って行ってしまった。
「えっと、その~……霊夢ごめん。冗談だから頂戴?」
「駄目。やっぱり今日は許しません」
「うわぁああああん!」
今度からはちゃんと霊夢に許可を取って氷を貰おう。
冗談で霊夢をからかうのは良くない。
この日をもって、改めて実感した。
間の抜けた声が神社の座敷から聞こえてくる。
じりじりと焦がすように暑い熱線を放つ太陽は、容赦なく神社を照らした。
座敷の部屋にまで太陽の光が浸食してくるのが横目で確認できる。
そこまでして私の体力を蝕みたいのかと私は心の中で嘆いた。
座敷に力なくごろんと寝転がっている。
頭の角のせいもあり、寝返りを打つ事も出来ず、ただ天井を見ているだけだった。
ツクツクボーシ、ツクツクボーシ……
この時期はツクツクボウシがうるさい。
四方八方からツクツクボウシの鳴き声が聞こえ、室内にいるんじゃないかと錯覚するくらいうるさかった。
しかし、それも短い命の中で必死にお嫁さんを探す行為だと思うとしかたが無いなぁと思える。
故に、道端でひっくり返っている蝉を見るとなんだか悲しい気持ちになるものだ。
「霊夢あつい~」
でも今の暑さの中で蝉にかまっていられるほどの心の余裕は無い。
汗は噴水のように至るところから噴き出し、畳にうっすらと染みを作っているほどだった。
隣に転がる瓢箪は、いつもの霊夢なら冷やしてくれるのだ。
だけど今日は、冷やしてくれず、私と同じように隣で転がっている。
当然の事ながらぬるいお酒しか出てこないわけで、そんなお酒を真昼間に飲みたいとは思わない。
「私は暑くないわよ~」
向こう側から霊夢の返事が返ってきた。
そんなことくらい分かってる。
だってさっきから一人でかき氷食べてたり、冷たいお茶飲んでたりするんだもん。
もちろん私にくれるはずがない。
今日の霊夢はあまり機嫌がよろしくないから。
「ね~、お酒冷やしてよ、おさけ~」
「あんたいつも無断で桶に氷いっぱい入れて冷やしてるせいで氷無くなっちゃうのよ。今日は駄目」
「ケチ」
「あ~、かき氷は冷たくて美味しいわねぇ」
そういって霊夢は向こうの部屋から私を覗きこむ。
霊夢の手にはかき氷の入った器があった。
かき氷の入った器も、私と同様に汗を流れている。
しかし、私の流している汗とは違い、冷たい汗だった。
ピンク色の氷は、私の鼻へほのかに甘美な香りを届ける。
スプーンで掬い、それをゆっくりと温かな口の中へと放りこむ。
シャリっという心地よい音がここまで聞こえてくるのだ。
そして満面の笑み。
それに加えて、見下すようなとどめのドヤ顔である。
「うがぁ~!!」
足を振り、振り子のようにして起きあがる。
そして霊夢のもとまで駆け寄ると、肩をがっしりと掴んだ。
「ちょ、なにすんのよ!」
「一人だけ涼しむなんてずるい!」
「あんたいつも氷独り占めしてたじゃない。しかも私の」
確かに霊夢の言っていることは正論だ。
瓢箪を冷やしてくれるなどというのは嘘で、本当は勝手に私が氷を持ち出しているだけなのだ。
だから正直言って反撃するにもできず、唸ることしかできない。
でも、ここで指をくわえて黙っているようじゃ鬼として情けない。
「私の事を都合の良いように使うくせに!」
「でもその分ちゃんとご褒美あげてるじゃない。お酒だったり料理だったり」
「くっ。 じゃ、じゃあ、私の開催した宴に参加してるんだから、氷くらいいいでしょ!」
「別にあんたが開催しなくてもいいのよ? それに、勝手に博麗神社で宴開いてるのはあなただし、参加するくらいの権利はあるわよね」
「うぐぅ……」
私の言葉はことごとく跳ね返された。
霊夢の言っている事は正確であり、何も言い返せない。
なんでこう優しくオブラートに包むこともせず、ストレートでくるのだろうか。
そんな言い方されたら何もできなくなってしまう。
「霊夢~」
こうなったら必殺技を使うしかない。
目を潤わせ、じっと上目遣いで霊夢を見つめる。
こんな可愛らしい姿を見たらどんな人間でも一発で――
「あんたが可愛い子ぶったって私は何も思わないわよ?」
「なっ!? そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないか!」
あっさりと私の必殺技がかわされ、カウンターまでもらってしまった。
いくら鬼の私だってそこまで言われたら悲しいものである。
何年生きようとも、こういうのには慣れないのだ。
「そんな言い方しなくても……えぅ~」
「あぁ、もう。仕方ないわねぇ」
ふと前を見ると、霊夢がかき氷をスプーンに乗せて、私の方に差し出している。
ピンク色に染まったかき氷が、私の口のまん前までやってきた。
なんだかんだ言って霊夢はやっぱり優しい。
だけど、一つだけ言いたい事があった。
「ねぇ霊夢」
「なによ。早く食べなさいよ」
「私レモン味がいい」
その瞬間スプーンはUターンし、霊夢のところへと帰って行ってしまった。
「えっと、その~……霊夢ごめん。冗談だから頂戴?」
「駄目。やっぱり今日は許しません」
「うわぁああああん!」
今度からはちゃんと霊夢に許可を取って氷を貰おう。
冗談で霊夢をからかうのは良くない。
この日をもって、改めて実感した。
日常感溢れるお話。癒しです。
そういえば最近、かき氷食べてないなぁ…
肩をがっしり掴んで「一人だけ涼しむなんてずるい!」で口の中の氷を……って思った私はちょっと暑さで頭がやられてたようです。