目覚めたら、十六夜咲夜は
「まあ、この時期だしね」
そういうこともある、と我が主はごく気楽に言ってのけ、咲夜はそういうものかと納得する。トンネル効果の理論に従って言えば、今咲夜の足元の床、また地面、その分子構造を咲夜の身体が波動として透過し、情熱の南米大陸まで落ちてゆく可能性もゼロではないと、科学的に証明されている。世界を論理的に記述するには人間的な直観などあてにならない、とヘンペルも言っていた。
「ちょっと紅茶が茄子くさいのが難点だけれどねぇ」
申し訳ありません、とつややかに光る紫色の
パチュリーは紫野菜キャラが被るから、と早々に図書館へ引きこもり、今は小悪魔たちが世話をしているはずである。フランドールが晩御飯にカレーが食べたいと言ったが、この時期、夏野菜が具になってしまうカレーはレミリアが許可しなかった。だって、今の状況じゃあ、カニバリズムっぽくて
「じゃあ美鈴をパプリカにしましょう」
嬉しそうに門の方へ駆けてゆくフランドールと入れ違いに、お邪魔します、とロビーのドアが開かれた。西行寺幽々子であった。
「あら、辛気臭いのが」
「うふふ、遊びに来たのよー」
「ぶぶ漬けならあるけれど」
「もっとおもてなししてよ。せっかくこの時期だし」
「……ああ、この時期か」
レミリアは納得し、咲夜にお茶菓子を用意するよう命じた。咲夜は
「茄子っぽいわね」
「茄子っぽいでしょう」
申し訳ございません、と若干しなびた緑色のヘタをぺこりと下げると、二人はきゃらきゃらと笑った。
「いえ、ご立派よ。太さといい色つやといい」
「うってつけね」
「さて、そろそろお暇させていただくわ」
「フムン。咲夜、見送りなさい」
そこで、咲夜はふいに今の自らの使命を直感した。咲夜はナイフを割り箸に持ち替え、装着した。それが咲夜の手足の代わりとなった。さあ、お乗りください、と言うと、幽々子はひどく感動した様子であった。レミリアも誇らしげで、「さあ、ゆっくり
そうして、その日の
へたの分け目が咲夜さんの前髪に見えたから俺はもうだめだ。
お墓参りしてきます。