無言の空間。空気にはぴん、と張り詰めた緊張の糸を巡らせ、盤上には策略の意
図を巡らせる。
濃緑の草原で睨み合うのは白と黒の騎士。見えざる手は白を置き、黒を白に寝返
らせる。次いで一拍置くか置かないかの間に今度は黒が白を挟撃する。そして反
転する、モノクローム。
盤上は白黒の戦場である。
戦況は拮抗し、まさしく一触即発。
両軍の軍師は思考する。どこに兵を置けば、どうすれば敵軍を追い詰められるの
か。白が動く。黒が返す手で斬る。
互いに向こうが一寸先も透かして見えない、しかし目を細め軍略を練り、兵を進
める。
そうして、時間が過ぎた。
戦況は白が優勢、陽動が功を奏したらしい。白の軍師は笑みを浮かべる。
黒は劣勢に追い込まれ、じりじりと味方の数を減らされていく。黒の軍師は歯噛
みする。
ついに要の砦を落とされた。黒軍はもはや風前の灯である。
そこへ追い撃ちをかけるように、白軍の苛烈な猛攻が加わって、黒軍の命運は尽
き戦は終わった。
「手加減してくれてもいいのに」
「あら、さっき手加減したら怒ったの、誰です?」
「さっきのは囲碁だもの。これはオセロじゃない」
国籍が違うわ。そういって黒軍の軍師――蓬莱山輝夜は頬を膨らませた。不服を
全面に表さんばかりに手にした扇で相手を指す。
その様子を見て白の軍師――八意永琳は苦笑を漏らす。
「では次の遊戯は何を?」
囲碁に将棋、花札にカルタ。双六やら丁半賭博(賭け金は鈴仙特製おやつ。ちなみ
に大福だった)……エトセトラ。
思い付く遊戯はだいたいやりつくした。それで最後に残ったとも言えるオセロに
興じ、それも今終わった。
永琳は盤上に残る戦の跡に手を伸ばす。
その手を、輝夜の手が制止する。
「……何か?」
「んーん?軍師殿、貴女は一つ、見落としておられますなぁ」
扇を開き口許を隠して上品に、しかし企みを含んで輝夜は笑う。
戯曲めいて、まるで台本にない台詞のような彼女の言葉に永琳はついていけずぱ
ちくりと瞬きを繰り返す。
「はぁ…?」
そう、オセロは終わった。永琳の勝ちで。
終わったはずだった。
しかし輝夜は笑う。勝者であるかのように。
彼女の持つ扇は閉じられ、ある一角を指し示していた。
そして輝夜はその地点に兵を投じた。
すると掌を返すように白は黒に変わっていった。白で埋め尽くされていた地平は
いつの間にか黒に塗り潰されている。
「……やられた」
「ふふん、どんなものよ」
得意げに言って、輝夜は畳に仰向けに寝転がる。
「やーっと、永琳からやられたって聞けた!」
満足げにく、輝夜は笑う。ざらざらと駒が永琳の手でケースへ戻され、盤はよけ
られた。
「…………あっ」
一瞬、悪戯ぽい光が輝夜の瞳に宿る。
がばっと身を起こす。目に小悪魔めいた光を宿したまま。
「永琳」
「はい」
「約束、覚えているわよね」
有無を言わさない空気を纏い輝夜は詰め寄った。
対する永琳はどこ吹く風。
「耄碌してきたので定かではありません」
「そんな言い訳通じると思って?」
にこにこ、破顔したままの輝夜はまた距離を詰める。永琳は後ずさる。
壁に肩が触れ、背中が触れた。もう後はない、敗者は密かに息を呑んだ。
そして耳元で勝者は囁いた。
「私が一回でも勝ったら、貴女に」
細い吐息がかかる。優越の混じる声は鼓膜を揺さぶり、敗者は目を伏せた。
「てゐの服を着せるって!」
その発想はなかった。
屁理屈で回避w
2.の方 緊張感を感じていただけてよかったです。
上のレスで言っちゃったけど、そういうことです。
3.の方 その回避の仕方は思いつかなかった…!
皆さん感想ありがとう御座いました。