Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

いきぬきしなさい

2010/08/17 21:53:31
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 見せたいものがある、と。
執務を終えた後に連れられるままやってきたのは、部下の部屋でした。



 小町の部屋は私のそれと違い、人の匂いが残る生活感に溢れた部屋で、よくよく考えたら小町とは仕事で付き合いがあるにも関わらず、彼女の部屋に、生活に立ち入るのは初めてだった。
居間と思しき部屋に通されてすぐ、茶を出され座布団に座って待つよう告げられ
た。その見せたいものとやらを持ってくるのだろうか、ぱたぱたと足音を立てて
小町は引っ込む。ほどなくして小町は戻って来た。片手には小さく透明なケース
に入った何か札の束を持っている。
小町の手の中で部屋の明かりを反射して光るその四角形に、私の視線は吸い寄せ
られた。




 教えられた名称は、私の聞き慣れないものだった。
「とらんぷ?」
「ハイ、先日無縁塚で香霖堂の店主と鉢合わせした時に貰ったんです」
……サボタージュを公言している件については後で言及するのです。私は自分に
よく言い聞かせて、悔悟の棒で暢気に話す部下を叩きたくなる衝動を抑える。
「それでその、"とらんぷ"とは何なのですか」
「なんでも、外の遊び道具だそうで」
遊び道具。怠慢とサボリの代名詞たる彼女にはお似合いといえばそうである。(そうであってはいけないのだけど)
だが、私は違う。楽園の裁判長たる身、そう簡単に自身が遊戯に興じ仕事からド
ロップアウトしてなるものですか。

はぁ。
ため息ひとつ、私は呆れ返って立ち上がる。何が見せたいのかと思ったらこんな
、遊戯の道具。

「くだらない」
一瞥をくれて私は部屋をあとにしようとした。





 きっと今頃なら私はとっくに自室に帰って、明日の準備をせっせとしているんだろう。などありえないことを脳の上澄みで考えている。
だが実際は。
小町の手によって肩を壁に押し付けられ、目の前には険しい顔をした彼女がいて。
そんな顔のまま彼女は口を開く。ああ珍しいな、彼女の眉が釣り上がるのを見る
だなんて、とか、いつもこんな気迫で霊魂を彼岸に運んでくれたらいいのにとか、思う。
「映姫様って、自分の中で白黒つけるだけつけといて、あたいの言いたい本質を
全く見ないんですね」
そうです、そうです。裁判に私情は無用。ましてや罪状以外のの霊魂の情報など
、必要でなどありはしない。霊の本質は結局のところ人格とか人徳とか、罪とは
縁遠いものなのに。
いつも霊魂の相手ばかりしているものだから、いつしか生身の相手などしなくなって。
じゃあ今更生身を裁けなど、誰が私に望むのか。否、望まないだろう。
だからというか、何と言うか。閻魔であるがゆえに、私は霊を裁く。与えられた
仕事は、あくまでもきっちりこなす。それが白、正しいのであって、働かないの
は、黒である。間違っている、のだ。


 頭の中でぐるぐると思考を重ねているうちに、小町は透明なケースを開け、私の頭からばらばらと、中に入った札を掛けた。
頭に、鼻の頭に、肩に。かすかにとがった硬い紙の感触を感じる。正直、少しだけ、痛い。
何をするのですか。声を荒げるだけ無駄だと悟った私は、静かに。しかし視線は
睨むように小町を見上げた。(本当は上司なのに見上げるだなんて、形無しだと思うけれど)
「これ、映姫様みたいだなって」
小町は二枚のカードを拾い上げて、私に見せた。こんな紙切れが私?馬鹿は休み
休み言いなさい。
訝しむ私に、小町は続ける。
「スペードとクラブは白と黒。ゲームってのは勝敗を決めるんです、白と黒。映
姫様も同じ」
「裁判で白黒つける、から」
「そうですけど、違う。……あたいが言いたいのは」
一拍。
「何で、あたいにまで白黒つけるんですか。あたいは映姫様じゃない。白黒だけ
じゃない、灰色も持ってる」
また小町は屈む。拾い上げたのは、赤と白。心臓の形と菱形の印字されたカード

「あの巫女じゃないが赤だって、青だって何色だって持ってんですよ。ひどい言
い方しましたけど、それは映姫様だって同じなのに。なんで、……何で、」

白と黒だけじゃなきゃいけないんですか。


 無言のまま小町の手が、私の髪を一房掬う。じゃれつく猫を構うかのような柔らかい手つきで、髪を梳く。
「あたいね、疑問だったんですよ」
ぽつり、ぽつり。小町は、呟きを落とす。
「あんなに裁判ではきらきらして、凛として綺麗なのに。どうしてわたくしごと
になると色がないのかって。少し、虚ろなんですよ。帰り道の映姫様の目って」
映しているのに、映していない。
そうとでも言いたいのか。
答えは否である、と。
反論すべく私は顔を上げた。
小町と視線が噛み合う。紅い、彼岸の花の色をした瞳。そこに何かを、真摯な何
かを見たと思った瞬間。

「にゃにふるんれふか」
「やっと見てくれましたね。あたいのこと」
頬を、つままれた。大分、無遠慮に。
「なぁんにも映してないんじゃあ、姫様は籠ン中の綺麗なお飾りの目をはめ込ん
だ鳥に過ぎない。映す姫でも、それは映姫様の名前じゃない。
四季を見て色を映し。四季とともに生きる姫じゃないんですか、四季映姫って名
前は」
「あたいは、映姫様の名前が好きなんですよ。今はでも、名前だけ。虚ろな鏡の
ままの映姫様は、嫌い」
重く突き刺さる、小町の言葉。嫌いだなんて、形を変えて無数のものから言われ
てきただろうに、今更、何故。
私は目を逸らしたかった。でも、逸らせない。
また小町が口を開いた。
「あたいは好きな上司のしたで働きたい。ねえ映姫様、あたいとサボりませんか
なんて無茶は言いません。でもたまには、散歩して四季を目に映すくらい、息抜
きくらいしたって罰は当たらないでしょうよ」

「……ほまひ」
「はい」
「へ、ははひてくらひゃい」
このままでは話せません。目で訴えるとようやく小町は手を離した。
「貴女の言い分はわかりました。それだけですか?」
「それだけって……」
呆気にとられた小町の表情が段々怒りに染め上げられていく。
肩に食い込んだ彼女の手の力は強くて、痛い。私は顔を顰めた。
「つまり息抜きをしろと。そういう事でしょう。貴女の回りくどい表現では理解
に及びにくいです。しかし、まあいいでしょう。行きましょうか。……肩、痛い
んですけど」
釈然としない彼女の手が離れた。
私は彼女と壁のすきまを抜けて玄関へ。
小町も一拍遅れてついて来る。
靴を履いて、外へ。夜の帳は下りて、辺りは闇色。
一歩踏み出して、私は宙に浮かぶ。高度を増して、辺りを見下ろした。




 彼岸には闇に紛れ赤のラインが引かれている。
此岸で言う彼岸の頃も終わるのに彼岸花はまだ盛りなのだろうか。
それ以外は殆ど暗澹と闇に覆われていた。そうして夜とは、こんなにも暗かった
のかと、再実感。
しかし暗闇の中、一角だけぼんやりと紫に光る場所があった。
「小町、行きましょう」
気の赴くまま。そんな言葉を初めて知った。



「ここは……」
「無縁塚。彼岸でのここは、一年中桜が咲いてるんですよ」
桜霞に煙る風景は、やけに幻想的で、私を不思議な心地にさせた。
淡い紫に空気が染まって、桜が風に揺れる度に空気そのものが呼吸しているよう
に見える。自然と嘆息が漏れる。
「綺麗…」
「でしょう?映姫様知らないだろうなって。一緒に来たかったんですよ」
にへら、と童のように笑う小町。
ため息一つ。

 また桜の海を見た。さっきと変わらずに、揺れて、さざめいて。
少しだけ、紫色が輝いて、見えた。







……たまにはこういうのも

悪くない、ですか?

――台詞を盗らないでください。どこぞの魔女とは違うでしょうに。
長くなったんで挨拶省略。こんにちは、すいみんぐです。にどめまして。
投稿はこんばんは、な時間ですけどね。

今までに何本かSS書いてますけど、こんなに長くなったの初めて。
彼岸組も悪くない。寧ろいい。
小町は思ったことをストレートに言う子だと思ってそんな台詞を入れてみました。
某所でよんだ彼岸組に感動した勢いで書いてしまった結果がこれですよ…
トランプの話だけで終わるはずだったのにどうしてこうなった。後悔はないです
けど。
もう少し過程を描けたらよかったなあと、思います。精進するぜ!
ちなみにタグがもどきなのは仕様です。

ここまで読んでくださりありがとうございました!
感想批評指摘、なんでもお待ちしております。
※改行や句読点を修正しました。
すいみんぐ
[email protected]
コメント



1.けやっきー削除
なんか、こう、なんでしょうか。
どう言えば分からないですけど、いい気分になれました。
2.奇声を発する程度の能力削除
とても良かったです
3.名前が無い程度の能力削除
よかったです
4.名前が無い程度の能力削除
良いお話でした。
次の作品も楽しみにしてます。
5.すいみんぐ削除
けやっきーさん>>ありがとう御座います。
こうして感想を下さるだけで嬉しいです。

奇声を発する程度の能力さん、3.のお方、4.のお方>>
まとめてしまいごめんなさい。シンプルでさっぱりとした嬉しいお言葉をありがとう御座います。
一言でもこうして感想を残してくださって、とても嬉しいです。
次も、って投稿した傍からあれですが、気張らず頑張ります。

感想ありがとう御座いました。前よりも少しだけかしこまってみた。