おことわり
見方によっては少し病んでいるかもしれません。
永琳がすこし黒い方向へ壊れていても大丈夫ですか?
八意、××。
貴女が呼んでくれないというのなら。
こんな名前など、必要はありません。
貴女が向ける視線の先。
路傍の草花。囀る小鳥。
柔らかい布団。美しい織物。
天蓋の夜空。無風の砂漠。
甘い果物。何千年物の美酒。
貴女が目を向けるのは何時だって他愛ない、何でもない事象。
私の講義の時でも上の空。
頭の中を解剖いた(ひらいた)らきっと、他愛ないのないどうだって良いものがざ
らざらとこぼれ落ちるのでしょう。
わたしは、私は。……八意××は。
そんなどうだっていい一つの事象でありたくは、ないのです。
路傍の草花など踏み潰してしまえば。
小鳥など握り潰してしまったら。
布団も織物も切り裂いてしまえば。
夜空や砂漠も隠してしまえば。
果物など腐らせてしまえば。
酒なんて、器を割ってしまえば。
全部全部、何もかも全て壊してしまえば。
もう貴女の目に映ることなどできないでしょう。
貴女と私、文字通り二人きりの世界というのはさぞかし素敵なことなのだろう。
貴女の紅い瞳は私だけを映し、勿論私の目は貴女しか映さない。
なんて甘やかで、素晴らしい、世界なんだろう。
そして、
望み通りとはすなわち、夢想である。
露が朝日に蒸発させられてしまうのと同じ。
望みとはそうして消えてしまう物なのだ。
現に今貴女はいない。
私がいなくなるのを手伝ったといっても、構わない。
一時の誘惑に、負けてしまった。
いくら清らな月人とはいえ、欲は、ある。
禁じられている。タブーである。
そう言われているものであればあるほど確かめたく、触れたくなってしまう。
そして私は、禁を、犯した。
そのことは結局、明るみに、出た。
罰はなかった。
代わりに、すべてを、奪われた。
貴女を、奪われた。
私の名前は八意××。
でも名前なんて、要らない。
貴女が私を呼んでくれないなら、名前なんて、いらない。
貴女によって私は事象から人に引き上げられ、貴女が消えれば私はまた事象に成
り下がる。
だから。
貴女が呼んでくれないこんな名前など、
貴女が必要としない名前など、
要らない。
気づくと私は貴女と二人、穢土に立っていた。
赤い何かに濡れた私の手が貴女の肩を掴む。
私はささやいた。
逃げましょう、と。
どこまでも逃げて、逃げて。
そうして本当に夢想を本当に出来たらいい。
ぱちゃり、足音で血を跳ね返しながら私は思った。
見方によっては少し病んでいるかもしれません。
永琳がすこし黒い方向へ壊れていても大丈夫ですか?
八意、××。
貴女が呼んでくれないというのなら。
こんな名前など、必要はありません。
貴女が向ける視線の先。
路傍の草花。囀る小鳥。
柔らかい布団。美しい織物。
天蓋の夜空。無風の砂漠。
甘い果物。何千年物の美酒。
貴女が目を向けるのは何時だって他愛ない、何でもない事象。
私の講義の時でも上の空。
頭の中を解剖いた(ひらいた)らきっと、他愛ないのないどうだって良いものがざ
らざらとこぼれ落ちるのでしょう。
わたしは、私は。……八意××は。
そんなどうだっていい一つの事象でありたくは、ないのです。
路傍の草花など踏み潰してしまえば。
小鳥など握り潰してしまったら。
布団も織物も切り裂いてしまえば。
夜空や砂漠も隠してしまえば。
果物など腐らせてしまえば。
酒なんて、器を割ってしまえば。
全部全部、何もかも全て壊してしまえば。
もう貴女の目に映ることなどできないでしょう。
貴女と私、文字通り二人きりの世界というのはさぞかし素敵なことなのだろう。
貴女の紅い瞳は私だけを映し、勿論私の目は貴女しか映さない。
なんて甘やかで、素晴らしい、世界なんだろう。
そして、
望み通りとはすなわち、夢想である。
露が朝日に蒸発させられてしまうのと同じ。
望みとはそうして消えてしまう物なのだ。
現に今貴女はいない。
私がいなくなるのを手伝ったといっても、構わない。
一時の誘惑に、負けてしまった。
いくら清らな月人とはいえ、欲は、ある。
禁じられている。タブーである。
そう言われているものであればあるほど確かめたく、触れたくなってしまう。
そして私は、禁を、犯した。
そのことは結局、明るみに、出た。
罰はなかった。
代わりに、すべてを、奪われた。
貴女を、奪われた。
私の名前は八意××。
でも名前なんて、要らない。
貴女が私を呼んでくれないなら、名前なんて、いらない。
貴女によって私は事象から人に引き上げられ、貴女が消えれば私はまた事象に成
り下がる。
だから。
貴女が呼んでくれないこんな名前など、
貴女が必要としない名前など、
要らない。
気づくと私は貴女と二人、穢土に立っていた。
赤い何かに濡れた私の手が貴女の肩を掴む。
私はささやいた。
逃げましょう、と。
どこまでも逃げて、逃げて。
そうして本当に夢想を本当に出来たらいい。
ぱちゃり、足音で血を跳ね返しながら私は思った。
感想ありがとうございました。
黒い女性は大好きです
よかった、賛同してくださる方がいて。
感想ありがとうございました!