ありがとう、あいしてる

あいつのこと？ああ、いいよ。話す。
出来たら感情だって？んー、難しいなあ。
あ、そうだ。

泣いたような濡れた声で、さ。
綺麗に。静かに。笑うんだ。
あいつってカタブツに見えてね、案外凄く表情豊かなんだよね。特に笑顔のレパ
ートリー。すごいよ。
満面の笑みなんかは滅多に見せないけどね、はにかんだりとか、照れ笑いしたり
とか。
私、あいつを少し困らせた時に見せるあのなんて言うんだろうなあ、仕方ないな
あって笑みがすっごい好きでさ、何だかんだでいっぱい迷惑、かけたなあ。


なああんた、何してるんだい？
それは…キャンパス？

……まあ、続けてもいいよね？
よし、続けるよ。


そういやあいつ職業上歌とかうたうのにさ、へたっぴだったなあ。いつもはりん
って、響く綺麗な声してんのに、うたうとなると、途端に情けない声になってさ
。分かってるのかな、からかわれるとムキになって、顔真っ赤にしてたなあ。
んでそのあと私に言うんだ。なあ、どうしたら歌って上手くなれるのかって。
その時の恥ずかしそうに目を逸らした表情、困って戸惑って上擦った声。結構い
つもとの差があってさ。何て言うの？可愛いって、そんな感じ。


なあそれさ、何描いてるんだ。
……秘密？んじゃ後で出来上がったら見せてくれよ。


そうだ。あいつね、あれでよく泣くんだ。駄々っ子みたいにわんわん泣くんじゃ
ない。声を噛み殺して、堪えるみたいに服をぎゅって握り締めて静かに泣くの。
ああ、あの肝試しがどうのって日にもあいつ泣いてた。私を護れなくて、ごめん
…ってさ。あの時のあいつの顔忘れられないなあ。


何でかって？わかんないな…泣いていたのに綺麗だなあって、慰める前に思った
の。

あとはすっごい正義感強かったからさ、里を荒らそうと企むやつにすっごい勢い
で立ち向かって、さ。何かもう、すごく……。かっこよかった、なあ。怒ってる
のに…



ん？ああ何でもない。
気にしないで。次、つぎ……

あれ？出来た、の？見せて…
………これ、あいつそっくりじゃないか。
私あいつの特徴なんか言ってないのに。……凄いよ、あんた。
なあ、迷惑じゃなきゃこの絵、貰ってもいいかい？

はは、すまないね……思い出しちゃって、さあ。


赤も青も、黒も白も…人のそういう感情とか思いとか私に、教えてくれたのはあ
いつなんだ、よぉ…ッ
まだ、たくさッん、おしえ、て…ほし、…ッたの、にさあ…
……いま、わたっ、なんで、泣いてん…の？
わかんない、わかんな…

教えて、よ…けーね、けいね、

慧音……！



□ □ □



あの絵かきから貰った絵を抱いて、私はこれでもかって言うくらいに、ないた。
泣いて、鳴いて、哭いて。
涙の源が涸れるくらいに、ないた。

涙は涸れたけど絵を見ると慧音を思い出して、また悲しくて、哀しくて。
胸の奥の深いところが、きゅんって跳ねて。締め付けられるみたいに苦しくて。
他にも沢山の別れって体験したけど、こんなにも苦しくなかった。

じゃあ、慧音だけ？
なんで、どうして慧音だけなんだろう？

それでやっと気づいた。
私は慧音を、


□ □ □


わかった時には遅かった。

慧音がいなくなったのを認める事が悲しくて、つらくて、………怖くて。
葬儀にも出なかった。出られなかった。
あんな冷たい土の下で慧音が眠っているなんて、思いたくなかった。

でも、慧音の墓の前にいた。
やっと来れたなんて、そう忙しくもない身で言えないけど。そうだ、お墓参りじ
ゃあない。友達に会いに行って、何がおかしいのか。おかしくはない、よね。

やっと一つわかったんだ…って伝えに行きたかったんだ。

肺腑の奥まで息を吸い込んだ。
一瞬風が無くなった。今しか言える時はないって理解して。
私はそして、はきだした。

全部全部、二つの言葉にのせて。

気づくのが遅くったって関係はない。
あらわすのが大事なんだ。どんなことでも。




おはようございますこんにちはこんばんは。すいみんぐです。三度目まして。

今回は妹紅(と慧音)です。
とある曲をイメージしつつ、独白風味に書いてみました。
蓬莱人というのは、誰よりも別れと向き合う数が多い分だけなおさら大切なひととの別れってもっとかなしいのかな、と。

結局曲のかたちはなくなってしまいましたが、何かが残る話になっていたら幸い
です。

ではここまで読んでいただきありがとうございました！
そろそろ最初に上げた話みたいなノリのものを書きたいものです。
感想批評指摘など、お待ちしております。