Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夏休みの計画

2010/08/14 20:10:06
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太陽の日差しが容赦なく降り注ぐ季節。
まだ日の出前の薄暗い森を紅白衣装の巫女が歩いていた。
視界が悪く、木の根が張り出し歩きにくい森の中をソワソワと落ち着かない足取りで彼女は歩く。
時折立ち止まっては手に持った何かを確認し、それからまた歩を進めた。

空が紫色に染まり始め、森の中にも少しだけ光が差し込む。
遠くに人影を確認すると一瞬だけ警戒したが、人物を確認すると少しだけ急ぐように歩みを速めて距離を縮める。
向こうも人影に一瞬警戒し、すぐに安堵した表情を見せ、こちらへと歩み寄る。

「アリス」

霊夢は手の届く距離まで近づいた人形遣いの首筋に鼻先を埋めてそう呟く。
くすぐったそうに目を細めたアリスは、霊夢の背中に手を回した。



幻想郷の守護者 博麗の巫女、博麗霊夢は妖怪で人形遣いのアリス・マーガトロイドと恋仲だった。
二人が普通の人間同士、妖怪同士であったならば女同士でもただ好奇の目を向けられただけだっただろう。
仲のいい人妖ならば応援してくれたかもしれない。

しかし二人はそうではなかった。
人間の、それも博麗の巫女と妖怪の恋は、ここ幻想郷では誰からも歓迎されない関係だ。
誰かに勘付かれれば会えなくなるだけでなく、アリスの身の危険も考えられる。

春雪異変で再開した二人がそんな関係になるのにそう長い時間はかからなかった。



首筋から頭を離した霊夢は、両手でアリスの頬に触れる。
間近で見るお互いの顔、じっと見つめあうと笑いがこみ上げてくる。
額をくっつけて笑いあって、それから唇をあわせるだけのキスをした。
より密着しようと霊夢の背中へ回された手に力が入る。

「んー、アリスの体ひんやりしてて気持ちいい」

ぐいぐい体を押し付けていた霊夢は、しばらくするとぬるくなったと言って体を離した。
肩をすくめ体を離すアリスの手をこっちはまだ冷たいと言いながらとる。
んふふーと嬉しそうに手に指を絡め、体を寄せた。

「霊夢ちょっと痩せたわね、大丈夫?」
「ええ、ただアリスの事を思うと食事が喉を通らなくて……」
「ああ!霊夢!私なんかの為に、そんな……貴女にそんなにも寂しい思いを……」
「アリス!」「霊夢!」

ガシッっと抱きしめあう二人。
芝居染みたやり取り。
暑いと先に離れようとしたのは、やはり霊夢だった。

「展開が少し早すぎた」
「いいじゃない、人形劇は時間が限られてるし」

控えていた人形を操り、スカートを少し持ち上げてお辞儀をさせる。
人形は霊夢の肩に乗って、頬にキス。
くすぐったそうな顔をした霊夢は、優しく人形の頭を撫でた。

「かわいいわね、でも私はこっちの人形で遊びたいな」

アリスに木を追い詰めて、距離を詰める。
指をケープのリボンに引っ掛けてそのまま押し下げると、隠れていた鎖骨が露になった。
形を確認するようにそれを撫でる。

「着せ替えて遊びたいなら、代わりの服がなくっちゃね」

ヒラヒラと黄色の布を振る。
それは霊夢のリボンだった。

「アリスは人形遣いよりもスリにむいてる」
「これじゃスリっていうよりも、痴女」

何が面白かったのか違いないと霊夢は笑う。
見ていたアリスもつられて笑った。

「外だから今日はこれで終わり」

はい、と返されたリボンを慣れた手つきで身に付ける。
離れた手をもう一度繋いで、アリスの横に並んだ。

木に寄りかかりながら、寄り添う二人の少女。
木々の隙間から細く差し込んだ光が頼りなく森を照らす。
久しぶりに会った二人は、お互いの体温を感じながらたわいも無い話をする。
研究の内容や、図書館での出来事、最近はまっている料理のついて。
神社での宴会の話、この前購入したちょっとお高いお茶の話。
それから昔話。

話題はあっちこっちに飛びながら、本日の宴会の話へ。

「ねぇ、アリス。今日の宴会来る?」
「うーん、そうねぇ……最近行ってなかったし今日は行くわ」
「そうこなくっちゃ、それじゃ宴会の準備あるしそろそろ帰るわね」

繋いでいた手を一度強く握りそれからそっと手を離すと、手の汗を霊夢は服で拭いながら歩き出す。
生地が傷むから服で水分を拭き取るなと何度忠告しても霊夢は聞き入れないので、アリスはただ苦笑するしかなかった。

霊夢の背中が見えなくなるまで見送った後、アリスも帰路に着く。
今日の宴会は、何を持っていこうかななどを取りとめも無く考えながら。










宴は最高潮の盛り上がりを見せていた。
そこかしこで飲み比べが始まり、どちらが勝つか賭けが行われる。
向こうでは、河童が自慢の発明品を壊されて弾幕ごっこが始まりそうだ。
何度目か分からない乾杯の音頭が聞こえてくる。

そんな中いつも宴の中心にいる霊夢は、祭りの様相をみせている現場をそっと抜け出していた。
次々かかるお呼びの声を適当にやり過ごし、境内の裏へと回る。
立ち止まると暑さで一気に汗が噴出し、前髪が額にへばりついた。
額の汗を当然のように袖で拭い、地面を蹴って屋根の上へ。



「やっぱりここだった」
座ったまま振り返るアリスの隣に霊夢は腰をかける。

「アリスって昔っから屋根の上好きよね、七色と煙はってやつ?」
「誰が馬鹿よ、屋根の上って何となく特別感があるの」
「ふーん」
「いつもと同じ風景をいつもと違う視点で見ると、違う世界にいるみたいでしょ」

うーんと唸って霊夢は黙り込んだ。
暫く待っても返事が無いので手持ち無沙汰になり酒を一口で呷ったアリスは、空に目を向け星を数え始める。
いーち、にーい・・・13まで数え終わった時、霊夢が口を開いた。

「鳥は自由だと思う?」
「鳥?うーん、少なくとも夜雀はそんなに自由じゃなさそうね。どうして?」
「外の世界では鳥は自由だと思われてるの。幻想郷の鳥は外の世界へも行くのかしら?」
「回りくどいわね、何が言いたいの?」
「じゃあ、単刀直入に……外の世界に行かない?」

星を眺めていたアリスは、驚いて霊夢へと視線を移す。
霊夢は何でも無い事を言ったとでもいうように、そのままただ星を眺めていた。

「正気?霊夢は今だって十二分に自由じゃない」
「私には閉塞感しか感じられない。そういう意味じゃアリスのほうが自由。巫女として異変解決して、巫女ができない年齢になったら引退して、誰かと結婚するか独身のままかわからないけど……まぁその程度」

年若いがゆえの閉塞感、その事を指摘できるほどアリスも年を重ねてはいなかった。
うーんと唸って今度はアリスが黙り込む。
何か考えているような、何も考えられないでいるような。

「もうこそこそ会うのはいやなのよ。何かあった時、幻想郷は狭すぎる」
「うん、うーん……うん……思いつきで言ってない?」

しばしば思いつきでする行動に振り回されるアリスは、今回もまたそうではないかといぶかしんだ。
今回はちょっと冗談ではすまされない。

「言ってない、ずっと考えてたの」
「そう」
だったらいいわ、と視線を霊夢からまた空へと移し言葉を続ける。

「で、いつ?」
「冬がいい。紫がいないし」
「そうね。1月の……2日、3日あたりがいいわね、こっちも外も浮かれて人が増えようが減ろうがきっと気がつかない。それより霊夢、貴女がいなくなって幻想郷は大丈夫?」
「大丈夫でしょ。紫が代わりを見つけてきて、はい、おしまい」

霊夢はふ~っと息を吐きながら大きな音がしないようゆっくりと仰向けに寝転がった。
空に向かって両手を突き出し、手を握ったり開いたり。

「何?星でも掴もうとしてるの?」
「ん~、体は自分の思い通りに動くのになーと思って。大晦日うちで宴会あると思うから、アリスも来て。皆が酔いつぶれたら私が結界を緩めるわ」
「わかった、とりあえず乾杯でもしましょうか」

はい、と徳利を渡しアリスは、おちょこを持ち上げる。
体を起こしそれを受け取った霊夢は、おちょこに酒をそそぐ。

「乾杯」

おちょこと徳利で乾杯。
勢いがつき過ぎておちょこの酒が少しこぼれる。
こぼれた酒を避けた後、二人は顔を見合わせて笑った。










溶けるような暑さの夏が終わり、世界から少しずつ色が無くなり始める。
それからさらに季節が進み、辺りが白く染まる頃、
アリスと霊夢は酔っ払って眠りこけた友人達にそっとお別れを告げた。

隠してあったトランクには着替えの服、食料、売れそうなアリスの蒐集品。使えるかどうか分からないが幻想郷で流通している貨幣。それから一応と野宿に必要なもの一式。
かぶった雪を軽く払い、結構な重量のそれをアリスは魔法で軽々と浮かび上がらせた。
何かに追われているわけでも無いのに、寒い寒いといいながら自然と歩く足が速くなる。

「後は結界を緩めて行くだけね。忘れ物は無い?将来の夢とか」
「一つはもう取りに戻れないし、もう一つは今から取りに行くんでしょ」

荷物が多いと大変ね と、ふと見慣れたはずのその目を見た霊夢はぞくりとする。
透き通るような、それでいて深い青。
海の色はきっとこんな具合に綺麗なのだろう。
外に出たら真っ先に海を見てみたいと思った。

見納めになる幻想郷を空へ飛び上がって一望する。
箱庭、牢獄そんな風に感じていた幻想郷が今は手放しがたいモノの様に感じられる。
かぶりを振って郷愁の思いを消し去ると、今後一生縛り付けられるであろう地面に降り立つ。

アリスが準備はいいかと送った視線を受け取り頷くと、両手で結界に触れる。
寒さで張り詰めた空気が濃縮されていく、甲高い耳鳴り。
陽炎のように風景がにじみだす。
コブシほどの大きさだったそれが視界一杯まで景色を侵食していった。

霊夢はふぅーと深く一息吐き、半身だけ振り返って左手を差し出す。
その手を受けるアリス。
かじかんだ手がじんわりと暖かくなる。
横並びに一歩。玄関を出るときは左足から。
新雪が鳴らす音を響かせ、その夜 博麗の巫女と人形遣いの魔女が消えた。














先ほどと変わらない一面の雪景色。
幻想郷から出られなかったんじゃないかと錯覚するが目の前に見える朽ち果てた神社で違うと分かる。

アリスの手を強く握ろうとした手が空を切った。
背後からトランクが地面に叩きつけられるけたたましい音。

心臓が早鐘を打ち、荒くなった呼吸を意図的に深呼吸を挟むことで抑えようと努める。
何が起こったのか理解ができなかった。
手を離した?手から体温が伝わってこない代わりに、冷たい風がびゅうと通り抜ける。
壊れたおもちゃのようなぎこちない動きで隣に目を向けると……




































そこにアリスはいなかった。





景色が歪んだ。
遠近感がつかめなくなったような視界に、平衡感覚が狂って眩暈がする。
開いた目に冬の風が吹きつけたが、閉じる事ができない。
背中に汗がにじみ出て、服がはりつく。全身の感覚が研ぎ澄まされていくようだった。
緊張で体がカタカタと震えた。
寒さと緊張で震えながらも同じ場所を何度も何度も確認する。
何処にも居ない、影も、足跡さえも。


何故?
なぜ?
何故?どうして?
何が起こった?

何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故



霊夢の混乱した頭は何処からとも無く声を紡ぎだす。







幻………在は……の…界…は……で……い




















幻想の…在は…外の…界では…在で……い

























幻想の存在は、外の世界では存在できない






「あああああああぁぁぁああぁぁああああぁぁあああ」

力なく地面に膝をついた霊夢の頬を涙が伝う。
わずかに残ったアリスの温もりが逃げないよう両手を祈るように組み合わせ、届かない相手の名前を呼ぶ。
俯いたまま、やがて天に向かって。


「アリス!アリス!アリスウゥゥゥウウゥゥゥ!!!」

天に向かって愛しい人の名前を愚直に叫び続ける。
街灯の明かりに照らされた雪は、光を反射して星が瞬いているようで、絵画の風景を思わせる。
落下した星は霊夢に触れると消えていった。



「アリス……ありすぅ……」

それは祈りの言葉だった。
星の降る夜に、空を見上げ掠れた声で祈る少女は、まるで幻想の存在だった。
信じてもらえないかもしれませんが、甘甘も大好きです。
ドギーブギー
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
何というか、こういう悲劇的な終わりは結構好きです
次は貴方の書く甘甘を読んでみたいです、是非お願いします
2.名前が無い程度の能力削除
嘘だっ!!これであまあまが好きなんて…

という訳で甘いのも出して頂こうか…?
3.名前が無い程度の能力削除
ガーン!!
これで終わり?そんなぁ。
4.奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
おおう…
じゃあ次は甘甘決定ですね!
5.名前が無い程度の能力削除
引っ張った割にオチが弱いような気がしました
6.名前が無い程度の能力削除
来るもの拒まず、去るものは……それはとても残酷な事ですわ
いかん、急遽甘味が必要だ! レイアリ、誰か甘くてとろけるようなレイアリをお持ちではございませんかー!?
7.なるるが削除
甘甘好きで悲劇的な内容ということは、その実内心では甘いのが読みたいってことですね!?任せてください!
…はっ!或はこれの次に甘いのを投稿し飢えた我々に甘美なる衝撃を与えるというフラグですね!?
…ごめんなさい。
8.名前が無い程度の能力削除
久々に、BAD END…。
ここで納涼出来るとは思いませんでした。
後は甘味があれば完璧ですね。
9.名前が無い程度の能力削除
もうちょっと絶望的なお話が欲しいと思った自分は……。
アリスを失い、自分の居場所すら失った霊夢は、未知の世界で何を想うのでしょうね…‥。
10.名前が無い程度の能力削除
・・・・・これ読んでから、目に汗が溜まりっぱなしだ
11.名前が無い程度の能力削除
あぅあぅ・゚・(ノД`;)・゚・
二回読み返したら、最初の幸せそうな部分すらも悲しくなってしまいました。
この後の霊夢は一体どうなるのか、と考えるとさらに涙が……
次は甘甘書いて、また鬱系書いて、レイアリ作品をどんどん増やしてくれる事を期待してます!
12.ドギーブギー削除
>>1
鬱タグ付けなかったので、ひやひやしてましたが受け入れていただけて嬉しいです。
次は甘甘で頑張れるだけ頑張ってみます。

>>2
甘甘見るのは大好きなんですよ!書くのがめちゃくちゃ難しくて……。

>>3
霊夢の今後を考えるとあまりにも心が痛いのでここで終わりです。

>>4 奇声を発する(ry in レイアリLOVE!さん
多分甘……甘……??なものになる気がします。
あんまり期待しないでくださいませー。

>>5
ご指摘ありがとうございます。
心の機微を書くのが苦手であっさり目に逃げてしまいました。
オチのネタが弱いって事でしたら、さらにごめんなさい。

>>6
幻想郷に残っても、出てもダメという八方塞感が出ていれば幸いです。
べったべたに甘いやつも書いてみたいです。

>>7 なるるが さん
べたべたに甘いやつ読みたいです!是非お願いします。
私では書ききれそうに無いので……。

>>8
アリスが居なくなった混乱と、気が付いた時のゾッとする感じが書ききれていればいいなと思ってましたので、嬉しいお言葉です。ありがとうございます。

>>9
世間を知らず、頼る人がいない若い女の子がこっちの世界に放り込まれたら、かなり絶望的になりそうですが、
さらなる絶望をお望みでしたか……想像力の限界です、ぐふっ……。

>>10
ありがとうございます。
今度は嬉し泣きさせられる話も目指してみたいと思います。

>>11
悲しくさせてごめんなさい、ありがとうございます。
ハートフルボッコの人だからと名前避けされない程度には甘いものを織り交ぜていきたいなーと思います。
レイアリの輪を広げる一角を担えるように今後も頑張る!

コメントありがとうございました!
13.SIK削除
ラストの情景が目に浮かぶようです。
物哀しい雰囲気に、空には満天の星。
まさに『絵画の風景を思わせる』ですね!美しい!
14.名前が無い程度の能力削除
アリスより寧ろ霊夢の方が消えそうな……
まぁ、根拠は魔界人=元々幻想郷の住人ではない、だから旧作設定無効なら関係ないんだけど。
15.Yuya削除
絶対上手くいくわけないとわかっていたから、読んでいてとても緊張した。